@40話
ー/ー
『賭け』は一颯が言い出したことだった。音色を拾った翌朝、パーティーのパートナー探しに困っていた瑞稀は、音色を推薦した。
初め一颯は難色を示す、当たり前だ、信頼関係も気付けていない人間に大事なパートナーが務まるはずがない。瑞稀は同情からそんなことを言い出したのかもしれない、もしかしたら特別な感情が芽生えたのかとも疑った。時間が無いから適当になった? 一颯が候補だった日和との話をぶち壊してしまったから? 瑞稀はそんないい加減なことはしない……。音色を推す瑞稀の言葉には力があった。30年来の親友であり部下としても信用しているこの男の言葉を信じるしか一颯には選択肢など無い。
瑞稀は可能性を確信していた。そして磨けばもっともっと光ることも。
そこで一颯は瑞稀に彼女を『フォーマルの席で通用する』までにできるか、賭けを持ちかけた。『それまでの金は俺が出す、できなきゃお前の負け、それまでの経費を払え』と。瑞稀が勝てば『それまでの経費分の倍を支払おう』と。
「『フォーマル』に拘らなくていい、成果が実感できればお前の勝ちだ。なぜならそれは会社の利益になる」
「かしこまりました」
話が一段落ついたのを見計らって、音色は申し訳なさそうに声を出す。
「あのう……」
「なんだい?」
笑顔を向けたのは一颯だ。音色は瑞稀の方が話易い。短い中でも過ごした時間と肩書のせいだろう。二人とも音色に友好的なのは感じている。
「今日の失敗で私は出て行かなければいけないでしょうか?」
モジモジと恥ずかしがるその愛らしさに、振り返った瑞稀と一颯は声を上げて笑う。二人とも『今日一』楽しそうだ。
「わ、笑わないでください!」
怒り『4』、恥ずかしさ『6』で赤く染めた顔をぶつける。フランス人なら間違いなく『怒った顔も素敵だよ』という場面だ。
「ごめん、ごめん。そうだよな、切実な問題だ」
「大丈夫、今日から音色さんは寝るところも、食べるものも、着るもの、仕事も困らない」
「あの部屋は自由に使ってくれて構わない、しかし条件付きだ、俺のために働いてもらう」
「あ、俺……コホン、私は社長の執事らしきこともしていますので……」
「瑞稀、もういいよ、普通に話せ」
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『賭け』は一颯が言い出したことだった。音色を拾った翌朝、パーティーのパートナー探しに困っていた瑞稀は、音色を推薦した。
初め一颯は難色を示す、当たり前だ、信頼関係も気付けていない人間に大事なパートナーが務まるはずがない。瑞稀は同情からそんなことを言い出したのかもしれない、もしかしたら特別な感情が芽生えたのかとも疑った。時間が無いから適当になった? 一颯が候補だった|日和《ひより》との話をぶち壊してしまったから? 瑞稀はそんないい加減なことはしない……。音色を推す瑞稀の言葉には力があった。30年来の親友であり部下としても信用しているこの男の言葉を信じるしか一颯には選択肢など無い。
瑞稀は可能性を確信していた。そして磨けばもっともっと光ることも。
そこで一颯は瑞稀に彼女を『フォーマルの席で通用する』までにできるか、賭けを持ちかけた。『それまでの金は俺が出す、できなきゃお前の負け、それまでの経費を払え』と。瑞稀が勝てば『それまでの経費分の倍を支払おう』と。
「『フォーマル』に拘らなくていい、成果が実感できればお前の勝ちだ。なぜならそれは会社の利益になる」
「かしこまりました」
話が一段落ついたのを見計らって、音色は申し訳なさそうに声を出す。
「あのう……」
「なんだい?」
笑顔を向けたのは一颯だ。音色は瑞稀の方が話易い。短い中でも過ごした時間と肩書のせいだろう。二人とも音色に友好的なのは感じている。
「今日の失敗で私は出て行かなければいけないでしょうか?」
モジモジと恥ずかしがるその愛らしさに、振り返った瑞稀と一颯は声を上げて笑う。二人とも『今日一』楽しそうだ。
「わ、笑わないでください!」
怒り『4』、恥ずかしさ『6』で赤く染めた顔をぶつける。フランス人なら間違いなく『怒った顔も素敵だよ』という場面だ。
「ごめん、ごめん。そうだよな、切実な問題だ」
「大丈夫、今日から|音色さん《あなた》は寝るところも、食べるものも、着るもの、仕事も困らない」
「あの部屋は自由に使ってくれて構わない、しかし条件付きだ、俺のために働いてもらう」
「あ、俺……コホン、私は社長の執事らしきこともしていますので……」
「瑞稀、もういいよ、普通に話せ」