「一周回ってお前の事、嫌いじゃない。」
同窓会。友人たちと盛り上がる中、いきなりそう声をかけてきたのは橋立だった。一瞬、何を言われたのかわからない。飲みながら談笑していた旧友たちも同じで、それまで笑いが絶えなかった会話がピタリと止まり、全員が唖然と橋立を見つめていた。
「……は?」
「だからお前の事、嫌いじゃない。」
訳がわからず俺はチラリと隣の富田の顔を見る。富田も訳わからんと小さく肩を竦めた。
「そりゃどうも……。」
真顔の橋立に苦笑いしてそう答える。悪友の山里と荒木田が面白がってニヤニヤしていた。
「向こうで話せないか?」
「……は?」
橋立は淡々とそう言った。いきなりの展開に何とかしろと皆に視線を送るが、悪ノリした山里・荒木田が俺の背中を無理やり押してくる。
「行ってこい!城垣!」
「さすがは同窓会!予想の斜め上を行く!」
「やめろ?!俺は行くなんて一言もっ?!」
「いいからいいから!俺らそういうの偏見ないし~!」
何となくどういう意味でからかわれているのか理解した。冗談じゃないぞと橋立を見るが、相変わらず真顔で突っ立っている。
「……それってここだと話せないのか?橋立?」
そこでやっと助け舟が来る。さすが持つべきものはかつての親友。冷静に富田が話を振ってくれた。橋立の話が何かはわからないが俺もそれに同調する。
「そうそう、ここで話せばいいだろ?」
「……構わないが……。それだと城垣が困るかと……。」
場が凍る。何なんだ?俺が皆の前で話されたら困る事って?!思わず青ざめる俺。ワクテカ顔の山里&荒木田。
そんな中、動揺する俺の肩をポンッと誰かが叩いた。振り向けば富田だった。思わずほっと息を吐き出す。
「行ってこいよ。城垣。」
「……え?ええ?!」
味方だった筈の富田はスンとすました顔でそう言う。何がなんだかわからない。
「なら行こう、城垣。」
「え?!ちょっと?!」
そう言ってる間に俺は橋立に腕を捕まれ、連行される。不安に振り向けば、ゲラゲラと大笑いする荒木田と、報告は明日以降でいいぞ!と馬鹿な事を言っている山里。そして我関せずと言いたげに酒を飲む富田が手を振っていた。
「……う、裏切り者……。」
思わずそんな恨み言を呟かずにはおれなかった。
騒がしいパーティー会場から一転、静かなホテルのラウンジ。よくわからぬまま連れてこられてしまったが、一体何なのだろう?向かいに座る橋立は、相変わらず何を考えているのかわからない。
「……で?何?」
怪訝そうな俺の言葉にも微塵も動揺しない。本当に何で呼び出されたのかわからず会話に困る。橋立とは単にクラスメイトだっただけで、別に仲良くなかった。嫌ってたり虐めたり等はなかったつもりだが、相手がどう思っているかなんてわからないところでもある。
「……城垣、電験三種持ってるか?」
「え……あ、ああ。持ってるけど……?」
「IT系の資格は何持ってる?」
「……え?」
そして突然始まった質問。何これ?面接?訳がわからぬまま質問に答えていく。
「ふ~ん。それで、こっちにはいつ帰ってくるんだ?」
「え……?」
「……帰ってこないのか?」
「い、いや……。何で……お前がそれを……?」
俺はさっきまでとは別の意味で動揺していた。何故ならその話はまだ親以外、誰にもしていないからだ。
橋立がニッと小さく笑った。それまで真顔だった橋立がここで初めて笑った。
「ホームページアクセスして。」
名刺を差し出される。そこには会社名、橋立の名前が書かれていた。ぎょっとして橋立を見つめる。
「……借りは返したからな。」
そう言って立ち上がると橋立は会場には戻らず帰って行った。残された俺はぼんやりとそれを見送る。
「この借りはいつか必ず返す……。」
昔、まるで敵役にでも言うかのように、苦々しく言われた事がある。礼を言うならありがとうだろうがとその時は思った。
高校受験の日。最後の科目のところで、隣の席の奴がやたらとシャーペンをカチカチしていた。俺は見かねてシャーペン芯のケースを床に落とし手を上げると、近づいてきた試験官に言った。
「すみません、隣の人がそれ落としてて気になります。」
試験官は俺が落としたシャーペン芯を隣の席に置いた。
無事合格後、同じクラスになったがその事については無視していた。その時に言われたんだ。『借りは必ず返す』って。
「社長!また勝手に現場に出て!」
あれから三年。突然の会社倒産で行き場を失っていた俺は地元で再就職し、今や橋立の監視役だ。人生何が起こるかわからない。
「デスクワークより現場が好きなんだ。」
「それはこっちもです!現場には俺が足を運びますから!社長は大人しくデスクワークしてください!」
捕まえた橋立を連行する。真顔しか知らなかった橋立の顔は今はムスッと不機嫌そうだ。
「……城垣なんて嫌いだ。」
「そうですか?俺は一周回って社長の事、嫌いじゃないですけどね。」