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甘い宇宙の一欠片

ー/ー



いい仕事には、質のいい休憩が必要である。

これは所長の持論だが、俺達はその有り難い教えを遵守している。
安田がコーヒー豆をミルで挽き始めると、その香りに釣られて俺達はわらわらと休憩スペースに集まる。

「え?!何これ?!スゲー!誰、買ってきたの?!」

野木が素頓狂な声を上げた。
テーブルを覗くと、そこには宇宙が一欠片。
とても綺麗だ。

「良いでしょ?!これ!」

嶋さんが得意げにそう言った。
彼女はこういった小洒落たお菓子をたまに買ってきてくれる。
それもまたこの時間の楽しみの一つだ。

「……錦玉?」

俺が聞くと嶋さんは笑って頷く。
豆を挽き終えた安田がそれを覗き込み、へぇ、と感嘆した。

「錦玉って、何?」

しかし一人、野木だけが珍紛漢な言葉を聞いたとばかりに眉を顰めている。
それに苦笑いしながら俺は嶋さんの隣に座り、空き箱の成分表示などを見る。

「琥珀糖って言えばわかりやすいかな?」
「琥珀糖?」
「もう!食べてみればわかるわよ!」

嶋さんはそう言うと、宇宙を小さく切り分けた。
そしてお試しとばかりに爪楊枝に刺して野木に差し出す。
部屋にはドリップし始めたコーヒーの良い香りがしていた。

「あ!ばーちゃんちにある常温のゼリー菓子!」
「お前なぁ……。」

確かに同じ物ではあるがその言い方はどうなんだ?
少しヒヤッとしたが、嶋さんが野木の返しに爆笑しているので大丈夫だろう。
悪い奴ではないんだが……。
カップの並ぶトレーを手に、こちらに来た安田が俺の顔を見て小さく肩を竦める。

「綺麗だね。」
「ありがとう。一目惚れしちゃってさ。」

コーヒーを配りながら安田がそう言った。
その言葉に嬉しそうに微笑み、嶋さんは錦玉を切り分けていく。
その様子を俺達はじっと見つめていた。

綺麗な宇宙の一欠片。

最近話題になっている和菓子だ。
深みのある蒼のコントラスト。
細かな気泡が星のように瞬き、まるで夜空か宇宙を切り取ったように見える。

それが切り分けられて皆の前に置かれた。
全員が食べる前にそれを様々な角度から眺める。

「スゲー……綺麗……。」

野木は食べないのかと聞きたくなるほど、いつまでもキラキラした目でそれを見ていた。
俺達は顔を見合わせて小さく笑う。
ちゃんと知ってる。
野木は悪い奴ではない。
そんなにも無垢に喜んでもらえるなら、買ってきた方も嬉しいものだ。

「そう言えば惑星チョコレートってのもあるよな?」
「知ってる。あれも綺麗だね。」
「ちなみに行けるならどの惑星に行きたい?」
「俺は地球から出たくない。」
「月ぐらいなら行っても良いかな。」
「惑星って言ってんでしょ?!」
「はいはい!俺は冥王星!」
「それも惑星に入らない!」

見事なオチに皆が笑った。
こんな何でもない話がリラックスさせてくれる。

「でも冥王星に行くのは難しい話だな。」
「どうやったら行けるか……。」
「色々課題はあるけど、まずは燃料じゃない?」
「途中に補給所ができれば可能?」
「補給所までどうやって燃料運ぶんだよ?」
「一気に行こうとするから難しいんじゃないか?燃料も無駄に使うし。」
「どういう事?」
「こういうのって進めば進むほどエネルギー効率が悪くなるんだろ?水の中を進むみたいな?初めに壁を蹴り出した時は、無駄なくそのエネルギーでドンッて進む。でも進めば進むだけ水の抵抗を受けて減速する。それを補う為にさらに燃料が使われていくのは、悪循環な気がする。」
「なるほど?」
「なら!そのドンッて壁を蹴るのを繰り返せば、少しは楽に行けんじゃね?」
「……どうやって?」
「ん~?先に板みたいなのを飛ばしておく!で!その場に来たらそれを使って進む!」
「宇宙空間でそれができるとでも?板程度の物なら、逆に足場を動かす方に力が持ってかれて足場が吹っ飛んでくだろ?」
「でも考えは悪くなくない?そこに無駄はあるんだろうし。ただそれなりの質量がある物体で行わないと無意味ってだけで。」
「ん~、となると他惑星の衛星とかぐらいがいいのかな?」
「冥王星に行くまでに、あっちこっちに寄りながら行く事になるな?」
継ぎ接ぎ(パッチワーク)に?」
「そ、継ぎ接ぎ(パッチワーク)的に。」
「ていうか、そうなると冥王星に行くまでに何年かかるんだよ……。」

野木がそんな情けない声を出す。
俺達は顔を見合わせてプッと吹いた。

「コールドスリープ的な技術ができない限り、野木は死ぬな。」
「何世代かかけてってところじゃないか?」
「良かったね!孫か曽孫が代わりに到着するよ!」

そう言った俺達に野木はブスッと口を尖らす。
そして言った。

「……俺の方の継ぎ接ぎ(パッチワーク)が、うまく繋がるかわからないだろ?!」

一瞬、何を言われたのかわからずキョトンとする。
しかし次の瞬間、どっと笑ってしまった。

「あはは!ヤダ!何それ?!」
「でもそうだな?まずはそこを繋げないと。」
「俺が繋いでも次がわからないだろ?!」

必死になる野木。
皆が笑う。

楽しい休憩時間。

テーブルの上には小さな宇宙。
その一欠片は優しい甘さで俺達を楽しませてくれた。


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いい仕事には、質のいい休憩が必要である。
これは所長の持論だが、俺達はその有り難い教えを遵守している。
安田がコーヒー豆をミルで挽き始めると、その香りに釣られて俺達はわらわらと休憩スペースに集まる。
「え?!何これ?!スゲー!誰、買ってきたの?!」
野木が素頓狂な声を上げた。
テーブルを覗くと、そこには宇宙が一欠片。
とても綺麗だ。
「良いでしょ?!これ!」
嶋さんが得意げにそう言った。
彼女はこういった小洒落たお菓子をたまに買ってきてくれる。
それもまたこの時間の楽しみの一つだ。
「……錦玉?」
俺が聞くと嶋さんは笑って頷く。
豆を挽き終えた安田がそれを覗き込み、へぇ、と感嘆した。
「錦玉って、何?」
しかし一人、野木だけが珍紛漢な言葉を聞いたとばかりに眉を顰めている。
それに苦笑いしながら俺は嶋さんの隣に座り、空き箱の成分表示などを見る。
「琥珀糖って言えばわかりやすいかな?」
「琥珀糖?」
「もう!食べてみればわかるわよ!」
嶋さんはそう言うと、宇宙を小さく切り分けた。
そしてお試しとばかりに爪楊枝に刺して野木に差し出す。
部屋にはドリップし始めたコーヒーの良い香りがしていた。
「あ!ばーちゃんちにある常温のゼリー菓子!」
「お前なぁ……。」
確かに同じ物ではあるがその言い方はどうなんだ?
少しヒヤッとしたが、嶋さんが野木の返しに爆笑しているので大丈夫だろう。
悪い奴ではないんだが……。
カップの並ぶトレーを手に、こちらに来た安田が俺の顔を見て小さく肩を竦める。
「綺麗だね。」
「ありがとう。一目惚れしちゃってさ。」
コーヒーを配りながら安田がそう言った。
その言葉に嬉しそうに微笑み、嶋さんは錦玉を切り分けていく。
その様子を俺達はじっと見つめていた。
綺麗な宇宙の一欠片。
最近話題になっている和菓子だ。
深みのある蒼のコントラスト。
細かな気泡が星のように瞬き、まるで夜空か宇宙を切り取ったように見える。
それが切り分けられて皆の前に置かれた。
全員が食べる前にそれを様々な角度から眺める。
「スゲー……綺麗……。」
野木は食べないのかと聞きたくなるほど、いつまでもキラキラした目でそれを見ていた。
俺達は顔を見合わせて小さく笑う。
ちゃんと知ってる。
野木は悪い奴ではない。
そんなにも無垢に喜んでもらえるなら、買ってきた方も嬉しいものだ。
「そう言えば惑星チョコレートってのもあるよな?」
「知ってる。あれも綺麗だね。」
「ちなみに行けるならどの惑星に行きたい?」
「俺は地球から出たくない。」
「月ぐらいなら行っても良いかな。」
「惑星って言ってんでしょ?!」
「はいはい!俺は冥王星!」
「それも惑星に入らない!」
見事なオチに皆が笑った。
こんな何でもない話がリラックスさせてくれる。
「でも冥王星に行くのは難しい話だな。」
「どうやったら行けるか……。」
「色々課題はあるけど、まずは燃料じゃない?」
「途中に補給所ができれば可能?」
「補給所までどうやって燃料運ぶんだよ?」
「一気に行こうとするから難しいんじゃないか?燃料も無駄に使うし。」
「どういう事?」
「こういうのって進めば進むほどエネルギー効率が悪くなるんだろ?水の中を進むみたいな?初めに壁を蹴り出した時は、無駄なくそのエネルギーでドンッて進む。でも進めば進むだけ水の抵抗を受けて減速する。それを補う為にさらに燃料が使われていくのは、悪循環な気がする。」
「なるほど?」
「なら!そのドンッて壁を蹴るのを繰り返せば、少しは楽に行けんじゃね?」
「……どうやって?」
「ん~?先に板みたいなのを飛ばしておく!で!その場に来たらそれを使って進む!」
「宇宙空間でそれができるとでも?板程度の物なら、逆に足場を動かす方に力が持ってかれて足場が吹っ飛んでくだろ?」
「でも考えは悪くなくない?そこに無駄はあるんだろうし。ただそれなりの質量がある物体で行わないと無意味ってだけで。」
「ん~、となると他惑星の衛星とかぐらいがいいのかな?」
「冥王星に行くまでに、あっちこっちに寄りながら行く事になるな?」
「|継ぎ接ぎ《パッチワーク》に?」
「そ、|継ぎ接ぎ《パッチワーク》的に。」
「ていうか、そうなると冥王星に行くまでに何年かかるんだよ……。」
野木がそんな情けない声を出す。
俺達は顔を見合わせてプッと吹いた。
「コールドスリープ的な技術ができない限り、野木は死ぬな。」
「何世代かかけてってところじゃないか?」
「良かったね!孫か曽孫が代わりに到着するよ!」
そう言った俺達に野木はブスッと口を尖らす。
そして言った。
「……俺の方の|継ぎ接ぎ《パッチワーク》が、うまく繋がるかわからないだろ?!」
一瞬、何を言われたのかわからずキョトンとする。
しかし次の瞬間、どっと笑ってしまった。
「あはは!ヤダ!何それ?!」
「でもそうだな?まずはそこを繋げないと。」
「俺が繋いでも次がわからないだろ?!」
必死になる野木。
皆が笑う。
楽しい休憩時間。
テーブルの上には小さな宇宙。
その一欠片は優しい甘さで俺達を楽しませてくれた。