廃棄場に捨てられていたミッテを拾ってきたのはマゴ爺だが、おそらくミッテの過去など知らなかっただろう。アリシアと同じ植物研究所の同僚だったとは考えたこともないに違いない。
もしこれが運命の成せる技なら、出会ったことをお互いの幸福につなげたかった。ネオははやる気持ちを抑えながら声を絞り出した。
「ミッテ、私のお母さんは……」
生きている、と言ってほしかった。しかしミッテはある一つの扉の前で足を止め、慎重に述べた。
「残念ながら君の母親は亡くなった。しかし、どうしても見せたいものがあるんだ」
灰色の扉を開けると真っ暗だった小部屋にスポットライトが灯り、真ん中にあるガラスケースを照らし出す。そこには瑠璃色の花が一輪飾られていた。何枚もの衣を重ねたかのような花弁が印象的な美しい花だ。
「かつて地上に咲いていたバラという花を改良したものだ」
「人を食べるんでしょ? どうしてまだここにあるの?」
ミッテは顎の辺りを撫でながら花を見つめている。人間だった時には髭をたくわえていたのかもしれない。彼は静かに答えた。
「おそらくだが、上の者はまだこの実験をあきらめていないのだろう。だから増殖実験前……事故が起きる少し前に、研究の責任者だったアリシアの肉体に種を蒔いたのだと思う」
「種を……蒔いた?」
「この花は人間の肉体を苗床にして咲く恐ろしい花なんだ。今おとなしいのは、単体では人を襲うことがないから。しかしこんな花は作り出してはいけなかった。俺たちは道を誤ってしまったんだ」
ガラスケースにはプレートが掲げられていた。学んだ者にしか解読することのできない異国の文言が刻まれている。ネオは瞳を見開きながらミッテに問いかけた。
「これはこの花の名前?」
「ああ。アリシアが名付けたんだ」
「アナタサエイナケレバ……」
ネオが難なく読んだ瞬間、封印していたおぞましい記憶がフラッシュバックした。
研究所内で私生児として産まれたネオ。アリシアにとっては出世の邪魔になる疎ましい存在でしかなかった。だからアリシアは、あえて誰も知らないであろう遠方の国の言葉を用いてネオを精神的に追い詰めたのだ。
アナタサエイナケレバ。そう書きながらつぶやいた後、アリシアはいつも小声でこうささやいた。「どこかに消えてしまいなさい、という意味よ」と。