第26話 アークライトへの到着と中隊の再集結 -3
ー/ーアークライトでの日常が続く中、自由同盟内部で、ヴァルキリー帝国との戦闘報告や情報収集の中で、いくつかの「不自然な点」が指摘され始めた。
マリア少佐の執務室。マリアはエリナとルナ、そして情報部の担当者から報告を受けていた。
「特定の地域での魔獣の異常な凶暴化、両勢力間の誤解を招くような情報の錯綜……。これまでのヴァルキリー帝国との小競り合いとは、明らかに様相が異なっています」
情報部の担当者が、モニターに表示されたデータを指し示す。
「はい。私の索敵データにも、不自然なマナ反応が観測されています。まるで、誰かが意図的に混乱を引き起こしているかのように……」
ルナも難しい顔で頷く。
マリアは腕を組み、深く考え込んでいた。
「やはり……。この背後には、まだ見えない何かが潜んでいるのかもしれないわね」
エリナも険しい表情で言った。
「総指揮官。もし、これが第三勢力の暗躍だとしたら、我々は新たな脅威に直面することになります」
その頃、ユウキは基地の食堂で、兵士たちの会話に耳を傾けていた。
「なあ、聞いたか?近いうちに、大規模な作戦が決行されるらしいぜ」
「ああ、俺も聞いた。ヴァルキリー帝国への、決定的な打撃を与えるためのものだって話だ」
「ついに本気か……。俺たちも、最前線に投入されるって噂だぜ」
「頼むから、今回こそは、一気にケリをつけてほしいもんだな」
兵士たちの声には、期待と、そして拭いきれない不安が滲んでいた。
ユウキは、彼らの会話に耳を傾けながら、以前交易都市で出会った謎の商人、グレイ・シャドーの言葉を思い出していた。
「その『コア』の力』を、安易に信じてはなりませんぞ」
ユウキは、グレイ・シャドーの言葉と、兵士たちの噂話が、まるで点と線で繋がっていくような感覚を覚えた。この戦争が、単なる国家間の争いではない可能性。
そして、その裏で、何か巨大なものが蠢いている予感。彼は、この世界の真実を知る必要性を、強く感じ始めていた。
アークライトでの新たな生活は、ユウキに多くのことを学ばせ、彼の心を成長させていく。しかし、同時に、見えない敵の影が、確実に彼らの世界に忍び寄っていた。
◇◆◇◆◇
アークライトでの生活にも慣れてきた頃、ユウキはリア、ザラ、ルナ、ソフィアと共に、基地内の資材置き場へと来ていた。
ルナとソフィアは、部隊の備品リストをエラと共に確認している。ユウキとリア、ザラは、その間、周囲の様子を興味深げに眺めていた。
「ユウキさん、リアさん、ザラさん、ルナ、ソフィア。こっちです。基地への補給物資の最終確認をしますから」
エラが手元の端末を操作しながら、皆に声をかけた。活気あふれる資材置き場は、兵士や商人、整備士が行き交い、独特の喧騒に包まれている。
その時、ユウキの視界の端に、ひときわ異質な存在が映った。常にフードを深く被り、顔の全体を見せない小柄な男。以前、交易都市で一度だけ遭遇した、あの謎の商人だ。
彼は露店の片隅で、怪しげな光を放つ魔力結晶を品定めしているようだった。その周囲には、どこか不穏な空気が漂っている。
「あれ……グレイ・シャドーさん、ですよね?」
ユウキは思わず声を上げた。リアもユウキの視線の先を追うと、小さく息を呑んだ。
「裏社会の商人……こんな場所で、何をしているのかしら?」
リアは警戒するように呟いた。
ザラは腕組みをし、グレイ・シャドーに警戒の視線を向けた。
「胡散臭い奴だな。リア、近づくな」
グレイ・シャドーは、周囲の喧騒とは隔絶されたかのように、静かに佇んでいた。彼の指先が、魔力結晶に触れるたび、微かな紫色の光が瞬く。その光は、どこか不穏な気配を纏っているようにユウキには感じられた。
その瞬間、グレイ・シャドーがふいに顔を上げ、フードの奥からユウキたちの方へ視線を向けた。まるで、こちらの存在に気づいていたかのように。彼の口元が、わずかに歪んだように見えた。それは笑みなのか、それとも……。
「おやおや、これはこれは。竜騎士中隊の皆さまではございませんか。若きエース殿、伝説の機竜の管制士殿、そして優秀な斥候殿、それに……」
グレイ・シャドーの声は、どこか胡散臭く、しかし妙に耳に残る響きがあった。彼はゆっくりとユウキたちの方へ歩み寄ってくる。
「おや、そちらのお二方は、以前どこかでお見かけしましたかな?竜騎士中隊の華やかなる翼と、冷静なる瞳……ふふふ」
グレイ・シャドーはルナとソフィアに視線を向けた。
ルナはクスッと笑い、少しからかうような口調で言った。
「あら、私たちのことまでご存知なの?随分と情報通なのね、グレイ・シャドーさん」
ソフィアは警戒を緩めず、冷たい視線でグレイ・シャドーを見つめた。
「我々の情報まで知っているとは……。一体、何が目的かしら」
「目的、ですか。私はただ、この世界の『流れ』を見ているだけですよ。そして、その流れに乗るべき者には、必要な『情報』を提供する。それが私の商売ですからな」
グレイ・シャドーはそう言うと、ちらりとユウキの背後に立つアストレイアの格納庫の方を見た。その視線には、アストレイアの持つ力への、並々ならぬ関心が宿っているようだった。
「特に、伝説の機竜が動き出したとなれば、市場も活気づくというもの。しかし、その力は、使い方次第で世界を救うことも、滅ぼすこともできる。……くれぐれも、その『コア』の力を、安易に信じてはなりませんぞ」
彼の言葉は、以前よりも具体的で、ユウキの心に深く突き刺さる。
その存在が、より明確な形を帯びて、ユウキの脳裏に浮かび上がった。
「最近、このアークライトでも、奇妙な噂が飛び交っているでしょう?魔獣の異常な凶暴化、そして、見たことのない黒い幻晶機の出現……。それらは全て、一つの『力』が動き出した証拠です」
グレイ・シャドーは、ユウキの顔をじっと見つめた。
「その『力』は、世界の均衡を崩し、新たな混沌を生み出そうとしている。そして、その目的は、各国の伝説機に宿る『コア』の力を全て吸収し、究極の力を完成させること……」
「あなた……その存在について、何か知っているんですか!?」
ユウキが問い詰めようとした時、グレイ・シャドーはすでに踵を返し、人混みの中へと消えていった。その姿は、まるで幻のようにあっという間に見えなくなった。
「何だったんだ、今のは……」
ユウキは呆然と呟いた。
エラは腕を組み、グレイ・シャドーが消えた方向をじっと見つめていた。
「あの男……相変わらず、何を考えているのか読めないわ。でも、『コアの力』……やはり、アストレイアの存在が、裏で動いている連中を刺激しているのは間違いないわね」
リアもグレイ・シャドーが消えた方向をじっと見つめていた。
「あの人……何か、知っているのね。幻晶のコアが狙われているなんて……」
ソフィアは静かに言った。
「黒い幻晶機……私も報告は受けているわ。通常の帝国軍の機体とは異なる動きだと。これは、単なる戦争ではないのかもしれない」
ルナが腕を組み、難しい顔で頷く。
「まさか、本当にそんな『裏の存在』が……。ゾッとするわね」
ザラは冷ややかな視線で皆を見回す。
「どのみち、リアに危険が及ぶなら、叩き潰すまでだ」
ユウキの心に、漠然とした不安が募る。グレイ・シャドーの言葉は、この戦争が単なる国家間の争いではない、より深い闇が潜んでいることを改めて示唆していた。彼は、この世界の真実を知る必要性を、強く感じ始めていた。
アークライトでの新たな生活は、ユウキに多くのことを学ばせ、彼の心を成長させていた。
一方、ディオンとの厳しい訓練、仲間たちとの絆、そしてグレイ・シャドーからの不穏な情報。全てが、ユウキをこの世界の中心へと引きずり込んでいくのだった。
見えない敵の影が、確実に彼らの世界に忍び寄っている。
そして、ユウキは、この戦争の真の姿を知るために、さらに深く足を踏み入れることになるのだった。
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