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 ネオは浅い夢のなかでアリシアに会った。暗い通路を歩きながら他愛もない話で盛り上がるのだが、やがて遠縁にあたるマゴ爺にネオを引き合わせると、アリシアはこう言うのだ。必ず迎えに来るから待ってて、と。

 実際には、その約束が叶えられることはなかった。マゴ爺からアリシアが行方不明になったことを聞かされたのは、彼が余命いくばくもない病に倒れた時のこと。地上植物を研究する施設で原因不明の事故があり、そこにいた研究所員全員の生死が不明なのだと言う。そのなかにアリシアも含まれていたらしい。

 マゴ爺は研究所の名前を打ち明ける前に亡くなった。そしてネオがどれだけ時間と手間をかけて調べても、なぜかその事故についての詳細な情報を手に入れることはできなかった。まるで雲をつかむかのように、研究所そのものが存在していた痕跡すら見つけられなかったのだ。

 しかしネオはあきらめたわけじゃない。必ず手がかりを見つけ出すつもりでいる。母は生きていると信じている。

 ネオはしばらく夢と現の境をさまよっていたが、もう一度目をつむる気にはなれず、半身を起こした。

 人口月の白い光が妖しげに周囲を照らしている。遠方からは夜啼鳥の声。ネオが視線を向けると、すぐそばに降り立った夜啼鳥が、慣れた様子で地面を何度か足踏みした。そしてまたどこへともなく飛び去った。

「ここから南に二キロか……」

 ネオは高揚しながら顔を上げる。ミッテが眠っている今のうちに出かけてしまおう。なにが起きるかわからないのにミッテを連れていくのはためらわれるし、ひとまず様子を見に行くだけなら、心配をかけずに済むはずだ。

 ミッテが話しかけてきたのは、ネオが足音を忍ばせて離れようとした、まさにその時のことだった。

「あの鳥が接触してくると、いつもこっそり出かけるんだな。今夜で十三回目だ」

「え、ああ、うん……」

「ちなみに俺たちは三年一ヶ月六時間二十三、二十四……」

「時報並みに教えてくれなくていいってば!」

「あの鳥の正体を教えろ。さもなくば俺は今ここで近所迷惑な大声を上げるぞ」

 倉庫街には夜通し働く人々もいる。喧嘩だと思われたら厄介だ。ネオは潔く観念した。

「あの鳥は情報屋の伝達ロボットなの。私を生体認識して飛んできてくれるんだ」

「なんの情報を提供してもらっているんだ?」

「現存、廃業問わず、地上植物研究所がある場所」

「行方不明になった母親を探しているんだな。金が必要なのも、最先端の情報屋を雇っているからだったのか。そういうことなら俺も連れて行け」

 何度となくミッテには妙に人間くさい部分があると感じたことはあったが、今以上にしつこく食い下がったことはない。彼には保護者プログラムが組み込まれていたのだろうかとネオは困惑する。

「旅に同行してもらったのは、マゴ爺が亡くなって、私があなたを引き取るしかなかったからだよ。だからって危険なところまで付き合わせたくないの」

「それなら余計に俺がいたほうがいい」

 不毛な言い争いだ。絶対に折れたくなかったが、ここはネオが引き下がるしかなさそうだった。

 無言で荷物をまとめ、移動の準備を整える。ミッテはそれを同行許可の合図と受け止めた。


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 ネオは浅い夢のなかでアリシアに会った。暗い通路を歩きながら他愛もない話で盛り上がるのだが、やがて遠縁にあたるマゴ爺にネオを引き合わせると、アリシアはこう言うのだ。必ず迎えに来るから待ってて、と。
 実際には、その約束が叶えられることはなかった。マゴ爺からアリシアが行方不明になったことを聞かされたのは、彼が余命いくばくもない病に倒れた時のこと。地上植物を研究する施設で原因不明の事故があり、そこにいた研究所員全員の生死が不明なのだと言う。そのなかにアリシアも含まれていたらしい。
 マゴ爺は研究所の名前を打ち明ける前に亡くなった。そしてネオがどれだけ時間と手間をかけて調べても、なぜかその事故についての詳細な情報を手に入れることはできなかった。まるで雲をつかむかのように、研究所そのものが存在していた痕跡すら見つけられなかったのだ。
 しかしネオはあきらめたわけじゃない。必ず手がかりを見つけ出すつもりでいる。母は生きていると信じている。
 ネオはしばらく夢と現の境をさまよっていたが、もう一度目をつむる気にはなれず、半身を起こした。
 人口月の白い光が妖しげに周囲を照らしている。遠方からは夜啼鳥の声。ネオが視線を向けると、すぐそばに降り立った夜啼鳥が、慣れた様子で地面を何度か足踏みした。そしてまたどこへともなく飛び去った。
「ここから南に二キロか……」
 ネオは高揚しながら顔を上げる。ミッテが眠っている今のうちに出かけてしまおう。なにが起きるかわからないのにミッテを連れていくのはためらわれるし、ひとまず様子を見に行くだけなら、心配をかけずに済むはずだ。
 ミッテが話しかけてきたのは、ネオが足音を忍ばせて離れようとした、まさにその時のことだった。
「あの鳥が接触してくると、いつもこっそり出かけるんだな。今夜で十三回目だ」
「え、ああ、うん……」
「ちなみに俺たちは三年一ヶ月六時間二十三、二十四……」
「時報並みに教えてくれなくていいってば!」
「あの鳥の正体を教えろ。さもなくば俺は今ここで近所迷惑な大声を上げるぞ」
 倉庫街には夜通し働く人々もいる。喧嘩だと思われたら厄介だ。ネオは潔く観念した。
「あの鳥は情報屋の伝達ロボットなの。私を生体認識して飛んできてくれるんだ」
「なんの情報を提供してもらっているんだ?」
「現存、廃業問わず、地上植物研究所がある場所」
「行方不明になった母親を探しているんだな。金が必要なのも、最先端の情報屋を雇っているからだったのか。そういうことなら俺も連れて行け」
 何度となくミッテには妙に人間くさい部分があると感じたことはあったが、今以上にしつこく食い下がったことはない。彼には保護者プログラムが組み込まれていたのだろうかとネオは困惑する。
「旅に同行してもらったのは、マゴ爺が亡くなって、私があなたを引き取るしかなかったからだよ。だからって危険なところまで付き合わせたくないの」
「それなら余計に俺がいたほうがいい」
 不毛な言い争いだ。絶対に折れたくなかったが、ここはネオが引き下がるしかなさそうだった。
 無言で荷物をまとめ、移動の準備を整える。ミッテはそれを同行許可の合図と受け止めた。