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ひな祭りの憂鬱

ー/ー



私の名前は雛形松利(ひながたまつり)というの。誕生日は三月三日です。
 そう私の誕生日はひな祭りなの。
 ひな祭りってのは女の子のお祭り。健康に育ってほしいという親心によるもの。
 でも私はひな祭りは嫌い。
 だってひな祭りと誕生日を一緒に祝われるから。
 他のクラスメイトなんかはひな祭りと誕生日は別々に祝う。だけど私の家ではひとまとめにして、祝われる。
 まあ十六年も生きていたら、それにもなれたけどね。
 今年の三月三日もお母さんは朝からひな祭りの準備で大忙しだった。
「ほら松利ちゃんもちらし寿司つくるの手伝ってよ」
 お母さんにたのまれたので私はうちわで酢飯をあおぐ。
 一応、私の誕生日ということでお父さんが不二家でケーキをかってきてくれた。
 私の大好きなイチゴのショートケーキだ。
 わかってるじゃない、お父さん。
 思春期になると父親のことが嫌いになるというけど、私はそんなことはなかった。
 お父さんも私のことが大好きなようで、毎日のように雛ちゃん可愛いねと言ってくれる。
 内緒だけど今でもお父さんと一緒にお風呂にはいってるの。
 
 そのイチゴのショートケーキの上にクッキーの板が乗っている。まつりちゃんお誕生日おめでとうとチョコレートで書かれている。
 高校生になってこれは恥ずかしい。まあ、ケーキに罪はないのでいただくけどね。

 ちらし寿司の用意が一段落すると今度はフライドチキンを作る。
 お母さんが粉をまぶしたチキンを私が熱した油にいれる。ぱちぱちと油がはねる音がする。
 キッチンにスパイスの香りが広がる。
 きつね色に揚がったフライドチキンを私は手際よくキッチン用のトレイに並べていく。
 私は料理が好きだ。
 料理はきっちりと作ればちゃんと形に残る。
 数少ない努力が結果に結びつくものだ。
 私は物心つく頃から、こうしてキッチンに立ち、料理を手伝っていた。
「松利ちゃん器用だから将来はコックさんかな」
 お父さんがそういうので、高校を出たら料理の専門学校に行こうかな。あっ栄養士になるために大学で勉強したいという夢もあるな。
 将来のことを考えるにはまだほんの少しだけモラトリアムがあるので、もう少し先延ばしにしてもいいかな。

 ちらし寿司を小さなお茶碗に入れて、私は雛人形にお供えする。田舎のお祖母ちゃんが買ったきれいなお内裏様とお姫様だけのシンプルなものだ。
 ひげのお爺さんの大臣が菅原道真だったかな。
 若い方の大臣が藤原時平だったっけ。
 この二人並べるのまずいんじゃないかなと思うけど、我が家の住宅事情では他に置けないので二人だけだ。

 ひな祭りと誕生日を一緒に祝い、お腹いっぱいご馳走を食べた私は幸せな気分でこの日は眠りについた。
 次の日の放課後、私はバスケ部のキャプテンに呼び出された。
 またかと思い、私は体育館の裏にいく。
「雛形さん、好きです。付き合ってください」
 ストレートな告白を受けた。
 やだ、うれしい。
「いいの私で……」
 私はバスケ部のキャプテンの真っ直ぐな視線を受け止める。
「はい」
 と彼は短く、しかし力強く答える。
「私、男だよ」
 彼はきょとんとした顔をして、しばらく考えていた。
「かわいいから大丈夫です」
 あら、このパターンは初めてだわ。
 今までは男だと分かるとみんな笑ってどっかにいっちゅたんだけどね。
 まあジェンダーフリーだからね。
 それにしても、初めて彼氏ができちゃた♡♡
 私は鞄からひなあられを取り出し、彼氏と一緒にポリポリと食べた。


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私の名前は|雛形松利《ひながたまつり》というの。誕生日は三月三日です。 そう私の誕生日はひな祭りなの。
 ひな祭りってのは女の子のお祭り。健康に育ってほしいという親心によるもの。
 でも私はひな祭りは嫌い。
 だってひな祭りと誕生日を一緒に祝われるから。
 他のクラスメイトなんかはひな祭りと誕生日は別々に祝う。だけど私の家ではひとまとめにして、祝われる。
 まあ十六年も生きていたら、それにもなれたけどね。
 今年の三月三日もお母さんは朝からひな祭りの準備で大忙しだった。
「ほら松利ちゃんもちらし寿司つくるの手伝ってよ」
 お母さんにたのまれたので私はうちわで酢飯をあおぐ。
 一応、私の誕生日ということでお父さんが不二家でケーキをかってきてくれた。
 私の大好きなイチゴのショートケーキだ。
 わかってるじゃない、お父さん。
 思春期になると父親のことが嫌いになるというけど、私はそんなことはなかった。
 お父さんも私のことが大好きなようで、毎日のように雛ちゃん可愛いねと言ってくれる。
 内緒だけど今でもお父さんと一緒にお風呂にはいってるの。
 そのイチゴのショートケーキの上にクッキーの板が乗っている。まつりちゃんお誕生日おめでとうとチョコレートで書かれている。
 高校生になってこれは恥ずかしい。まあ、ケーキに罪はないのでいただくけどね。
 ちらし寿司の用意が一段落すると今度はフライドチキンを作る。
 お母さんが粉をまぶしたチキンを私が熱した油にいれる。ぱちぱちと油がはねる音がする。
 キッチンにスパイスの香りが広がる。
 きつね色に揚がったフライドチキンを私は手際よくキッチン用のトレイに並べていく。
 私は料理が好きだ。
 料理はきっちりと作ればちゃんと形に残る。
 数少ない努力が結果に結びつくものだ。
 私は物心つく頃から、こうしてキッチンに立ち、料理を手伝っていた。
「松利ちゃん器用だから将来はコックさんかな」
 お父さんがそういうので、高校を出たら料理の専門学校に行こうかな。あっ栄養士になるために大学で勉強したいという夢もあるな。
 将来のことを考えるにはまだほんの少しだけモラトリアムがあるので、もう少し先延ばしにしてもいいかな。
 ちらし寿司を小さなお茶碗に入れて、私は雛人形にお供えする。田舎のお祖母ちゃんが買ったきれいなお内裏様とお姫様だけのシンプルなものだ。
 ひげのお爺さんの大臣が菅原道真だったかな。
 若い方の大臣が藤原時平だったっけ。
 この二人並べるのまずいんじゃないかなと思うけど、我が家の住宅事情では他に置けないので二人だけだ。
 ひな祭りと誕生日を一緒に祝い、お腹いっぱいご馳走を食べた私は幸せな気分でこの日は眠りについた。
 次の日の放課後、私はバスケ部のキャプテンに呼び出された。
 またかと思い、私は体育館の裏にいく。
「雛形さん、好きです。付き合ってください」
 ストレートな告白を受けた。
 やだ、うれしい。
「いいの私で……」
 私はバスケ部のキャプテンの真っ直ぐな視線を受け止める。
「はい」
 と彼は短く、しかし力強く答える。
「私、男だよ」
 彼はきょとんとした顔をして、しばらく考えていた。
「かわいいから大丈夫です」
 あら、このパターンは初めてだわ。
 今までは男だと分かるとみんな笑ってどっかにいっちゅたんだけどね。
 まあジェンダーフリーだからね。
 それにしても、初めて彼氏ができちゃた♡♡
 私は鞄からひなあられを取り出し、彼氏と一緒にポリポリと食べた。