あたしはカトレア。28才。と言ってもあの華やかなお花じゃないの。SNS上の名前ね。素性は隠してる。一人暮らしの女性だしさ、きょうび色々あるじゃん? だから慎重に。
そのSNSはあるロックバンドのファンが主に集うサイトなの。
『ヴォーカルさんと握手した~』って写真を載せる子もいるし、『次のどこどこのライブ、一緒に参戦しませんか?』と募る人もいる。
『アンケート機能を使って、どの曲が好きかベスト10』を出す人もいてみんな盛り上がってる。
あたしには、そのファンの仲間たちの中で、すっごくおしゃべりする女性が居る。ネット上でね。その子のダイレクトメールだけには特別に返信するよ。
彼女のハンドルネームは、『ロックバタフライ』。ステキなハンドルネームを持つ彼女は27才。長いからさ、あたしは『ロバタちゃん』って呼んでるんだ。
ロバタちゃんは、バンドのメンバー4人のイラストをよく描いてサイトに載せるんだけど、その絵がとっても美しいんだよね。躍動的でカッコいい! 超絶絵が旨いの。プロ? っていうぐらい。
ロバタちゃんとあたしはDMで『今度一緒にライブ、行きたいね!』と話してる。
あたし・カトレアとロバタちゃんがそこまで仲良くなったのにはいきさつがあるんだ。
ロバタちゃんのイラストに魅了されたあたしが、そのイラストをイメージしながらポエムを書いてサイトに載せたの。
うん、バンドが演奏している曲の歌詞とかではなく、あたしがロバタちゃんの絵を見て感じる言葉を紡いでみたんだよ。そしたらロバタちゃんがすっごく喜んでくれたんだ。
それから友達になった。
ロバタちゃんはネイルが趣味で、長い爪にお花や蝶々を|描《えが》くのね。サイトに写真をよく載せている。
あたしは不器用だから凝ったネイルはしたことが無い。『今度やって欲しいな~』とロバタちゃんに言うと、『良いよ!』と二つ返事。
そんなこんなでロバタちゃん『次の下北でのライブへ行くよ! 一緒にライブ参戦しない? カトレアちゃん』とDMが来た。
嬉しいな! あたしは人づきあいが下手で友達が居ないんだ。だからこうして声を掛けられて嬉しい。
聞くとロバタちゃんは大阪からわざわざ来るという! 大阪の子だったんだー。あたしはずっと東京暮らし。
DMで『ロバタちゃん、本当に大丈夫? あたし駅まで迎えに行くよ』と言ったんだけど、彼女は『ううん、ライブハウスが分かるから大丈夫。到着したらお互いDMしあお』と返してきた。『オッケー! わかった』
ライブ当日、あたしは長年履いている皮パンにライダースジャケット、中はガーゼシャツという、もろPUNKファッションで、長い黒髪は下ろして行った。
『あたしはロリータファッションで行くよ!』とロバタちゃんは言っていた。
互いに派手派手だからすぐわかるだろうな! とあたしはスマホを見ながらクスッとした。
会場に着いた。あ! アイドルみたいにピンクと白のフリフリフリルのミニのワンピにブラックのおでこ靴、金髪をツインテールしたスマートですっごく背の高い女性の後ろ姿が見えた。
(ロバタちゃんだな?! だってほかにそんな目立つ格好の人いないもん)
あたしは彼女に近づいて行った。
そして後ろから明るくお声がけした「ロバタちゃんですか?」
パッと彼女が振り返った。綺麗な顔立ち。
「ええそうよ!」
「……。」(声が……男? ロバタちゃん、女装好きの男性なのかな? それとも心がすっかり女性なのかな?)
複雑なあたしの表情を見て取ったロバタちゃんが言った。
「ごめんなさいね、なんか騙したみたいで……。あたしは、もともと男性に生まれたんだよ。でも……この通り!」
と、彼女は両手を広げて笑ってみせた。ちょっぴり心配そうな表情をしている。
あたしは……ロバタちゃんにひと目惚れしてしまった。自分の中に男性が居るのか? はたまた同性愛に目覚めたのか、いったい何なのかはわからないけれど、彼女をたまらなく愛おしいと感じた。
それが『友情』ではなく『恋』だと自分ですぐに判った。
ロバタちゃんは『もともと男性だったんだけど』と確かに言った。だから『女性』なのね。あたしには興味持ってくれないかな。
あたしのママは夜のお商売をやっていて、お客さんに性転換した人も何人かいらしてたんだよね。だから、偏見とかぜんぜんないの。
ライブは大盛り上がり。めちゃロバタちゃんと二人踊りまくって、あたし、ステージに上がりダイブまでやっちゃった。
「楽しかったね! カトレアちゃん」
「うんっ、サ~イコー!!」
ロバタちゃんはこの後ビジネスホテルに帰り一泊し、明日の朝大阪へ帰ると言う。
なんだか名残惜しいな。てか、あたし……ひと目惚れして、こんなに彼女のこと好きになっちゃうだなんて。
駅までの道の途中、ロバタちゃんが手を繋いできた。
「カトレアちゃん、一緒の気持ちだよ。あたしは……なんだろ、これまで男性しか愛せなかったんだけど、あなたを好きになっちゃったみたい。不思議」
あたし、とってもホッとした。そして! 幸せであったかい気持ちが胸いっぱいに広がる。
「ロバタちゃん、あたしの気持ち見抜いていたのね?」
「うん、会った時にすぐわかっちゃった」
「そうだったのね。あたしはね、ロバタちゃん……ロバタちゃんが男性になってもきっと好きよ。性別は何でも構わないわ。あなたという人が恋しい。好きなの」
「嬉しいよ、カトレアちゃん。また会おうね!」
「うん」
あたし達は電話番号を交換し、駅でお別れした。
夜空を見上げると満月近いふっくらとしたお月様が、ちょぴり|紅色《べにいろ》していた。
お月さま? あたし達のラブラブっぷりに恥ずかしくなったの?