第34話 ヴァルキリー、揺れる信念 -1
ー/ーヴァルキリー帝国は、軍事力と階級制度によって統治される巨大国家だ。
その首都「ヴァルハラ」は、巨大な城塞都市であり、重厚な石造りの建築物が空にそびえ立ち、威圧的な雰囲気を放っている。市民は皇帝を神の如く崇拝し、皇帝の言葉こそが絶対の正義とされている。
この国は、「力こそが正義」という思想を徹底している。
それは、市民の生活の隅々にまで浸透しており、街の至る所で、人々は自身の強さを誇示している。幻晶機のパイロットは特に英雄視され、貴族階級に匹敵する特権が与えられている。
ヴァルキリーも、その卓越した才能と、シャドウ・ヴァルキリーのパイロットとしての功績により、若くして少佐の地位を与えられ、帝国内では「英雄」として崇められている。その結果、彼女は国の名を関することになった。
しかし、その輝かしい外面の裏では、腐敗と非情な現実が進行していた。
帝国軍の部隊は、自由同盟軍を「弱肉強食の摂理から外れた愚かな存在」と蔑み、戦闘では必要以上の破壊と殺戮を行うことも少なくない。
ヴァルキリーも、最初はその非情な戦い方に疑問を抱いていたが、故郷を救うというファントムとの取引と、戦場で生き残るためには非情にならざるを得ないという現実から、次第にその考えを受け入れていった。
帝国内では、皇帝派と貴族派の対立が激化している。
皇帝派は軍事力による強硬な世界征服を唱えているのに対し、貴族派は、外交と経済力を駆使した穏健な統治を主張している。
この対立は、軍内部にも影響を及ぼし、互いに足を引っ張り合うことも少なくない。
ヴァルキリーは、皇帝直属のパイロットとして、この派閥争いとは一線を画していたが、彼女の行動が、いずれこの対立を決定的なものにしていくことになることは、彼女も予期できていなかった。
帝国の教育機関である士官学校も、徹底した実力主義だ。
若きパイロットたちは、幼い頃から、厳しい訓練と競争にさらされ、「生き残るため」の非情な戦術を叩き込まれる。
ヴァルキリーも、この士官学校で、徹底した戦闘技術と、帝国の思想を教え込まれた。彼女の冷徹な戦闘スタイルは、この教育の賜物だと言える。
街の風景も、その思想を反映している。
壮麗な建造物が立ち並ぶ一方で、貧しい市民が暮らすスラム街も存在する。
そこでは、力を持たない人々が、権力者から搾取され、貧困に苦しんでいる。ヴァルキリーは、任務の合間に、街を歩き、その光景を何度も見てきた。
彼女は、力を持たない人々の絶望的な瞳と、その瞳の奥に宿るかすかな希望を、見て見ぬふりをすることができなかった。
彼女は、帝国の「力こそが正義」という思想が、決して全ての人々を救うものではないことを、肌で感じていた。それでも、故郷を救うという目的のために、彼女は自分自身を殺し、帝国の思想に従い続けてきた。
しかし、アビスの真の目的を知った今、彼女の心は、激しく揺れ動いていた。
彼女が信じてきた「正義」は、果たして本当に正しかったのだろうか。
◇◆◇◆◇
ヴァルキリーは、帝国軍の最前線にいた。
眼下には、火薬と土煙が舞い上がる戦場が広がっていた。ここは、自由同盟最大の軍事拠点であり、「難攻不落の城塞」として知られるリンドブルム要塞だ。ヴァルキリーは、この要塞の防御力に舌を巻いていた。
城塞を巡る攻防は激化し、轟く砲撃音と、幻晶機が放つ魔力弾の閃光が、辺りを埋め尽くしている。
彼女の銀髪のショートカットは、ヘルメットの中でわずかに揺れ、その鋭い眼光は、ディスプレイに映し出される戦場の情報を冷徹に分析していた。
彼女の操るシャドウ・ヴァルキリーは、他の幻晶機とは一線を画す威容を誇っていた。漆黒の装甲に身を包んだその機体は、雷光を纏い、敵機を一瞬で葬り去る。
彼女の一撃一撃は、ヴァルキリー帝国の掲げる「力こそが正義」という思想を具現化したかのようだった。
「シャドウ・ヴァルキリー、目標、敵主力部隊の殲滅。一切の躊躇は無用」
彼女の冷徹な声が、通信を介して部隊全体に響き渡る。
部下のパイロットたちが、その命令に戸惑いながらも応じる。
「しかし、ヴァルキリー少佐…!敵も友軍も、入り乱れています!このままでは、巻き添えが…!」
その声に、ヴァルキリーは眉一つ動かさず答える。
「巻き添えを恐れては、勝利は得られぬ。この世界で生き残るには、より強大な力を持つ者が、他の全てを支配しなければならない」
彼女の脳裏に、数日前の記憶が鮮明に蘇る。
「この戦場は、あの時と同じ…」
彼女は自らの操縦する機体へ語りかける。
「あの時、純白の幻晶機が、この戦場に現れた…」
その機体の異質な操縦技術と、敵を無力化するだけの戦い方。
そして、あの戦場に突如現れた謎の黒い幻晶機。
「あの幻晶機が放っていた、歪んだマナの波動。あれは…アビスの仕業か…?」
ヴァルキリーの心に、初めて戸惑いが生まれる。
「…私は、一体、何のために…」
その時、彼女の通信に、一人の男の声が届いた。
それは、アビスのもう一人の幹部、ファントムだった。
ヴァルキリーの故郷も、終わりのない戦火に包まれた世界だった。
彼女が暮らしていたのは、科学技術が極限まで発展し、人類が「幻晶機」によく似た巨大な兵器で、互いを破壊し合う時代だった。
幼いヴァルキリーは、妹と共に、防空壕の中で身を潜めていた。外から聞こえるのは、耳を劈くような爆音と、建物の崩れる音、そして人々の悲鳴だけだった。
「お姉ちゃん…怖いよ…」
幼い妹が、震える声でヴァルキリーの腕にしがみつく。
「大丈夫、大丈夫よ。私が、きっと守ってあげるから…」
ヴァルキリーは、そう言いながら、自分も震えているのを感じた。
その時、防空壕の入り口に、巨大な爆炎が襲いかかった。
彼女たちの視界は一瞬で白く染まり、次に目を開けたときには、故郷の光景はどこにもなく、瓦礫と見知らぬ世界の空が広がっていた。妹の姿もどこにもない。
瓦礫の中に横たわり、呆然と空を見上げていたヴァルキリー。
「なぜ…なぜ、こんな…!」
彼女の絶望的な叫びは、戦場の喧騒にかき消された。
その時、一人の男が瓦礫の中から現れた。
その男、ファントムは、彼女の故郷の悲劇を、まるで予言していたかのように語った。
「愚かな人間は、与えられた力に酔いしれ、やがて自らを滅ぼす。この世界も、いずれそうなるだろう」
ファントムは、瓦礫の山に横たわるヴァルキリーに手を差し伸べた。
「私と共に来い。この世界で、お前の故郷を再構築する力…、そして、お前を故郷へ帰す方法を見つけてやろう」
ヴァルキリーは、故郷を救うという願いを叶えるため、ファントムに全てを委ねた。
ファントムは、彼女を「力こそが正義」とするヴァルキリー帝国へと導いた。
それは、10年前のことだった。
彼女は、帝国の教えを盲信した。
力を手に入れれば、故郷を救える。
力を手に入れれば、大切な人々を失わずに済む。
力を手に入れれば、この世界の戦いを終わらせられる。
そう、信じていた。
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ヴァルキリー帝国は、軍事力と階級制度によって統治される巨大国家だ。
その首都「ヴァルハラ」は、巨大な城塞都市であり、重厚な石造りの建築物が空にそびえ立ち、威圧的な雰囲気を放っている。市民は皇帝を神の如く崇拝し、皇帝の言葉こそが絶対の正義とされている。
この国は、「力こそが正義」という思想を徹底している。
それは、市民の生活の隅々にまで浸透しており、街の至る所で、人々は自身の強さを誇示している。幻晶機のパイロットは特に英雄視され、貴族階級に匹敵する特権が与えられている。
ヴァルキリーも、その卓越した才能と、シャドウ・ヴァルキリーのパイロットとしての功績により、若くして少佐の地位を与えられ、帝国内では「英雄」として崇められている。その結果、彼女は国の名を関することになった。
しかし、その輝かしい外面の裏では、腐敗と非情な現実が進行していた。
帝国軍の部隊は、自由同盟軍を「弱肉強食の摂理から外れた愚かな存在」と蔑み、戦闘では必要以上の破壊と殺戮を行うことも少なくない。
ヴァルキリーも、最初はその非情な戦い方に疑問を抱いていたが、故郷を救うというファントムとの取引と、戦場で生き残るためには非情にならざるを得ないという現実から、次第にその考えを受け入れていった。
帝国内では、皇帝派と貴族派の対立が激化している。
皇帝派は軍事力による強硬な世界征服を唱えているのに対し、貴族派は、外交と経済力を駆使した穏健な統治を主張している。
この対立は、軍内部にも影響を及ぼし、互いに足を引っ張り合うことも少なくない。
ヴァルキリーは、皇帝直属のパイロットとして、この派閥争いとは一線を画していたが、彼女の行動が、いずれこの対立を決定的なものにしていくことになることは、彼女も予期できていなかった。
帝国の教育機関である士官学校も、徹底した実力主義だ。
若きパイロットたちは、幼い頃から、厳しい訓練と競争にさらされ、「生き残るため」の非情な戦術を叩き込まれる。
ヴァルキリーも、この士官学校で、徹底した戦闘技術と、帝国の思想を教え込まれた。彼女の冷徹な戦闘スタイルは、この教育の賜物だと言える。
街の風景も、その思想を反映している。
壮麗な建造物が立ち並ぶ一方で、貧しい市民が暮らすスラム街も存在する。
そこでは、力を持たない人々が、権力者から搾取され、貧困に苦しんでいる。ヴァルキリーは、任務の合間に、街を歩き、その光景を何度も見てきた。
彼女は、力を持たない人々の絶望的な瞳と、その瞳の奥に宿るかすかな希望を、見て見ぬふりをすることができなかった。
彼女は、帝国の「力こそが正義」という思想が、決して全ての人々を救うものではないことを、肌で感じていた。それでも、故郷を救うという目的のために、彼女は自分自身を殺し、帝国の思想に従い続けてきた。
しかし、アビスの真の目的を知った今、彼女の心は、激しく揺れ動いていた。
彼女が信じてきた「正義」は、果たして本当に正しかったのだろうか。
◇◆◇◆◇
ヴァルキリーは、帝国軍の最前線にいた。
眼下には、火薬と土煙が舞い上がる戦場が広がっていた。ここは、自由同盟最大の軍事拠点であり、「難攻不落の城塞」として知られるリンドブルム要塞だ。ヴァルキリーは、この要塞の防御力に舌を巻いていた。
城塞を巡る攻防は激化し、轟く砲撃音と、幻晶機が放つ魔力弾の閃光が、辺りを埋め尽くしている。
彼女の銀髪のショートカットは、ヘルメットの中でわずかに揺れ、その鋭い眼光は、ディスプレイに映し出される戦場の情報を冷徹に分析していた。
彼女の操るシャドウ・ヴァルキリーは、他の幻晶機とは一線を画す威容を誇っていた。漆黒の装甲に身を包んだその機体は、雷光を纏い、敵機を一瞬で葬り去る。
彼女の一撃一撃は、ヴァルキリー帝国の掲げる「力こそが正義」という思想を具現化したかのようだった。
「シャドウ・ヴァルキリー、目標、敵主力部隊の殲滅。一切の躊躇は無用」
彼女の冷徹な声が、通信を介して部隊全体に響き渡る。
部下のパイロットたちが、その命令に戸惑いながらも応じる。
「しかし、ヴァルキリー少佐…!敵も友軍も、入り乱れています!このままでは、巻き添えが…!」
その声に、ヴァルキリーは眉一つ動かさず答える。
「巻き添えを恐れては、勝利は得られぬ。この世界で生き残るには、より強大な力を持つ者が、他の全てを支配しなければならない」
彼女の脳裏に、数日前の記憶が鮮明に蘇る。
「この戦場は、あの時と同じ…」
彼女は自らの操縦する機体へ語りかける。
「あの時、純白の幻晶機が、この戦場に現れた…」
その機体の異質な操縦技術と、敵を無力化するだけの戦い方。
そして、あの戦場に突如現れた謎の黒い幻晶機。
「あの幻晶機が放っていた、歪んだマナの波動。あれは…アビスの仕業か…?」
ヴァルキリーの心に、初めて戸惑いが生まれる。
「…私は、一体、何のために…」
その時、彼女の通信に、一人の男の声が届いた。
それは、アビスのもう一人の幹部、ファントムだった。
ヴァルキリーの故郷も、終わりのない戦火に包まれた世界だった。
彼女が暮らしていたのは、科学技術が極限まで発展し、人類が「幻晶機」によく似た巨大な兵器で、互いを破壊し合う時代だった。
幼いヴァルキリーは、妹と共に、防空壕の中で身を潜めていた。外から聞こえるのは、耳を劈くような爆音と、建物の崩れる音、そして人々の悲鳴だけだった。
「お姉ちゃん…怖いよ…」
幼い妹が、震える声でヴァルキリーの腕にしがみつく。
「大丈夫、大丈夫よ。私が、きっと守ってあげるから…」
ヴァルキリーは、そう言いながら、自分も震えているのを感じた。
その時、防空壕の入り口に、巨大な爆炎が襲いかかった。
彼女たちの視界は一瞬で白く染まり、次に目を開けたときには、故郷の光景はどこにもなく、瓦礫と見知らぬ世界の空が広がっていた。妹の姿もどこにもない。
瓦礫の中に横たわり、呆然と空を見上げていたヴァルキリー。
「なぜ…なぜ、こんな…!」
彼女の絶望的な叫びは、戦場の喧騒にかき消された。
その時、一人の男が瓦礫の中から現れた。
その男、ファントムは、彼女の故郷の悲劇を、まるで予言していたかのように語った。
「愚かな人間は、与えられた力に酔いしれ、やがて自らを滅ぼす。この世界も、いずれそうなるだろう」
ファントムは、瓦礫の山に横たわるヴァルキリーに手を差し伸べた。
「私と共に来い。この世界で、お前の故郷を再構築する力…、そして、お前を故郷へ帰す方法を見つけてやろう」
ヴァルキリーは、故郷を救うという願いを叶えるため、ファントムに全てを委ねた。
ファントムは、彼女を「力こそが正義」とするヴァルキリー帝国へと導いた。
それは、10年前のことだった。
彼女は、帝国の教えを盲信した。
力を手に入れれば、故郷を救える。
力を手に入れれば、大切な人々を失わずに済む。
力を手に入れれば、この世界の戦いを終わらせられる。
そう、信じていた。