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「たくさんの人が原因不明の理由で消えたなんておかしいでしょう。いざとなったらミッテは一人で逃げてね」

「案外、人食い植物に全滅させられていたりして」

「なにそれ、笑えない」

「ありえなくはないだろ。植物の研究をしていたんだから」

 倉庫街を抜けると農地だった。頭を垂れた銀色の穀物――クリーテが延々と広がっている。元は地上で採取された穀物種で、地下でも育つよう改良されたものだ。育成環境を問わないことから短期間で全世界に普及したクリーテは、発表した研究所の代名詞となり、所在地は街名として転用されることになった。それがこの街だった。

「噂には聞いていたけど、これだけあると圧巻だね」

 ネオは深く感銘を受けながらつぶやいたが、辺りを注意深く探っていたミッテが急に横道に逸れて大声を上げた。

「ネオ、こっちだ!」

「なにか見つけたの?」

 よくわからないが、朝になれば地元の人々が収穫にやってくるだろうことを考えると、ミッテの勘に頼るのも悪くない。ネオは素直に従うことにする。

 声のした方へ近寄ったが、説明されなくても気づいた。長方形の穴が地面にぽっかりと口を開けており、地下へと続く階段が作られているのだ。

「なんだろう。穀物の貯蔵庫?」

「クリーテ研究所の入口だ。おぼろげだったが、ここに立ってようやくはっきり思い出した」

「やだな、ミッテったら。まるで知ってるみたいな言い方して」

「ここは俺とアリシアの職場だったんだ」

「ミッテとお母さんの!?」

「ああ。詳しいことは下で話そう。ついてきてくれ」

 ミッテが冗談を言っているようには見えない。ネオはわかった、と答えて懐中電灯を取り出した。

 階段を降りると一度平坦な場所に着き、ふたたび昇り階段で上に向かった。それを何度か繰り返すと、ようやく雰囲気の異なる広い空間に出た。
 生体反応を感知し、自動で照明が点灯する。厚いガラス窓の向こう側には今でも人々が行き来していそうな清潔なロビーがあった。一番近い壁にはモニターが埋め込まれている。ミッテがそこで暗証番号を手入力すると、人が一人通過できるほどの切り込みが壁に浮き上がり、横にスライドした。

 薄暗く細長い通路は両側に続いている。右側に入ったミッテの後にネオが続くと、彼はおもむろに口火を切った。

「俺たちはここで食用になる花を研究していたんだ」

 地下世界には花がない。過去データから、かつて地上にあったであろう花というものが存在していたことを知っているだけだ。

「その食用花を研究する最終過程で実験に失敗し、逆に食べられてしまったというわけだ」

 ミッテは面白半分にネオをからかったわけではなかったらしい。実際に起きた出来事を語っていたのだ。

「ミッテはどうしてロボットに?」

「事故の後、命からがら逃げ延びたはいいが、捕まって記憶だけ取り出された。肉体はボロ雑巾同然だったし、おおかた上の者の指示のもと、次の新しい実験に取りかからせるつもりだったんだろう。都合のいい記憶を後付けしたことでエラーが多発したからポイ捨てしたようだが」

「ひどい……」

「仕方がない。それも運命だ。俺には上の者が考えていることは理解できないし、しようとも思わない。案の定、消去したはずの記憶データは徐々にだが戻ってしまったし、事故後処理のツメも甘いしな」

 ネオはミッテが口にした運命について思いを馳せる。


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「たくさんの人が原因不明の理由で消えたなんておかしいでしょう。いざとなったらミッテは一人で逃げてね」
「案外、人食い植物に全滅させられていたりして」
「なにそれ、笑えない」
「ありえなくはないだろ。植物の研究をしていたんだから」
 倉庫街を抜けると農地だった。頭を垂れた銀色の穀物――クリーテが延々と広がっている。元は地上で採取された穀物種で、地下でも育つよう改良されたものだ。育成環境を問わないことから短期間で全世界に普及したクリーテは、発表した研究所の代名詞となり、所在地は街名として転用されることになった。それがこの街だった。
「噂には聞いていたけど、これだけあると圧巻だね」
 ネオは深く感銘を受けながらつぶやいたが、辺りを注意深く探っていたミッテが急に横道に逸れて大声を上げた。
「ネオ、こっちだ!」
「なにか見つけたの?」
 よくわからないが、朝になれば地元の人々が収穫にやってくるだろうことを考えると、ミッテの勘に頼るのも悪くない。ネオは素直に従うことにする。
 声のした方へ近寄ったが、説明されなくても気づいた。長方形の穴が地面にぽっかりと口を開けており、地下へと続く階段が作られているのだ。
「なんだろう。穀物の貯蔵庫?」
「クリーテ研究所の入口だ。おぼろげだったが、ここに立ってようやくはっきり思い出した」
「やだな、ミッテったら。まるで知ってるみたいな言い方して」
「ここは俺とアリシアの職場だったんだ」
「ミッテとお母さんの!?」
「ああ。詳しいことは下で話そう。ついてきてくれ」
 ミッテが冗談を言っているようには見えない。ネオはわかった、と答えて懐中電灯を取り出した。
 階段を降りると一度平坦な場所に着き、ふたたび昇り階段で上に向かった。それを何度か繰り返すと、ようやく雰囲気の異なる広い空間に出た。
 生体反応を感知し、自動で照明が点灯する。厚いガラス窓の向こう側には今でも人々が行き来していそうな清潔なロビーがあった。一番近い壁にはモニターが埋め込まれている。ミッテがそこで暗証番号を手入力すると、人が一人通過できるほどの切り込みが壁に浮き上がり、横にスライドした。
 薄暗く細長い通路は両側に続いている。右側に入ったミッテの後にネオが続くと、彼はおもむろに口火を切った。
「俺たちはここで食用になる花を研究していたんだ」
 地下世界には花がない。過去データから、かつて地上にあったであろう花というものが存在していたことを知っているだけだ。
「その食用花を研究する最終過程で実験に失敗し、逆に食べられてしまったというわけだ」
 ミッテは面白半分にネオをからかったわけではなかったらしい。実際に起きた出来事を語っていたのだ。
「ミッテはどうしてロボットに?」
「事故の後、命からがら逃げ延びたはいいが、捕まって記憶だけ取り出された。肉体はボロ雑巾同然だったし、おおかた上の者の指示のもと、次の新しい実験に取りかからせるつもりだったんだろう。都合のいい記憶を後付けしたことでエラーが多発したからポイ捨てしたようだが」
「ひどい……」
「仕方がない。それも運命だ。俺には上の者が考えていることは理解できないし、しようとも思わない。案の定、消去したはずの記憶データは徐々にだが戻ってしまったし、事故後処理のツメも甘いしな」
 ネオはミッテが口にした運命について思いを馳せる。