レンタルサービス
ー/ー 公園のなかに大きなお堀がある。お堀端の道はジョギングの名所となっている。
緑の水を眺めながら走るのは気持ちがいい。
ぼくはコースを五周して汗まみれになった。
ウェブで予約した場所に向かう。
ごくふつうの民家であった。マンションの谷間に埋もれるように取り残された古い和風家屋。
玄関のチャイムを鳴らすと、インターホンから
「どなたですかー」
と女性の声が聞こえた。
「ホソカワです」
「ああ、予約の方。いま開けますね」
玄関の扉が開いた。小太りの女性が笑っている。
「あの、ほんとにシャワーをお借りしていいんですか?」
「ええ、大丈夫です。昼間は誰も使いませんからありがたいです」
「こんな格好ですみません」
ぼくはスポーツウェアのまま玄関に入り、用意されていたスリッパを履いた。
レンタル時代。探してみれば、たいていのものは現地調達できる。
この家も「地名 シャワー レンタル」で検索して見つけたのだ。
奥さんに百円玉を渡し、浴室へ案内された。
ジョギングの汗を流し、さっぱりした。汗に濡れたウェアをビニール袋に入れてリュックにしまい、新しいシャツとズボンを身につける。
「こちらへどうぞ」
キッチンに案内された。テーブルの上に冷たい麦茶。ガラスのコップに水滴が張りついている。
「うわ、おいしい。申し訳ありませんね」
「サービスサービス」
と奥さんは言った。
「また利用してくださいね」
「ええ、ぜひ。毎日、どのくらい利用者がいるんですか」
「四、五人かしら」
「いくらにもなりませんね」
「そんなことないわ。一日の食材費に五百円足すとずいぶんいいものが買えるのよ。野菜にしてもお魚にしても」
なるほどそんなものかと感心し、ぼくは民家を出た。
いろいろな世代の人たちが電動キックボードに乗って滑るように移動している。あれもレンタルだろう。ちょっとした空き地に駐車場があって驚く。
ただ、自分には合わない。ぼくはボードより徒歩が好きだ。
最寄りの駅まで歩き、電車に乗る。これから西のほうにあるホソカワタツノリの家に戻るのだ。
この肉体も、本人に返却しなければいけない。
二階の寝室に行ってベッドに寝転がり、
「返却するよ」
と言った。
天井付近に漂っていたホソカワタツノリの霊魂がすーっと身体に入ってきた。ぼくは外に抜け出す。
ホソカワタツノリは、スマホで銀行口座をチェックした。
「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしています」
ぼくはうなずいたが、もはや声を発する肉体がない。
たまに体を使うとすっきりするなと思いながら空に戻った。
緑の水を眺めながら走るのは気持ちがいい。
ぼくはコースを五周して汗まみれになった。
ウェブで予約した場所に向かう。
ごくふつうの民家であった。マンションの谷間に埋もれるように取り残された古い和風家屋。
玄関のチャイムを鳴らすと、インターホンから
「どなたですかー」
と女性の声が聞こえた。
「ホソカワです」
「ああ、予約の方。いま開けますね」
玄関の扉が開いた。小太りの女性が笑っている。
「あの、ほんとにシャワーをお借りしていいんですか?」
「ええ、大丈夫です。昼間は誰も使いませんからありがたいです」
「こんな格好ですみません」
ぼくはスポーツウェアのまま玄関に入り、用意されていたスリッパを履いた。
レンタル時代。探してみれば、たいていのものは現地調達できる。
この家も「地名 シャワー レンタル」で検索して見つけたのだ。
奥さんに百円玉を渡し、浴室へ案内された。
ジョギングの汗を流し、さっぱりした。汗に濡れたウェアをビニール袋に入れてリュックにしまい、新しいシャツとズボンを身につける。
「こちらへどうぞ」
キッチンに案内された。テーブルの上に冷たい麦茶。ガラスのコップに水滴が張りついている。
「うわ、おいしい。申し訳ありませんね」
「サービスサービス」
と奥さんは言った。
「また利用してくださいね」
「ええ、ぜひ。毎日、どのくらい利用者がいるんですか」
「四、五人かしら」
「いくらにもなりませんね」
「そんなことないわ。一日の食材費に五百円足すとずいぶんいいものが買えるのよ。野菜にしてもお魚にしても」
なるほどそんなものかと感心し、ぼくは民家を出た。
いろいろな世代の人たちが電動キックボードに乗って滑るように移動している。あれもレンタルだろう。ちょっとした空き地に駐車場があって驚く。
ただ、自分には合わない。ぼくはボードより徒歩が好きだ。
最寄りの駅まで歩き、電車に乗る。これから西のほうにあるホソカワタツノリの家に戻るのだ。
この肉体も、本人に返却しなければいけない。
二階の寝室に行ってベッドに寝転がり、
「返却するよ」
と言った。
天井付近に漂っていたホソカワタツノリの霊魂がすーっと身体に入ってきた。ぼくは外に抜け出す。
ホソカワタツノリは、スマホで銀行口座をチェックした。
「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしています」
ぼくはうなずいたが、もはや声を発する肉体がない。
たまに体を使うとすっきりするなと思いながら空に戻った。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
公園のなかに大きなお堀がある。お堀端の道はジョギングの名所となっている。
緑の水を眺めながら走るのは気持ちがいい。
ぼくはコースを五周して汗まみれになった。
ウェブで予約した場所に向かう。
ごくふつうの民家であった。マンションの谷間に埋もれるように取り残された古い和風家屋。
玄関のチャイムを鳴らすと、インターホンから
「どなたですかー」
と女性の声が聞こえた。
「ホソカワです」
「ああ、予約の方。いま開けますね」
玄関の扉が開いた。小太りの女性が笑っている。
「あの、ほんとにシャワーをお借りしていいんですか?」
「ええ、大丈夫です。昼間は誰も使いませんからありがたいです」
「こんな格好ですみません」
ぼくはスポーツウェアのまま玄関に入り、用意されていたスリッパを履いた。
レンタル時代。探してみれば、たいていのものは現地調達できる。
この家も「地名 シャワー レンタル」で検索して見つけたのだ。
奥さんに百円玉を渡し、浴室へ案内された。
ジョギングの汗を流し、さっぱりした。汗に濡れたウェアをビニール袋に入れてリュックにしまい、新しいシャツとズボンを身につける。
「こちらへどうぞ」
キッチンに案内された。テーブルの上に冷たい麦茶。ガラスのコップに水滴が張りついている。
「うわ、おいしい。申し訳ありませんね」
「サービスサービス」
と奥さんは言った。
「また利用してくださいね」
「ええ、ぜひ。毎日、どのくらい利用者がいるんですか」
「四、五人かしら」
「いくらにもなりませんね」
「そんなことないわ。一日の食材費に五百円足すとずいぶんいいものが買えるのよ。野菜にしてもお魚にしても」
なるほどそんなものかと感心し、ぼくは民家を出た。
いろいろな世代の人たちが電動キックボードに乗って滑るように移動している。あれもレンタルだろう。ちょっとした空き地に駐車場があって驚く。
ただ、自分には合わない。ぼくはボードより徒歩が好きだ。
最寄りの駅まで歩き、電車に乗る。これから西のほうにあるホソカワタツノリの家に戻るのだ。
この肉体も、本人に返却しなければいけない。
二階の寝室に行ってベッドに寝転がり、
「返却するよ」
と言った。
天井付近に漂っていたホソカワタツノリの霊魂がすーっと身体に入ってきた。ぼくは外に抜け出す。
ホソカワタツノリは、スマホで銀行口座をチェックした。
「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしています」
ぼくはうなずいたが、もはや声を発する肉体がない。
たまに体を使うとすっきりするなと思いながら空に戻った。
緑の水を眺めながら走るのは気持ちがいい。
ぼくはコースを五周して汗まみれになった。
ウェブで予約した場所に向かう。
ごくふつうの民家であった。マンションの谷間に埋もれるように取り残された古い和風家屋。
玄関のチャイムを鳴らすと、インターホンから
「どなたですかー」
と女性の声が聞こえた。
「ホソカワです」
「ああ、予約の方。いま開けますね」
玄関の扉が開いた。小太りの女性が笑っている。
「あの、ほんとにシャワーをお借りしていいんですか?」
「ええ、大丈夫です。昼間は誰も使いませんからありがたいです」
「こんな格好ですみません」
ぼくはスポーツウェアのまま玄関に入り、用意されていたスリッパを履いた。
レンタル時代。探してみれば、たいていのものは現地調達できる。
この家も「地名 シャワー レンタル」で検索して見つけたのだ。
奥さんに百円玉を渡し、浴室へ案内された。
ジョギングの汗を流し、さっぱりした。汗に濡れたウェアをビニール袋に入れてリュックにしまい、新しいシャツとズボンを身につける。
「こちらへどうぞ」
キッチンに案内された。テーブルの上に冷たい麦茶。ガラスのコップに水滴が張りついている。
「うわ、おいしい。申し訳ありませんね」
「サービスサービス」
と奥さんは言った。
「また利用してくださいね」
「ええ、ぜひ。毎日、どのくらい利用者がいるんですか」
「四、五人かしら」
「いくらにもなりませんね」
「そんなことないわ。一日の食材費に五百円足すとずいぶんいいものが買えるのよ。野菜にしてもお魚にしても」
なるほどそんなものかと感心し、ぼくは民家を出た。
いろいろな世代の人たちが電動キックボードに乗って滑るように移動している。あれもレンタルだろう。ちょっとした空き地に駐車場があって驚く。
ただ、自分には合わない。ぼくはボードより徒歩が好きだ。
最寄りの駅まで歩き、電車に乗る。これから西のほうにあるホソカワタツノリの家に戻るのだ。
この肉体も、本人に返却しなければいけない。
二階の寝室に行ってベッドに寝転がり、
「返却するよ」
と言った。
天井付近に漂っていたホソカワタツノリの霊魂がすーっと身体に入ってきた。ぼくは外に抜け出す。
ホソカワタツノリは、スマホで銀行口座をチェックした。
「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしています」
ぼくはうなずいたが、もはや声を発する肉体がない。
たまに体を使うとすっきりするなと思いながら空に戻った。