第5話
ー/ーここは、ウエス国の森の中。
この世界――エルドランド大陸は、
大国を中心に、
ウエス国・ノーザリア国・イストリア国といった小国が点在している。
千年ほど前。
魔物の神――魔神が討たれてから、
世界には強大な魔物はほとんど姿を消した。
それ以来、
人々は「平和」を当たり前のものとして生きている。
「キー!」
「待ちなさい! モック!」
今日もリリィとモックは、小屋の周りを元気いっぱいに駆け回っていた。
それを、いつも通りフィーネはロッキングチェアに揺られながら、半分眠った目で見守っている。
平和で、のどかな一日のはずだった。
――その音が、すべてを破った。
ドカーーーーン!
大地を揺らすような爆発音。
フィーネは、跳ね起きた。
町の方角を見ると、黒い煙が空へと立ち上っている。
「……これは、嫌な予感がするわね」
そう呟くと、フィーネはすぐに裏の倉庫へ向かい、薬袋をいくつも手に取った。
「フィーネ、あの煙は何かしら?」
「分からないけど……町で何か起きたのは確かね」
「爆発、怖いッキー……」
モックも、枝の体を小さく震わせている。
「二人とも。出かける用意をしておきなさい」
その声に、リリィとモックはすぐに頷いた。
――その時。
森の奥から、煤にまみれた男が現れた。
「オルガ!」
「フィーネ……すまない。町まで来てくれないか」
肩で息をし、相当急いで走ってきた様子だ。
「何があったの?」
「町の火薬庫が爆発した」
ウエス国の町は、宝石の産出で成り立っている。
山から宝石を掘り出すために使う爆薬――
その保管庫が、何らかの原因で爆発したのだという。
「……分かったわ」
フィーネ、リリィ、モックはオルガと共に町へ向かった。
⸻
森を抜け、町が見えた瞬間。
空気が変わった。
火薬庫と思しき建物からは、まだ火の手が上がり、
黒煙が重く立ち込めている。
「フィーネ、けが人がいるんだ」
「わかったわ。傷薬と、呼吸を楽にする薬を持ってきてる」
オルガは薬を受け取り、けが人のもとへ駆けていった。
「フィーネ……」
リリィが、そっと背中に隠れる。
「あなたたちは、ここにいなさい。私は火を消してくる」
二人が頷いたのを確認し、フィーネは火薬庫へ向かった。
熱気が、肌を焼く。
近づくだけで息が詰まりそうだ。
フィーネは両手を掲げ、淡々と詠唱する。
「――水よ、出でよ。ウォーター」
空から大量の水が降り注ぎ、
炎は徐々に勢いを失い、やがて完全に鎮火した。
「……?」
その瞬間、
ほんのわずかだが――
人為的な魔力の痕跡を、フィーネは感じ取った。
(……気のせい、ね)
違和感は、すぐに霧散した。
「フィーネ! 本当に助かったよ!」
町人たちが、次々と礼を言う。
「これで、一安心ね」
フィーネは、リリィとモックのもとへ戻った。
「薬のおかげで、けが人も大丈夫そうだ」
「それは良かったわ」
オルガは少し躊躇ってから、言った。
「……お礼と言っては何だけど、一緒に食事でもどうかな。奢るよ」
フィーネは一瞬考え、リリィとモックを見る。
「この二人も一緒なら」
「もちろんだよ」
⸻
オルガの家は、石造りの二階建てだった。
年季は入っているが、どこか落ち着く家だ。
「前にも来たけど、いいお宅ね」
「そう言われると嬉しいな」
オルガは照れながら、紅茶を淹れる。
「我が家特製の紅茶だよ」
「……悔しいけど、美味しいのよね」
「うん! 美味しい!」
「この町の水は美味しいキー」
「……こんなふうに、他人と関わるのも久しぶりね」
フィーネの呟きは、小さかった。
⸻
夕方。
町の酒場。
賑やかな喧騒、笑い声、食器の音。
それらは、確かに“平和”そのものだった。
「今日は、じゃんじゃん食べて飲んでね!」
「ありがとう」
乾杯の音が響く。
「フィーネって、お母さんみたいね」
「親子じゃないわよ!」
――結局。
酔いつぶれたオルガを、
フィーネが背負って家まで送り届けることになった。
「……重いわね」
それでも、
彼女の足取りは、どこか軽かった。
⸻
森へ戻る帰り道。
夜風が、静かに頬を撫でる。
(……平和、ね)
だが、
昼に感じた、あの微かな違和感が――
胸の奥で、まだ消えずに残っていた。
「のんびりしてるだけじゃ……だめ、か」
フィーネは、そう呟いた。
それはまだ、
決意にも、覚悟にもならない。
けれど確かに――
世界が、再び動き出す前触れだった。
この世界――エルドランド大陸は、
大国を中心に、
ウエス国・ノーザリア国・イストリア国といった小国が点在している。
千年ほど前。
魔物の神――魔神が討たれてから、
世界には強大な魔物はほとんど姿を消した。
それ以来、
人々は「平和」を当たり前のものとして生きている。
「キー!」
「待ちなさい! モック!」
今日もリリィとモックは、小屋の周りを元気いっぱいに駆け回っていた。
それを、いつも通りフィーネはロッキングチェアに揺られながら、半分眠った目で見守っている。
平和で、のどかな一日のはずだった。
――その音が、すべてを破った。
ドカーーーーン!
大地を揺らすような爆発音。
フィーネは、跳ね起きた。
町の方角を見ると、黒い煙が空へと立ち上っている。
「……これは、嫌な予感がするわね」
そう呟くと、フィーネはすぐに裏の倉庫へ向かい、薬袋をいくつも手に取った。
「フィーネ、あの煙は何かしら?」
「分からないけど……町で何か起きたのは確かね」
「爆発、怖いッキー……」
モックも、枝の体を小さく震わせている。
「二人とも。出かける用意をしておきなさい」
その声に、リリィとモックはすぐに頷いた。
――その時。
森の奥から、煤にまみれた男が現れた。
「オルガ!」
「フィーネ……すまない。町まで来てくれないか」
肩で息をし、相当急いで走ってきた様子だ。
「何があったの?」
「町の火薬庫が爆発した」
ウエス国の町は、宝石の産出で成り立っている。
山から宝石を掘り出すために使う爆薬――
その保管庫が、何らかの原因で爆発したのだという。
「……分かったわ」
フィーネ、リリィ、モックはオルガと共に町へ向かった。
⸻
森を抜け、町が見えた瞬間。
空気が変わった。
火薬庫と思しき建物からは、まだ火の手が上がり、
黒煙が重く立ち込めている。
「フィーネ、けが人がいるんだ」
「わかったわ。傷薬と、呼吸を楽にする薬を持ってきてる」
オルガは薬を受け取り、けが人のもとへ駆けていった。
「フィーネ……」
リリィが、そっと背中に隠れる。
「あなたたちは、ここにいなさい。私は火を消してくる」
二人が頷いたのを確認し、フィーネは火薬庫へ向かった。
熱気が、肌を焼く。
近づくだけで息が詰まりそうだ。
フィーネは両手を掲げ、淡々と詠唱する。
「――水よ、出でよ。ウォーター」
空から大量の水が降り注ぎ、
炎は徐々に勢いを失い、やがて完全に鎮火した。
「……?」
その瞬間、
ほんのわずかだが――
人為的な魔力の痕跡を、フィーネは感じ取った。
(……気のせい、ね)
違和感は、すぐに霧散した。
「フィーネ! 本当に助かったよ!」
町人たちが、次々と礼を言う。
「これで、一安心ね」
フィーネは、リリィとモックのもとへ戻った。
「薬のおかげで、けが人も大丈夫そうだ」
「それは良かったわ」
オルガは少し躊躇ってから、言った。
「……お礼と言っては何だけど、一緒に食事でもどうかな。奢るよ」
フィーネは一瞬考え、リリィとモックを見る。
「この二人も一緒なら」
「もちろんだよ」
⸻
オルガの家は、石造りの二階建てだった。
年季は入っているが、どこか落ち着く家だ。
「前にも来たけど、いいお宅ね」
「そう言われると嬉しいな」
オルガは照れながら、紅茶を淹れる。
「我が家特製の紅茶だよ」
「……悔しいけど、美味しいのよね」
「うん! 美味しい!」
「この町の水は美味しいキー」
「……こんなふうに、他人と関わるのも久しぶりね」
フィーネの呟きは、小さかった。
⸻
夕方。
町の酒場。
賑やかな喧騒、笑い声、食器の音。
それらは、確かに“平和”そのものだった。
「今日は、じゃんじゃん食べて飲んでね!」
「ありがとう」
乾杯の音が響く。
「フィーネって、お母さんみたいね」
「親子じゃないわよ!」
――結局。
酔いつぶれたオルガを、
フィーネが背負って家まで送り届けることになった。
「……重いわね」
それでも、
彼女の足取りは、どこか軽かった。
⸻
森へ戻る帰り道。
夜風が、静かに頬を撫でる。
(……平和、ね)
だが、
昼に感じた、あの微かな違和感が――
胸の奥で、まだ消えずに残っていた。
「のんびりしてるだけじゃ……だめ、か」
フィーネは、そう呟いた。
それはまだ、
決意にも、覚悟にもならない。
けれど確かに――
世界が、再び動き出す前触れだった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
ここは、ウエス国の森の中。
この世界――エルドランド大陸は、
大国《エルドランド=サウザン同盟国》を中心に、
ウエス国・ノーザリア国・イストリア国といった小国が点在している。
大国《エルドランド=サウザン同盟国》を中心に、
ウエス国・ノーザリア国・イストリア国といった小国が点在している。
千年ほど前。
魔物の神――魔神が討たれてから、
世界には強大な魔物はほとんど姿を消した。
魔物の神――魔神が討たれてから、
世界には強大な魔物はほとんど姿を消した。
それ以来、
人々は「平和」を当たり前のものとして生きている。
人々は「平和」を当たり前のものとして生きている。
「キー!」
「待ちなさい! モック!」
「待ちなさい! モック!」
今日もリリィとモックは、小屋の周りを元気いっぱいに駆け回っていた。
それを、いつも通りフィーネはロッキングチェアに揺られながら、半分眠った目で見守っている。
それを、いつも通りフィーネはロッキングチェアに揺られながら、半分眠った目で見守っている。
平和で、のどかな一日のはずだった。
――その音が、すべてを破った。
ドカーーーーン!
大地を揺らすような爆発音。
フィーネは、跳ね起きた。
フィーネは、跳ね起きた。
町の方角を見ると、黒い煙が空へと立ち上っている。
「……これは、嫌な予感がするわね」
そう呟くと、フィーネはすぐに裏の倉庫へ向かい、薬袋をいくつも手に取った。
「フィーネ、あの煙は何かしら?」
「分からないけど……町で何か起きたのは確かね」
「爆発、怖いッキー……」
「分からないけど……町で何か起きたのは確かね」
「爆発、怖いッキー……」
モックも、枝の体を小さく震わせている。
「二人とも。出かける用意をしておきなさい」
その声に、リリィとモックはすぐに頷いた。
――その時。
森の奥から、煤にまみれた男が現れた。
「オルガ!」
「フィーネ……すまない。町まで来てくれないか」
「フィーネ……すまない。町まで来てくれないか」
肩で息をし、相当急いで走ってきた様子だ。
「何があったの?」
「町の火薬庫が爆発した」
「町の火薬庫が爆発した」
ウエス国の町は、宝石の産出で成り立っている。
山から宝石を掘り出すために使う爆薬――
その保管庫が、何らかの原因で爆発したのだという。
山から宝石を掘り出すために使う爆薬――
その保管庫が、何らかの原因で爆発したのだという。
「……分かったわ」
フィーネ、リリィ、モックはオルガと共に町へ向かった。
⸻
森を抜け、町が見えた瞬間。
空気が変わった。
空気が変わった。
火薬庫と思しき建物からは、まだ火の手が上がり、
黒煙が重く立ち込めている。
黒煙が重く立ち込めている。
「フィーネ、けが人がいるんだ」
「わかったわ。傷薬と、呼吸を楽にする薬を持ってきてる」
「わかったわ。傷薬と、呼吸を楽にする薬を持ってきてる」
オルガは薬を受け取り、けが人のもとへ駆けていった。
「フィーネ……」
リリィが、そっと背中に隠れる。
リリィが、そっと背中に隠れる。
「あなたたちは、ここにいなさい。私は火を消してくる」
二人が頷いたのを確認し、フィーネは火薬庫へ向かった。
熱気が、肌を焼く。
近づくだけで息が詰まりそうだ。
近づくだけで息が詰まりそうだ。
フィーネは両手を掲げ、淡々と詠唱する。
「――水よ、出でよ。ウォーター」
空から大量の水が降り注ぎ、
炎は徐々に勢いを失い、やがて完全に鎮火した。
炎は徐々に勢いを失い、やがて完全に鎮火した。
「……?」
その瞬間、
ほんのわずかだが――
人為的な魔力の痕跡を、フィーネは感じ取った。
ほんのわずかだが――
人為的な魔力の痕跡を、フィーネは感じ取った。
(……気のせい、ね)
違和感は、すぐに霧散した。
「フィーネ! 本当に助かったよ!」
町人たちが、次々と礼を言う。
町人たちが、次々と礼を言う。
「これで、一安心ね」
フィーネは、リリィとモックのもとへ戻った。
「薬のおかげで、けが人も大丈夫そうだ」
「それは良かったわ」
「それは良かったわ」
オルガは少し躊躇ってから、言った。
「……お礼と言っては何だけど、一緒に食事でもどうかな。奢るよ」
フィーネは一瞬考え、リリィとモックを見る。
「この二人も一緒なら」
「もちろんだよ」
「もちろんだよ」
⸻
オルガの家は、石造りの二階建てだった。
年季は入っているが、どこか落ち着く家だ。
年季は入っているが、どこか落ち着く家だ。
「前にも来たけど、いいお宅ね」
「そう言われると嬉しいな」
「そう言われると嬉しいな」
オルガは照れながら、紅茶を淹れる。
「我が家特製の紅茶だよ」
「……悔しいけど、美味しいのよね」
「……悔しいけど、美味しいのよね」
「うん! 美味しい!」
「この町の水は美味しいキー」
「この町の水は美味しいキー」
「……こんなふうに、他人と関わるのも久しぶりね」
フィーネの呟きは、小さかった。
⸻
夕方。
町の酒場《ブルークリスタル》。
町の酒場《ブルークリスタル》。
賑やかな喧騒、笑い声、食器の音。
それらは、確かに“平和”そのものだった。
それらは、確かに“平和”そのものだった。
「今日は、じゃんじゃん食べて飲んでね!」
「ありがとう」
「ありがとう」
乾杯の音が響く。
「フィーネって、お母さんみたいね」
「親子じゃないわよ!」
「親子じゃないわよ!」
――結局。
酔いつぶれたオルガを、
フィーネが背負って家まで送り届けることになった。
フィーネが背負って家まで送り届けることになった。
「……重いわね」
それでも、
彼女の足取りは、どこか軽かった。
彼女の足取りは、どこか軽かった。
⸻
森へ戻る帰り道。
夜風が、静かに頬を撫でる。
(……平和、ね)
だが、
昼に感じた、あの微かな違和感が――
胸の奥で、まだ消えずに残っていた。
昼に感じた、あの微かな違和感が――
胸の奥で、まだ消えずに残っていた。
「のんびりしてるだけじゃ……だめ、か」
フィーネは、そう呟いた。
それはまだ、
決意にも、覚悟にもならない。
決意にも、覚悟にもならない。
けれど確かに――
世界が、再び動き出す前触れだった。
世界が、再び動き出す前触れだった。