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第37話 戦火の爪痕と新たな決意 -1

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大規模会戦を終え、自由都市アークライトの基地に帰還した竜騎士中隊の面々は、それぞれの宿舎で深い疲労と心の傷を癒そうとしていた。

ユウキは自室のベッドに横たわっていたが、眠りは訪れなかった。

頭の中では、クロノス・タイプMの異質な動きと、遠距離から感じ取ったヴァルキリーの圧倒的な存在感が、まるで幻影のように繰り返される。

デブリーフィングで報告された夥しい死傷者の数、為す術もなく撃破されていった幻晶機。

戦争の厳しさが、改めて彼の心を深く抉っていた。

アストレイアもまた、クロノスの猛攻によって深刻なダメージを負い、ラルフとロイドの工房で本格的な修理に入っていた。

ユウキは、人との戦いにおける自身の「殺さずに無力化する」という戦い方と、ヴァルキリーやクロノス・タイプMの容赦ない攻撃のギャップに苦悩していた。

幻晶機を動かすことには慣れてきても、人の命を奪うことへの抵抗感が消えないことに苛立ちを覚える。

同時に、クロノス・タイプMのような感情を持たない敵には、彼の「きれいごと」が通用しないのではないかという新たな絶望が押し寄せていた。

その夜、ユウキの部屋にリアが訪れた。彼女は心配そうにユウキを見つめている。

「ユウキ……まだ起きていたの?無理もないわね」

リアはユウキの隣にそっと座り、彼の震える手に自分の手を重ねた。

「デブリーフィング、辛かったわよね。私も、胸が張り裂けそうだった。あんなにたくさんの命が失われて……」

リアの瞳には、深い悲しみが宿っていたが、同時に揺るぎない光も宿っていた。

「ユウキの戦い方は、決して間違いじゃないわ。命を奪うことを躊躇うあなたの優しさが、この世界に新しい光をもたらすはずよ。ただ、この戦争は、私たちが思っていたよりもずっと……非情で、残酷だということ。きれいごとだけでは、乗り切れないのかもしれない」

リアの言葉に、ユウキはハッとした。彼女もまた、今回の戦いを経て、理想と現実のギャップに直面していたのだ。

「リア……」

「でも、あなたはあなたの信じる道を貫けばいい。私が、アストレイアと共に、あなたを支えるから。一人で抱え込まないで。私たちがいるわ」

リアの温かい言葉と手に、ユウキの心が少しだけ軽くなるのを感じた。

その頃、ザラは中隊の訓練場の一角で、一人黙々と弓の訓練を続けていた。

夜空には満月が輝き、彼女の放つ矢が風を切り裂く音が静かに響く。ユウキとリアの親密な会話が、嫌でも耳に入ってくる。

(リアが幸せなら、それでいい。だが、あいつがリアを傷つけるようなことがあれば……)

ザラは内心で毒づきながらも、夜空の月を睨みつけていた。リアが幸せそうなのは嬉しい。だが、その隣にいるのがユウキであることに、やはり複雑な感情が渦巻く。

彼女はちらりとユウキとリアがいる屋上の方に視線を向ける。ユウキがリアに頬を緩めているのを見て、ザラの眉間に深い皺が寄った。

「リアに何かあったら、本当に、ただじゃおかないからな!」

ザラは誰に聞かせるでもなく、小声で呟いた。その声には、リアへの深い愛情と、ユウキへの変わらない牽制が込められていた。

ユウキがリアを守るために命懸けで戦う姿を幾度も見てきたことで、ザラのユウキへの見方も少しずつ変わり始めてはいたものの、素直になれないツンデレな態度は健在だった。

リアの唯一無二のパートナーとして、ユウキの存在を認めつつある、そんな複雑な感情が彼女の心を支配していた。

一方、ジェイは相変わらずソフィアへのアプローチを続けていたが、その頻度は以前よりも減っていた。代わりに、ルナとの距離が確実に縮まっていく。

この日の訓練後、ジェイは模擬コックピットから降りてきたルナに、スポーツドリンクを差し出した。

「ルナ、お疲れさん。今日の訓練も、相変わらずキレてたな!」

ルナはジェイの顔を一瞥し、フン、と鼻を鳴らした。

「あなたに言われたくありません。無謀な突撃ばかり繰り返しているくせに」

そう言いながらも、ルナはスポーツドリンクを受け取った。ジェイは、ルナの真剣な眼差しを意識し始めているようだった。

「おいおい、そんなこと言うなよ。俺だって、ちゃんと考えてるんだぜ?それに、ルナが俺のこと、心配してくれてるって、知ってるんだからな!」

ジェイがニヤリと笑うと、ルナは顔を赤らめ、プイと横を向いた。

「ば、馬鹿言わないで。私はただ、中隊の戦力維持のために、あなたの機体データが危険域に達するのを防いでいるだけよ」

「へっ、素直じゃねぇな。でも、そういうところも、嫌いじゃねぇぜ」

ジェイの言葉に、ルナは何も言い返せなかった。
ルナはジェイの真剣な眼差しに戸惑いつつも、彼の言葉に胸の奥が熱くなるのを感じた。

そして、ジェイがソフィアへのアプローチを続ける中で、ルナは意を決したように、彼に問いかけた。

「……ねえ、ジェイ。私じゃ、ダメなの?」

ルナの心の中には、ジェイへの深い愛情が芽生え始めていた。彼らが共に過ごす時間が増え、お互いのことを深く理解し始める。ルナはジェイが訓練で無理をした際に、さりげなく気遣う言葉をかけたり、栄養ドリンクを差し入れたりするなど、彼への愛情を隠さなくなっていた。

ジェイは、ルナの突然の問いかけに、一瞬、言葉を失った。ニヤニヤと笑っていた顔から、すっと表情が消え、真剣な眼差しでルナを見つめ返す。彼の脳裏には、ルナの真剣な表情と、これまで彼女が見せてきたさりげない気遣いが、走馬灯のように駆け巡った。

「……ルナ……お前……」

ジェイは、戸惑いと、わずかな驚きを隠せない様子で、ルナから視線を外した。顔が、ほんのりと赤くなっている。彼は、ルナの自分への深い感情を、この時初めて真正面から受け止めたようだった。

「ったく……お前も、変なこと言うなよな……」

アークライトの夜は、遠い戦火の轟音すらもかき消す、独特の喧騒に満ちていた。ユウキは宿舎の窓から、煌々と輝く都市の灯りを見下ろしていた。それはまるで、遠い故郷のネオン街を思わせる光景だった。

しかし、その華やかさとは裏腹に、彼の心は重く沈んでいた。大規模会戦の惨状が、今も脳裏に焼き付いている。

「ねえ、ユウキ。まだ眠れないの?」

背後から、優しい声がした。リアだった。彼女は小さなランプを手に、ユウキの部屋のドアに立っていた。

「ああ、リア……。なんだか、色々考えちゃって……」

「……私もよ」

リアは静かに部屋に入ると、ユウキの隣に座った。彼女の瞳は、昼間よりもずっと、真剣な光を宿している。

「あの時、マリア少佐が言っていた、『見えない敵』のこと。私、ずっと考えていたの。谷を襲った魔竜、そして……あの謎の機体。あの歪んだマナの波動。あれは、ただの魔獣や兵器じゃない。何かが、この世界を狂わせようとしている」

「グレイ・シャドーも言っていた。『コアの力』を狙っているって。そして、その目的は究極の力を完成させることだ、って……」

ユウキは、リアとグレイ・シャドーの言葉が、一本の線で繋がっていくのを感じた。

「そうよ。きっと、その謎の勢力が、すべてを裏で操っているんだわ。ヴァルキリー帝国と自由同盟を戦わせて、その混乱に乗じて、伝説機を覚醒させようとしているのかもしれない」

二人の間に、重い沈黙が流れた。自分たちが、単なる戦争ではなく、世界の命運を賭けた巨大な陰謀に巻き込まれている。その事実に、ユウキは改めて身が引き締まる思いだった。




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ユウキは自室のベッドに横たわっていたが、眠りは訪れなかった。
頭の中では、クロノス・タイプMの異質な動きと、遠距離から感じ取ったヴァルキリーの圧倒的な存在感が、まるで幻影のように繰り返される。
デブリーフィングで報告された夥しい死傷者の数、為す術もなく撃破されていった幻晶機。
戦争の厳しさが、改めて彼の心を深く抉っていた。
アストレイアもまた、クロノスの猛攻によって深刻なダメージを負い、ラルフとロイドの工房で本格的な修理に入っていた。
ユウキは、人との戦いにおける自身の「殺さずに無力化する」という戦い方と、ヴァルキリーやクロノス・タイプMの容赦ない攻撃のギャップに苦悩していた。
幻晶機を動かすことには慣れてきても、人の命を奪うことへの抵抗感が消えないことに苛立ちを覚える。
同時に、クロノス・タイプMのような感情を持たない敵には、彼の「きれいごと」が通用しないのではないかという新たな絶望が押し寄せていた。
その夜、ユウキの部屋にリアが訪れた。彼女は心配そうにユウキを見つめている。
「ユウキ……まだ起きていたの?無理もないわね」
リアはユウキの隣にそっと座り、彼の震える手に自分の手を重ねた。
「デブリーフィング、辛かったわよね。私も、胸が張り裂けそうだった。あんなにたくさんの命が失われて……」
リアの瞳には、深い悲しみが宿っていたが、同時に揺るぎない光も宿っていた。
「ユウキの戦い方は、決して間違いじゃないわ。命を奪うことを躊躇うあなたの優しさが、この世界に新しい光をもたらすはずよ。ただ、この戦争は、私たちが思っていたよりもずっと……非情で、残酷だということ。きれいごとだけでは、乗り切れないのかもしれない」
リアの言葉に、ユウキはハッとした。彼女もまた、今回の戦いを経て、理想と現実のギャップに直面していたのだ。
「リア……」
「でも、あなたはあなたの信じる道を貫けばいい。私が、アストレイアと共に、あなたを支えるから。一人で抱え込まないで。私たちがいるわ」
リアの温かい言葉と手に、ユウキの心が少しだけ軽くなるのを感じた。
その頃、ザラは中隊の訓練場の一角で、一人黙々と弓の訓練を続けていた。
夜空には満月が輝き、彼女の放つ矢が風を切り裂く音が静かに響く。ユウキとリアの親密な会話が、嫌でも耳に入ってくる。
(リアが幸せなら、それでいい。だが、あいつがリアを傷つけるようなことがあれば……)
ザラは内心で毒づきながらも、夜空の月を睨みつけていた。リアが幸せそうなのは嬉しい。だが、その隣にいるのがユウキであることに、やはり複雑な感情が渦巻く。
彼女はちらりとユウキとリアがいる屋上の方に視線を向ける。ユウキがリアに頬を緩めているのを見て、ザラの眉間に深い皺が寄った。
「リアに何かあったら、本当に、ただじゃおかないからな!」
ザラは誰に聞かせるでもなく、小声で呟いた。その声には、リアへの深い愛情と、ユウキへの変わらない牽制が込められていた。
ユウキがリアを守るために命懸けで戦う姿を幾度も見てきたことで、ザラのユウキへの見方も少しずつ変わり始めてはいたものの、素直になれないツンデレな態度は健在だった。
リアの唯一無二のパートナーとして、ユウキの存在を認めつつある、そんな複雑な感情が彼女の心を支配していた。
一方、ジェイは相変わらずソフィアへのアプローチを続けていたが、その頻度は以前よりも減っていた。代わりに、ルナとの距離が確実に縮まっていく。
この日の訓練後、ジェイは模擬コックピットから降りてきたルナに、スポーツドリンクを差し出した。
「ルナ、お疲れさん。今日の訓練も、相変わらずキレてたな!」
ルナはジェイの顔を一瞥し、フン、と鼻を鳴らした。
「あなたに言われたくありません。無謀な突撃ばかり繰り返しているくせに」
そう言いながらも、ルナはスポーツドリンクを受け取った。ジェイは、ルナの真剣な眼差しを意識し始めているようだった。
「おいおい、そんなこと言うなよ。俺だって、ちゃんと考えてるんだぜ?それに、ルナが俺のこと、心配してくれてるって、知ってるんだからな!」
ジェイがニヤリと笑うと、ルナは顔を赤らめ、プイと横を向いた。
「ば、馬鹿言わないで。私はただ、中隊の戦力維持のために、あなたの機体データが危険域に達するのを防いでいるだけよ」
「へっ、素直じゃねぇな。でも、そういうところも、嫌いじゃねぇぜ」
ジェイの言葉に、ルナは何も言い返せなかった。
ルナはジェイの真剣な眼差しに戸惑いつつも、彼の言葉に胸の奥が熱くなるのを感じた。
そして、ジェイがソフィアへのアプローチを続ける中で、ルナは意を決したように、彼に問いかけた。
「……ねえ、ジェイ。私じゃ、ダメなの?」
ルナの心の中には、ジェイへの深い愛情が芽生え始めていた。彼らが共に過ごす時間が増え、お互いのことを深く理解し始める。ルナはジェイが訓練で無理をした際に、さりげなく気遣う言葉をかけたり、栄養ドリンクを差し入れたりするなど、彼への愛情を隠さなくなっていた。
ジェイは、ルナの突然の問いかけに、一瞬、言葉を失った。ニヤニヤと笑っていた顔から、すっと表情が消え、真剣な眼差しでルナを見つめ返す。彼の脳裏には、ルナの真剣な表情と、これまで彼女が見せてきたさりげない気遣いが、走馬灯のように駆け巡った。
「……ルナ……お前……」
ジェイは、戸惑いと、わずかな驚きを隠せない様子で、ルナから視線を外した。顔が、ほんのりと赤くなっている。彼は、ルナの自分への深い感情を、この時初めて真正面から受け止めたようだった。
「ったく……お前も、変なこと言うなよな……」
アークライトの夜は、遠い戦火の轟音すらもかき消す、独特の喧騒に満ちていた。ユウキは宿舎の窓から、煌々と輝く都市の灯りを見下ろしていた。それはまるで、遠い故郷のネオン街を思わせる光景だった。
しかし、その華やかさとは裏腹に、彼の心は重く沈んでいた。大規模会戦の惨状が、今も脳裏に焼き付いている。
「ねえ、ユウキ。まだ眠れないの?」
背後から、優しい声がした。リアだった。彼女は小さなランプを手に、ユウキの部屋のドアに立っていた。
「ああ、リア……。なんだか、色々考えちゃって……」
「……私もよ」
リアは静かに部屋に入ると、ユウキの隣に座った。彼女の瞳は、昼間よりもずっと、真剣な光を宿している。
「あの時、マリア少佐が言っていた、『見えない敵』のこと。私、ずっと考えていたの。谷を襲った魔竜、そして……あの謎の機体。あの歪んだマナの波動。あれは、ただの魔獣や兵器じゃない。何かが、この世界を狂わせようとしている」
「グレイ・シャドーも言っていた。『コアの力』を狙っているって。そして、その目的は究極の力を完成させることだ、って……」
ユウキは、リアとグレイ・シャドーの言葉が、一本の線で繋がっていくのを感じた。
「そうよ。きっと、その謎の勢力が、すべてを裏で操っているんだわ。ヴァルキリー帝国と自由同盟を戦わせて、その混乱に乗じて、伝説機を覚醒させようとしているのかもしれない」
二人の間に、重い沈黙が流れた。自分たちが、単なる戦争ではなく、世界の命運を賭けた巨大な陰謀に巻き込まれている。その事実に、ユウキは改めて身が引き締まる思いだった。