「キャイ~ン!」
犬はその耳と体毛を寝かし、尻尾を巻いて逃げるように花屋の中へ戻って行った。
「勝った……」
俺の瞳に感涙が込み上げる。
これは紛れもなく、俺の平常心の勝利だ。
何しろ、犬に飛びかかられようが、噛みつかれようが、聖なる踊りを踊り続けたのだ。さすれば奴さん、けたたましく吠えつつも、次第に後ずさってゆき、ついに逃げ出した。
フッ……所詮、この世に俺に敵う者などいないのだ。
「勝ったぞぉ!俺は、勝ったのだ! カァー、カッ、カッ、カッ。カァー、カッ、カッ、カッ……」
俺は大口を開け、声を上げて自らの勝利を噛み締めた。
すると、花屋の中……ショーウィンドウ越しに、慌てて鍵を閉めて電話の受話器を持つおばさんの姿が目に映った。
そうか……おばさんも感動したのだな。
それで、マスコミュニケーションのビデオキャメラに俺のこの、輝かしき勇姿をおさめてもらうよう依頼しているのだな。
それも悪くない……悪くないのだが、生憎と俺は、マスコミュニケーションなどという、ちっぽけな世界に収まる器ではない。何故なら、俺こそはこの世界の聖なる王……『裸の王様』なのだから。
だから、折角だがここは立ち去らせて貰おう。
「おばさん、アディオス!」
ショーウィンドウ越しにウィンクと投げキッスを送ると、おばさんは余程、感動したのだろうか。手から電話の受話器が落っこちた。