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◯ルチナ視点◯3話前小話

ー/ー




あたしは、もう誰も信じたくない。
――そう思っていたのに。
今、このメンバーと一緒にいると、
少しだけ、「信じてもいいのかも」って思ってるあたしがいる。
……自分でも、びっくりだよ。
さっき、なんか柄にもないこと言っちゃった気がするな。
しかも、こいつらと一緒に進む道が――
たとえこの先、不安定でも、嫌じゃないって思えるなんて。
……絶対、口には出さないけど。
まあ、考えてもしょうがないか。
 
――そうやって、何度も気持ちをごまかしてきたんだ。
昔から、ずっと。
 
「ほら、言ったでしょう? この道を進めば成功するって。
 ルチナちゃんなら、できるって信じてたもの。ね?」
うるさい。
なにが“信じてた”だよ。
失敗したら、どうせ全部あたしのせいにするくせに。
「……うん。わかったよ、母さん。私、ちゃんとやるね」
――笑った。
貼りつけたみたいな笑顔で、“良い子ちゃん”を演じた。
 
夢なんて、あたしにはいらない。
母さんが喜ぶ未来が、あたしにとっての正解だから。
そう思い込もうとしてた。
ずっと、ずっと。
でも、どうしても諦めきれなかったんだ。 
絵本作家になりたい。
小さい頃から大好きだったあのページの世界を、
今度は自分が、誰かに届けたい――そう思ったの。
だから、震える声で言った。
あたしの本当を、初めて口にした。
「ねえ母さん。あたし、絵本のこと、学べる学校に……」
「そうだったの? ルチナちゃん、そんな夢があったのね。
 母さん、少し調べてみるわ。どんな道でも、私は応援するから」
 
嬉しかった。
母さんが、あたしの夢を“肯定”してくれた気がした。
なら、あたしもやってみよう。
勉強して、描いて――本気で、自分の夢に向かってみようって。
 
――そう思ってたのに。
 
◇◆◇
 
絵本学校の入学試験の前日。
母さんに呼ばれて、「話があるの」と言われた。
提出する絵本も完成してて、ちょうど見せようと思ってたタイミングだった。
「ルチナちゃんを応援したいと思って、いろいろ調べたの。
 でもね、この道は、ちょっと厳しいんじゃないかしら。
 だから、私が勧めた貴族学院に進んだほうが、
 きっと将来は安定すると思うの。……それでも、いいわよね?」
 
……へえ、そうなんだ。
“応援”って、そういう意味だったんだ。
あたしの言葉は、届いてなかったんだね。
ハハ。
乾いた笑い声が、心の中にだけ響く。
母さんの頭の中には、最初から“正しい未来”しかなかった。
あたしの願いなんて、どこにもなかったんだ。
 
――ボキッ、て音がした気がした。
自分の中の、大事な芯が、折れる音だった。
何を言ったか、もう覚えてない。
ただ、深い闇に沈んでいくような感覚だけが残った。
 
クレヨンと、紙と、一冊の大好きな絵本だけをカバンに詰めて、
その夜、家を飛び出した。
 
◇◆◇
 
街の片隅で、絵を描いて売って、食いつなごうとした。
でも、そんなの続くわけもなくて。
「……あの子、ずっとここにいるのよ。
 気味悪いし、孤児院にでも連絡してやったら?」
通りすがりのおばさんの声が、やけに遠くに聞こえた。
――ああ、これでいいのかも。
居場所なんて、最初からどこにもなかったし。
なら、もうどこにいたって、同じでしょ。
 
孤児院に連れていかれても、抵抗なんてしなかった。
“良い子”を演じるのは慣れてる。
どうせまた、期待されて、がっかりされるだけなら――
最初から、自分を見せなければいい。
……そう思ってたのに。
 
◇◆◇
 
ある日の裏庭。
草の匂いが、ちょっと強くて苦手な空気の中。
誰もいないと思って、つぶやいた。
「……夢なんて、見なきゃよかった。
 あたしが望んだから……全部、壊れたんだ」
 
「ルチナって、そっちが素? いつも怖いくらい良い子だったからさ、心配してたんだよ」
突然かけられた声に、びっくりして振り向くと――ファイだった。
「えっ……聞いてたの……?」
「んー、全部じゃないけど。そっちの素のほうが、いいんじゃない?」
「なっ……!」
「カコは戻らないし、振り切ろうとは言わないけどさ。
 うちはもっと、我儘言っていいと思うよ?
 ここには、優しい子しかいないからさ。……先生たちは怖いけどね。なーんて」
 
ファイの笑い声が、やけにあたたかくて。
あのとき、なにかがふわっと、溶けた気がしたんだ。
――素のあたし、か。
 
◇◆◇
 
今のあたしは、まだ“本当のあたし”になりきれてはいない。
それでも。
今、ここにいるメンバーとなら。
ほんの少しだけ……信じてもいいのかもしれない。
今度こそ。
ちゃんと、自分の夢を選んでも――
許されるような気がするんだ。
……それでも、やっぱり言わないけどね。恥ずかしいから。
 
未来に何があっても、あたしは“あたし”のままでいる。
その覚悟だけは、もう折れたりしない。
 


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あたしは、もう誰も信じたくない。
――そう思っていたのに。
今、このメンバーと一緒にいると、
少しだけ、「信じてもいいのかも」って思ってるあたしがいる。
……自分でも、びっくりだよ。
さっき、なんか柄にもないこと言っちゃった気がするな。
しかも、こいつらと一緒に進む道が――
たとえこの先、不安定でも、嫌じゃないって思えるなんて。
……絶対、口には出さないけど。
まあ、考えてもしょうがないか。
――そうやって、何度も気持ちをごまかしてきたんだ。
昔から、ずっと。
「ほら、言ったでしょう? この道を進めば成功するって。
 ルチナちゃんなら、できるって信じてたもの。ね?」
うるさい。
なにが“信じてた”だよ。
失敗したら、どうせ全部あたしのせいにするくせに。
「……うん。わかったよ、母さん。私、ちゃんとやるね」
――笑った。
貼りつけたみたいな笑顔で、“良い子ちゃん”を演じた。
夢なんて、あたしにはいらない。
母さんが喜ぶ未来が、あたしにとっての正解だから。
そう思い込もうとしてた。
ずっと、ずっと。
でも、どうしても諦めきれなかったんだ。 
絵本作家になりたい。
小さい頃から大好きだったあのページの世界を、
今度は自分が、誰かに届けたい――そう思ったの。
だから、震える声で言った。
あたしの本当を、初めて口にした。
「ねえ母さん。あたし、絵本のこと、学べる学校に……」
「そうだったの? ルチナちゃん、そんな夢があったのね。
 母さん、少し調べてみるわ。どんな道でも、私は応援するから」
嬉しかった。
母さんが、あたしの夢を“肯定”してくれた気がした。
なら、あたしもやってみよう。
勉強して、描いて――本気で、自分の夢に向かってみようって。
――そう思ってたのに。
◇◆◇
絵本学校の入学試験の前日。
母さんに呼ばれて、「話があるの」と言われた。
提出する絵本も完成してて、ちょうど見せようと思ってたタイミングだった。
「ルチナちゃんを応援したいと思って、いろいろ調べたの。
 でもね、この道は、ちょっと厳しいんじゃないかしら。
 だから、私が勧めた貴族学院に進んだほうが、
 きっと将来は安定すると思うの。……それでも、いいわよね?」
……へえ、そうなんだ。
“応援”って、そういう意味だったんだ。
あたしの言葉は、届いてなかったんだね。
ハハ。
乾いた笑い声が、心の中にだけ響く。
母さんの頭の中には、最初から“正しい未来”しかなかった。
あたしの願いなんて、どこにもなかったんだ。
――ボキッ、て音がした気がした。
自分の中の、大事な芯が、折れる音だった。
何を言ったか、もう覚えてない。
ただ、深い闇に沈んでいくような感覚だけが残った。
クレヨンと、紙と、一冊の大好きな絵本だけをカバンに詰めて、
その夜、家を飛び出した。
◇◆◇
街の片隅で、絵を描いて売って、食いつなごうとした。
でも、そんなの続くわけもなくて。
「……あの子、ずっとここにいるのよ。
 気味悪いし、孤児院にでも連絡してやったら?」
通りすがりのおばさんの声が、やけに遠くに聞こえた。
――ああ、これでいいのかも。
居場所なんて、最初からどこにもなかったし。
なら、もうどこにいたって、同じでしょ。
孤児院に連れていかれても、抵抗なんてしなかった。
“良い子”を演じるのは慣れてる。
どうせまた、期待されて、がっかりされるだけなら――
最初から、自分を見せなければいい。
……そう思ってたのに。
◇◆◇
ある日の裏庭。
草の匂いが、ちょっと強くて苦手な空気の中。
誰もいないと思って、つぶやいた。
「……夢なんて、見なきゃよかった。
 あたしが望んだから……全部、壊れたんだ」
「ルチナって、そっちが素? いつも怖いくらい良い子だったからさ、心配してたんだよ」
突然かけられた声に、びっくりして振り向くと――ファイだった。
「えっ……聞いてたの……?」
「んー、全部じゃないけど。そっちの素のほうが、いいんじゃない?」
「なっ……!」
「カコは戻らないし、振り切ろうとは言わないけどさ。
 うちはもっと、我儘言っていいと思うよ?
 ここには、優しい子しかいないからさ。……先生たちは怖いけどね。なーんて」
ファイの笑い声が、やけにあたたかくて。
あのとき、なにかがふわっと、溶けた気がしたんだ。
――素のあたし、か。
◇◆◇
今のあたしは、まだ“本当のあたし”になりきれてはいない。
それでも。
今、ここにいるメンバーとなら。
ほんの少しだけ……信じてもいいのかもしれない。
今度こそ。
ちゃんと、自分の夢を選んでも――
許されるような気がするんだ。
……それでも、やっぱり言わないけどね。恥ずかしいから。
未来に何があっても、あたしは“あたし”のままでいる。
その覚悟だけは、もう折れたりしない。