第6話
ー/ーここは、ウエス国の森の奥深く。
人里離れた一軒家に、
エルフのフィーネ、人間の少女リリィ、ドリアードの子供モック――
三人は、穏やかな日々を送っていた。
今日も、フィーネはロッキングチェアに身を委ね、心地よい揺れの中で昼寝をしている。
……フィーネ。
……フィーネ、聞きなさい。
どこからともなく、声がした。
「……誰?」
夢の中。
霧のような空間に、一人の少女が立っていた。
長い青髪。
幼い見た目に似合わない、澄んだ瞳。
「ぼくは、女神イブ」
「……女神? 私に何か用?」
フィーネは胡乱げな視線を向ける。
「フィーネを、九十九回転生させたのは、ぼくだ」
「……あなたが?」
一瞬、言葉を失う。
「転生には理由がある。ぼくは女神だからね」
「ずいぶん便利な言い方ね……」
フィーネの皮肉にも、イブは気にした様子もなく続けた。
「転生できるのは、百回までと決まっている」
「……待って。それって」
「そう。君は九十九回目だ。次が最後」
フィーネの胸が、ぎゅっと締め付けられた。
「そんな……」
「だから、頼みがある」
イブは真っ直ぐに、フィーネを見つめる。
「次の転生までに――
女神の魂を持つ子供を探してほしい」
「……女神の魂?」
胡散臭さが、限界を超えた。
「この世界の存続がかかっている。時間がない」
「ちょっと待ちなさい。ヒントくらい――」
「忙しいんだ。じゃあ、よろしく」
「ちょっ……!」
イブの姿は、霧のように溶けて消えた。
⸻
フィーネは、勢いよく目を覚ました。
「……何なの、今の夢」
妙に現実感がある。
紅茶を一口飲み、深呼吸する。
女神イブ。
女神の魂を持つ子供。
百回目の転生。
(……夢、よね)
そう自分に言い聞かせ、再び目を閉じた――その瞬間。
ドーーーーン!
家の中で、爆発音。
「……今度は何!?」
フィーネは跳ね起き、二階へ駆け上がる。
床には、大きな穴。
その下で――モックが、白目をむいて倒れていた。
「ご、ごめんなさい……」
隅でうつむくリリィ。
「お薬、作ってみたくて……」
「……調合失敗して爆発、ね?」
「うん……」
「怒らないから、こっちに来なさい」
フィーネは静かに言った。
「次からは、必ず一緒の時にしなさい」
「……わかった」
「ああ、面倒くさい……
時よ戻れ、リバース」
歪んだ空間が揺れ、床の穴は元に戻った。
「リリィ、モックを看てあげて」
そう言い残し、フィーネはロッキングチェアへ戻った。
「……どうして、いつもこうなるのかしら」
⸻
その夜。
珍しく、料理の手が止まる。
「いただきます」
リリィが一口食べて――顔をしかめた。
「……美味しくない」
「行儀が悪いわよ」
「だったら、フィーネも食べてみて」
一口。
「……っ」
フィーネも、思わず吐き出した。
「……私が、失敗するなんて」
「今日のフィーネ、やっぱり変だよ」
「変な夢を見ただけ。大丈夫よ」
食後、三人で並んで星を眺める。
「夢にね、女神様が出てきたの」
「女神様?」
「女神の魂を持つ子供を探せ、って」
「……それ」
リリィが、はっとした。
「私が転生した時も、女神様がいた。名前、イブだった」
フィーネの胸が跳ねる。
「……同じ名前」
「私たちの転生、何か関係あるのかもね」
フィーネは、黙って星を見上げた。
(百回目の前に……子供を)
その言葉だけは、胸にしまったまま。
⸻
「ねえ、流れ星!」
リリィが指をさす。
だが――それは、異様に近い。
「……あれ、こっちに向かってない?」
次の瞬間。
ドッカーーーーン!!
家の前に、箒星が落ちた。
煙の中。
透明な球体が、ふわりと消え――
中から、一人の少女が現れる。
青い髪。
青白い魔力の粒子。
「……イテテ。スピード出しすぎたね」
少女は立ち上がり、にこっと笑った。
「こんばんは。ぼくは女神イブ」
フィーネとリリィを見て、軽く手を振る。
「よろしく」
夜空の下。
のんびりは、完全に終わった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。