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そんなものいてたまるか

ー/ー




 今、ボクの通っている高校ではあるウワサが有名だ。

『コーヒーを勧めてくる幽霊』

 このウワサだ。

 コーヒーを勧める幽霊なんていてたまるか。そもそも幽霊なんて存在はこの世界にはいない。よく言われる心霊写真は画像合成ソフトや生成AIが発展したからだ。

「そうは言っても妙にリアルじゃない?」
「リアル?」

 ボクはオカルト研究部部長の岡本(オカモト) 健吾(ケンゴ)だろう。そうだ、日本の戸籍上の名前が岡本 健吾なだけである。もしかしたら、他の銀河系から見たら、太陽系銀河所属惑星Tの知的生命体OMKくらいかもしれない。

 話し相手は陸上部の幽霊部員、() 綿(ワタ)という不思議な名前の同級生だ。ボクがつけたあだ名は安直にラーメンだ。そう、()綿(メン)だ。

「ラーメンさー、そろそろ走ってくればー?」
「嫌味っぽく言うなよ、部員ナンバーOMKの岡本。心地よくしてやろうか」
「嫌味だもん」

 ぷいっと顔を背けて手元のオカルト雑誌を手に取った。このオカルト雑誌は今は全国の書店で買える。ボクが入部する前は河野高校の文化祭でしか手に入らなかったらしい。

「そもそもラーメンはなんでオカルト研に毎日入り浸るんよ」
「それは、おかもんが好きだから」
「キモいこというな。お前がボクとは別の分野のオカルトを好きなことは知ってるんだから」

 そうだ、ラーメンが好きなオカルトは幽霊など心霊現象だ。ボクが好きなオカルトは宇宙の神秘、そう、UFOだ。あれは存在する。きっと、未解決事件の被害者で遺体が見つかっていない事件の大半はUFOに接触したから現代の地球の技術では分からない方法で消されたのだ。もしかしたら、ラノベやマンガによくある異世界転移させられたかもしれない。

「でもでもー、幽霊もUFOもオカルトでしょー!!」
「オカルトはオカルトだよ。でも、UFOは存在する。そうじゃなきゃ説明できない事例が多すぎる」
「ぶー、どっちも『ゆ』で始まる同じオカルトだよー!! 異論反論しないと怒る」

 ふと思ってしまった。これが現実でなくサブカルのオタク文化の世界であればきっとラーメンはかわいい女の子でボクの事が好きだろう。性別的な話をすれば、ここ、現実でもラーメンは女の子だ。ボクに対しての思いは知ってる。

 からかいたい、ただそれだけだ。

「『ゆ』だけでオカルト認定されるなら我が担任、湯佐(ユサ)先生もオカルト的な存在じゃんかよ」
「湯佐はもうオカルトでしょ。あの見た目で先生やってるとか」
「あー……確かに……」

 不本意ながら納得してしまった。そうなのだ、ボクのクラスの担任は118センチの超低身長の58歳の独身貴族先生だ。新任の女性の先生からモテてるのに結婚できない謎や身長の謎などがある。なお、身長はナイーブな話だが、ただ成長しなかっただけらしい。

「……もしかして、湯佐先生があんなに小さいのは宇宙人が手術したから……?」
「それはナイーブな問題だから、思っても本人の前で口にするなよー」

 ――きゃーー

 めちゃくちゃ低い男の人の悲鳴がした。

「こんな時間に学校で絶叫とか元気だよなー」
「わかる、あー、なんだろ、なんか、醤油ラーメン食いてぇ」
「は? 人にラーメンとかいうあだ名つけつつ醤油ラーメンとかふざけんな。ラーメンは味噌バターのカップ麺のスープの素使って作る細麺のチャーシューマシマシ袋麺だろ。これに関しては異論反論は認めない。異論反論した時点で敵とみなす」

 こんな下らない会話をしていた時に、話題の人がこの世から消えるとは思わなかった。この時の絶叫していた声は湯佐先生だった。


 
 翌日。

 ラーメンは学校を休んだ。お見舞いに行くほど仲がいいわけでもない。ラーメンが勝手にオカルト研に入り浸ってるだけだ。

 始業時間が過ぎても誰も来ない。そうだ、他の生徒も、先生も。

 そこにあるのは()()()()だけだ。この寒い冬には熱々に沸かしたお湯で作ったホットコーヒーが飲みたい。

 『ぬるいコーヒーはいかが?』

 ぬるいコーヒーだと? ふざけるな。コーヒーは熱々かキンキンに冷やしたものに限る。

 ――目が覚めた気がした。

 寝てたのか? 目の前にはコーヒーはない。

「夢……? いや、違う、()()()の仕業だ!!」

 バンッと机を叩いた。

『またあの陰キャ叫んでるよ』『やだー、キモーイ』

 クラスの女子がボクのことを何か言ってる。そんなことはどうでもいい。宇宙人がボクに興味をもってボクに接近してきたのだ。湯佐先生は一応オカルト研究部の顧問だ。報告するしかない。……ついでに昨日の悲鳴についても聞こう。

『うわ、あいつ一人でニヤけてる』『どうせ宇宙がどうしたとかでしょ?』

 ボクの噂はどんどん広がる。最初は『変なやつがいる』だった。今となっては『アダプタが欲しい2年がいる』だ。この『アダプタ』は宇宙人と接触して誘拐されたことを指す『アブダクション』が間違えられて広まったのだ。その間違いを毎回正すのは疲れた。

 ――疲れた。何もかも疲れた。

 そうだ、ただの疲労だ。体が動かない。ここまで疲れたことはない。

 もう、いい。流れに身を任せよう。

 何か頭がすごく痛む。なんだろうこの痛み。まるで頭の中を五寸釘で打たれてる気分だ。……そんなことされたら即死だな。さすが宇宙人……。ボクもアブダクションされてこの世から消されるのか……。

 チャイムが鳴った。頭の中ではない。現実でなったのだ。

 宇宙人に殺されるなら本望だ……。

 ――ぬるいコーヒーは要らないと答えるんだ!!

 ラーメンの声がした気がした。

 再び目の前にはカップに乗ったコーヒーだけがある。不思議なことにカップとコーヒー以外に何もない。そうだ、無の空間にカップとコーヒーだけがある。この世界に存在するのがボクとこのコーヒーだけのようだ。

 『ぬるいコーヒーはいかが?』

 どこからか再びこの言葉が聞こえた。さっきラーメンの声で聞こえたし、元々ボクはぬるいコーヒーが嫌いだ。

 答えは決まっている。

『要らない』

 しかし、声の主は諦めない。ずっと『ぬるいコーヒーはいかが?』を連呼してくる。昨日、ラーメンから聞いた話ではこれに『いる』と答えるとぬるいコーヒーの飲みすぎによって引き起こるカフェイン中毒で死んでしまうらしい。

『ぬるいコーヒーなんて邪道だ。熱々かキンキンに冷えたのしか勝たん』

 無の空間にボクは叫んだ。その返事に声の主は満足したのかカップとコーヒーは消えた。目の前に広がるのは数学の授業中の風景だった。

 ノートに書かれていたのは『ぬるいコーヒーは邪道』だった。
 
 


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 今、ボクの通っている高校ではあるウワサが有名だ。
『コーヒーを勧めてくる幽霊』
 このウワサだ。
 コーヒーを勧める幽霊なんていてたまるか。そもそも幽霊なんて存在はこの世界にはいない。よく言われる心霊写真は画像合成ソフトや生成AIが発展したからだ。
「そうは言っても妙にリアルじゃない?」
「リアル?」
 ボクはオカルト研究部部長の|岡本《オカモト》 |健吾《ケンゴ》だろう。そうだ、日本の戸籍上の名前が岡本 健吾なだけである。もしかしたら、他の銀河系から見たら、太陽系銀河所属惑星Tの知的生命体OMKくらいかもしれない。
 話し相手は陸上部の幽霊部員、|羅《ラ》 |綿《ワタ》という不思議な名前の同級生だ。ボクがつけたあだ名は安直にラーメンだ。そう、|羅《ラ》ー|綿《メン》だ。
「ラーメンさー、そろそろ走ってくればー?」
「嫌味っぽく言うなよ、部員ナンバーOMKの岡本。心地よくしてやろうか」
「嫌味だもん」
 ぷいっと顔を背けて手元のオカルト雑誌を手に取った。このオカルト雑誌は今は全国の書店で買える。ボクが入部する前は河野高校の文化祭でしか手に入らなかったらしい。
「そもそもラーメンはなんでオカルト研に毎日入り浸るんよ」
「それは、おかもんが好きだから」
「キモいこというな。お前がボクとは別の分野のオカルトを好きなことは知ってるんだから」
 そうだ、ラーメンが好きなオカルトは幽霊など心霊現象だ。ボクが好きなオカルトは宇宙の神秘、そう、UFOだ。あれは存在する。きっと、未解決事件の被害者で遺体が見つかっていない事件の大半はUFOに接触したから現代の地球の技術では分からない方法で消されたのだ。もしかしたら、ラノベやマンガによくある異世界転移させられたかもしれない。
「でもでもー、幽霊もUFOもオカルトでしょー!!」
「オカルトはオカルトだよ。でも、UFOは存在する。そうじゃなきゃ説明できない事例が多すぎる」
「ぶー、どっちも『ゆ』で始まる同じオカルトだよー!! 異論反論しないと怒る」
 ふと思ってしまった。これが現実でなくサブカルのオタク文化の世界であればきっとラーメンはかわいい女の子でボクの事が好きだろう。性別的な話をすれば、ここ、現実でもラーメンは女の子だ。ボクに対しての思いは知ってる。
 からかいたい、ただそれだけだ。
「『ゆ』だけでオカルト認定されるなら我が担任、|湯佐《ユサ》先生もオカルト的な存在じゃんかよ」
「湯佐はもうオカルトでしょ。あの見た目で先生やってるとか」
「あー……確かに……」
 不本意ながら納得してしまった。そうなのだ、ボクのクラスの担任は118センチの超低身長の58歳の独身貴族先生だ。新任の女性の先生からモテてるのに結婚できない謎や身長の謎などがある。なお、身長はナイーブな話だが、ただ成長しなかっただけらしい。
「……もしかして、湯佐先生があんなに小さいのは宇宙人が手術したから……?」
「それはナイーブな問題だから、思っても本人の前で口にするなよー」
 ――きゃーー
 めちゃくちゃ低い男の人の悲鳴がした。
「こんな時間に学校で絶叫とか元気だよなー」
「わかる、あー、なんだろ、なんか、醤油ラーメン食いてぇ」
「は? 人にラーメンとかいうあだ名つけつつ醤油ラーメンとかふざけんな。ラーメンは味噌バターのカップ麺のスープの素使って作る細麺のチャーシューマシマシ袋麺だろ。これに関しては異論反論は認めない。異論反論した時点で敵とみなす」
 こんな下らない会話をしていた時に、話題の人がこの世から消えるとは思わなかった。この時の絶叫していた声は湯佐先生だった。
 翌日。
 ラーメンは学校を休んだ。お見舞いに行くほど仲がいいわけでもない。ラーメンが勝手にオカルト研に入り浸ってるだけだ。
 始業時間が過ぎても誰も来ない。そうだ、他の生徒も、先生も。
 そこにあるのは|コ《・》|ー《・》|ヒ《・》|ー《・》だけだ。この寒い冬には熱々に沸かしたお湯で作ったホットコーヒーが飲みたい。
 『ぬるいコーヒーはいかが?』
 ぬるいコーヒーだと? ふざけるな。コーヒーは熱々かキンキンに冷やしたものに限る。
 ――目が覚めた気がした。
 寝てたのか? 目の前にはコーヒーはない。
「夢……? いや、違う、|宇《・》|宙《・》|人《・》の仕業だ!!」
 バンッと机を叩いた。
『またあの陰キャ叫んでるよ』『やだー、キモーイ』
 クラスの女子がボクのことを何か言ってる。そんなことはどうでもいい。宇宙人がボクに興味をもってボクに接近してきたのだ。湯佐先生は一応オカルト研究部の顧問だ。報告するしかない。……ついでに昨日の悲鳴についても聞こう。
『うわ、あいつ一人でニヤけてる』『どうせ宇宙がどうしたとかでしょ?』
 ボクの噂はどんどん広がる。最初は『変なやつがいる』だった。今となっては『アダプタが欲しい2年がいる』だ。この『アダプタ』は宇宙人と接触して誘拐されたことを指す『アブダクション』が間違えられて広まったのだ。その間違いを毎回正すのは疲れた。
 ――疲れた。何もかも疲れた。
 そうだ、ただの疲労だ。体が動かない。ここまで疲れたことはない。
 もう、いい。流れに身を任せよう。
 何か頭がすごく痛む。なんだろうこの痛み。まるで頭の中を五寸釘で打たれてる気分だ。……そんなことされたら即死だな。さすが宇宙人……。ボクもアブダクションされてこの世から消されるのか……。
 チャイムが鳴った。頭の中ではない。現実でなったのだ。
 宇宙人に殺されるなら本望だ……。
 ――ぬるいコーヒーは要らないと答えるんだ!!
 ラーメンの声がした気がした。
 再び目の前にはカップに乗ったコーヒーだけがある。不思議なことにカップとコーヒー以外に何もない。そうだ、無の空間にカップとコーヒーだけがある。この世界に存在するのがボクとこのコーヒーだけのようだ。
 『ぬるいコーヒーはいかが?』
 どこからか再びこの言葉が聞こえた。さっきラーメンの声で聞こえたし、元々ボクはぬるいコーヒーが嫌いだ。
 答えは決まっている。
『要らない』
 しかし、声の主は諦めない。ずっと『ぬるいコーヒーはいかが?』を連呼してくる。昨日、ラーメンから聞いた話ではこれに『いる』と答えるとぬるいコーヒーの飲みすぎによって引き起こるカフェイン中毒で死んでしまうらしい。
『ぬるいコーヒーなんて邪道だ。熱々かキンキンに冷えたのしか勝たん』
 無の空間にボクは叫んだ。その返事に声の主は満足したのかカップとコーヒーは消えた。目の前に広がるのは数学の授業中の風景だった。
 ノートに書かれていたのは『ぬるいコーヒーは邪道』だった。