「よっす」
私は背後から息を殺して幼なじみの肩をバシッと叩く。
オーバーなくらいに驚いたリアクションを見せつつも、ぷっくりふくれっ面がこちらに向き直った。
「びっくりしたぁ。リナか。何よ、もう」
相変わらず可愛い顔をしているものだ。
そこはかとなく嫉妬を覚えなくもない。
「いやぁ、今日で卒業だなぁ、って思ってさ」
「ソレ何の返事にもなってないけど?」
「感慨深いってことよ。カリンにこんなことができるのもね」
そうだ、今日は高校卒業式の日。小学生の頃からの長い付き合いだったカリンともお別れということになる。
それぞれ進学先も違うし、カリンに至っては上京してしまう。私なんかよりもとびきり頭のいいカリンだからこそ行けたレベルの高い大学だ。
「ああ、まあ、そうね」
ぶっきらぼうな感じで返された。
「辛気くさい顔はなしにしてよ。あっはは」
私はできるだけ明るく振る舞ってみせる。
それこそ、いつも通り、今まで通りに。
校門が視界に入る。並んで歩いて、桜並木が驚くほどキレイに見えた。
こんなにも暖かくて心地の良い日なんだから、湿っぽくするわけにはいかない。
こうやって、カリンと並んで歩けるのも今日で最後。
今生の別れなんかじゃないはずだ。でも。それでも。私の胸の内には変なものがつっかかってしまっている。
もしも、もしもだ。
私がもう少し頭の出来がよかったのなら。
私にもっともっと振り絞れる勇気があったのなら。
私は、まだ隣を歩けたのかもしれない。そんなことを、何度も考えた。
「ねえ、リナ。ラインくれればいいんだからさ。写真でも動画でも送ってよ」
ふと押し黙ってしまっていた私に、カリンがスマホをちらつかせて見せる。
そうだよね。こういうのもあるんだから、決して長い別れなんかじゃない。
「うん、そうする。カリンも向こうが大変そうなら悲鳴でも頂戴な」
「悲鳴って何よ、悲鳴って。あははは」
私はきっと、笑えていたはずだ。この満開の桜のように笑ってみせたはずだ。
だって、カリンも笑い返してくれたのだから。
頬が熱くなっているような気がするけれども、きっと陽気のせい。
この胸の内にある感情は何と例えたらいいのやら。
恋でも、愛でもない、そんなはずはない、「 」な感情だ。