ep2 目覚め
ー/ー
【1】
「……ん」
目を覚ました。
めをさました?
俺は死んだんじゃなかったのか?
風にあおられて川に落ちて溺れて……って、じゃあここはあの世?
だけどあの世にしては……やけに現実感を覚えるのは気のせいだろうか。
「ここは……」
どうやら俺は、ベッドの上で寝ていたらしい。あの世にもベッドがあるのだろうか? ご親切に枕と布団まである。さしずめ黄泉のホテルとでも言ったところか。宿泊期間に終わりがあるのかは不明だが……。
「!」
急にハッとして、俺は上半身をむくりと起こした。
自分の掌を見つめる。にわかによぎった考えに思考を巡らせる。
この現実感。まさか、俺……死んでいないのか? 奇跡の生還ってヤツか?
だとすれば、俺はどうやって助かったんだ。偶然付近にレスキュー隊でもいたのか?
何もわからない。何もわからないけど……
「とにかく、生きてるっぽい……」
確かめるように両の手をグーパーと開閉し、確認するように自らの体中を触った。
「どこも……痛くもない…….」
奇跡の生還どころか、ケガひとつしていないっぽいぞ?
それに……頭もフツーに働いているよな。むしろ普段より鮮明なぐらいだ。
「……」
疑問に疑問を重ねながら、まわりを見まわした。
「病院……なんだろうか」
そこは病院とは言いがたい、古い洋館の一室といった様相の部屋。黄泉のホテルでないのなら、現世のどこであろうか。
「天井、高いな……」
上方を見上げながら呟いた時だった。ふいに部屋のドアがガチャッと開く。音につられてそちらへ振り向くと、ちょうど入室してきた誰かと視線が交わった。
「……ぼっちゃま? ぼっちゃま!」
その人は俺を見るなり声を上げて、バタバタと駆け寄ってきた。
「ぼっちゃま! 目を覚まされたのですね! 良かった! 本当に良かった!」
年齢は六十代辺りだろうか。白髪頭に白い口髭を生やした年配の男は、俺を見て涙を流し始めた。この執事風の格好をした外国人っぽいじーさんが、医者の先生か?
ずいぶんと変わったお医者さんだな。執事カフェってのは知ってるけど、執事病院なんて聞いたことないぞ。それはそれで一定のニーズはありそうだけど。
「ぼっちゃま! 御身体は大丈夫ですか? 痛いところは? なにかお飲み物をお持ちしましょうか? 濡れたタオルでお顔を拭きましょうか。それと…」
「あっ、ええと」
あまりに執事風の男が矢継ぎ早にまくし立てるので、俺は思わず遮るように声を発してしまった。
「ぼっちゃま? どうなさいましたか?」
「あ、いや、その……」
「ぼっちゃま?」
「ええと、その、お医者さん、ですよね?」
「は?」
「いやだから、あなたは、お医者さんですよね?」
「何をおっしゃっているので?」
「何をって、だから…」
「なるほど。やっと目を覚ましたと思ったら、わたくしめを驚かせてからかっていらっしゃるのですね? いえ、それならむしろ安心しました。何よりご無事という証拠ですからね。クローぼっちゃま」
「クロー、ぼっちゃま?」
「ぼっちゃま。おフザケはもうおやめになってください。さすがにこのタイミングでは笑うより心配が優ってしまいますから」
「いや、あの……誰なんですか?」
「えっ? 本気でおっしゃっているのですか?」
「それに……ぼっちゃまって、クローって、誰なんすか?」
「!」
執事風の男は、眼を見開いて凍りついた。
「?」
「ま、まさか、なんということでしょう……」
「??」
「実例も、存じてはおりましたけれども、まさか……。ただでさえぼっちゃまのお身体は……その上さらに、このような事までぼっちゃまの身に起きようとは! いや、これもアレのせいなのでしょうか……?」
「あ、あの……?」
「記憶を、なくされたのですね」
「えっ」
「ぼっちゃま。わたくしはパトリス・ペイジ。ラキアード家の執事をしている者です。そして貴方はクロー・ラキアード。私が仕えるラキアード家の、ただ一人の御子息さまでございます」
「はあ……」
いくらご丁寧に説明されようとも俺には寝耳に水でしかない。
「……本当に、なにも思い出せないのですね。承知しました。私は今から医者を呼んで参ります。それまで、どうか安静にしていてください......」
執事のパトリスは哀しそうに微笑むと、きびすを返してすごすごと退室していった。
「一体なんなんだ……?」
知らない人が入ってきて出ていったドアを茫然と見つめる。
本当にこれは現実なのか?
現実なら、今の俺はどういう状況なんだ?
あまりにも自然に不自然が迫ってきて、驚くことさえままならなかった。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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目を覚ました。
めをさました?
俺は死んだんじゃなかったのか?
風にあおられて川に落ちて溺れて……って、じゃあここはあの世?
だけどあの世にしては……やけに現実感を覚えるのは気のせいだろうか。
「ここは……」
どうやら俺は、ベッドの上で寝ていたらしい。あの世にもベッドがあるのだろうか? ご親切に枕と布団まである。さしずめ黄泉のホテルとでも言ったところか。宿泊期間に終わりがあるのかは不明だが……。
「!」
急にハッとして、俺は上半身をむくりと起こした。
自分の掌を見つめる。にわかによぎった考えに思考を巡らせる。
この現実感。まさか、俺……死んでいないのか? 奇跡の生還ってヤツか?
だとすれば、俺はどうやって助かったんだ。偶然付近にレスキュー隊でもいたのか?
何もわからない。何もわからないけど……
「とにかく、生きてるっぽい……」
確かめるように両の手をグーパーと開閉し、確認するように自らの体中を触った。
「どこも……痛くもない…….」
奇跡の生還どころか、ケガひとつしていないっぽいぞ?
それに……頭もフツーに働いているよな。むしろ普段より鮮明なぐらいだ。
「……」
疑問に疑問を重ねながら、まわりを見まわした。
「病院……なんだろうか」
そこは病院とは言いがたい、古い洋館の一室といった様相の部屋。黄泉のホテルでないのなら、現世のどこであろうか。
「天井、高いな……」
上方を見上げながら呟いた時だった。ふいに部屋のドアがガチャッと開く。音につられてそちらへ振り向くと、ちょうど入室してきた誰かと視線が交わった。
「……ぼっちゃま? ぼっちゃま!」
その人は俺を見るなり声を上げて、バタバタと駆け寄ってきた。
「ぼっちゃま! 目を覚まされたのですね! 良かった! 本当に良かった!」
年齢は六十代辺りだろうか。白髪頭に白い口髭を生やした年配の男は、俺を見て涙を流し始めた。この執事風の格好をした外国人っぽいじーさんが、医者の先生か?
ずいぶんと変わったお医者さんだな。執事カフェってのは知ってるけど、執事病院なんて聞いたことないぞ。それはそれで一定のニーズはありそうだけど。
「ぼっちゃま! 御身体は大丈夫ですか? 痛いところは? なにかお飲み物をお持ちしましょうか? 濡れたタオルでお顔を拭きましょうか。それと…」
「あっ、ええと」
あまりに執事風の男が矢継ぎ早にまくし立てるので、俺は思わず遮るように声を発してしまった。
「ぼっちゃま? どうなさいましたか?」
「あ、いや、その……」
「ぼっちゃま?」
「ええと、その、お医者さん、ですよね?」
「は?」
「いやだから、あなたは、お医者さんですよね?」
「何をおっしゃっているので?」
「何をって、だから…」
「なるほど。やっと目を覚ましたと思ったら、わたくしめを驚かせてからかっていらっしゃるのですね? いえ、それならむしろ安心しました。何よりご無事という証拠ですからね。クローぼっちゃま」
「クロー、ぼっちゃま?」
「ぼっちゃま。おフザケはもうおやめになってください。さすがにこのタイミングでは笑うより心配が優ってしまいますから」
「いや、あの……誰なんですか?」
「えっ? 本気でおっしゃっているのですか?」
「それに……ぼっちゃまって、クローって、誰なんすか?」
「!」
執事風の男は、眼を見開いて凍りついた。
「?」
「ま、まさか、なんということでしょう……」
「??」
「実例も、存じてはおりましたけれども、まさか……。ただでさえぼっちゃまのお身体は……その上さらに、このような事までぼっちゃまの身に起きようとは! いや、これもアレのせいなのでしょうか……?」
「あ、あの……?」
「記憶を、なくされたのですね」
「えっ」
「ぼっちゃま。わたくしはパトリス・ペイジ。ラキアード家の執事をしている者です。そして貴方はクロー・ラキアード。私が仕えるラキアード家の、ただ一人の御子息さまでございます」
「はあ……」
いくらご丁寧に説明されようとも俺には寝耳に水でしかない。
「……本当に、なにも思い出せないのですね。承知しました。私は今から医者を呼んで参ります。それまで、どうか安静にしていてください......」
執事のパトリスは哀しそうに微笑むと、きびすを返してすごすごと退室していった。
「一体なんなんだ……?」
知らない人が入ってきて出ていったドアを茫然と見つめる。
本当にこれは現実なのか?
現実なら、今の俺はどういう状況なんだ?
あまりにも自然に不自然が迫ってきて、驚くことさえままならなかった。