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第13話_迷い人

ー/ー



続々と、人の形をした影が降りてくる。
身長や輪郭にわずかな差はあれど、どれも同じ黒い霧のような存在だった。
列車のドアから流れ出るたび、淡い光の粒が床へ落ちては、すぐに消える。

燈はその姿に見覚えがあった。
(――ここにきて最初に出会った影……あれが魂だったんだ)

管理人は静かに片手を上げ、影たちに指示を出す。
「よし、降りた奴から一列に並んで、私に付いてくるんだ」

その声は冷静でありながら、どこか厳粛な響きを持っていた。
口の横に手を添え、燈へと振り向く。

「燈、列から外れた奴や迷ってる奴の誘導を頼む。焦らず、確実にな」

「は、はい!」
慌てて返事をしながら、燈は列の脇を小走りで動く。

「こ、こちらですよー……!」
「ちがいます、そっちじゃなくて!」

初めての仕事に緊張しながらも、懸命に声を出す。
影たちは無言で、けれど言葉の代わりに気配で応えるように列へ戻っていく。
そのたび、燈の胸の奥に小さな達成感が芽生えた。

「これでとりあえずは大丈夫かな……」
胸に安堵が広がる。

だが、ふと最後尾を見送ったとき、違和感を覚えた。
列の終わりを過ぎても、電車の中にひとつの影が残っている。
座席にうずくまるように、小さく、静かに。

(小さい……子ども、かな?)

燈はそっと電車に足を踏み入れた。
空気は静止し、音が消える。

「ええっと……こ、こんにちは」

少し間を置いて、返ってきた声は柔らかく、幼かった。
「あ……こんにちは……」

影はわずかに顔を上げた。
「おねえちゃん、だれ?」

「あぁ……わ、私?ちょっと駅の中で迷っちゃってて、あはは……」
燈は咄嗟に誤魔化したが、笑顔の端は少し引きつっていた。

影――少年らしきその魂は、ふるふると首をかしげた。
「ねぇ、ここどこ?僕のおかあさんは……?」

(お母さん……)
燈は胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じた。
母親とはぐれたのか――それとも。

「ごめんね、私もよくわからないんだ……おかあさん、よかったら一緒に探しに行かない?」
燈はゆっくり膝を曲げて目線を合わせ、そっと手を差し出す。

少年はためらいなく、その手を握った。

彼の手は、思ったよりも温かかった。
生命の名残を感じさせる、かすかなぬくもり。

「えへへ……おねえちゃんの手、あったかいね。ずっと握っててもいい?」

「うん……じゃあ、行こっか」
燈が立ち上がると、小さな影もその手をしっかり握ったまま立ち上がる。
二人は並んでホームへ降り立ち、管理人の導く列の方へ歩き出した。


やがて管理人の引き連れた列は、駅の中央にそびえる一角――巨大な円柱状の建築物の前へとたどり着いた。
周囲には各ホームへ続く改札が幾重にも並び、金属のような枠が青白く光を帯びている。
その中央に据えられた建物の壁面には、ガラスの窓口のようなものがそびえ、そこから微かに風が吹き出していた。

(ここが、魂の行き先を決める場所……?)

「燈、ちょっとこっちへこーい」
管理人の声が列の最後尾に響く。

燈は小走りで駆け寄り、「は、はいっ」と返事をする。
列が長すぎて息が上がり、胸が少し苦しい。

「よし、これから魂の選別をするぞ。せっかくだし私の横で見ておけ」
管理人は無造作に建物のドアを押し開ける。

「わかりました。あの……この子も一緒じゃダメですか?傍に、居てあげたいんです」
燈は隣に立つ小さな影――少年の方を見た。

管理人は面倒くさそうに眉を上げたが、少年の姿を目にすると視線がわずかに柔らかくなる。
「ん……?別に構わないが、お前が責任をもって見張るんだぞ」

その言い方は相変わらずぶっきらぼうだったが、どこか信頼を含んだ声音だった。
管理人は建物の重厚なドアを押し開け、先に中へ入る。

燈は少年の顔を覗き込み、小さく微笑む。
「これで、お母さん見つけられるかもね」

「……うん!」
燈の手を強くぎゅっと握り返す。

二人は並んで歩き、管理人の後ろへと続く。
暗く静かな受付室に足を踏み入れると、空気がひやりと肌を撫でる。
室内中央のカウンターに管理人が立ち、魂たちが順番に列を作り始めた。

管理人がカウンターに立ち、帳面をぱらりとめくる。
「よし、一人ずつ順番に前へ。これから選別を開始する」

燈の胸はどくん、と大きく跳ねる。
今から始まるのは――魂が次の行き先を告げられる裁きの時間。

燈は少年の手をそっと握り直し、心の中で願った。
――この子のお母さんが、どうか見つかりますように。


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続々と、人の形をした影が降りてくる。
身長や輪郭にわずかな差はあれど、どれも同じ黒い霧のような存在だった。
列車のドアから流れ出るたび、淡い光の粒が床へ落ちては、すぐに消える。
燈はその姿に見覚えがあった。
(――ここにきて最初に出会った影……あれが魂だったんだ)
管理人は静かに片手を上げ、影たちに指示を出す。
「よし、降りた奴から一列に並んで、私に付いてくるんだ」
その声は冷静でありながら、どこか厳粛な響きを持っていた。
口の横に手を添え、燈へと振り向く。
「燈、列から外れた奴や迷ってる奴の誘導を頼む。焦らず、確実にな」
「は、はい!」
慌てて返事をしながら、燈は列の脇を小走りで動く。
「こ、こちらですよー……!」
「ちがいます、そっちじゃなくて!」
初めての仕事に緊張しながらも、懸命に声を出す。
影たちは無言で、けれど言葉の代わりに気配で応えるように列へ戻っていく。
そのたび、燈の胸の奥に小さな達成感が芽生えた。
「これでとりあえずは大丈夫かな……」
胸に安堵が広がる。
だが、ふと最後尾を見送ったとき、違和感を覚えた。
列の終わりを過ぎても、電車の中にひとつの影が残っている。
座席にうずくまるように、小さく、静かに。
(小さい……子ども、かな?)
燈はそっと電車に足を踏み入れた。
空気は静止し、音が消える。
「ええっと……こ、こんにちは」
少し間を置いて、返ってきた声は柔らかく、幼かった。
「あ……こんにちは……」
影はわずかに顔を上げた。
「おねえちゃん、だれ?」
「あぁ……わ、私?ちょっと駅の中で迷っちゃってて、あはは……」
燈は咄嗟に誤魔化したが、笑顔の端は少し引きつっていた。
影――少年らしきその魂は、ふるふると首をかしげた。
「ねぇ、ここどこ?僕のおかあさんは……?」
(お母さん……)
燈は胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じた。
母親とはぐれたのか――それとも。
「ごめんね、私もよくわからないんだ……おかあさん、よかったら一緒に探しに行かない?」
燈はゆっくり膝を曲げて目線を合わせ、そっと手を差し出す。
少年はためらいなく、その手を握った。
彼の手は、思ったよりも温かかった。
生命の名残を感じさせる、かすかなぬくもり。
「えへへ……おねえちゃんの手、あったかいね。ずっと握っててもいい?」
「うん……じゃあ、行こっか」
燈が立ち上がると、小さな影もその手をしっかり握ったまま立ち上がる。
二人は並んでホームへ降り立ち、管理人の導く列の方へ歩き出した。
やがて管理人の引き連れた列は、駅の中央にそびえる一角――巨大な円柱状の建築物の前へとたどり着いた。
周囲には各ホームへ続く改札が幾重にも並び、金属のような枠が青白く光を帯びている。
その中央に据えられた建物の壁面には、ガラスの窓口のようなものがそびえ、そこから微かに風が吹き出していた。
(ここが、魂の行き先を決める場所……?)
「燈、ちょっとこっちへこーい」
管理人の声が列の最後尾に響く。
燈は小走りで駆け寄り、「は、はいっ」と返事をする。
列が長すぎて息が上がり、胸が少し苦しい。
「よし、これから魂の選別をするぞ。せっかくだし私の横で見ておけ」
管理人は無造作に建物のドアを押し開ける。
「わかりました。あの……この子も一緒じゃダメですか?傍に、居てあげたいんです」
燈は隣に立つ小さな影――少年の方を見た。
管理人は面倒くさそうに眉を上げたが、少年の姿を目にすると視線がわずかに柔らかくなる。
「ん……?別に構わないが、お前が責任をもって見張るんだぞ」
その言い方は相変わらずぶっきらぼうだったが、どこか信頼を含んだ声音だった。
管理人は建物の重厚なドアを押し開け、先に中へ入る。
燈は少年の顔を覗き込み、小さく微笑む。
「これで、お母さん見つけられるかもね」
「……うん!」
燈の手を強くぎゅっと握り返す。
二人は並んで歩き、管理人の後ろへと続く。
暗く静かな受付室に足を踏み入れると、空気がひやりと肌を撫でる。
室内中央のカウンターに管理人が立ち、魂たちが順番に列を作り始めた。
管理人がカウンターに立ち、帳面をぱらりとめくる。
「よし、一人ずつ順番に前へ。これから選別を開始する」
燈の胸はどくん、と大きく跳ねる。
今から始まるのは――魂が次の行き先を告げられる裁きの時間。
燈は少年の手をそっと握り直し、心の中で願った。
――この子のお母さんが、どうか見つかりますように。