ヴァルキリーが自らの覚悟を示した直後、救援に駆けつけた竜騎士中隊の幻晶機が、谷底へと舞い降りた。
エリナとルナが搭乗するゲイル・タイプ2、ソフィアのシリウス・タイプA、ディオンの砲撃機、そして、ノア・ラングレーが操縦する支援機が、谷底に横たわるアストレイアを取り囲んだ。ノアは、あくまで自由同盟の支援兵として振る舞い、その素性を隠している。
「ユウキ!リア!大丈夫か!」
エリナの声が、安堵と、かすかな怒りを含んで響いた。
彼女のゲイルは、度重なる戦闘で満身創痍だったが、それでも彼女は、部下たちの安否を確認するために、真っ先に駆けつけた。
「隊長!私たちは…大丈夫です!」
リアが、震える声で答えた。
ユウキは、ただ呆然と、ヴァルキリーが横たわる谷底を見つめていた。
「…ヴァルキリー…」
ユウキの心には、ヴァルキリーが語った真実と、彼女の言葉が深く突き刺さっていた。
「くそっ…!あいつ、一体、何を考えて…!」
ジェイの死に打ちひしがれていたルナとソフィアも、谷底に降りてきていた。
ノアは、アストレイアの傍らに幻晶機を降ろすと、静かにコックピットから降りた。
「…ノア・ラングレー…この度の、救援任務、ご苦労」
エリナが、ノアの偽名である「ノア」と呼びかけ、彼女の労をねぎらった。
ノアは、ただ無言で頭を下げ、ユウキたちに視線を向けた。その瞳は、感情を読み取らせないが、ユウキの無事を確認したことに、安堵の色が浮かんでいるようだった。
「ユウキ…リア…無事で、よかった」
ノアは、そう言うと、再び自分の幻晶機へと戻っていった。彼女の素性は、まだ誰にも知られていない。
その時、エリナのゲイルから降りたルナが、激しい怒りと共にヴァルキリーに詰め寄った。
「あんた…!ジェイの仇よ!何が『愚かにも自ら命を絶った』よ!あんたが無茶な戦いを仕掛けたからじゃない!」
ルナの声は、悲痛な叫びに変わっていた。彼女は、既に戦闘不能状態に近いゲイルの操縦席から降りたばかりで、その足元もおぼつかない。
ソフィアも、ルナの隣に立つと、怒りに震えるルナとは対照的に、冷静ながらも鋭い口調でヴァルキリーに問いかけた。
「ヴァルキリー少佐…いえ、元少佐。なぜ、味方を裏切ったの?まさか、私と同じ…元帝国兵のあなたにも、何か…」
ソフィアの瞳には、ジェイを失った悲しみと、ヴァルキリーの行動に対する複雑な疑念が宿っていた。彼女は、元帝国兵として、ヴァルキリーの強さを誰よりも知っている。それゆえに、彼女の投降が、単なる敗北ではないことを直感的に理解していた。
ディオンは、そんな二人を冷静に制止した。
「待て、ルナ!ソフィア!落ち着け!奴は…無抵抗だ!」
ディオンの声は、戦場の喧騒にかき消されそうだった。
ユウキは、アストレイアのコックピットから身を乗り出し、叫んだ。
「ルナさん!ソフィアさん!やめてください!ヴァルキリーは…敵じゃない!彼女は…僕たちを助けようとしてくれたんだ!」
ユウキの声は、怒りと、そして、悲しみに満ちていた。
ルナとソフィアは、ユウキの言葉に、一瞬だけ動きを止めた。
しかし、彼女たちの瞳は、まだ怒りで燃え上がっていた。
「ユウキ…何を言っているの…!あいつは…!」
ルナが、震える声で呟いた。
「…ユウキ…嘘…でしょう…?」
ソフィアの声も、悲痛に響いた。
ヴァルキリーは、そんな竜騎士中隊の様子を、ただ静かに見つめていた。彼女の表情には、何の感情も浮かんでいなかった。
だが、その瞳の奥には、彼らの葛藤と悲しみを理解しているような、深い哀しみが宿っていた。
ノアは、他の負傷兵の応急処置を手伝うふりをしながら、ヴァルキリーの近くに寄っていく。彼女が持つ応急処置用の薬品を運ぶ箱の中に、小型の通信端末が隠されていた。ノアは、他の兵士に気づかれないように、素早くヴァルキリーに近づき、その端末をそっと手渡した。
ヴァルキリーは、一瞬だけノアに視線を向けた。その瞳に、一瞬だけ驚きと、そして、かすかな理解の色が浮かんだのを、ノアは見逃さなかった。
「…後で、詳しい話をしましょう。私は…あなたと同じ『召喚者』よ」
ノアは、そうヴァルキリーにだけ聞こえる声で告げると、再び負傷兵の手当てへと戻っていった。その表情は、相変わらず冷徹なままだったが、彼女の心は、アビスを裏切るという、強い決意に満ちていた。
ヴァルキリーは、ノアから手渡された通信端末を、静かに受け取った。彼女は、それを隠すように握りしめ、再び両手を上げた。
「…愚かな…」
ヴァルキリーは、そう呟くと、静かに地面に跪き、両手を上げた。
「私は…投降する。自由に、この身を処するがいい」
彼女の言葉は、まるで、全てを諦めたかのような響きを持っていた。
竜騎士中隊のメンバーは、その光景をただ呆然と見つめることしかできなかった。