「去年の五月、あるウェブ小説のコンテストで入賞したんです」
圭介が語り続ける。
彼もまた、本好きだった。中学からは自分で書いた作品を、サイトに投稿していたそうだ。美穂が口にしていた「同世代ですごい小説を書く人」。それが圭介を指していたのか、もっと抽象的なニュアンスだったのか、今となっては確かめるすべがない。
ペンネームで投稿していた圭介は、入賞があまりに嬉しく、美穂にだけ、その事実を伝えたそうだ。
「好きだ」という言葉を添えて。
中学時代、美穂を気に入っていた男の子たちは、私が知る範囲でも両手に余る。全員が運動部に籍を置くスポーツ少年たちだった。美穂の趣味は小説だ。結局、誰とも交際せず、中学校を卒業し、慶明に進学した。
そこでタイプの異なる圭介と出会う。ほぼ同じ時期、彼はコンテストに入賞した。
二人が結びついたのは、ある種の運命だったのだ。
恋を覚えた妹は、私がよく知る美穂とは別人のようだった。二人で撮った写真を見せ、「圭介っていうんだ。すごいんだよ。もういくつも自分で小説を書いていて、将来は作家になりたいんだって」とはしゃいでいた。
良かったね、と笑顔を作り、私は内心、邪悪な思いを抱いていた。
壊れればいい。
捨てられて、涙が枯れ果てるまで、泣けばいい。
美穂、あなたはそんなに姉を否定したいんだ。あなたのように、私は可愛い衣服をまとえない。上手に異性にはにかむことも不可能だ。思春期を迎え、あなたは見た目も心も急速に「女」になっていく。か弱いあなたを支え続けた私のことを、置き去りにして。
休みの日にもコンビニでレジを打ち、勉強は不得意で、想ってくれる相手もいない。ただ他人より、少し速く泳げるだけの、女子高生。
私は今、女として、あなたの遥か下にいる。にもかかわらず、まだ姉として上にいるような振る舞いをやめられない。
きっと、とっくに見透かされている。見透かしたうえで、あなたは変わらず私を慕うふりをしている。
死にたいほどの屈辱だ。
妹に情けをかけられる。
あからさまに蔑まれるより、それは遥かに痛みを与えるものだ。