タスクは積み上がるもの。
いくら片付けてもきりがない。
灰色の勤め人人生を送っていたところ、意外な光明に見舞われた。
人事部のオオタ課長が
「アオシマくん、君、独身だね」
と言ったのだ。
「はい」
「オドリタ支社に出向してくれないか。子育て支援策が成功して人口流入が増えていてね」
「わかりました」
積み上がったタスクはいったんチャラだ。あとは誰かに引き継げばいい。
左遷ととらえるか、リスタートととらえるか、それは私次第。
山に囲まれた支社に赴任した。
「山をひとつ越えれば海。海の幸にも山の幸にも恵まれた暮らしやすい土地だよ」
歓迎会で所長が言った。私は単純に自分の幸運を信じることにした。
翌日。
「さあ、棚卸しだ」
所長は朝から張り切っていた。
「アオシマくんはここに来たばかりだからタスクを仕分けるのははじめてだね」
「はい」
私はうなずいた。
「この事業所では、毎月一日にタスクを生きているものと死んでいるものに分類するんだ」
いい習慣だとおもう。死んだタスクを抱えて悶々とするのはバカらしい。
長いタスクリストを上から順にチェックする。
私はみんな見て見ぬフリをしている「不都合な真実」に気づいた。生きタスクのなかにも緊急度が低いという理由でずっと先延ばしにされている作業がある。
「所長。四十三年前のタスクがまだ残ってます」
「おや、そうかい」
所長の声が若干低くなった。
「当時、納品した商品が不良品だった件で、交換対応は済んでいますが、まだお詫びに伺っていません」
「四十三年前か……。相手は覚えているかな」
「少なくとも死亡届は出ていません」
「君、手土産を持って、お詫びしてきてくれるか」
私は赴任してきたばかりで、まだなんのタスクも抱えていない。
さっそく相手――ゴトウユメオさん宅を訪ねることにした。
玄関の呼び鈴を鳴らし、
「カネコ食品でございます」
と声をかけた。
「き~た~か~」
ぎぃぃと音がして、玄関が開いた。
老人がふわっと立っていた。灰色のぼろ切れのように見える。
「待っておったぞ」
「長い間、お待たせして申し訳ありません」
「まったく。このために昇天できなかったのだぞ。さらばじゃ」
老人は手土産を受け取り、ほどけるようにかき消えた。
大変だ。
いくらこちらが忘れたフリをしても、相手はいつまでも待っているぞ。
私はあわててリストをチェックした。ほかにも四十年以上待たせているタスクが十数件あった。