第38話 戦火の爪痕と新たな決意 -2
ー/ーその翌日、ユウキとリアは、修理ドックにいるアストレイアの元を訪れた。ラルフとロイドが、汗だくになりながら、機体の内部を熱心に調べている。
「ラルフさん、アストレイアの具合はどうですか?」
ユウキが声をかけると、ラルフは眼鏡を押し上げ、疲労の滲む目でユウキを見た。
「おう、坊主。来てくれたのか。まあ、見ての通りさ。坊主の機体が伝説の機竜とはいえ、ヴァルキリーが乗る幻晶機とクロノス・タイプMの連続攻撃は伊達じゃねぇ。装甲の溶融はまだしも、魔力回路がめちゃくちゃに焼損している。これじゃあ、まともに動かすこともできねぇ」
ユウキは、痛々しい姿になったアストレイアを見上げ、自らの無力さに唇を噛んだ。
「俺が、もっとうまくやれてれば……」
「気にするこたぁねぇ。ヴァルキリーもクロノスも別格だ。お前さんの腕が未熟だったわけじゃねぇ。それに、あの機体は……」
ラルフは言葉を濁し、アストレイアのコアが埋め込まれた胸部を指差した。
「幻晶機の駆動システムは、マナの流動を制御し、機体を動かす。簡単に言えば、血管みてぇなもんだ。だが、こいつのそれは、ただの血管じゃねぇ。ヴァルキリーの雷撃は、そいつを直接揺さぶった。まるで、お前さんの神経を直接焼き尽くそうとしたみてぇなもんだ」
ユウキはゾッとした。ヴァルキリーが自分を殺そうとしていたのではなく、アストレイアという「コア」を奪おうとしていた。それが、彼の心を深く揺さぶった。
「ユウキ……」
リアが不安げにユウキの手を握る。ロイドは黙々と作業を続けながら、時折ユウキに道具を差し出し、言葉を補足した。ユウキは、修理作業を手伝いながら、幻晶機の構造や魔導技術について、ラルフやロイドから多くのことを学んでいった。
「幻晶機は、ただの機械じゃねぇ。マナを宿し、パイロットの心を映す鏡だ。だからこそ、お前さんたちが乗ると、こいつはとんでもない力を出す。だが……」
ラルフは再び言葉を濁し、意味深な視線をユウキに向けた。
「その力を、何のために使うのか。それを忘れるな」
ラルフの言葉は、ユウキの心に深く響いた。彼は、この世界で得た力と、その使い道について、改めて深く考え始めるのだった。
その日の午後、ユウキは訓練場へと向かっていた。
遠くから、ジェイとルナの声が聞こえてくる。二人は、模擬コックピットの中で、訓練の振り返りをしていた。
「おい、ルナ!今日の俺の突撃、最高だっただろ!?ソフィアも見ててくれたかな!?」
ジェイが意気揚々と声を上げると、ルナは呆れたようにため息をついた。
「ジェイ、ソフィアはもうとっくに帰ってます。それに、あなたの突撃、データ上では**『無謀な単独行動』**と評価されてますよ。いつか、本当に死にますからね!」
ルナの声には、いつもより強い焦りと、心配の色がにじんでいた。ジェイは、ルナの真剣な声に、一瞬だけ言葉を失った。
「……そ、そんなこと言うなよ。俺だって、ちゃんと考えてるって……」
「考えてるわけないじゃないですか!もし、ジェイが死んだら、ソフィアは悲しみます!エリナ隊長も、マリア少佐も、そして……私も、悲しいです……!」
ルナは、思わず本音を口にしてしまい、顔を真っ赤にして俯いた。ジェイは、ルナの言葉に、ハッと目を見開いた。
「ルナ……」
ルナは、照れ隠しをするように、ジェイから顔を背けた。
「ば、馬鹿みたいですね、私。すみません、忘れてください」
ルナが立ち去ろうとすると、ジェイは、ぐっと彼女の手を掴んだ。
「ルナ、ありがとう……。お前が、そんな風に思ってくれてたなんて、知らなかった」
ジェイは、ルナのまっすぐな瞳を見つめ、初めて彼女の気持ちを真正面から受け止めた。彼の心の中で、ソフィアへの想いと、ルナへの感謝と戸惑いが交錯する。
「……ジェイは、相変わらず鈍いんですね……」
ルナはそう呟くと、恥ずかしそうに顔を隠した。二人の間に、これまでとは違う、温かい絆が芽生え始めていた。
ユウキは、訓練を終え、リアと共に食堂へと向かっていた。
二人は、今日の訓練の話をしながら、穏やかな時間を過ごしていた。
「今日のユウキの動き、本当にすごかったわ。ディオンさんの厳しい指導にも、ちゃんと食らいついてる。私、見てるだけで、ユウキがどんどん強くなっていくのがわかるの」
リアは、ユウキの成長を心から喜んでいた。
「リアがいてくれるからだよ。リアが、アストレイアと一緒に、俺を支えてくれるから、俺は頑張れるんだ」
ユウキは、リアの優しさに素直に感謝を伝えた。二人の間に流れる、温かく親密な空気に、食堂の隅で一人食事をしていたザラは、眉間に深い皺を寄せた。
(ったく……リアは、あいつに絆されちまって……)
ザラは、口の中で毒づいた。リアの幸せな笑顔を見るのは嬉しい。だが、その隣にいるのが、この異世界から来た、何も知らない男であることに、彼女は複雑な感情を抱いていた。
(あいつが、本当にリアを守れるのか?いつか、リアを傷つけるようなことがあれば……)
ザラは、フォークを強く握りしめた。彼女の脳裏には、リアを守るという、彼女の唯一の使命が渦巻いていた。
しかし、次の瞬間、ユウキがリアに優しく笑いかけ、彼女の手を握る姿を見て、ザラの心は揺らいだ。
(あいつは……リアの言葉を、誰よりも真剣に聞いてる……。そして、リアも、あいつの前では、本当に楽しそうに笑う……)
ザラは、自分がリアを守るために、どれだけの犠牲を払う覚悟があるか、改めて自問自答した。そして、ユウキが、リアを守るために、命をかけて戦っている姿を思い出した。
(俺は、お前を認めねぇ。だけど……リアが、お前を信じている限りは……)
ザラは、そう心の中で呟くと、静かに食事を再開した。
彼女のユウキへの感情は、まだ複雑なままだったが、リアの唯一無二のパートナーとして、ユウキの存在を少しずつ受け入れ始めていた。
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