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第18話 アストレイア、旅立ちの時 -1

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デブリーフィングを終え、ラルフとロイドがアストレイアの損傷状況を診断するために到着した。

彼らは自由都市アークライトから派遣されてきた、自由同盟でも指折りのベテラン整備士だ。ラルフは白髪交じりのぼさぼさの髪に眼帯をしており、常に煙草を燻らせている。ロイドは彼の弟子で、大柄でがっしりとした体格が特徴的だった。

二人は無言でアストレイアの機体を検分し、焦げ付いた装甲や、魔力回路の融解痕に目を凝らした。ラルフが煙草を一口吸い込み、深く息を吐き出す。

「こりゃあ、ひどいな。伝説の機竜とはいえ、ヴァルキリーの雷撃は伊達じゃねぇ。機体各所の魔力回路が焼損してる。応急処置はしたが、この前線基地の設備じゃ、本格的な修理は無理だ」

ラルフが頭を掻きながら言った。ロイドも無言で頷いている。彼らの表情からは、アストレイアの損傷が予想以上であることが読み取れた。ユウキとリアもその言葉に息を呑む。

「より大規模な設備を持つ、自由都市アークライトの工房へ移動させる必要がある」

ラルフの報告に、ユウキはアストレイアの損傷を改めて実感した。魔竜との戦いでは夢中だったが、あの激戦がアストレイアに与えた負荷は想像以上だったのだろう。

白い機体に刻まれた痛々しい傷跡が、ヴァルキリーの圧倒的な力をまざまざと見せつけているようだった。


ラルフとロイドの診断を受け、エリナはマリア少佐へ直ちに連絡を取った。

緊迫した声でのやり取りの末、アストレイアの自由都市アークライトへの移送が決定される。それは、この前線基地の設備では、もはや伝説機の修復は不可能だという、重い事実を突きつけるものだった。

やがて、基地の格納庫の大きな扉が軋む音を立てて開き、移動式小型キャリア「タクト」が姿を現した。

それは幻晶機よりも小型ではあったが、それでもかなりの巨体を誇る牽引用の車両だった。

その運転手、フィン・リーヴスは寡黙で、がっしりとした体格から想像される通りの頼もしさを漂わせていた。彼は無言でタクトのエンジンを点検している。

そして、作戦オペレーターのエラ・ブライトは、小柄ながらもきびきびとした動きで、その可愛らしい印象とは裏腹に、鋭い眼差しを機体へと向けていた。

エラが、明るい声で二人を気遣った。

「ユウキさん、リアさん、準備はいいですか?アークライトまでの長旅になりますから」
「はい、エラさん。よろしくお願いします!」

リアがにこやかに答える。


ユウキはタクトの巨大な車体を見上げ、フィンが手際よく連結作業を進めているのを眺めた。連結される大型キャリアの複雑な駆動部を指し、フィンが低い声で説明を始める。

「この部分は、機体の重量を分散させるための特殊な油圧システムだ。慣れないうちは揺れも大きいだろうが、安心しろ。俺がしっかり操縦する」
「へえ……すごいな……」

ユウキは思わず声を漏らした。
ゲームの乗り物とは段違いの複雑さに、彼の探求心がくすぐられる。

エラは手元の端末で何やら複雑なデータを確認している。

「ユウキさんのアストレイア、魔導炉の効率が少し落ちてますね。ヴァルキリーの雷撃、かなり強力だったみたいです。でも、アークライトの工房なら、きっと元の性能に戻せますよ」

ユウキは、エラの言葉に思わず居住まいを正した。
彼女は年上だし、司令室でもきびきびと指示を出していた美人オペレーターだ。
リアとはまた違う、大人の女性という雰囲気に、ユウキは少しだけ緊張を覚える。

「あ、は、はい。そうだと、大変助かります。魔導技術って、本当に、その、すごいですね。僕の世界にはないものなので、すべてが新鮮で……その、えっと……」

ユウキは言葉を探しながら、顔を少し赤らめた。

「アストレイアのコアは、普通の幻晶機とはまるで別物ですからね。リアさんのマナ感知能力と、ユウキさんの操縦が組み合わさって、初めて真の力を発揮できるんです」

エラはにこやかに言った。

ユウキは、これまでゲームの画面越しにしか知らなかった幻晶機の「裏側」に触れ、そのあまりにも精緻で複雑な構造に改めて驚きを覚える。
それは、単なる機械ではなく、まるで生きているかのような繊細さを秘めているようだった。


そこに、ジェイがやってきて、ユウキの肩を軽く叩いた。

「おいおい、召喚者サマ。まさかアークライトまでおんぶに抱っこってわけじゃねぇだろうな?」
「ち、違うって!ちゃんと手伝うよ!」
「冗談だよ。ま、お前とリアちゃんがいなきゃ、アストレイアはただのデカい鉄クズだからな。俺たちがしっかり護送してやるぜ」

ジェイはにやりと笑い、エリナとルナの方へと向かっていった。

エリナがルナに声をかける。

「ルナ、輸送ルートの最終確認を。敵の残党や魔獣の可能性も捨てきれないからな」
「了解です、隊長!完璧なルートを組んでおきますから、ご安心を!」

ルナは元気よく答える。

ザラは少し離れた場所から、ユウキとリア、そしてアストレイアを乗せるための大型キャリアを牽引する準備を眺めていた。彼女は腕組みをしたまま、その鋭い視線で周囲を警戒している。

(まさか、こんなに早くこの谷を離れることになるなんて……。これも、あいつが来たせいか……)

ザラは心の中で毒づきながらも、リアの傍らに立つユウキの背中を、複雑な感情で見つめていた。

リアの側に、この異世界から来た男が当然のように立つ光景に、まだ慣れない自分がいた。




次のエピソードへ進む 第19話 アストレイア、旅立ちの時 -2


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デブリーフィングを終え、ラルフとロイドがアストレイアの損傷状況を診断するために到着した。
彼らは自由都市アークライトから派遣されてきた、自由同盟でも指折りのベテラン整備士だ。ラルフは白髪交じりのぼさぼさの髪に眼帯をしており、常に煙草を燻らせている。ロイドは彼の弟子で、大柄でがっしりとした体格が特徴的だった。
二人は無言でアストレイアの機体を検分し、焦げ付いた装甲や、魔力回路の融解痕に目を凝らした。ラルフが煙草を一口吸い込み、深く息を吐き出す。
「こりゃあ、ひどいな。伝説の機竜とはいえ、ヴァルキリーの雷撃は伊達じゃねぇ。機体各所の魔力回路が焼損してる。応急処置はしたが、この前線基地の設備じゃ、本格的な修理は無理だ」
ラルフが頭を掻きながら言った。ロイドも無言で頷いている。彼らの表情からは、アストレイアの損傷が予想以上であることが読み取れた。ユウキとリアもその言葉に息を呑む。
「より大規模な設備を持つ、自由都市アークライトの工房へ移動させる必要がある」
ラルフの報告に、ユウキはアストレイアの損傷を改めて実感した。魔竜との戦いでは夢中だったが、あの激戦がアストレイアに与えた負荷は想像以上だったのだろう。
白い機体に刻まれた痛々しい傷跡が、ヴァルキリーの圧倒的な力をまざまざと見せつけているようだった。
ラルフとロイドの診断を受け、エリナはマリア少佐へ直ちに連絡を取った。
緊迫した声でのやり取りの末、アストレイアの自由都市アークライトへの移送が決定される。それは、この前線基地の設備では、もはや伝説機の修復は不可能だという、重い事実を突きつけるものだった。
やがて、基地の格納庫の大きな扉が軋む音を立てて開き、移動式小型キャリア「タクト」が姿を現した。
それは幻晶機よりも小型ではあったが、それでもかなりの巨体を誇る牽引用の車両だった。
その運転手、フィン・リーヴスは寡黙で、がっしりとした体格から想像される通りの頼もしさを漂わせていた。彼は無言でタクトのエンジンを点検している。
そして、作戦オペレーターのエラ・ブライトは、小柄ながらもきびきびとした動きで、その可愛らしい印象とは裏腹に、鋭い眼差しを機体へと向けていた。
エラが、明るい声で二人を気遣った。
「ユウキさん、リアさん、準備はいいですか?アークライトまでの長旅になりますから」
「はい、エラさん。よろしくお願いします!」
リアがにこやかに答える。
ユウキはタクトの巨大な車体を見上げ、フィンが手際よく連結作業を進めているのを眺めた。連結される大型キャリアの複雑な駆動部を指し、フィンが低い声で説明を始める。
「この部分は、機体の重量を分散させるための特殊な油圧システムだ。慣れないうちは揺れも大きいだろうが、安心しろ。俺がしっかり操縦する」
「へえ……すごいな……」
ユウキは思わず声を漏らした。
ゲームの乗り物とは段違いの複雑さに、彼の探求心がくすぐられる。
エラは手元の端末で何やら複雑なデータを確認している。
「ユウキさんのアストレイア、魔導炉の効率が少し落ちてますね。ヴァルキリーの雷撃、かなり強力だったみたいです。でも、アークライトの工房なら、きっと元の性能に戻せますよ」
ユウキは、エラの言葉に思わず居住まいを正した。
彼女は年上だし、司令室でもきびきびと指示を出していた美人オペレーターだ。
リアとはまた違う、大人の女性という雰囲気に、ユウキは少しだけ緊張を覚える。
「あ、は、はい。そうだと、大変助かります。魔導技術って、本当に、その、すごいですね。僕の世界にはないものなので、すべてが新鮮で……その、えっと……」
ユウキは言葉を探しながら、顔を少し赤らめた。
「アストレイアのコアは、普通の幻晶機とはまるで別物ですからね。リアさんのマナ感知能力と、ユウキさんの操縦が組み合わさって、初めて真の力を発揮できるんです」
エラはにこやかに言った。
ユウキは、これまでゲームの画面越しにしか知らなかった幻晶機の「裏側」に触れ、そのあまりにも精緻で複雑な構造に改めて驚きを覚える。
それは、単なる機械ではなく、まるで生きているかのような繊細さを秘めているようだった。
そこに、ジェイがやってきて、ユウキの肩を軽く叩いた。
「おいおい、召喚者サマ。まさかアークライトまでおんぶに抱っこってわけじゃねぇだろうな?」
「ち、違うって!ちゃんと手伝うよ!」
「冗談だよ。ま、お前とリアちゃんがいなきゃ、アストレイアはただのデカい鉄クズだからな。俺たちがしっかり護送してやるぜ」
ジェイはにやりと笑い、エリナとルナの方へと向かっていった。
エリナがルナに声をかける。
「ルナ、輸送ルートの最終確認を。敵の残党や魔獣の可能性も捨てきれないからな」
「了解です、隊長!完璧なルートを組んでおきますから、ご安心を!」
ルナは元気よく答える。
ザラは少し離れた場所から、ユウキとリア、そしてアストレイアを乗せるための大型キャリアを牽引する準備を眺めていた。彼女は腕組みをしたまま、その鋭い視線で周囲を警戒している。
(まさか、こんなに早くこの谷を離れることになるなんて……。これも、あいつが来たせいか……)
ザラは心の中で毒づきながらも、リアの傍らに立つユウキの背中を、複雑な感情で見つめていた。
リアの側に、この異世界から来た男が当然のように立つ光景に、まだ慣れない自分がいた。