宮輿家は二代に渡って七草家に仕えるはずべき執事であった。現会長=一颯の父は瑞稀の父が今でも仕えている。そんなこともあって一颯とは幼少からの付き合いだ。
瑞稀は『執事』として父から受け継ぎ、一颯に仕えたつもりだが、一颯は執事を必要としない。
二代目として何もできないことを、親の七光りを嫌い、大学も住み込みで新聞配達をしながら奨学金で通った。洗濯、掃除、料理と家事も一通りこなしている。
だから瑞稀は自身の父と違い、七草家に泊まり込むことはしないし、一颯の『執事』ではなく会社の『秘書』として働いている。
幼いころからなんでも自信のある一颯は文武両道で王たる素質と明るさ、リーダーシップを備えており、どこに居ても円の中心にいた。
瑞稀も文は秀でていて、武は並みだった。そしてその生い立ちに従うように控えめで目立たぬよう振舞っていた。まるで一颯の陰のように。
「音色さん、いや音色。どうかな?」
「え? いや、その……」
「男と一つ同じ屋根の下ではお困りかな?」
言葉を詰まらせた音色に一颯が畳み掛ける。
「そんなことないです! いいんですか?」
「こっちがお願いしている」
「ありがとうございます!」
「包茎だから大丈夫だ……」
「それは冗談だっつーのっ!」
音色の表情が一呼吸の間に明るくなる。それはドレスに負けない笑顔。対向車のヘッドライトの明かりでさえも溶かしてしまう。