ジェイの死とヴァルキリーが語った真実に打ちひしがれていたユウキは、リアとソフィアを伴い、マリア少佐の執務室を訪れた。重厚な扉を開けると、そこには厳しい表情で書類を睨むマリアの姿があった。
「少佐。ヴァルキリーとの対話が完了しました」
ユウキが切り出すと、マリアは静かにペンを置き、彼らに向き直った。その表情は、上層部を動かすことの困難さと、悲しみが入り混じっていた。
「ユウキ君、君が語ったヴァルキリーの言葉。それが真実ならば、我々はアビスという見えない敵と戦わなければならない。だが…彼女の言葉を、君たち以外の誰もが信用するとは限らない。特に、ジェイ少尉を失った今ではな」
マリアの声には、上層部を動かすことの困難さと、悲しみが滲んでいた。
「ヴァルキリーの言葉は、嘘には聞こえませんでした。彼女は、アビスの非人道的なやり方に気づき、故郷を救うという願いのために、彼らを裏切ろうとしている」
ユウキは、ヴァルキリーの瞳に見た、自分と同じ悲しみをマリアに伝えた。
ソフィアもまた、自身の知見を基にヴァルキリーの言葉を補足する。
「マリア少佐。私も、ユウキ君の言葉を信じます。ヴァルキリー少佐の言葉は、元帝国兵である私の知る事実と一致する点が多い。彼女は、元々帝国のやり方に疑問を抱いていた。そして、アビスが帝国を利用して、幻晶のコアを狙っているという事実は、これまでの不審な事象の全てに説明がつきます」
マリアは二人の言葉を静かに聞いていた。そして深く息を吐き出すと、決意に満ちた瞳でユウキたちを見つめた。
「…分かった。ヴァルキリーの言葉を信じよう。だが、上層部を動かすには、それだけでは足りない。彼女の持つ情報を引き出し、アビスという闇の勢力の打倒に利用する。それが、ジェイ少尉の死を無駄にしない、唯一の方法だ」
マリアはそう告げると、机の上に置かれた通信端末に手を伸ばした。
「全幻晶機部隊に、最高レベルの警戒態勢を敷け。そして、ヴァルキリーから得られた情報を基に、アビスの動向を追え。これより、我々はアビスという見えない敵と戦う!」
マリアの言葉に、ユウキとリア、ソフィアは、互いに顔を見合わせ、静かに頷いた。
◇◆◇◆◇
その日の午後、アークライトの格納庫に、鹵獲された伝説の機竜ヴァルハラが置かれているのを確認したユウキたちの元に、一人の青年がやってきた。
金髪で、爽やかな笑顔が印象的な彼は、自由同盟のエースパイロット、カイト・アルベルトだった。
彼が操縦する旧式機ゲイルは、その表面に多くの傷跡を刻みながらも、彼の熟練の技によって、まるで生きているかのように輝いていた。
「やあ、君たちが竜騎士中隊の新人かな?俺はカイト・アルベルト。自由同盟のエースだ。ジェイのことは…残念だった」
カイトはそう言うと、ユウキに手を差し出した。ユウキは、カイトの眩しい笑顔の裏に潜む、深い悲しみを感じ取った。
「…坂本ユウキです。ジェイさんは、あなたのことを尊敬していました」
ユウキは、そう答えると、カイトの手を強く握りしめた。
「ああ、知っているさ。ジェイは、いつも俺のことを自慢していた。彼が命をかけて守ろうとしたもの。それが、君たちだ」
カイトの言葉に、ユウキは、ジェイの最期の言葉が蘇ってきた。
「…カイトさん。僕たちは、ジェイさんの死を無駄にしないためにも、アビスという見えない敵と戦います」
ユウキの言葉に、カイトの表情が引き締まった。
「アビス…か。やはり、君も気づいていたか。俺も、ヴァルキリー帝国との戦いの中で、不審な魔力反応や、謎の黒い機体の存在を感じ取っていた。だが、上層部は、僕たちパイロットの報告を信用しようとしなかった」
カイトは、そう言うと、ユウキの肩を軽く叩いた。
「君とリアさんが、この世界の運命を変える存在だと、俺は信じている。伝説機アストレイアの力は、この世界の希望だ。だが、その力だけでは、アビスには勝てない。真の強さとは、仲間を信じ、共に戦うことだ。ジェイが君に託したものを、無駄にするな」
カイトの言葉は、ユウキの心を深く揺さぶった。
彼は、ジェイの死を無駄にしないためにも、ヴァルキリーが語った真実を突き止めるためにも、アビスという闇の勢力を打倒するためにも…強くならなければならないと、改めて心に誓った。
「…はい、カイトさん。僕、頑張ります」
ユウキは、そう答えると、カイトに深く頭を下げた。
さらに、その日の夕方、アークライトの港に、アクエリアス公国からの使者を乗せた飛空艇が着陸した。
使者の名は、マーリン・セレス。
若くして公国軍のエースパイロットを務める彼は、伝説の幻晶機オケアノスのパイロットでもあった。
マリア少佐とユウキ、リア、そしてザラは、マーリンを迎え入れた。
「マーリン殿、ようこそアークライトへ。この度は、我々自由同盟の要請に応じてくださり、心より感謝いたします」
マリアが、そう挨拶すると、マーリンは優雅な笑みを浮かべ、静かに答えた。
「マリア少佐、ご挨拶に及びません。我々アクエリアス公国は、中立の立場を保ってきましたが、この世界の海に、不穏なマナの波動を感じ取っております。それは、伝説機に宿るコアの力を歪ませるものです。我々は、この歪んだマナの波動を無視することはできません。それに…」
マーリンは、ユウキに視線を向けた。
「貴方が、アストレイアのパイロット、ユウキ・サカモト殿ですね。貴方が幻晶のコアによって、この世界に召喚された『召喚者』であると聞いております。貴方がこの世界の運命を変える存在であると、我々は信じております」
マーリンの言葉に、ユウキは戸惑いを隠せない。
「僕は…ただの高校生です。この世界の運命を変えるなんて…そんな大それたことは…」
「謙遜なさるな。貴方の瞳には、故郷を失った悲しみと、それでもなお前を向く、強い意志が宿っています。貴方こそ、この世界を救う『召喚者』です。我々アクエリアス公国は、貴方とアストレイアに協力します」
マーリンはそう言うと、ユウキに手を差し出した。
「ユウキ殿。我々の伝説機オケアノスと共に、アビスという闇の勢力を打倒しましょう。そして、この世界のコアの力を守り、真の平和を築き上げましょう」
ユウキは、マーリンの言葉に、強い決意を感じた。彼は、マーリンの手を強く握りしめた。
「はい、マーリンさん!僕、頑張ります!」
こうして、伝説の機竜オケアノスと、そのパイロットであるマーリン・セレスが、新たな仲間として、自由同盟との連合軍に加わることになった。
カイトもまた、この新たな共闘体制に心を躍らせているようだった。