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ダレカガイル

ー/ー



 ああ。神様、助けて。まさか、こんな事になるなんて……。
 どうしよう。何か手立てはないのか。
 ――そうだ。
 を、今、実行すればいいのでは……。

 *

 秀則(ひでのり)は気づいた。
 誰もいないはずのこの部屋に、自分以外の何者かが隠れている。部屋に入った瞬間、空気や物の位置などに微妙な違和感があった。
「さあ、何を観ようかな」
 秀則は声高に自分の行動を説明する。普段通りの行動を印象づけて、相手を油断させる作戦だ。何処に潜んでいるか判断して、さりげなく近づいて捕獲するつもりだ。
「ユーチューブにするかな。それとも、風呂にするかな」
 おおげさに物音と足音をたて、バスルームに向かう。
 まだ反応はない。おびき出す演技を続ける必要がありそうだ。脱衣所で服を脱ぐ。
 カランの栓を捻り、シャワーヘッドから水を勢いよく出す。
(やつは、動いただろうか?)
 秀則は隠密者をおびき出すためにシャワーを浴びている演技をする。
 耳を澄まして、しばらく待って見たが、移動したような気配を感じなかった。勘違いだったのだろうか。いや、誰かが居るのは間違いないはずだ。
(まだ、同じ場所で身を潜めているのだろう)
 秀則は演技をやめて、シャンプーで頭を本格的に洗い始めた。戦いの前に身を清めてしまおう。
 五分後。清めの儀式が終わり、バスタオルで体を拭く。いつも使っている柔軟剤の香りに包まれた。気が一瞬緩んだが、引き締める。隠れている人物を捕まえなければいけない。
 服を着て、玄関に移動する。玄関ドアのチェーンロックは掛かったままだ。誰も出ていない。
 念のため窓も確認したが、同じく鍵がかかっていた。
(やはり、まだ隠れているな)
 秀則は迷った。炙り出して捕まえるべきかどうか。下手に刺激しないほうがいいのではと考えたが、ここは自分の巣だ。相手を追い出すのが当然だろう。
「出てこないなら、こちらから探すぞ」
 秀則は宣言したのち、寝室に移動する。
「ここか?」
 寝室のクローゼットを覗いた。衣類がかかっているだけで、人らしきものは認識できなかった。
「それとも、ここか?」
 廊下にある掃除用具入れを開けた。ここにも人はいなかった。
「誰なんだよ。出て来いよ」
 彼は叫んだ。
「鈴木か?」
 彼は同僚の名前を叫んだ。
「真木か?」
 今度は高校時代の同級生の名を叫んだ。
「クソッ。あくまで、だんまりなんだな」
 秀則はバスルームに向かった。改めて人がいないか確認するが、何の痕跡もない。
 この時、玄関のチェーンロックが外れていたが、彼は気づかなかった。
「どこなんだよ」
 バスルームを出た刹那、頭に衝撃があった。秀則は棒状の物で殴られていた。
 薄れゆく意識の中で、屈強な男の胸板が確認できた。
 
 *
 
「こいつ、なんなんだよ。気持ち悪い」
 筋肉質で大柄の男が、廊下で倒れている秀則を見ながら言った。
「ありがとう。良太(りょうた)。助かったわ」
 ソバージュ髪の女が、大柄の男に縋りついた。
「突然、こっちに押しかけてよかったよ。事前連絡した時に、まさか『助けて』というメッセージが来るとは思わなかった。、不幸中の幸いだな」
「本当にありがとう」
「さて、この男をなんとかしないとな。優子(ゆうこ)、ロープとかある?」
 良太に聞かれ、優子はかぶりを振った。
「ないか。そりゃそうだよな。しかし、気持ち悪いな、こいつ」
「うん。私の家で、勝手に、私がいない時間帯に自分の家のように振る舞って過ごすなんて」優子は嫌悪感を露わにして、秀則を見つめる。「最悪のストーカーだわ」
「警察に連絡しないとな」 
「でも、警察を呼んで大丈夫?」
「なんで? ストーカーなら警察に渡さないと」
「だって、アレがあるじゃない」
 そう言って、優子は窓際の植物を一瞥した。
「ああ。俺が持ってきた大麻草か」
「そうよ。警察が踏み込んできたら、私たちも逮捕されちゃう」
「しょうがない。じゃあ、俺がこの男をタップリと叱りつけるだけにしとくよ。多少痛い目にあえば、懲りて、二度と現れないだろう」
「うん。それでお願い。ありがとう」
「ところで、俺がここに駆けつけるまで、よく見つからなかったな」
「うん。私、体は柔らかいから、クローゼットの旅行鞄に隠れていた」
「こんな時に、特技が発揮されたわけだ」
 優子と良太は笑った。
 
 ***
 
 **
 
 *
 
 男女はベッドで寝そべっていた。
「ねえ」
 女が甘えた声で聞く。
「もし、私が浮気しているってバレたら、どうする?」
 女の発言に、男の顔は引きつった。
「それは困るな……。君の彼、筋肉隆々だし、強面だし、殺されそう」
「ふうん。私と逃げようって考えはないの?」
 女は毛布の中で男のモノを強く握った。離れたくないという意思表示だ。
「イテテ」男は苦笑する。「君の彼と僕じゃあ、どう考えても勝ち目ないでしょ」
「別れるつもりなの? 私は嫌よ」
 女の問いに、男――秀則は、しばし考えて言う。
「それなら、。証拠は適当に作ればいい」
「いいね。そうしよう」
 女――優子は、蠱惑的に笑った。
 
         了




みんなのリアクション

 ああ。神様、助けて。まさか、こんな事になるなんて……。
 どうしよう。何か手立てはないのか。
 ――そうだ。
 《《あの時に交わした約束》》を、今、実行すればいいのでは……。
 *
 |秀則《ひでのり》は気づいた。
 誰もいないはずのこの部屋に、自分以外の何者かが隠れている。部屋に入った瞬間、空気や物の位置などに微妙な違和感があった。
「さあ、何を観ようかな」
 秀則は声高に自分の行動を説明する。普段通りの行動を印象づけて、相手を油断させる作戦だ。何処に潜んでいるか判断して、さりげなく近づいて捕獲するつもりだ。
「ユーチューブにするかな。それとも、風呂にするかな」
 おおげさに物音と足音をたて、バスルームに向かう。
 まだ反応はない。おびき出す演技を続ける必要がありそうだ。脱衣所で服を脱ぐ。
 カランの栓を捻り、シャワーヘッドから水を勢いよく出す。
(やつは、動いただろうか?)
 秀則は隠密者をおびき出すためにシャワーを浴びている演技をする。
 耳を澄まして、しばらく待って見たが、移動したような気配を感じなかった。勘違いだったのだろうか。いや、誰かが居るのは間違いないはずだ。
(まだ、同じ場所で身を潜めているのだろう)
 秀則は演技をやめて、シャンプーで頭を本格的に洗い始めた。戦いの前に身を清めてしまおう。
 五分後。清めの儀式が終わり、バスタオルで体を拭く。いつも使っている柔軟剤の香りに包まれた。気が一瞬緩んだが、引き締める。隠れている人物を捕まえなければいけない。
 服を着て、玄関に移動する。玄関ドアのチェーンロックは掛かったままだ。誰も出ていない。
 念のため窓も確認したが、同じく鍵がかかっていた。
(やはり、まだ隠れているな)
 秀則は迷った。炙り出して捕まえるべきかどうか。下手に刺激しないほうがいいのではと考えたが、ここは自分の巣だ。相手を追い出すのが当然だろう。
「出てこないなら、こちらから探すぞ」
 秀則は宣言したのち、寝室に移動する。
「ここか?」
 寝室のクローゼットを覗いた。衣類がかかっているだけで、人らしきものは認識できなかった。
「それとも、ここか?」
 廊下にある掃除用具入れを開けた。ここにも人はいなかった。
「誰なんだよ。出て来いよ」
 彼は叫んだ。
「鈴木か?」
 彼は同僚の名前を叫んだ。
「真木か?」
 今度は高校時代の同級生の名を叫んだ。
「クソッ。あくまで、だんまりなんだな」
 秀則はバスルームに向かった。改めて人がいないか確認するが、何の痕跡もない。
 この時、玄関のチェーンロックが外れていたが、彼は気づかなかった。
「どこなんだよ」
 バスルームを出た刹那、頭に衝撃があった。秀則は棒状の物で殴られていた。
 薄れゆく意識の中で、屈強な男の胸板が確認できた。
 *
「こいつ、なんなんだよ。気持ち悪い」
 筋肉質で大柄の男が、廊下で倒れている秀則を見ながら言った。
「ありがとう。|良太《りょうた》。助かったわ」
 ソバージュ髪の女が、大柄の男に縋りついた。
「突然、こっちに押しかけてよかったよ。事前連絡した時に、まさか『助けて』というメッセージが来るとは思わなかった。《《ストーカーと俺の訪問が被るなんて》》、不幸中の幸いだな」
「本当にありがとう」
「さて、この男をなんとかしないとな。|優子《ゆうこ》、ロープとかある?」
 良太に聞かれ、優子はかぶりを振った。
「ないか。そりゃそうだよな。しかし、気持ち悪いな、こいつ」
「うん。私の家で、勝手に、私がいない時間帯に自分の家のように振る舞って過ごすなんて」優子は嫌悪感を露わにして、秀則を見つめる。「最悪のストーカーだわ」
「警察に連絡しないとな」 
「でも、警察を呼んで大丈夫?」
「なんで? ストーカーなら警察に渡さないと」
「だって、アレがあるじゃない」
 そう言って、優子は窓際の植物を一瞥した。
「ああ。俺が持ってきた大麻草か」
「そうよ。警察が踏み込んできたら、私たちも逮捕されちゃう」
「しょうがない。じゃあ、俺がこの男をタップリと叱りつけるだけにしとくよ。多少痛い目にあえば、懲りて、二度と現れないだろう」
「うん。それでお願い。ありがとう」
「ところで、俺がここに駆けつけるまで、よく見つからなかったな」
「うん。私、体は柔らかいから、クローゼットの旅行鞄に隠れていた」
「こんな時に、特技が発揮されたわけだ」
 優子と良太は笑った。
 ***
 **
 *
 男女はベッドで寝そべっていた。
「ねえ」
 女が甘えた声で聞く。
「もし、私が浮気しているってバレたら、どうする?」
 女の発言に、男の顔は引きつった。
「それは困るな……。君の彼、筋肉隆々だし、強面だし、殺されそう」
「ふうん。私と逃げようって考えはないの?」
 女は毛布の中で男のモノを強く握った。離れたくないという意思表示だ。
「イテテ」男は苦笑する。「君の彼と僕じゃあ、どう考えても勝ち目ないでしょ」
「別れるつもりなの? 私は嫌よ」
 女の問いに、男――秀則は、しばし考えて言う。
「それなら、《《僕をストーカーに設定して》》、《《浮気相手ではないと誤魔化そう》》。証拠は適当に作ればいい」
「いいね。そうしよう」
 女――優子は、蠱惑的に笑った。
         了


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