第51話 伝説機、新たなる仲間 -3
ー/ーその日の夕方、アークライトの港に、また別の一機の飛空艇が着陸した。
そこから降り立ったのは、美しくも聡明な貴婦人、セシリア・オルコットだった。
彼女は、マリア少佐とは旧知の仲であり、自由同盟の動向を探るためにアークライトを訪れたのだ。
「エリナ…」
セシリアは、アークライトの基地でエリナを見つけると、静かに声をかけた。
その表情は、友人でもあるエリナの悲しみを慮るかのように、優しさと悲しみに満ちていた。
「セシリア様…ご無沙汰しております」
エリナは、セシリアを深く尊敬しており、その再会を心から喜んでいた。
セシリアは、エリナの婚約者であり、マリアとディオンの親友でもあったアレンの姉なのだ。エリナにとって、セシリアは義理の姉になるはずだった人物だ。
「まさか、ジェイ君まで…」
セシリアは、ジェイの死を知っていた。そして、その死が、かつてエリナが経験した悲劇と同じものであることに、深い悲しみと後悔を覚えていた。
「エリナ…ごめんなさい。私、アレンを失った時、貴方に何もしてあげられなかった。貴方の心の痛みが、私には…」
セシリアの言葉に、エリナは静かに首を振った。
「セシリア様。今回の件は、私情を挟まないでください。ジェイは…自分の意志で、戦ったのです」
「分かっているわ。だけど、ルナちゃん…あの娘の悲しみが、私の心を締め付けるの。まるで、貴方を見ているようだわ」
セシリアの言葉に、エリナは唇を噛み締めた。彼女は、ルナがジェイを失った悲しみを、自分のことのように感じていた。
「セシリア様。今回の件は、『見えない敵』との戦いです。私情を挟んでいる場合ではありません。私たちは、ジェイの死を無駄にしないために、アビスを打倒しなければならない」
エリナは、そう告げると、セシリアに背を向けた。セシリアは、そんなエリナの後ろ姿を、ただ静かに見つめていた。その瞳には、彼女が何を企んでいるのか、誰にも分からない、深い闇が宿っていた。
◇◆◇◆◇
その日の深夜、独房エリアに再びノア・ラングレーの姿があった。見張り兵を眠らせた彼女は、ヴァルキリーの独房の扉を開ける。
「ヴァルキリー、話しておきたいことがあります」
ノワールは、ヴァルキリーの前に跪き、そう告げた。
「ほう。何か、アビスの動向を探ることができたか?」
ヴァルキリーは、静かに問いかけた。
「ええ。アビスの最高幹部、カオスは、あなたの投降を『愚かな行為』と嘲笑していました。しかし、アストレイアのコアが急速に覚醒していることに、彼は強い興味を抱いています。おそらく、次の狙いは…アストレイアです」
ノワールの言葉に、ヴァルキリーの瞳に、わずかな動揺が走る。
「アストレイア…そして、ユウキか…」
「はい。アストレイアのコアは、カオスが探し求めていた、特別なコアのようです。カオスは、アストレイアのコアを吸収し、究極の力である『アビス・コア』を完成させようと計画しています」
ノワールは、そう告げると、ヴァルキリーに手を差し出した。
「ヴァルキリー。私は、アビスを裏切る。そして、ユウキと共に、アビスを打倒する。それが…故郷を救うという、僕の願いだ。あなたも、僕たちに協力してほしい」
ノワールの言葉に、ヴァルキリーは静かに頷いた。
「…分かった。だが、私を信じるな。私は、あくまで、この世界を救うために動く。それが、私と貴様、二人の『召喚者』の使命だ」
二人の『召喚者』は、静かに、しかし強い意志を秘めた目で、互いを見つめ合っていた。
◇◆◇◆◇
翌日、竜騎士中隊の訓練場には、重苦しい空気が漂っていた。ジェイの空席は、誰にも埋められない空白として、そこに存在していた。
相変わらず、ルナは、自室にこもったままだ。
その時、ユウキが、訓練場へとやってきた。彼の顔には、ヴァルキリーとの対話で得た真実と、ジェイの死を無駄にしないという、強い決意が宿っている。
「皆さん…」
ユウキは、そう言うと、一同に頭を下げた。
「僕…ジェイさんの死を無駄にしないためにも、ヴァルキリーが語った真実を突き止めるためにも、アビスという闇の勢力を打倒するためにも…僕は、このアストレイアと共に、戦います。どうか…僕に力を貸してください」
ユウキの言葉に、一同は静かに頷く。
彼らは、ユウキの瞳の奥に宿る、強い光を感じ取っていた。
ディオンは、ユウキの隣に立ち、静かに言った。
「ユウキ。ジェイの死は、お前たちにとって、あまりにも大きすぎる。だが、彼の死を無駄にしないためには、我々は強くならなければならない。ジェイは、最期まで、お前たちのことを信じていた」
ディオンはそう言うと、ユウキに、ジェイの形見である、古びたドッグタグを差し出した。
「…ジェイは、これをルナに託そうとした。だが…間に合わなかった。お前が、これを託してくれ。ジェイの想いを、ルナに伝えてやってくれ」
ユウキは、ドッグタグを手に取り、静かに頷いた。
「はい、ディオンさん。僕が、ルナに伝えます」
ユウキは、ドッグタグを握りしめ、ルナの自室へと向かっていった。彼の心には、ヴァルキリーが語った真実と、ジェイの死を無駄にしないという、強い決意が宿っていた。
ルナの自室の扉をノックすると、中から、弱々しい声が聞こえてきた。
「…誰…?」
「ルナさん…僕です。ユウキです」
ルナは、扉を開けると、ユウキの顔を見て、再び涙を流し始めた。
「…馬鹿…!馬鹿だよ、ジェイ…!私のことなんて…何で…何で…!」
ルナは、そう呟くと、ドッグタグを強く握りしめた。ユウキは、そんなルナの姿を、ただ静かに見つめることしかできなかった。
その時、ルナの背後から、ソフィアの声が聞こえてきた。
「ルナ…泣かないで。ジェイは…最期まで、お前のことを思っていた。彼の死を無駄にしないためにも、私たちは強くならなければならない」
ソフィアはそう言うと、ルナの隣に立ち、そっと肩を抱いた。
「ルナ。私たちは、一人じゃない。ジェイの遺志を継ぎ、この戦争を終わらせよう」
ルナは、ソフィアの言葉に、ハッと顔を上げた。彼女の瞳には、まだ悲しみが宿っていたが、その奥に、新たな決意の光が灯り始めていた。
「…はい、ソフィアさん…」
ルナは、そう言うと、静かに頷いた。
そして、その日の夕方、アークライトの格納庫に、伝説の機竜オケアノスが到着する。
それに伴い、アクエリアス公国が自由同盟との共闘体制を敷くというニュースが、正式に基地全体、いや自由同盟内を駆け巡った。
それは、この泥沼の戦いの中に、一筋の希望の光を灯す出来事だった。
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