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二話

ー/ー



 黒いタンクトップの上からオーバーオールを着ており、薄紫色の髪の毛は少し汚れていてボサボサだ。毛先が肩につくほどで、少し波のようにうねっている。奇妙な仮面をつけており、身長は彼まで届いていない。

 顔に被った奇妙な仮面はピエロにも見える。鼻から下、口元は見えており、左半分は泣いているような表情で、目の下には涙の模様が描かれている。そして右半分、狂ったように浮かべたその笑みは誰しもが恐怖するだろう。鼻や眉の凹凸が無駄にリアルで追い討ちのように恐怖を植え付けられるデザイン。

「信じてきてくれたんだねぇありがとう。君、ヒューマンドールが欲しいんだよねぇ?」

 謎の子供だろう、彼はそう思うほどにぱっと見子供の容姿だ。そして、その子を仮に『ピエロ』と呼ぼう。ピエロはゆっくりと歩き彼の方へ近づく。
 
 《小さいのに何故か大きく見える。錯覚なのかな……正直怖い》

 すると下から覗き込むように彼の顔を見上げる。ランプの明かりで影が浮かび、まるで生きたような仮面の表情。

「あ、あの……生きた人形って、本当に」
「いるよぉ、ほらあそこ」

 ピエロは右端に立つメイド服を着た女の子を指差す。 

「あの子が……どうかしたの?」
《何を言ってるのか意味がわからない、ただのメイドじゃないか》

 そのメイドはほうきを両手で握り、床を掃いて塵などを掻き集めている。

「あの子はねぇ、僕が創った人形なんだぁ、かれこれ十年はここで働いてるよぉ、可愛いよねぇあの子キャロルっていうんだぁ君もキャロルって呼んであげてねぇ」

 仮面の下でニヤニヤしながらドールの説明をする。まるで我が子の成長を目にする親のように。

「う、うん、キャロルちゃんね!ところでキャロルちゃんって本当の本当に人形なの?」

 彼は疑いながらも、ピエロの目をじっと見つめ問う。

「そうだよぉそうともさ。あのキャロルちゃんこそが僕の創る生きた人形、ヒューマンドールさぁ、まぁ他にもいるけどねぇ」
 
 疑われた事に少し苛立ちを覚えたのか急に声のトーンが低くなる。彼は少し驚いた、というより怖気付いた。

「あの……少し触ってみてもいい?」
《いやらしいとかそんな感情は一切ない、ただ本当に人形なのか確かめてみたいだけだ》
「どうぞどうぞ〜あんなとこやそんなとこ、色んなところ触ってみてね〜僕が許可するから」

 彼はメイドの頬をそっと撫でる。髪の毛、肩や腕、掌や脹脛あらゆるところを触って彼は感じた。人形の肌は人工物と思えぬほど繊細に作り込まれており、毛穴や毛の生え方、シワの一つ一つまで人間さながらの出来に、彼は言葉が出ず、静かに驚く。
 さらに、魂を彷彿させるようなその瞳にも驚かされていた。

《瞳の奥……いやもっと深いところに命の灯火のようなものが見えた気がする……なんなんだ人形(これ)は、僕の知っている人形じゃない》

 ふと彼は疑問に思った、どうやってこんなものを創っているのか、なぜこんなに人間に近いものを作ろうと思ったのか。

「な、なぁ、どう言えばいいのか分からないけど、こんな複雑で理解出来ない物をどうやって創ってるんだ……?」

 すると、ピエロは仮面は右手の指を開き仮面を覆うように当てる。そして左手を後頭部へ回すと、カチャンというような金属音が鳴る。ゆっくりゆっくりと仮面を引き上げ取り外した。
 赤い瞳に目鼻立ちのハッキリとした綺麗な顔。肌は白く透明感があり、顔面はまるで幼い女の子のようだ。
 
「僕は魔法使いなんだぁ、て言っても信じてもらえないのは分かってるけどねぇ」

 仮面を外すと声が変わった。
 先ほどまではセクシーで低めな声だったが、仮面を取り外したそばから声は小さな女の子のようにハツラツとした声になったのだ。

「は、はぁ……魔法使いって、あの箒に乗って空飛んだりする、あの魔法使い?」
「うむ、空は飛ばないけどねぇ」
「うむって……」
 
 ピエロは目を瞑り、こくりと頷く。

「僕のこの魔法は、物体、と言っても人型(ひとがた)に限られるけど命を宿すことが出来るんだよぉ、藁を人型に纏めた簡易的な人形にだって命を宿すことができる。つまり即席人形も製作可能ということだねぇ……ふふふ」
 
――ねぇ知ってるかなぁ、本当はね、僕女の子なんだっ
 
「し、知ってたよ……割と最初から気が付いてた。それより、なんだか耳がムズムズする」
《それより……急に可愛く言われると……》
「そっかぁ、じゃあもっとドキドキしてもよかったんじゃなぁい?」

 ピエロはそう言うと前屈みになり、内股でくっついた両膝の上に手をつくと、小さな胸を一生懸命両腕で寄せ始めた。

「な、何してるの!?」
「あはは、ごめんごめん、からかうつもりは無かったんだぁ……ただ僕は随分と女の子を捨てていたから、たまにはねぇ。それとぉ、今のが僕のもうひとつの力、気付いたかなぁ?魂と魂を通じて言葉を送ったのだけれど。ただし、一方通行だよぉ」

 ピエロは少し悲しげな表情を浮かべ、無理に笑う。そして能力の説明をすると人差し指を彼へ向け円を書くようにくるくると回す。
 
「さっき耳がムズムズしたのはそういう事か」

 彼は耳を少し押さえ(さす)った。
 
「おぉ、それそれぇそれの事だよぉ、僕と君以外には聞こえてないんだぁ」
「でもさっきみたいに急に語りかけてくるやつはやめてほしいかも……せめて何か合図がほしい」

 彼は恥ずかしげにピエロへそう言う。
 
「あははどうしよっかなぁ、まぁ考えとくねぇ。それでなんだけどさぁ、さっき言った命を宿す力というのは命を宿すことは出来るけど、感情まで与えることは現状不可能なんだぁ、どーしても難しいんだよねぇ」

 それからカクカクシカジカ身振り手ぶりを加え説明を受けるが、彼は凄まじい技術の話を前にぽかーんと口を開けて聞くことしかできない。

《なるほど、つまりこれらはただの操り人形という事か!》

 あれだけの説明を受けときながら、ほとんどが右から左へと流れていた為、彼はその説明を操り人形と大きく括った。

「でもそんなの……辛いだろ」
「なんで?だって彼女らには感情なんてないんだよぉ?気にすることな」
「君がだよ!」
 
 彼は食い気味でピエロへそう言う。

「寂しくないの、こんな所に篭ってずっと人形創り続けて……僕だったら耐えられない」

 虐めを耐え抜く力はあっても、寂しさには敵わない。彼はそれをわかっているが故にピエロへ強めに言った。ピエロはさらに俯き、彼は仮面の下から涙が溢れるのが見えた。

 ピエロはまだ、かつての温もりを覚えていた。かつて恋人と過ごした暖かい日々を――。


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 黒いタンクトップの上からオーバーオールを着ており、薄紫色の髪の毛は少し汚れていてボサボサだ。毛先が肩につくほどで、少し波のようにうねっている。奇妙な仮面をつけており、身長は彼まで届いていない。
 顔に被った奇妙な仮面はピエロにも見える。鼻から下、口元は見えており、左半分は泣いているような表情で、目の下には涙の模様が描かれている。そして右半分、狂ったように浮かべたその笑みは誰しもが恐怖するだろう。鼻や眉の凹凸が無駄にリアルで追い討ちのように恐怖を植え付けられるデザイン。
「信じてきてくれたんだねぇありがとう。君、ヒューマンドールが欲しいんだよねぇ?」
 謎の子供だろう、彼はそう思うほどにぱっと見子供の容姿だ。そして、その子を仮に『ピエロ』と呼ぼう。ピエロはゆっくりと歩き彼の方へ近づく。
 《小さいのに何故か大きく見える。錯覚なのかな……正直怖い》
 すると下から覗き込むように彼の顔を見上げる。ランプの明かりで影が浮かび、まるで生きたような仮面の表情。
「あ、あの……生きた人形って、本当に」
「いるよぉ、ほらあそこ」
 ピエロは右端に立つメイド服を着た女の子を指差す。 
「あの子が……どうかしたの?」
《何を言ってるのか意味がわからない、ただのメイドじゃないか》
 そのメイドはほうきを両手で握り、床を掃いて塵などを掻き集めている。
「あの子はねぇ、僕が創った人形なんだぁ、かれこれ十年はここで働いてるよぉ、可愛いよねぇあの子キャロルっていうんだぁ君もキャロルって呼んであげてねぇ」
 仮面の下でニヤニヤしながらドールの説明をする。まるで我が子の成長を目にする親のように。
「う、うん、キャロルちゃんね!ところでキャロルちゃんって本当の本当に人形なの?」
 彼は疑いながらも、ピエロの目をじっと見つめ問う。
「そうだよぉそうともさ。あのキャロルちゃんこそが僕の創る生きた人形、ヒューマンドールさぁ、まぁ他にもいるけどねぇ」
 疑われた事に少し苛立ちを覚えたのか急に声のトーンが低くなる。彼は少し驚いた、というより怖気付いた。
「あの……少し触ってみてもいい?」
《いやらしいとかそんな感情は一切ない、ただ本当に人形なのか確かめてみたいだけだ》
「どうぞどうぞ〜あんなとこやそんなとこ、色んなところ触ってみてね〜僕が許可するから」
 彼はメイドの頬をそっと撫でる。髪の毛、肩や腕、掌や脹脛あらゆるところを触って彼は感じた。人形の肌は人工物と思えぬほど繊細に作り込まれており、毛穴や毛の生え方、シワの一つ一つまで人間さながらの出来に、彼は言葉が出ず、静かに驚く。
 さらに、魂を彷彿させるようなその瞳にも驚かされていた。
《瞳の奥……いやもっと深いところに命の灯火のようなものが見えた気がする……なんなんだ|人形《これ》は、僕の知っている人形じゃない》
 ふと彼は疑問に思った、どうやってこんなものを創っているのか、なぜこんなに人間に近いものを作ろうと思ったのか。
「な、なぁ、どう言えばいいのか分からないけど、こんな複雑で理解出来ない物をどうやって創ってるんだ……?」
 すると、ピエロは仮面は右手の指を開き仮面を覆うように当てる。そして左手を後頭部へ回すと、カチャンというような金属音が鳴る。ゆっくりゆっくりと仮面を引き上げ取り外した。
 赤い瞳に目鼻立ちのハッキリとした綺麗な顔。肌は白く透明感があり、顔面はまるで幼い女の子のようだ。
「僕は魔法使いなんだぁ、て言っても信じてもらえないのは分かってるけどねぇ」
 仮面を外すと声が変わった。
 先ほどまではセクシーで低めな声だったが、仮面を取り外したそばから声は小さな女の子のようにハツラツとした声になったのだ。
「は、はぁ……魔法使いって、あの箒に乗って空飛んだりする、あの魔法使い?」
「うむ、空は飛ばないけどねぇ」
「うむって……」
 ピエロは目を瞑り、こくりと頷く。
「僕のこの魔法は、物体、と言っても|人型《ひとがた》に限られるけど命を宿すことが出来るんだよぉ、藁を人型に纏めた簡易的な人形にだって命を宿すことができる。つまり即席人形も製作可能ということだねぇ……ふふふ」
――ねぇ知ってるかなぁ、本当はね、僕女の子なんだっ
「し、知ってたよ……割と最初から気が付いてた。それより、なんだか耳がムズムズする」
《それより……急に可愛く言われると……》
「そっかぁ、じゃあもっとドキドキしてもよかったんじゃなぁい?」
 ピエロはそう言うと前屈みになり、内股でくっついた両膝の上に手をつくと、小さな胸を一生懸命両腕で寄せ始めた。
「な、何してるの!?」
「あはは、ごめんごめん、からかうつもりは無かったんだぁ……ただ僕は随分と女の子を捨てていたから、たまにはねぇ。それとぉ、今のが僕のもうひとつの力、気付いたかなぁ?魂と魂を通じて言葉を送ったのだけれど。ただし、一方通行だよぉ」
 ピエロは少し悲しげな表情を浮かべ、無理に笑う。そして能力の説明をすると人差し指を彼へ向け円を書くようにくるくると回す。
「さっき耳がムズムズしたのはそういう事か」
 彼は耳を少し押さえ|摩《さす》った。
「おぉ、それそれぇそれの事だよぉ、僕と君以外には聞こえてないんだぁ」
「でもさっきみたいに急に語りかけてくるやつはやめてほしいかも……せめて何か合図がほしい」
 彼は恥ずかしげにピエロへそう言う。
「あははどうしよっかなぁ、まぁ考えとくねぇ。それでなんだけどさぁ、さっき言った命を宿す力というのは命を宿すことは出来るけど、感情まで与えることは現状不可能なんだぁ、どーしても難しいんだよねぇ」
 それからカクカクシカジカ身振り手ぶりを加え説明を受けるが、彼は凄まじい技術の話を前にぽかーんと口を開けて聞くことしかできない。
《なるほど、つまりこれらはただの操り人形という事か!》
 あれだけの説明を受けときながら、ほとんどが右から左へと流れていた為、彼はその説明を操り人形と大きく括った。
「でもそんなの……辛いだろ」
「なんで?だって彼女らには感情なんてないんだよぉ?気にすることな」
「君がだよ!」
 彼は食い気味でピエロへそう言う。
「寂しくないの、こんな所に篭ってずっと人形創り続けて……僕だったら耐えられない」
 虐めを耐え抜く力はあっても、寂しさには敵わない。彼はそれをわかっているが故にピエロへ強めに言った。ピエロはさらに俯き、彼は仮面の下から涙が溢れるのが見えた。
 ピエロはまだ、かつての温もりを覚えていた。かつて恋人と過ごした暖かい日々を――。