第52話 信頼への一歩 -1

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アークライトの訓練場は、夕暮れ時にもかかわらず、幻晶機のエンジン音が響いていた。

格納庫から少し離れた模擬戦闘フィールドで、ユウキはひとり、予備機に乗り込み、黙々と訓練を続けている。

クロノス・タイプMの異質な動きと、ヴァルキリーの圧倒的な力を前に、自身の未熟さを痛感していた。

「このままじゃ…アストレイアが完全に修理されても、また同じことの繰り返しだ……」

ユウキは、操縦桿を握りしめ、仮想敵機を相手に、何度も攻撃と回避を繰り返す。彼の脳裏には、ジェイを失った悔しさと、ヴァルキリーが語った真実が渦巻いていた。




その時、訓練場の隅に、もう一体の幻晶機が姿を現した。

それは、ユウキの予備機と同じ、ゲイル・タイプ1だ。そして、そのコクピットから降りてきたのは、ヴァルキリーだった。彼女は、静かにユウキの予備機を見つめている。

「ヴァルキリー……」

ユウキは思わず声をかけた。
彼女は、無言で頷き、ゲイル・タイプ1のコクピットに戻ろうとした。

「あの……何を……?」

「フン。貴様と同じだ。未熟な己の力を、少しでも高めようとしているに過ぎん」

ヴァルキリーの声には、何の感情もなかった。ユウキは、彼女の言葉に、自分と同じ孤独を感じた。

彼女もまた、ジェイの死と、アビスの裏切りに傷ついている。ユウキは、ヴァルキリーが一人で訓練している理由を悟った。彼女は、自由同盟に投降した身。他の幻晶機乗りと行動を共にすることは、まだ難しいのだろう。

ユウキは、意を決してヴァルキリーに話しかけた。

「よかったら、一緒に訓練しませんか?僕と……共闘訓練を」

ヴァルキリーは、ユウキの言葉に、わずかに眉をひそめた。

「共闘……?貴様、私を信用できるのか?」

「信用できるかどうかは、まだ分かりません。でも……僕たちは、同じ故郷を失った『召喚者』です。そして、アビスという同じ敵と戦う。その真実を、僕に教えてくれたのは、あなたです。だから……僕は、あなたと戦ってみたい」

ユウキのまっすぐな瞳に、ヴァルキリーの心に、かすかな揺らぎが生まれた。彼女は、ユウキの言葉に、かつて自分も持っていた、純粋な信念を見た。彼女は、ユウキの申し出を受け入れた。







二人の模擬戦が始まった。

ユウキの予備機は、ヴァルキリーのゲイルと比べると、性能面で劣っていた。

さらに、ユウキはアストレイアの力に頼りすぎていたため、旧式機であるゲイルの操縦に苦戦を強いられていた。一方、ヴァルキリーは、どんな機体でも自在に操る卓越した操縦技術で、ユウキの機体を圧倒する。

「くっ……!この動きは……!」

ヴァルキリーの攻撃は、無駄な動きが一切なく、ユウキの回避ルートを完璧に塞いでいく。

ユウキは、ヴァルキリーの予測不能な動きに驚きを隠せない。

だがしかし、なぜか彼女が培ってきた戦術やデータは、ユウキの動きには通用しない。決定打を与えられそうな場面は何度もあるのに、ことごとく外された。

一方、ユウキは、ヴァルキリーのゲイルの左腕を狙い、攻撃を仕掛ける。

ヴァルキリーは、それを冷静に回避しようとするが、ユウキの攻撃は、彼女の回避ルートを先読みして、さらに追い詰めていく。

「なぜ……!私の動きが読めるというのか!?」

ヴァルキリーは、驚きと戸惑いの声を上げた。

ユウキは、彼女のその一瞬の隙を逃さず、仮想弾丸を放つ。それは、ヴァルキリーのゲイルの左腕に命中し、駆動系を破壊した。






「僕の故郷には、ゲームというものがあって、相手の動きの『パターン』を読んで、先読みすることができたんです。それに、あなたの動きには、無駄な動きが一つもない。まるで、完璧にプログラミングされた機械のようだ……」

ユウキは、そう言いながら、ヴァルキリーのゲイルの脚部を破壊し、彼女の動きを止めた。

「どうして……私を破壊しない?」

ヴァルキリーの瞳に、疑問の色が宿る。

「僕は、人を殺したくないからです。ジェイさんの死を無駄にしないためにも、僕は……ヴァルキリーが語った真実を信じて、アビスという闇の勢力を打倒します」

ユウキは、そう告げると、ゲイルのコクピットから降り、ヴァルキリーに手を差し出した。

ヴァルキリーは、その手を静かに見つめていた。彼の言葉に、彼女の心に、忘れかけていた「故郷への想い」が蘇ってきた。

「私の正義は、世界を救うこと。そのために、どのような犠牲も厭わない。それが、私と貴様との違いだ。しかし……」

ヴァルキリーは、ユウキの手を静かに取った。彼女は、ユウキの純粋な信念に触れ、自分の「正義」が、本当に正しいのか、自問自答し始めていた。









訓練後、二人は訓練場の片隅に腰を下ろし、互いの故郷の悲劇について語り合った。



ユウキは、家族や友人のこと、そしてゲームという文化のこと。

ヴァルキリーは、故郷を失った悲しみと、アビスに利用された過去のこと。二人は、互いの心に秘めた深い傷を共有することで、共感を深めていった。

「故郷を救うという願いのために、私は多くのものを犠牲にした。しかし……貴様と話していると、それが本当に正しかったのか、分からなくなる」

ヴァルキリーは、そう呟くと、遠い空を見つめた。


その瞳には、かつての冷徹な光ではなく、故郷を失った悲しみが滲んでいた。




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アークライトの訓練場は、夕暮れ時にもかかわらず、幻晶機のエンジン音が響いていた。
格納庫から少し離れた模擬戦闘フィールドで、ユウキはひとり、予備機に乗り込み、黙々と訓練を続けている。
クロノス・タイプMの異質な動きと、ヴァルキリーの圧倒的な力を前に、自身の未熟さを痛感していた。
「このままじゃ…アストレイアが完全に修理されても、また同じことの繰り返しだ……」
ユウキは、操縦桿を握りしめ、仮想敵機を相手に、何度も攻撃と回避を繰り返す。彼の脳裏には、ジェイを失った悔しさと、ヴァルキリーが語った真実が渦巻いていた。
その時、訓練場の隅に、もう一体の幻晶機が姿を現した。
それは、ユウキの予備機と同じ、ゲイル・タイプ1だ。そして、そのコクピットから降りてきたのは、ヴァルキリーだった。彼女は、静かにユウキの予備機を見つめている。
「ヴァルキリー……」
ユウキは思わず声をかけた。
彼女は、無言で頷き、ゲイル・タイプ1のコクピットに戻ろうとした。
「あの……何を……?」
「フン。貴様と同じだ。未熟な己の力を、少しでも高めようとしているに過ぎん」
ヴァルキリーの声には、何の感情もなかった。ユウキは、彼女の言葉に、自分と同じ孤独を感じた。
彼女もまた、ジェイの死と、アビスの裏切りに傷ついている。ユウキは、ヴァルキリーが一人で訓練している理由を悟った。彼女は、自由同盟に投降した身。他の幻晶機乗りと行動を共にすることは、まだ難しいのだろう。
ユウキは、意を決してヴァルキリーに話しかけた。
「よかったら、一緒に訓練しませんか?僕と……共闘訓練を」
ヴァルキリーは、ユウキの言葉に、わずかに眉をひそめた。
「共闘……?貴様、私を信用できるのか?」
「信用できるかどうかは、まだ分かりません。でも……僕たちは、同じ故郷を失った『召喚者』です。そして、アビスという同じ敵と戦う。その真実を、僕に教えてくれたのは、あなたです。だから……僕は、あなたと戦ってみたい」
ユウキのまっすぐな瞳に、ヴァルキリーの心に、かすかな揺らぎが生まれた。彼女は、ユウキの言葉に、かつて自分も持っていた、純粋な信念を見た。彼女は、ユウキの申し出を受け入れた。
二人の模擬戦が始まった。
ユウキの予備機は、ヴァルキリーのゲイルと比べると、性能面で劣っていた。
さらに、ユウキはアストレイアの力に頼りすぎていたため、旧式機であるゲイルの操縦に苦戦を強いられていた。一方、ヴァルキリーは、どんな機体でも自在に操る卓越した操縦技術で、ユウキの機体を圧倒する。
「くっ……!この動きは……!」
ヴァルキリーの攻撃は、無駄な動きが一切なく、ユウキの回避ルートを完璧に塞いでいく。
ユウキは、ヴァルキリーの予測不能な動きに驚きを隠せない。
だがしかし、なぜか彼女が培ってきた戦術やデータは、ユウキの動きには通用しない。決定打を与えられそうな場面は何度もあるのに、ことごとく外された。
一方、ユウキは、ヴァルキリーのゲイルの左腕を狙い、攻撃を仕掛ける。
ヴァルキリーは、それを冷静に回避しようとするが、ユウキの攻撃は、彼女の回避ルートを先読みして、さらに追い詰めていく。
「なぜ……!私の動きが読めるというのか!?」
ヴァルキリーは、驚きと戸惑いの声を上げた。
ユウキは、彼女のその一瞬の隙を逃さず、仮想弾丸を放つ。それは、ヴァルキリーのゲイルの左腕に命中し、駆動系を破壊した。
「僕の故郷には、ゲームというものがあって、相手の動きの『パターン』を読んで、先読みすることができたんです。それに、あなたの動きには、無駄な動きが一つもない。まるで、完璧にプログラミングされた機械のようだ……」
ユウキは、そう言いながら、ヴァルキリーのゲイルの脚部を破壊し、彼女の動きを止めた。
「どうして……私を破壊しない?」
ヴァルキリーの瞳に、疑問の色が宿る。
「僕は、人を殺したくないからです。ジェイさんの死を無駄にしないためにも、僕は……ヴァルキリーが語った真実を信じて、アビスという闇の勢力を打倒します」
ユウキは、そう告げると、ゲイルのコクピットから降り、ヴァルキリーに手を差し出した。
ヴァルキリーは、その手を静かに見つめていた。彼の言葉に、彼女の心に、忘れかけていた「故郷への想い」が蘇ってきた。
「私の正義は、世界を救うこと。そのために、どのような犠牲も厭わない。それが、私と貴様との違いだ。しかし……」
ヴァルキリーは、ユウキの手を静かに取った。彼女は、ユウキの純粋な信念に触れ、自分の「正義」が、本当に正しいのか、自問自答し始めていた。
訓練後、二人は訓練場の片隅に腰を下ろし、互いの故郷の悲劇について語り合った。
ユウキは、家族や友人のこと、そしてゲームという文化のこと。
ヴァルキリーは、故郷を失った悲しみと、アビスに利用された過去のこと。二人は、互いの心に秘めた深い傷を共有することで、共感を深めていった。
「故郷を救うという願いのために、私は多くのものを犠牲にした。しかし……貴様と話していると、それが本当に正しかったのか、分からなくなる」
ヴァルキリーは、そう呟くと、遠い空を見つめた。
その瞳には、かつての冷徹な光ではなく、故郷を失った悲しみが滲んでいた。