全日本馬術ジュニア選手権、馬場馬術部門、ジュニアライダーの部が始まろうとしている。
「舞羽さん、久しぶりね!」
「月皇舞羽! 今日こそ倒す!」
会場に着くなり、いきなりの声が舞羽を捉える。一人は女性、一つは男の声だ。
舞羽が振り向くと、その男女……今度は互いに睨み合っている。
「お前は! 六道一華!!」
「あなたは! 其之方風吹!!」
振り返ったはいいが蚊帳の外のようなので、舞羽は素知らぬふりして歩を進めようとする。
「待ちなさい!」 「どこ行くんだ!」
明星学園、其之方風吹と東条高校、六道一華である。二人は舞羽に『チルドレンライダー』時代に負けている。
舞羽は当時を思い返さずとも、二人とも相当、強烈なインパクトを残してくれてある。
みんなが中学2年生で初出場したそのとき、風吹は4位だ。16歳までが同じカテゴリーで出場できるこの大会で、中学二年生の風吹が4位は立派な成績である。
しかし彼は表彰式に、大泣きした。悔しくて、大声を上げて泣いた。泣き止んで閉会した後、偶然ばったり舞羽と顔を合せてしまい、また泣いた。
「これ……使って」
舞羽の陰から差し出されたハンカチ。風吹は驚いて声を殺し、涙を拭いながら、うっすらと目を開けると……涙でぼやけた視界には、舞羽とそっくりな女の子が、はにかんでいた。
「天使だ……」
風吹には、舞羽の『奇麗な心の方』が分裂してできた、そうとしか思えなかった。