第33話 ノワール、異世界での目覚めと指令 -3
ー/ーそして、彼女は戦場にいた
数日後、ノワールは支援部隊の一員として、竜騎士中隊の幻晶機に物資を補給するため、飛空艇に搭乗し、戦場へと向かった。
そこは、想像を絶する地獄だった。
上空から見下ろす大地は、巨大な幻晶機の残骸で埋め尽くされていた。炎と硝煙が空を覆い、血と油の匂いが、風に乗って飛空艇の窓から吹き込んできた。
ノワールは、その光景を呆然と見つめていた。
「これが…戦争…」
カオスが語った「愚かな争い」が、現実の姿となって、彼女の目の前に広がっていた。
その時、操舵室から、太鼓腹で陽気な笑顔の男、飛空艇部隊の隊長ニック・クラークが、ノワールに声をかけた。
「おい、新入り。初めての戦場か? こんなもん、慣れるもんじゃねぇぜ」
ノワールは、ニックの言葉に、カオスの言葉とは異なる重みを感じた。
「…あなたたちは、なぜ、こんな場所で…」
ノワールは、思わず尋ねた。
ニックは、飛空艇の操舵桿を握りながら、静かに答えた。
「なぜ、か。理由は人それぞれだ。家族のため、故郷のため、仲間のため…。だが、俺たちは、この戦場で戦う連中の命を繋ぐ役目だ。一瞬の油断が、仲間の命を奪うことにもなる」
ニックはそう言うと、ノワールを一瞥した。
彼の瞳は、陽気な笑顔の奥に、戦場の現実を熟知している者特有の、厳しさと疲労が入り混じっていた。
「それに、俺の相棒のエラは、まだ若い。だが、彼女は、この戦場の目を務めている。彼女の判断一つで、多くの命が救われる。俺は、その判断が、間違いではなかったと、彼女に思わせてやりたいんだ」
ニックの言葉は、ノワールの心に深く響いた。
カオスは、「力こそが全て」と語った。
しかし、ニックの言葉は、力だけでは守れないものがあることを示唆していた。
それは、仲間への信頼、そして、未来への希望。
ノワールは、ニックと、そして、彼が守ろうとしている人々の姿に、カオスが語った「愚かさ」とは異なる、「人間らしさ」を見出した。
ノワールが、静かにその光景を見つめていると、彼女の耳に、ごく微かな、しかし明瞭な通信が聞こえてきた。それは、飛空艇の正規通信ではない、闇の魔力を纏った通信だ。
「――こちら、ファントム。クロノス・タイプMの投入を開始する。目標、敵主力部隊の殲滅と、幻晶のコアのデータ収集。一切の躊躇は無用だ」
冷徹で、感情のない声。ノワールは、その声がアビスの幹部、ファントムのものであることを即座に理解した。
ノワールが窓の外に目を凝らすと、遠くの空に、黒い雨が降るように、漆黒の幻晶機が次々と舞い降りていくのが見えた。
「クロノス…タイプM…」
彼女は、それがカオスが語っていた「愚かな幻晶機」の真の姿であることに気づいた。その機体は、まるで感情を持たない機械のように、ただひたすら、無差別に攻撃を仕掛けていく。帝国の幻晶機を、自由同盟の幻晶機を、そして、生身の兵士たちを、容赦なく蹂躙していく。
その光景は、カオスが語った「世界の再構築」とは、全く異なるものだった。そこにあるのは、ただの破壊と、殺戮だけだ。
ノワールの心に、激しい動揺が走る。
カオスは、この世界の「愚かさ」を嘲笑した。
だが、アビスの行動は、その「愚かさ」をさらに加速させるものだった。
そして、その地獄の中心で、ユウキは戦っていた。
ユウキの操るアストレイアは、魔導剣を振りかざし、敵の幻晶機を無力化していく。彼の戦闘スタイルは、敵パイロットを殺さず、機体の腕や脚を破壊して活動不能に追い込むというものだった。
その戦い方は、カオスが語った「幻晶機は愚かな兵器」という言葉とは、全く異なるものだった。
ユウキは、幻晶機を、ただの「兵器」としてではなく、大切な「仲間」として扱っているように見えた。彼は、この世界の争いを終わらせるために、必死に戦っている。
ノワールの心は、激しく揺れ動いた。
カオスは、ユウキを「ただの実験台」と嘲笑した。
しかし、ユウキは、自分と同じように故郷を失った悲劇を背負いながらも、この世界を救うために戦っている。
「故郷を…再構築する…」
ノワールは、心の中で呟いた。
彼女の目的は、故郷を救うこと。
だが、その目的のために、この世界の人々を犠牲にしていいのだろうか?
ノワールは、アビスの「駒」として、この世界を裏切るのか。
それとも、ユウキと共に、新たな道を探すのか。
彼女の心は、今、岐路に立たされていた。
ノワールが輸送機の窓から見つめる先では、ユウキの乗るアストレイアが、まるで戦場の中心を舞う蝶のように、敵機の攻撃を華麗に躱していた。
彼の動きは、カオスから与えられた情報にはない、予測不能なものだった。アビスが持つ、幻晶機を動かすための「プロトコル」とは全く異質な、人間的な「感覚」で動いている。
「あの動き…」
ノワールは、アビスのデータベースで見た幻晶機の戦闘データと、ユウキの動きを比較した。アビスの幻晶機は、無駄な動きを徹底的に排除し、最短距離で敵を破壊するようにプログラムされている。
しかし、ユウキは、時には危険なほどに大胆な動きで敵機を翻弄し、時には、まるで迷っているかのように、一瞬だけ動きを止める。
その一瞬の迷いこそが、ノワールの心を惹きつけた。
ユウキは、幻晶機を、ただの機械としてではなく、生きている存在として扱っているように見えた。
彼の戦い方には、彼の心が宿っている。
「どうして…」
ノワールの脳裏に、カオスの言葉が蘇る。
『幻晶機は、世界を滅ぼすための愚かな兵器だ。人間は、その愚かな兵器を使い、互いに争い、自滅を繰り返す。』
だが、ユウキは、幻晶機を使いながら、誰も殺そうとはしていない。
彼の戦い方は、相手の命を奪うことではなく、相手を「無力化」することだった。
彼の戦い方には、カオスが語った「破壊」とは異なる、「生かす」という意志が宿っていた。
ユウキの戦いを見つめるうちに、ノワールの脳裏に、断片的な故郷の記憶が蘇ってきた。
それは、故郷が「闇」に飲み込まれる、凄惨な光景だった。
故郷の人々は、互いに争い、憎しみ合い、そして、幻晶機のような巨大な兵器で、互いを破壊し合っていた。
故郷は、自らの手で、自らを滅ぼしたのだ。
ノワールは、故郷の悲劇の原因が、「幻晶機」という兵器そのものにあると、カオスに教えられていた。
『幻晶機は、人間を愚かにする。力を与えられた人間は、その力に酔いしれ、やがて互いを滅ぼす』
ノワールは、その言葉を信じていた。
故郷を救うためには、幻晶機という愚かな兵器を排除し、世界を「再構築」しなければならないと。
しかし、今、彼女の目の前には、幻晶機を使いながら、誰も殺そうとしない少年がいた。
ユウキの操るアストレイアは、傷ついた敵機を破壊することなく、ただ活動不能に追い込んでいるだけだった。
それは、まるで、故郷の悲劇を繰り返させないという、彼の強い意志の表れのようだった。
ノワールは、ユウキの戦い方に、カオスが語った「真実」とは異なる、この世界の「希望」を見出した。
アストレイアの純白の装甲は、戦場の硝煙と血に汚れても、その光を失っていなかった。
その光は、まるで、故郷の悲劇を乗り越え、この世界で新たな希望を見出そうとする、ユウキの心の輝きのようだった。
ノワールは、飛空艇の窓ガラスに、そっと手を触れた。
その冷たい感触は、彼女の心の動揺を鎮めていく。
カオスは、自分を「駒」と呼んだ。
しかし、ノワールは、もはや「駒」ではなかった。
彼女は、アビスの指令に従い、この世界を裏切るのか。
それとも、ユウキと共に、カオスの企みを阻止するのか。
彼女の心は、今、岐路に立たされていた。
ノワールは、静かに目を閉じた。
彼女の故郷は、幻晶機という「愚かな兵器」によって滅んだ。
しかし、この世界では、幻晶機は、誰かの命を守るために戦っている。
ノワールは、故郷を失った悲劇を乗り越えるために、この世界で、新たな「希望」を見つけなければならない。
彼女の心は、カオスの指令と、ユウキの戦い方の間で、引き裂かれ続けていた。
ノワールは、静かに、しかし強く、心の中で呟いた。
「故郷を救うために…私は、この世界を…」
彼女の瞳が、再び開かれる。
その瞳には、故郷への想いと、ユウキへの複雑な感情が入り混じっていた。
ノワールは、アビスの「駒」として、この世界を裏切るのか。
それとも、ユウキと共に、新たな道を探すのか。
彼女の心は、今、岐路に立たされていた。
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そして、彼女は戦場にいた
数日後、ノワールは支援部隊の一員として、竜騎士中隊の幻晶機に物資を補給するため、飛空艇に搭乗し、戦場へと向かった。
そこは、想像を絶する地獄だった。
上空から見下ろす大地は、巨大な幻晶機の残骸で埋め尽くされていた。炎と硝煙が空を覆い、血と油の匂いが、風に乗って飛空艇の窓から吹き込んできた。
ノワールは、その光景を呆然と見つめていた。
「これが…戦争…」
カオスが語った「愚かな争い」が、現実の姿となって、彼女の目の前に広がっていた。
その時、操舵室から、太鼓腹で陽気な笑顔の男、飛空艇部隊の隊長ニック・クラークが、ノワールに声をかけた。
「おい、新入り。初めての戦場か? こんなもん、慣れるもんじゃねぇぜ」
ノワールは、ニックの言葉に、カオスの言葉とは異なる重みを感じた。
「…あなたたちは、なぜ、こんな場所で…」
ノワールは、思わず尋ねた。
ニックは、飛空艇の操舵桿を握りながら、静かに答えた。
「なぜ、か。理由は人それぞれだ。家族のため、故郷のため、仲間のため…。だが、俺たちは、この戦場で戦う連中の命を繋ぐ役目だ。一瞬の油断が、仲間の命を奪うことにもなる」
ニックはそう言うと、ノワールを一瞥した。
彼の瞳は、陽気な笑顔の奥に、戦場の現実を熟知している者特有の、厳しさと疲労が入り混じっていた。
「それに、俺の相棒のエラは、まだ若い。だが、彼女は、この戦場の目を務めている。彼女の判断一つで、多くの命が救われる。俺は、その判断が、間違いではなかったと、彼女に思わせてやりたいんだ」
ニックの言葉は、ノワールの心に深く響いた。
カオスは、「力こそが全て」と語った。
しかし、ニックの言葉は、力だけでは守れないものがあることを示唆していた。
それは、仲間への信頼、そして、未来への希望。
ノワールは、ニックと、そして、彼が守ろうとしている人々の姿に、カオスが語った「愚かさ」とは異なる、「人間らしさ」を見出した。
ノワールが、静かにその光景を見つめていると、彼女の耳に、ごく微かな、しかし明瞭な通信が聞こえてきた。それは、飛空艇の正規通信ではない、闇の魔力を纏った通信だ。
「――こちら、ファントム。クロノス・タイプMの投入を開始する。目標、敵主力部隊の殲滅と、幻晶のコアのデータ収集。一切の躊躇は無用だ」
冷徹で、感情のない声。ノワールは、その声がアビスの幹部、ファントムのものであることを即座に理解した。
ノワールが窓の外に目を凝らすと、遠くの空に、黒い雨が降るように、漆黒の幻晶機が次々と舞い降りていくのが見えた。
「クロノス…タイプM…」
彼女は、それがカオスが語っていた「愚かな幻晶機」の真の姿であることに気づいた。その機体は、まるで感情を持たない機械のように、ただひたすら、無差別に攻撃を仕掛けていく。帝国の幻晶機を、自由同盟の幻晶機を、そして、生身の兵士たちを、容赦なく蹂躙していく。
その光景は、カオスが語った「世界の再構築」とは、全く異なるものだった。そこにあるのは、ただの破壊と、殺戮だけだ。
ノワールの心に、激しい動揺が走る。
カオスは、この世界の「愚かさ」を嘲笑した。
だが、アビスの行動は、その「愚かさ」をさらに加速させるものだった。
そして、その地獄の中心で、ユウキは戦っていた。
ユウキの操るアストレイアは、魔導剣を振りかざし、敵の幻晶機を無力化していく。彼の戦闘スタイルは、敵パイロットを殺さず、機体の腕や脚を破壊して活動不能に追い込むというものだった。
その戦い方は、カオスが語った「幻晶機は愚かな兵器」という言葉とは、全く異なるものだった。
ユウキは、幻晶機を、ただの「兵器」としてではなく、大切な「仲間」として扱っているように見えた。彼は、この世界の争いを終わらせるために、必死に戦っている。
ノワールの心は、激しく揺れ動いた。
カオスは、ユウキを「ただの実験台」と嘲笑した。
しかし、ユウキは、自分と同じように故郷を失った悲劇を背負いながらも、この世界を救うために戦っている。
「故郷を…再構築する…」
ノワールは、心の中で呟いた。
彼女の目的は、故郷を救うこと。
だが、その目的のために、この世界の人々を犠牲にしていいのだろうか?
ノワールは、アビスの「駒」として、この世界を裏切るのか。
それとも、ユウキと共に、新たな道を探すのか。
彼女の心は、今、岐路に立たされていた。
ノワールが輸送機の窓から見つめる先では、ユウキの乗るアストレイアが、まるで戦場の中心を舞う蝶のように、敵機の攻撃を華麗に躱していた。
彼の動きは、カオスから与えられた情報にはない、予測不能なものだった。アビスが持つ、幻晶機を動かすための「プロトコル」とは全く異質な、人間的な「感覚」で動いている。
「あの動き…」
ノワールは、アビスのデータベースで見た幻晶機の戦闘データと、ユウキの動きを比較した。アビスの幻晶機は、無駄な動きを徹底的に排除し、最短距離で敵を破壊するようにプログラムされている。
しかし、ユウキは、時には危険なほどに大胆な動きで敵機を翻弄し、時には、まるで迷っているかのように、一瞬だけ動きを止める。
その一瞬の迷いこそが、ノワールの心を惹きつけた。
ユウキは、幻晶機を、ただの機械としてではなく、生きている存在として扱っているように見えた。
彼の戦い方には、彼の心が宿っている。
「どうして…」
ノワールの脳裏に、カオスの言葉が蘇る。
『幻晶機は、世界を滅ぼすための愚かな兵器だ。人間は、その愚かな兵器を使い、互いに争い、自滅を繰り返す。』
だが、ユウキは、幻晶機を使いながら、誰も殺そうとはしていない。
彼の戦い方は、相手の命を奪うことではなく、相手を「無力化」することだった。
彼の戦い方には、カオスが語った「破壊」とは異なる、「生かす」という意志が宿っていた。
ユウキの戦いを見つめるうちに、ノワールの脳裏に、断片的な故郷の記憶が蘇ってきた。
それは、故郷が「闇」に飲み込まれる、凄惨な光景だった。
故郷の人々は、互いに争い、憎しみ合い、そして、幻晶機のような巨大な兵器で、互いを破壊し合っていた。
故郷は、自らの手で、自らを滅ぼしたのだ。
ノワールは、故郷の悲劇の原因が、「幻晶機」という兵器そのものにあると、カオスに教えられていた。
『幻晶機は、人間を愚かにする。力を与えられた人間は、その力に酔いしれ、やがて互いを滅ぼす』
ノワールは、その言葉を信じていた。
故郷を救うためには、幻晶機という愚かな兵器を排除し、世界を「再構築」しなければならないと。
しかし、今、彼女の目の前には、幻晶機を使いながら、誰も殺そうとしない少年がいた。
ユウキの操るアストレイアは、傷ついた敵機を破壊することなく、ただ活動不能に追い込んでいるだけだった。
それは、まるで、故郷の悲劇を繰り返させないという、彼の強い意志の表れのようだった。
ノワールは、ユウキの戦い方に、カオスが語った「真実」とは異なる、この世界の「希望」を見出した。
アストレイアの純白の装甲は、戦場の硝煙と血に汚れても、その光を失っていなかった。
その光は、まるで、故郷の悲劇を乗り越え、この世界で新たな希望を見出そうとする、ユウキの心の輝きのようだった。
ノワールは、飛空艇の窓ガラスに、そっと手を触れた。
その冷たい感触は、彼女の心の動揺を鎮めていく。
カオスは、自分を「駒」と呼んだ。
しかし、ノワールは、もはや「駒」ではなかった。
彼女は、アビスの指令に従い、この世界を裏切るのか。
それとも、ユウキと共に、カオスの企みを阻止するのか。
彼女の心は、今、岐路に立たされていた。
ノワールは、静かに目を閉じた。
彼女の故郷は、幻晶機という「愚かな兵器」によって滅んだ。
しかし、この世界では、幻晶機は、誰かの命を守るために戦っている。
ノワールは、故郷を失った悲劇を乗り越えるために、この世界で、新たな「希望」を見つけなければならない。
彼女の心は、カオスの指令と、ユウキの戦い方の間で、引き裂かれ続けていた。
ノワールは、静かに、しかし強く、心の中で呟いた。
「故郷を救うために…私は、この世界を…」
彼女の瞳が、再び開かれる。
その瞳には、故郷への想いと、ユウキへの複雑な感情が入り混じっていた。
ノワールは、アビスの「駒」として、この世界を裏切るのか。
それとも、ユウキと共に、新たな道を探すのか。
彼女の心は、今、岐路に立たされていた。