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第36話 ヴァルキリー、揺れる信念 -3

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デブリーフィングが終わり、竜騎士中隊の面々は、それぞれの宿舎へと戻った。重苦しい空気は、司令室を離れても彼らの心を締め付けていた。

ユウキとリア、ザラは、自分たちの部屋に戻る道すがら、皆が口数少なく、それぞれの胸中で今回の戦いを反芻しているのが見て取れた。

ユウキは、自分の部屋のベッドに腰を下ろしたまま、目の前の壁を呆然と見つめていた。

頭の中では、デブリーフィングでの報告が何度も繰り返される。死者の数、負傷者の数、そして、為す術もなく撃破されていった幻晶機。

「俺は……何のために、戦ってるんだろう……」

彼は操縦桿を握る手が震えるのを感じた。

人との戦いにおける自身の「殺さずに無力化する」という戦い方と、クロノス・タイプMの容赦ない攻撃のギャップに苦悩していた。

幻晶機を動かすことには慣れてきても、人の命を奪うことへの抵抗感が消えないことに苛立ちを覚える。同時に、クロノス・タイプMには、彼の「きれいごと」が通用しないのではないかという新たな絶望が押し寄せていた。





その時、コンコン、と部屋のドアがノックされた。顔を上げると、そこに立っていたのはリアだった。彼女は心配そうにユウキを見つめている。

「ユウキ……大丈夫? 顔色が悪いわ」

リアはユウキの隣にそっと座り、彼の震える手に自分の手を重ねた。

「デブリーフィング、辛かったわよね。私も、胸が張り裂けそうだった。でも……」

リアはユウキの顔を真っ直ぐ見つめた。
その瞳には、深い悲しみが宿っていたが、同時に揺るぎない光も宿っていた。

「ユウキの戦い方は、決して間違いじゃないわ。命を奪うことを躊躇うあなたの優しさが、この世界に新しい光をもたらすはずよ。ただ、この戦争は、私たちが思っていたよりもずっと……非情で、残酷だということ。きれいごとだけでは、乗り切れないのかもしれない」

リアの言葉に、ユウキはハッとした。
彼女もまた、今回の戦いを経て、理想と現実のギャップに直面していたのだ。

「リア……」

「でも、あなたはあなたの信じる道を貫けばいい。私が、アストレイアと共に、あなたを支えるから。一人で抱え込まないで。私たちがいるわ」

リアの温かい言葉と手に、ユウキの心が少しだけ軽くなるのを感じた。

その時、再びドアがノックされ、今度はザラが顔を出した。彼女は腕組みをしたまま、眉間に深い皺を寄せている。

「おい、ユウキ。いつまで落ち込んでるんだ。リアが心配してるだろうが」

ザラの言葉は突き刺さるようだったが、その瞳の奥には、ユウキを案じる色が混じっていた。

「デブリーフィングの報告、聞いたんだろ?こんな状況で、きれいごとだけじゃ、誰も守れねぇんだ。特にリアは……お前が守らなきゃならないんだぞ」

ザラはリアの傍らに立つユウキの背中を、複雑な感情で見つめていた。

リアの幸せを願う一方で、ユウキへの嫉妬や、リアを危険な目に遭わせないかという心配から、時にユウキに冷たい視線を向けたり、小声で牽制したりする。

しかし、ユウキがリアを守るために命懸けで戦う姿を幾度も見てきたことで、ザラのユウキへの見方も少しずつ変わり始めていた。

「ザラ……」

ユウキは言葉に詰まった。

そこへ、やや不満げな顔のジェイが部屋に入ってきた。
彼の顔にも、疲労の色が濃く滲んでいる。

「ったく、お前ら、ここで女々しくしてても何も始まらねぇぞ。デブリーフィングでのマリア少佐の言葉、聞いたか?俺たちは、ただの戦争じゃない、見えない敵と戦っているんだ」

ジェイはユウキの隣に座り、壁にもたれかかった。

「きれいごとだけじゃ乗り切れないなんて、俺が前に言った言葉が、こんなに早く現実になるなんてな。友軍の壊滅報告を聞いて、俺も歯噛みしたよ。この戦場で生き残るには、きれいな手だけじゃ無理だ。時には、汚い手も使うしかない」

デブリーフィング中にユウキに投げかけた「ここはゲームじゃない、生きて帰るためにはやるしかないんだ」という言葉は、彼自身への言い聞かせでもあった。

彼の瞳の奥には、友軍を見捨てなければならなかった苦い記憶が、まだ燻っていた。

「だが、お前の戦い方も、時には必要だ。敵を無力化する。それは、無駄な犠牲を減らすことにも繋がる」

リアがそっと顔を上げた。

「ええ、ユウキの優しさは、この世界に必要よ」

ジェイはリアの言葉に頷き、話を続ける。

「お前は、まだ迷ってるようだが、その迷いがお前を人間たらしめているのかもしれねぇな。だが、」

ザラがふと口を挟んだ。

「フン、弱気になってる場合か。リアを守るなら、迷ってる暇なんてねぇんだぞ」

ジェイは一瞬、ザラに睨みを効かせたが、すぐにユウキへと視線を戻した。

その時、コンコン、と再びドアがノックされた。ユウキたちが顔を上げると、そこに立っていたのはルナとソフィアだった。二人は心配そうな顔で、ユウキの部屋の様子を伺っている。

「ユウキ君、リアちゃん、ザラも。大丈夫?」

ルナが優しく尋ねた。

ソフィアも部屋に入りながら、ユウキの顔をじっと見つめる。

「デブリーフィングの報告は、私たち全員にとって重いものだった。特に、クロノス・タイプMの出現は……」

ジェイは、二人の姿を見て、少しだけ表情を和らげた。

「ルナ、ソフィア。お前たちも来たのか。ちょうどいい。このユウキが、まだ戦いの現実を受け止めきれてないみたいでな」

ルナはユウキの隣に座り、優しく肩を叩いた。

「ユウキ君、無理もないわ。私も、クロノス・タイプMの動きには本当に恐怖を感じたもの。本当に……私たちの幻晶機じゃ、歯が立たない場面もあったわ」

ソフィアも頷き、冷静ながらも、その言葉に同意する。

「彼らの動きは予測不能で、マナの波長も異質。生半可な気持ちじゃ通用しない。だからこそ、私たちはもっと強くならなければならない」

ジェイは、全員の言葉を受け止めるように深く息を吐いた。

「だから、お前はもっと強くならなきゃダメだ。リアのためにも、俺たちのためにも、だ」

ジェイの言葉は、以前よりもずっと重く、現実を突きつけていた。彼らは皆、ユウキの純粋さを理解しつつも、この過酷な戦場で彼が生き抜くためには、さらなる覚悟が必要だと感じていたのだ。
















エリナは、デブリーフィング後、自室に戻っていた。

部屋の壁には、亡くなった婚約者アレンの写真が飾られている。その写真を見つめる彼女の瞳は、遠い過去の悲劇を映し出していた。

「アレン……」

エリナは、そっと写真に触れた。彼を失った悲しみは、今も彼女の心の奥底に深く刻まれている。

中隊長として、多くの兵士の命を預かる立場から、時に非情な決断を下さなければならない重圧。その全てが、彼女の肩に重くのしかかっていた。

「戦争は……個人の感情だけでは動かせない。わかっているわ。でも……」

彼女は、マリア少佐の言葉を思い出す。

見えない敵の存在。クロノス・タイプMの異質な動き。この戦争が、単なる国家間の争いではないことを、エリナは肌で感じ取っていた。

「アレン、私たちが戦っているのは、何のためなのかしら。あなたの死を無駄にしないためにも……私は、この中隊を守り抜く。それが、私の『正義』よ」

エリナは、亡き婚約者への誓いを胸に、静かに瞳を閉じた。彼女の表情には、悲しみと、そして揺るぎない決意が宿っていた。




次のエピソードへ進む 第37話 戦火の爪痕と新たな決意 -1


みんなのリアクション

デブリーフィングが終わり、竜騎士中隊の面々は、それぞれの宿舎へと戻った。重苦しい空気は、司令室を離れても彼らの心を締め付けていた。
ユウキとリア、ザラは、自分たちの部屋に戻る道すがら、皆が口数少なく、それぞれの胸中で今回の戦いを反芻しているのが見て取れた。
ユウキは、自分の部屋のベッドに腰を下ろしたまま、目の前の壁を呆然と見つめていた。
頭の中では、デブリーフィングでの報告が何度も繰り返される。死者の数、負傷者の数、そして、為す術もなく撃破されていった幻晶機。
「俺は……何のために、戦ってるんだろう……」
彼は操縦桿を握る手が震えるのを感じた。
人との戦いにおける自身の「殺さずに無力化する」という戦い方と、クロノス・タイプMの容赦ない攻撃のギャップに苦悩していた。
幻晶機を動かすことには慣れてきても、人の命を奪うことへの抵抗感が消えないことに苛立ちを覚える。同時に、クロノス・タイプMには、彼の「きれいごと」が通用しないのではないかという新たな絶望が押し寄せていた。
その時、コンコン、と部屋のドアがノックされた。顔を上げると、そこに立っていたのはリアだった。彼女は心配そうにユウキを見つめている。
「ユウキ……大丈夫? 顔色が悪いわ」
リアはユウキの隣にそっと座り、彼の震える手に自分の手を重ねた。
「デブリーフィング、辛かったわよね。私も、胸が張り裂けそうだった。でも……」
リアはユウキの顔を真っ直ぐ見つめた。
その瞳には、深い悲しみが宿っていたが、同時に揺るぎない光も宿っていた。
「ユウキの戦い方は、決して間違いじゃないわ。命を奪うことを躊躇うあなたの優しさが、この世界に新しい光をもたらすはずよ。ただ、この戦争は、私たちが思っていたよりもずっと……非情で、残酷だということ。きれいごとだけでは、乗り切れないのかもしれない」
リアの言葉に、ユウキはハッとした。
彼女もまた、今回の戦いを経て、理想と現実のギャップに直面していたのだ。
「リア……」
「でも、あなたはあなたの信じる道を貫けばいい。私が、アストレイアと共に、あなたを支えるから。一人で抱え込まないで。私たちがいるわ」
リアの温かい言葉と手に、ユウキの心が少しだけ軽くなるのを感じた。
その時、再びドアがノックされ、今度はザラが顔を出した。彼女は腕組みをしたまま、眉間に深い皺を寄せている。
「おい、ユウキ。いつまで落ち込んでるんだ。リアが心配してるだろうが」
ザラの言葉は突き刺さるようだったが、その瞳の奥には、ユウキを案じる色が混じっていた。
「デブリーフィングの報告、聞いたんだろ?こんな状況で、きれいごとだけじゃ、誰も守れねぇんだ。特にリアは……お前が守らなきゃならないんだぞ」
ザラはリアの傍らに立つユウキの背中を、複雑な感情で見つめていた。
リアの幸せを願う一方で、ユウキへの嫉妬や、リアを危険な目に遭わせないかという心配から、時にユウキに冷たい視線を向けたり、小声で牽制したりする。
しかし、ユウキがリアを守るために命懸けで戦う姿を幾度も見てきたことで、ザラのユウキへの見方も少しずつ変わり始めていた。
「ザラ……」
ユウキは言葉に詰まった。
そこへ、やや不満げな顔のジェイが部屋に入ってきた。
彼の顔にも、疲労の色が濃く滲んでいる。
「ったく、お前ら、ここで女々しくしてても何も始まらねぇぞ。デブリーフィングでのマリア少佐の言葉、聞いたか?俺たちは、ただの戦争じゃない、見えない敵と戦っているんだ」
ジェイはユウキの隣に座り、壁にもたれかかった。
「きれいごとだけじゃ乗り切れないなんて、俺が前に言った言葉が、こんなに早く現実になるなんてな。友軍の壊滅報告を聞いて、俺も歯噛みしたよ。この戦場で生き残るには、きれいな手だけじゃ無理だ。時には、汚い手も使うしかない」
デブリーフィング中にユウキに投げかけた「ここはゲームじゃない、生きて帰るためにはやるしかないんだ」という言葉は、彼自身への言い聞かせでもあった。
彼の瞳の奥には、友軍を見捨てなければならなかった苦い記憶が、まだ燻っていた。
「だが、お前の戦い方も、時には必要だ。敵を無力化する。それは、無駄な犠牲を減らすことにも繋がる」
リアがそっと顔を上げた。
「ええ、ユウキの優しさは、この世界に必要よ」
ジェイはリアの言葉に頷き、話を続ける。
「お前は、まだ迷ってるようだが、その迷いがお前を人間たらしめているのかもしれねぇな。だが、」
ザラがふと口を挟んだ。
「フン、弱気になってる場合か。リアを守るなら、迷ってる暇なんてねぇんだぞ」
ジェイは一瞬、ザラに睨みを効かせたが、すぐにユウキへと視線を戻した。
その時、コンコン、と再びドアがノックされた。ユウキたちが顔を上げると、そこに立っていたのはルナとソフィアだった。二人は心配そうな顔で、ユウキの部屋の様子を伺っている。
「ユウキ君、リアちゃん、ザラも。大丈夫?」
ルナが優しく尋ねた。
ソフィアも部屋に入りながら、ユウキの顔をじっと見つめる。
「デブリーフィングの報告は、私たち全員にとって重いものだった。特に、クロノス・タイプMの出現は……」
ジェイは、二人の姿を見て、少しだけ表情を和らげた。
「ルナ、ソフィア。お前たちも来たのか。ちょうどいい。このユウキが、まだ戦いの現実を受け止めきれてないみたいでな」
ルナはユウキの隣に座り、優しく肩を叩いた。
「ユウキ君、無理もないわ。私も、クロノス・タイプMの動きには本当に恐怖を感じたもの。本当に……私たちの幻晶機じゃ、歯が立たない場面もあったわ」
ソフィアも頷き、冷静ながらも、その言葉に同意する。
「彼らの動きは予測不能で、マナの波長も異質。生半可な気持ちじゃ通用しない。だからこそ、私たちはもっと強くならなければならない」
ジェイは、全員の言葉を受け止めるように深く息を吐いた。
「だから、お前はもっと強くならなきゃダメだ。リアのためにも、俺たちのためにも、だ」
ジェイの言葉は、以前よりもずっと重く、現実を突きつけていた。彼らは皆、ユウキの純粋さを理解しつつも、この過酷な戦場で彼が生き抜くためには、さらなる覚悟が必要だと感じていたのだ。
エリナは、デブリーフィング後、自室に戻っていた。
部屋の壁には、亡くなった婚約者アレンの写真が飾られている。その写真を見つめる彼女の瞳は、遠い過去の悲劇を映し出していた。
「アレン……」
エリナは、そっと写真に触れた。彼を失った悲しみは、今も彼女の心の奥底に深く刻まれている。
中隊長として、多くの兵士の命を預かる立場から、時に非情な決断を下さなければならない重圧。その全てが、彼女の肩に重くのしかかっていた。
「戦争は……個人の感情だけでは動かせない。わかっているわ。でも……」
彼女は、マリア少佐の言葉を思い出す。
見えない敵の存在。クロノス・タイプMの異質な動き。この戦争が、単なる国家間の争いではないことを、エリナは肌で感じ取っていた。
「アレン、私たちが戦っているのは、何のためなのかしら。あなたの死を無駄にしないためにも……私は、この中隊を守り抜く。それが、私の『正義』よ」
エリナは、亡き婚約者への誓いを胸に、静かに瞳を閉じた。彼女の表情には、悲しみと、そして揺るぎない決意が宿っていた。