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第18話 国境のふもと

ー/ー



 クロナは不気味な森の中を抜けていく。
 目の前の山々は、クロナたちの住むイクセン王国と隣国との国境であるディステ山脈という場所である。
 地図によれば、ブラナが拠点としていたアジトはこの山脈の中にあるらしい。

『聖女様。さすがに我らとてもこの山のふもとは怖くてなりません』

『だが、聖女様が大丈夫と仰るのですから、信じます。どうか、我らに聖女様を送り届けるだけの力を!』

 スチールアントたちですら、恐れをなすというディステ山脈ふもとの森。ここには、先程のジャイアントベアーすらも凌駕する魔物がいるということなのだろう。
 だが、クロナはこの場所のことはよく知らないし、なによりブラナが拠点としていたのだ。ならば出入りするための道が必ずあるはずである。
 なんとしても生き延びるために、クロナは自分の能力とブラナを信じて森の中を突っ切っていく。
 辺りはかなり暗くなってきている。クロナこそ途中で一時的に眠っていたとはいえ、スチールアントたちはここまで休まずに走ってきてくれている。どこから襲われるか分かったものではないのだから、休んでいられなかったのだ。
 その無茶をし通したスチールアントたちに、戦うだけの力はほとんどないだろう。こうなると、クロナの力こそが頼りになるというものである。

「ブラナのメモによれば、山脈の山が少し低くなっている場所に、かつてブラナが使っていた場所があるそうです」

『それはどこなのですか?』

「ちょっと待ってて下さいね」

 スチールアントから聞き返されて、ブラナが確認を行う。
 確認しようとしてメモを取り出した時、スチールアントたちの動きが止まる。

「ど、どうされたのですか?」

 目の前をじっと見たまま、震えたように動きを止めたのだ。
 クロナが目をこらすと、なにやら黒い影が見える。

『くそっ、アサシンスパイダーか』

「あ、あさし……? なんですかそれは」

 スチールアントたちは、目の前に現れた魔物を知ってるようだった。

『森の奥深くに住んでいて、近付いてくるものを糸で捕獲して食っちまう魔物ですよ。我らの仲間も、どれだけ犠牲になったことか!』

 スチールアントたちが説明をしてくれている。
 どうやらスチールアントにとって、目の前の巨大な魔物は恐ろしいようだった。
 ところが、クロナは不思議と怖さを感じなかった。それどころか、自分の乗っているスチールアントたち同様にいとおしくすら感じる。これはどういうことなのだろうか。

『聖女様、お待ちしておりました』

 なんということだろうか。アサシンスパイダーと呼ばれた魔物は、クロナに対して頭を下げたのである。
 あまりにも予想外なことに、スチールアントたちはさらに警戒を強めている。

『何を言ってやがる。聖女様の護衛は我らだけで十分であろう?』

 強がるスチールアントたち。その姿を見たアサシンスパイダーは、鼻で笑い飛ばしている。

『はっ、この私を見て怯える連中になど、聖女様の護衛が務まるわけがない。だが、聖女様を狙うものはたくさんいる、ならば、守る者の数が多い方がいいのではないかな?』

『ぐっ……。それは確かに』

 アサシンスパイダーに指摘されて、スチールアントは言い返せないでいる。
 さっきから引け腰になっているスチールアントたちから視線を移し、アサシンスパイダーはクロナを見ている。

『聖女様。此度はどちらへお向かいでございましょうか。この私めが、安全に目的地にお連れ致しましょう。必要なら、このアリどももお連れ致します』

「それでしたら、目の前の山脈の少し低くなった場所にあるという隠れ家へと向かいたいのですが……」

『ほう、そのようなものが。分かりました。山脈の少し低くなった場所ならば、こちらですね。アリども、聖女様を連れてついてきなさい』

 ぎろりと視線を向けると、スチールアントたちはやむなくアサシンスパイダーの声に従っていた。

 暗い森の中を進んでいくクロナたちだが、途中、魔物たちの襲撃を受ける。
 スチールアントにアサシンスパイダーと、虫系の魔物が従ってくれているわけだが、すべての虫の魔物がクロナに従ってくれるようではなかった。

『このパラライズキャタピラーは痺れ毒を持っていますが、肉はなかなかにおいしいですよ。聖女様のお力なら、問題なく味わえるかと思います』

「そ、そうですか……。なんでしょうか。私を慕う虫さん以外は、気持ち悪くて仕方ないのですが……」

『まあ、そういうもんでしょうね。見てくれが怖いですからね、私たちは』

 クロナの反応に、アサシンスパイダーは納得しているようである。

『でも、聖女様とて、何も食わずには生きいられません。このような肉であれ、おいしくいただくべきなのです』

「そ、そうですね。では、スチールアントのみなさん、お運びいただけるでしょうか」

『もちろんでございます』

 アサシンスパイダーが倒したパラライズキャタピラーを、スチールアントが二匹がかりで持ち上げている。
 討伐後の処理が済むと、再び目的地へと向けて進んでいく。

『聖女様の仰られていた場所は、おそらくこの辺りでしょう。このような場所にやって来る人間は、はっきり申しまして変わり者としか言いようがありませんよ。私のような魔物がいますからね』

 目の前は岩肌に囲まれた行き止まりだった。
 ただ、不自然に一か所だけ草が生えている。
 もしやと思い、クロナがスチールアントから降りて草を持ち上げると、そこには奥へと続く洞窟が見つかったのである。
 そう、こここそが、ブラナが教えてくれた秘密のアジトなのである。


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 クロナは不気味な森の中を抜けていく。
 目の前の山々は、クロナたちの住むイクセン王国と隣国との国境であるディステ山脈という場所である。
 地図によれば、ブラナが拠点としていたアジトはこの山脈の中にあるらしい。
『聖女様。さすがに我らとてもこの山のふもとは怖くてなりません』
『だが、聖女様が大丈夫と仰るのですから、信じます。どうか、我らに聖女様を送り届けるだけの力を!』
 スチールアントたちですら、恐れをなすというディステ山脈ふもとの森。ここには、先程のジャイアントベアーすらも凌駕する魔物がいるということなのだろう。
 だが、クロナはこの場所のことはよく知らないし、なによりブラナが拠点としていたのだ。ならば出入りするための道が必ずあるはずである。
 なんとしても生き延びるために、クロナは自分の能力とブラナを信じて森の中を突っ切っていく。
 辺りはかなり暗くなってきている。クロナこそ途中で一時的に眠っていたとはいえ、スチールアントたちはここまで休まずに走ってきてくれている。どこから襲われるか分かったものではないのだから、休んでいられなかったのだ。
 その無茶をし通したスチールアントたちに、戦うだけの力はほとんどないだろう。こうなると、クロナの力こそが頼りになるというものである。
「ブラナのメモによれば、山脈の山が少し低くなっている場所に、かつてブラナが使っていた場所があるそうです」
『それはどこなのですか?』
「ちょっと待ってて下さいね」
 スチールアントから聞き返されて、ブラナが確認を行う。
 確認しようとしてメモを取り出した時、スチールアントたちの動きが止まる。
「ど、どうされたのですか?」
 目の前をじっと見たまま、震えたように動きを止めたのだ。
 クロナが目をこらすと、なにやら黒い影が見える。
『くそっ、アサシンスパイダーか』
「あ、あさし……? なんですかそれは」
 スチールアントたちは、目の前に現れた魔物を知ってるようだった。
『森の奥深くに住んでいて、近付いてくるものを糸で捕獲して食っちまう魔物ですよ。我らの仲間も、どれだけ犠牲になったことか!』
 スチールアントたちが説明をしてくれている。
 どうやらスチールアントにとって、目の前の巨大な魔物は恐ろしいようだった。
 ところが、クロナは不思議と怖さを感じなかった。それどころか、自分の乗っているスチールアントたち同様にいとおしくすら感じる。これはどういうことなのだろうか。
『聖女様、お待ちしておりました』
 なんということだろうか。アサシンスパイダーと呼ばれた魔物は、クロナに対して頭を下げたのである。
 あまりにも予想外なことに、スチールアントたちはさらに警戒を強めている。
『何を言ってやがる。聖女様の護衛は我らだけで十分であろう?』
 強がるスチールアントたち。その姿を見たアサシンスパイダーは、鼻で笑い飛ばしている。
『はっ、この私を見て怯える連中になど、聖女様の護衛が務まるわけがない。だが、聖女様を狙うものはたくさんいる、ならば、守る者の数が多い方がいいのではないかな?』
『ぐっ……。それは確かに』
 アサシンスパイダーに指摘されて、スチールアントは言い返せないでいる。
 さっきから引け腰になっているスチールアントたちから視線を移し、アサシンスパイダーはクロナを見ている。
『聖女様。此度はどちらへお向かいでございましょうか。この私めが、安全に目的地にお連れ致しましょう。必要なら、このアリどももお連れ致します』
「それでしたら、目の前の山脈の少し低くなった場所にあるという隠れ家へと向かいたいのですが……」
『ほう、そのようなものが。分かりました。山脈の少し低くなった場所ならば、こちらですね。アリども、聖女様を連れてついてきなさい』
 ぎろりと視線を向けると、スチールアントたちはやむなくアサシンスパイダーの声に従っていた。
 暗い森の中を進んでいくクロナたちだが、途中、魔物たちの襲撃を受ける。
 スチールアントにアサシンスパイダーと、虫系の魔物が従ってくれているわけだが、すべての虫の魔物がクロナに従ってくれるようではなかった。
『このパラライズキャタピラーは痺れ毒を持っていますが、肉はなかなかにおいしいですよ。聖女様のお力なら、問題なく味わえるかと思います』
「そ、そうですか……。なんでしょうか。私を慕う虫さん以外は、気持ち悪くて仕方ないのですが……」
『まあ、そういうもんでしょうね。見てくれが怖いですからね、私たちは』
 クロナの反応に、アサシンスパイダーは納得しているようである。
『でも、聖女様とて、何も食わずには生きいられません。このような肉であれ、おいしくいただくべきなのです』
「そ、そうですね。では、スチールアントのみなさん、お運びいただけるでしょうか」
『もちろんでございます』
 アサシンスパイダーが倒したパラライズキャタピラーを、スチールアントが二匹がかりで持ち上げている。
 討伐後の処理が済むと、再び目的地へと向けて進んでいく。
『聖女様の仰られていた場所は、おそらくこの辺りでしょう。このような場所にやって来る人間は、はっきり申しまして変わり者としか言いようがありませんよ。私のような魔物がいますからね』
 目の前は岩肌に囲まれた行き止まりだった。
 ただ、不自然に一か所だけ草が生えている。
 もしやと思い、クロナがスチールアントから降りて草を持ち上げると、そこには奥へと続く洞窟が見つかったのである。
 そう、こここそが、ブラナが教えてくれた秘密のアジトなのである。