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19.千歳の正体と世界の凶兆

ー/ー




 名前の存在しない公安直属の呪術師部隊。
 千歳さんは、その組織の元ナンバー2という立場だった。

「公安からの出向で民間の便利屋に所属している……ということになっている」

「どうしてそんな状況になったんです?」

「…………」

 千歳さんが沈黙する。
 よほど言いづらいことなのだろう。

 僕は、何も言わずに返答を待った。
 室内に響くのは、時計の針が動く音だけ。

 数十秒の間を空けて、千歳さんは真実を語りはじめる。

「私が公安を出た理由は、ティスタ・ラブラドライトが人類に牙を剥いたときに自分の手で始末するためだった」

「始末、というのは……つまり……」

「暗殺だ」

 真実を語る千歳さんの表情は固い。
 
 以前から不思議に感じていた。
 なぜ、魔術師と呪術師が共に仕事をしているのか。
 その理由が「ティセの監視をするため」だったとわかって納得できた。

 でも、それはどうでもいい。
 僕が今聞かなくてはいけないことは――

「確認させてください。千歳さんは、今でもティセを手にかけるつもりがあるんでしょうか」

 僕の言葉を聞いて、千歳さんが静かに首を横に振る。

「いいや、もうそんな気は無い。ティスタは、キミが隣にいるなら大丈夫だと確信しているから」

「僕、ですか……?」

「トーヤ君なら、ティスタが間違った道に進むのを止めてくれるだろうし」

「……はい。それはもちろん」 

 今の千歳さんは、ティセを監視対象とは見ていない。
 
 では、どうして今も僕らと一緒に仕事をしてくれているのか。
 その理由は、とてもシンプルなものだった。

「監視の継続とか、理由なんていくらでも探せばあるんだろうけど……正直に言うと『あの便利屋に居心地の良さを感じてしまったから』だ。これじゃあプロ失格だね、ははは」

 そう言って笑う千歳さんを見て、僕も思わず笑顔がこぼれる。

「私個人は、あくまでも人間と魔族の『中立』でいたいと思っている。人間社会の平和維持ができる限り、魔族の存在を許容できる……ってことだ」

「ありがとうございます。半魔族の僕にとっては、その言葉だけで嬉しいです」

 今の日本は、魔族・魔術師との共存を目指す風潮が強い。
 しかし、それをすべての人間が受け入れているわけではない。
  
 千歳さんのような『中立派』だけではない。

 積極的に異種族受け入れをしようとする『融和派・多文化主義派』には魔術師が多い。

 逆に異種族共存を受け入れられない『強硬派・保守派』は、千歳さんが管轄していない地域の呪術師や日本の政治家が大半らしい。
 
 同じ人間でも、こんなにも考え方が違う。
 魔族と人間の共存は、奇跡のようなバランスで成り立っているのだ。

「今の公安は、表向きは『強硬派』に実権を握られてしまっている」

「表向きは、ということは実際には違うんですね」

「私が管轄している地域の呪術師に関しては、基本的な考え方は『中立』だね。人間社会を脅かす異能の力を持つ者の犯罪を抑止して、共存繁栄できる魔族は保護する。スケールは違うけど、私たちが便利屋でやってきた仕事と同じだ」

「なるほど」

 ここまでの説明を聞いて、疑問に思うこともある。
 なぜ、今この話をしたのだろうか。

「……ここからが本題になる。心して聞いて欲しい」

 千歳さんの言葉を聞いて、一気に緊張感が増す。
 胃がキリキリと痛むような感覚だ。
 こういうときは、大抵良い話ではない。

「国定魔術師が緊急招集を受けた話、聞いているね」

「はい。ティセも招集に応じたのも知っています」

「公安の信頼できるスジから情報が入った。日本に在住する5人の国定魔術師のうち、そのひとりが1週間前に殺された。緊急招集は、その件が理由だ」

「…………殺され、た?」

 耳を疑った。
 「なぜ殺されたのか」よりも「どうやって殺したのか」を考えてしまう。

 国定魔術師を殺害できるほどの力を持った者に悪意や敵意があるとしたら、単純な脅威というだけでは済まされない。

「これが、私が自分の得物とティスタの魔界遺物の封印を解いた理由だ。今回は事前に封印を解除して有事に備えることにした」

「…………」

 絶句する僕に向けて、千歳さんは話を続ける。

「……もうひとつ。殺害された魔術師の体に『無数の赤黒い結晶が突き刺さっていた』らしい」

「それって……」

「御手洗くんの体に発生していた赤黒い結晶と同様のものだ。どうもあの結晶には『魔力を持つ者だけを殺傷する力』があるみたいでね。事実、これまでの結晶病患者すべてを調べたら『潜在的に魔力を持つ者』だったそうだ」

 魔術を使えなくても、魔力を持つ人間が近年になって増えているらしい。
 そういった子供は、魔族との共存が本格的になってから産まれている者が大半。
 これは不思議なことだが、今考えなくてはいけないことは別にある。 

「……その事件、明らかに結晶病と関係があるのでは」

「その通り、偶然とは思えない。だから、情報共有をしておく必要があると思ったし、これから一丸となって事に当たるためにも秘密にすることは無い方がいいなと判断してキミに私の素性を明かした。公安も異能犯罪の事前抑止や事後対処は積極的にするつもりだから、遠慮なく頼ってくれ」

「ありがとうございます。本当に心強いです」

 大きな不安もあるが、信頼している上司が思っていた以上に心強い存在だったことに気付けたのは幸運だ。

「そういえば、ティスタは私が公安であることを気付いたうえで放置していたみたいでさ。それがこんな腐れ縁になるなんて、便利屋をはじめた当時は思ってもいなかったけどね」

「どうして放置していたんでしょうね?」

「いつでも返り討ちにしてやる……とでも思っていたんだろうさ」

「うん……たぶん、そうだと思います」

「ま、いいさ。これで気兼ねなくキミらと一緒に仕事ができるってものだ」

 ずっと胸に抱えていたものを吐き出せた千歳さんは、どこか清々しい表情をしていた。


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 名前の存在しない公安直属の呪術師部隊。
 千歳さんは、その組織の元ナンバー2という立場だった。
「公安からの出向で民間の便利屋に所属している……ということになっている」
「どうしてそんな状況になったんです?」
「…………」
 千歳さんが沈黙する。
 よほど言いづらいことなのだろう。
 僕は、何も言わずに返答を待った。
 室内に響くのは、時計の針が動く音だけ。
 数十秒の間を空けて、千歳さんは真実を語りはじめる。
「私が公安を出た理由は、ティスタ・ラブラドライトが人類に牙を剥いたときに自分の手で始末するためだった」
「始末、というのは……つまり……」
「暗殺だ」
 真実を語る千歳さんの表情は固い。
 以前から不思議に感じていた。
 なぜ、魔術師と呪術師が共に仕事をしているのか。
 その理由が「ティセの監視をするため」だったとわかって納得できた。
 でも、それはどうでもいい。
 僕が今聞かなくてはいけないことは――
「確認させてください。千歳さんは、今でもティセを手にかけるつもりがあるんでしょうか」
 僕の言葉を聞いて、千歳さんが静かに首を横に振る。
「いいや、もうそんな気は無い。ティスタは、キミが隣にいるなら大丈夫だと確信しているから」
「僕、ですか……?」
「トーヤ君なら、ティスタが間違った道に進むのを止めてくれるだろうし」
「……はい。それはもちろん」 
 今の千歳さんは、ティセを監視対象とは見ていない。
 では、どうして今も僕らと一緒に仕事をしてくれているのか。
 その理由は、とてもシンプルなものだった。
「監視の継続とか、理由なんていくらでも探せばあるんだろうけど……正直に言うと『あの便利屋に居心地の良さを感じてしまったから』だ。これじゃあプロ失格だね、ははは」
 そう言って笑う千歳さんを見て、僕も思わず笑顔がこぼれる。
「私個人は、あくまでも人間と魔族の『中立』でいたいと思っている。人間社会の平和維持ができる限り、魔族の存在を許容できる……ってことだ」
「ありがとうございます。半魔族の僕にとっては、その言葉だけで嬉しいです」
 今の日本は、魔族・魔術師との共存を目指す風潮が強い。
 しかし、それをすべての人間が受け入れているわけではない。
 千歳さんのような『中立派』だけではない。
 積極的に異種族受け入れをしようとする『融和派・多文化主義派』には魔術師が多い。
 逆に異種族共存を受け入れられない『強硬派・保守派』は、千歳さんが管轄していない地域の呪術師や日本の政治家が大半らしい。
 同じ人間でも、こんなにも考え方が違う。
 魔族と人間の共存は、奇跡のようなバランスで成り立っているのだ。
「今の公安は、表向きは『強硬派』に実権を握られてしまっている」
「表向きは、ということは実際には違うんですね」
「私が管轄している地域の呪術師に関しては、基本的な考え方は『中立』だね。人間社会を脅かす異能の力を持つ者の犯罪を抑止して、共存繁栄できる魔族は保護する。スケールは違うけど、私たちが便利屋でやってきた仕事と同じだ」
「なるほど」
 ここまでの説明を聞いて、疑問に思うこともある。
 なぜ、今この話をしたのだろうか。
「……ここからが本題になる。心して聞いて欲しい」
 千歳さんの言葉を聞いて、一気に緊張感が増す。
 胃がキリキリと痛むような感覚だ。
 こういうときは、大抵良い話ではない。
「国定魔術師が緊急招集を受けた話、聞いているね」
「はい。ティセも招集に応じたのも知っています」
「公安の信頼できるスジから情報が入った。日本に在住する5人の国定魔術師のうち、そのひとりが1週間前に殺された。緊急招集は、その件が理由だ」
「…………殺され、た?」
 耳を疑った。
 「なぜ殺されたのか」よりも「どうやって殺したのか」を考えてしまう。
 国定魔術師を殺害できるほどの力を持った者に悪意や敵意があるとしたら、単純な脅威というだけでは済まされない。
「これが、私が自分の得物とティスタの魔界遺物の封印を解いた理由だ。今回は事前に封印を解除して有事に備えることにした」
「…………」
 絶句する僕に向けて、千歳さんは話を続ける。
「……もうひとつ。殺害された魔術師の体に『無数の赤黒い結晶が突き刺さっていた』らしい」
「それって……」
「御手洗くんの体に発生していた赤黒い結晶と同様のものだ。どうもあの結晶には『魔力を持つ者だけを殺傷する力』があるみたいでね。事実、これまでの結晶病患者すべてを調べたら『潜在的に魔力を持つ者』だったそうだ」
 魔術を使えなくても、魔力を持つ人間が近年になって増えているらしい。
 そういった子供は、魔族との共存が本格的になってから産まれている者が大半。
 これは不思議なことだが、今考えなくてはいけないことは別にある。 
「……その事件、明らかに結晶病と関係があるのでは」
「その通り、偶然とは思えない。だから、情報共有をしておく必要があると思ったし、これから一丸となって事に当たるためにも秘密にすることは無い方がいいなと判断してキミに私の素性を明かした。公安も異能犯罪の事前抑止や事後対処は積極的にするつもりだから、遠慮なく頼ってくれ」
「ありがとうございます。本当に心強いです」
 大きな不安もあるが、信頼している上司が思っていた以上に心強い存在だったことに気付けたのは幸運だ。
「そういえば、ティスタは私が公安であることを気付いたうえで放置していたみたいでさ。それがこんな腐れ縁になるなんて、便利屋をはじめた当時は思ってもいなかったけどね」
「どうして放置していたんでしょうね?」
「いつでも返り討ちにしてやる……とでも思っていたんだろうさ」
「うん……たぶん、そうだと思います」
「ま、いいさ。これで気兼ねなくキミらと一緒に仕事ができるってものだ」
 ずっと胸に抱えていたものを吐き出せた千歳さんは、どこか清々しい表情をしていた。