ep3 転生
ー/ー
「……」
再び部屋にひとりになる。この妙に天井の高い前時代の西洋風の一室で、ベッドに座ったまま、狐につままれたような心地に支配されている。
「ダメだ。とにかく何もかもがわけがわからない。てゆーか、本当に夢でもあの世でもないのか?」
『夢でもあの世でもありません。これは現実ですよ』
「!?」
突然、頭の中で誰かの声が聞こえた。
『クロー・ラキアード。それが今の貴方の名前です』
「だ、誰だ!?」
さっきよりも激しく首を振って周囲を見まわした。
『落ち着いてください。大声を上げると人が来てしまいますよ。声を上げなくとも、思考で会話できますから』
「思考で会話?」
『声を出さずとも、頭の中だけで会話ができるということです』
『そんなことできるわけ……』あった。
『そうそう。それです。さすが飲み込みが早い』
『聞こえるのか?』
『ええ、聞こえますよ。フフフ』
本当に頭の中だけで会話している。まったくもって不可解すぎる。だが、さっきの執事とのやり取りで、すでに俺は日常の外の心持ちだったのだろう。すべてに釈然としないままも、謎の声に従って頭の中の会話に臨むことにした。さもそれが当然至極のことのように……。
『……それで、お前はだれだ? どこにいるんだ?』
『ワタクシの声、聞き覚えはございませんか?』
『声? あっ、言われてみればその声、どこかで聞いたような気が……』
『貴方が水中で死にかけていた時、私は貴方に選択を迫りました』
『選択……そうだ! あの時、その声でなにか……選べとかなんとか……!』
『このまま死んで終わるか転生するか選びなさい、と申しましたよね?』
『言われた! 言われたぞ! ハッキリ思い出した! ん? ということは……?』
『そうです。貴方は転生したのです。別の世界の、クロー・ラキアードという青年に』
『ほ、本当に俺は転生したのか!?』
『はい。貴方は本当に転生しました』
『ほ、ホントに、転生したのか……』
『近くに鏡はございませんか? あれば自分の姿をご覧になってみてください』
そそくさとベッドから降りると、部屋中に視線を彷徨わせた。すると一角に設置された姿見鏡を発見した。おそるおそるそこへ近づいていき、俺は鏡の正面に立った。
「!」
目を見張った。鏡には、元の俺とはまったく別人の姿が映し出されている。
サラッとした金髪に育ちの良さそうなキレイな顔。これ、日本人じゃないよな。年齢は大学生ぐらいだろうか。背丈は中ぐらいよりちょい高めで、スリムな体型をしている。
とりあえず……。
元の俺とは似ても似つかない。ハッキリ言ってモテそうな感じだぞ。
『いかがですか? それが今の貴方の姿です』
『いかがですかと言われれば……そうだな、うん。悪くない、とは思う』
『いやいや、どう考えても以前のクソ中年の貴方に比べてはるかにマシでしょう』
『そうだよな。たしかに……ってオイ! 失礼だろ!』
『ワタクシは客観的事実を申したまでです』
『くっ! そんなことよりも! 結局お前はだれなんだ!? どこにいる??』
『ワタクシに名前などありません。居場所は、いずれおわかりになるでしょう』
『名前がない? 居場所はいずれわかる? それじゃ今はなんにもわからないのと一緒じゃないか! マジで何者なんだ!? 人間なのか!?』
『そうですね、貴方を導く神秘の者、とでも申しておきましょうか』
『はあ?』
『まあ、あまり深く考える必要はございませんよ』
『……神、とか、そんなやつなのか?』
『神……まあ、ある視点から見れば、概念としてはそれに近いとも言えるかもしれませんね。不本意ではありますが』
『……全然わからないんだが』
『大丈夫です。今は何もわからなくても問題ございませんから。ところで』
『?』
『ワタクシはいったんおいとましなければなりません』
『えっ』
『といっても消滅するわけではございませんのでご安心くださいませ。ログアウトと言ったほうがわかりやすいですか? あるいは落ちるとか』
『な、なにを言ってんだ? とにかく、いったんいなくなるってことだよな?」
『はい』
『いつ戻ってくるんだ?』
『頃合いを見て……戻って参ります』
『だからいつなの? 聞きたいことが山ほどあるんだが?』
『ご心配なさらず。必ず戻って参ります。というより、離れられないですからね』
『またよくわからないことを……で、俺はここでいったいどうすればいいんだ? この世界で、クロー・ラキアードとして』
『ご自由にお過ごしください。せっかく拾った新たな人生と命です。存分に味わってください』
『んなこと急に言われても……』
『では、ごきげんよう……』
『あっ、オイ!』
相手が圏外に入った時の通話のように、謎の声はプツンと途切れた。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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「……」
再び部屋にひとりになる。この妙に天井の高い前時代の西洋風の一室で、ベッドに座ったまま、狐につままれたような心地に支配されている。
「ダメだ。とにかく何もかもがわけがわからない。てゆーか、本当に夢でもあの世でもないのか?」
『夢でもあの世でもありません。これは現実ですよ』
「!?」
突然、頭の中で誰かの声が聞こえた。
『クロー・ラキアード。それが今の貴方の名前です』
「だ、誰だ!?」
さっきよりも激しく首を振って周囲を見まわした。
『落ち着いてください。大声を上げると人が来てしまいますよ。声を上げなくとも、思考で会話できますから』
「思考で会話?」
『声を出さずとも、頭の中だけで会話ができるということです』
『そんなことできるわけ……』あった。
『そうそう。それです。さすが飲み込みが早い』
『聞こえるのか?』
『ええ、聞こえますよ。フフフ』
本当に頭の中だけで会話している。まったくもって不可解すぎる。だが、さっきの執事とのやり取りで、すでに俺は日常の外の心持ちだったのだろう。すべてに釈然としないままも、謎の声に従って頭の中の会話に臨むことにした。さもそれが当然至極のことのように……。
『……それで、お前はだれだ? どこにいるんだ?』
『ワタクシの声、聞き覚えはございませんか?』
『声? あっ、言われてみればその声、どこかで聞いたような気が……』
『貴方が水中で死にかけていた時、私は貴方に選択を迫りました』
『選択……そうだ! あの時、その声でなにか……選べとかなんとか……!』
『このまま死んで終わるか転生するか選びなさい、と申しましたよね?』
『言われた! 言われたぞ! ハッキリ思い出した! ん? ということは……?』
『そうです。貴方は転生したのです。別の世界の、クロー・ラキアードという青年に』
『ほ、本当に俺は転生したのか!?』
『はい。貴方は本当に転生しました』
『ほ、ホントに、転生したのか……』
『近くに鏡はございませんか? あれば自分の姿をご覧になってみてください』
そそくさとベッドから降りると、部屋中に視線を彷徨わせた。すると一角に設置された姿見鏡を発見した。おそるおそるそこへ近づいていき、俺は鏡の正面に立った。
「!」
目を見張った。鏡には、元の俺とはまったく別人の姿が映し出されている。
サラッとした金髪に育ちの良さそうなキレイな顔。これ、日本人じゃないよな。年齢は大学生ぐらいだろうか。背丈は中ぐらいよりちょい高めで、スリムな体型をしている。
とりあえず……。
元の俺とは似ても似つかない。ハッキリ言ってモテそうな感じだぞ。
『いかがですか? それが今の貴方の姿です』
『いかがですかと言われれば……そうだな、うん。悪くない、とは思う』
『いやいや、どう考えても以前のクソ中年の貴方に比べてはるかにマシでしょう』
『そうだよな。たしかに……ってオイ! 失礼だろ!』
『ワタクシは客観的事実を申したまでです』
『くっ! そんなことよりも! 結局お前はだれなんだ!? どこにいる??』
『ワタクシに名前などありません。居場所は、いずれおわかりになるでしょう』
『名前がない? 居場所はいずれわかる? それじゃ今はなんにもわからないのと一緒じゃないか! マジで何者なんだ!? 人間なのか!?』
『そうですね、貴方を導く神秘の者、とでも申しておきましょうか』
『はあ?』
『まあ、あまり深く考える必要はございませんよ』
『……神、とか、そんなやつなのか?』
『神……まあ、ある視点から見れば、概念としてはそれに近いとも言えるかもしれませんね。不本意ではありますが』
『……全然わからないんだが』
『大丈夫です。今は何もわからなくても問題ございませんから。ところで』
『?』
『ワタクシはいったんおいとましなければなりません』
『えっ』
『といっても消滅するわけではございませんのでご安心くださいませ。ログアウトと言ったほうがわかりやすいですか? あるいは落ちるとか』
『な、なにを言ってんだ? とにかく、いったんいなくなるってことだよな?」
『はい』
『いつ戻ってくるんだ?』
『頃合いを見て……戻って参ります』
『だからいつなの? 聞きたいことが山ほどあるんだが?』
『ご心配なさらず。必ず戻って参ります。というより、離れられないですからね』
『またよくわからないことを……で、俺はここでいったいどうすればいいんだ? この世界で、クロー・ラキアードとして』
『ご自由にお過ごしください。せっかく拾った新たな人生と命です。存分に味わってください』
『んなこと急に言われても……』
『では、ごきげんよう……』
『あっ、オイ!』
相手が圏外に入った時の通話のように、謎の声はプツンと途切れた。