翌日。
「気管支炎ですね」
かかりつけの医師が言った。
「まぁ、風邪をこじらせたんでしょう。薬と一緒に、このタイプの気管支炎によく効くフルーツジュースを出しておきますので、食後に飲んでおいて下さい」
「フルーツジュースですか?」
意外な言葉に、聞き返した。
「そうです。葡萄ジュースで、甘くて美味しいですよ。外国産の特殊な葡萄がこの気管支炎によく効くと分かったんです」
医師は、事務的な笑みを浮かべた。
今は季節の変わり目である所為か、気管支炎が流行っているようだ。
街行く人々は皆、ひどい咳をしてマスクを着用している。
僕は薬とフルーツジュースを飲み、研究室へ向かった。
そのフルーツジュースは、甘味の奥に苦味のある、複雑な味だった。
何十匹というモルモットに仮性ペスト菌を注射し続ける。
「ゲホッ、ゴホッ……」
何だか、モルモットに注射を打つと自分の咳がひどくなる。
自分の気管支炎は心因性のものかも知れない……。
そんな気がした。
僕も動物が好きなので、研究のためとは言えモルモットに菌を注射するのに、無意識のうちに葛藤を抱えているようだ。
そんな葛藤がこの咳として顕れているのかも知れない。
◇
午後のニュースです。
アリフカを中心に猛威を奮うボラエ熱の患者は、ついに一億人にのぼりました。
アリフカ外の国々への感染拡大も、非常に危惧されます。
国際ウィルス研究所は事態の収束に向けて、特効薬の開発を急いでいます。
◇
その夜。
フルーツジュースを飲んだ僕は、どうしても寝ようという気が起こらなかった。
咳は治まった。
だが、寝てしまうと、二度と目覚めない……。そんな気がした。
おでこに冷んやりシートを貼り、冴えた目でPC画面を見て、大学から配布されていたIQテストを解く。
何だか、いつもと違う。
図形が吸い込まれるように繋ぎ合わされ、見る見る解けてゆく。
テストでは、かつてないほどの極めて高いIQを記録した。
ふとPC画面から目を逸らすと、視界が極めてクリアになっていた。
僕は普段、視力は0.1もなくて眼鏡の着用が必須なのだが、裸眼で何もかもがクリアに見えるのだ。
試しに、視力を簡易測定してみると、何と1.5にもなっていたのだった。