第19話 新たな家
ー/ー
入口の草をかき分けると、そこにあったのは岩穴の通路だった。
ブラナが入っていけるのだから、クロナの身長であれば余裕で入れるようである。
「お、お邪魔します……」
丁寧に挨拶をして、ブラナのアジトの中へと入っていくクロナたち。アサシンスパイダーもクロナからすると少し大きい程度なので、普通に入っていけるようである。
入るとすぐに真っ暗になってしまう。
『聖女様、ここは私めが先頭を参りましょう。アリども、後方は任せたぞ』
『言われなくても!』
スチールアントたちは、アサシンスパイダーに命令されて不機嫌そうだった。
しかし、強さでいえばアサシンスパイダーの方が強い。なので、スチールアントたちは従わざるを得なかった。
なんともぎすぎすした関係ではあるものの、クロナはそれどころではなかった。
やはり、バタフィー王子の変貌っぷりに驚いているようである。
残虐なシーンは見ていなかったとはいえ、自分に対する発言だけでも、自分の知っているバタフィー王子とはまるっきり人が違っていたのだから。
『聖女様……』
クロナを乗せて運ぶスチールアントが、クロナの感情の機微を感じ取って、心配そうに語りかけている。
「私なら大丈夫ですよ。ただ、私の知っている殿下と、あまりにも違い過ぎましたので、ええ……」
クロナは気丈に振る舞おうとするも、やはり優しい性格が影響してか、すぐに黙り込んでしまっていた。
クロナの気持ちを汲んだスチールアントは、落ち着くまで何も聞かないことにしたようだった。
長くて暗い岩穴を通り抜けると、ようやく広い場所に出たようだ。
しかし、ここまで同様に真っ黒でよく見えない。
「トーチ」
あまりにも真っ暗だったので、クロナは明かり取りの魔法を使う。
広い空間の中はあっという間に明るくなり、内装がはっきりと見えてくる。
「ひっ!」
空間の中を見て、クロナは思わず声を出して怖がってしまう。
無理もない。部屋の中は物騒なものであふれかえっていたのだから。さすがは元暗殺者であるブラナが拠点として使っていた場所。見たことのない武器や骨のようなものまでがごろごろと転がっていた。
幸い、魔物が棲みついている様子はないようだ。
『なんとも物騒な部屋の中だ。我々なら別に問題はないが、これでは聖女様にとって環境がよろしくなさそうだな』
『確かに。武器はまだいいとしても、骨はよろしくない。穴でも掘って埋めておいてやろう』
「だ、ダメですよ」
スチールアントたちが話していると、クロナが止める。
『なぜですか?』
「ブラナが使っていた場所なのです。ブラナに断りもなく、あまり模様替えをしたくないのですよ」
『聖女様、なんとお優しいことでしょうか』
クロナの言葉に、スチールアントたちは感動しているようである。
だが、アサシンスパイダーはそうは思わなかったようだ。
『聖女様、部屋の中は片付けておく方がいいですよ。罠として仕掛けるならまだしも、普段使いをするのでしたら、せめて邪魔にならないように壁際に寄せておくなどしておいた方がいいのです。なぜなら、ここは今から聖女様の住処になるのですからね』
アサシンスパイダーから説教をされてしまうクロナである。
これには渋々クロナは従うことにした。
「ですが、住むには少し埃っぽいですね。えいっ」
クロナは片付ける前に、ちょいと右手の人差し指を立ててくるりんと回す。これだけで浄化の魔法を発動させてしまっていた。
頭に黒い角が生えてしまったとはいっても、クロナの使う能力自体にはまったく影響がない。なので、あっという間に洞窟の中の広い空間はきれいに浄化されてしまっていた。
『これだけの空間を一瞬で……。さすが聖女様ですね』
アサシンスパイダーに褒められて、クロナはつい照れてしまう。
『それでは、これも浄化して食事に致しましょう』
どんと何かが目の前に置かれている。
ここに来るまでの間に討伐した、パラライズキャタピラーの肉である。
せっかくきれいにした洞窟の中に、パラライズキャタピラーの毒液が飛び散る。
うっとひきつった顔をしながらも、クロナは再び浄化の魔法を使う。飛び散った毒液ともども、パラライズキャタピラーの麻痺毒も消え去り、くすんでいた肉の色が白っぽく変化していた。
「あら、結構きれいな色をしていますね」
『麻痺毒のせいで変な色をしているだけですね。パラライズキャタピラーの肉は毒抜きに成功すれば、このように白い肉になるんですよ』
「そうなのですね」
『聖女様、火の魔法は使えますか? 生のままはお勧めしませんので、軽くあぶった方がよろしいですよ』
「わわっ、いろいろとありがとうございます」
肉を細かく切る作業は、スチールアントたちが行っている。クロナは洞窟の中にあった武器に肉を突き刺して、生活魔法で起こした火で肉を簡単に焼いていた。
パクッとクロナは肉にかぶりつく。
「あっ、おいしい……」
『でしょう。当面はここを拠点に活動になるでしょうから、この森で採れるものに慣れておくべきと思われます』
『おいおい、ずいぶんと言ってくれるな』
『当然でしょう。ここは強い魔物のうごめく森。半端な人間どもに、入れる隙間なんてないわ』
スチールアントがすごもうとも、アサシンスパイダーにはまったく通じない。
なんとも仲の悪い虫たちに囲まれながらも、クロナの新しい生活が始まろうとしている。
騒がしいながらも、久しぶりに安心して過ごせる時間が訪れた。クロナは目の前の光景に、つい笑みをこぼしてしまうのだった。
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入口の草をかき分けると、そこにあったのは岩穴の通路だった。
ブラナが入っていけるのだから、クロナの身長であれば余裕で入れるようである。
「お、お邪魔します……」
丁寧に挨拶をして、ブラナのアジトの中へと入っていくクロナたち。アサシンスパイダーもクロナからすると少し大きい程度なので、普通に入っていけるようである。
入るとすぐに真っ暗になってしまう。
『聖女様、ここは私めが先頭を参りましょう。アリども、後方は任せたぞ』
『言われなくても!』
スチールアントたちは、アサシンスパイダーに命令されて不機嫌そうだった。
しかし、強さでいえばアサシンスパイダーの方が強い。なので、スチールアントたちは従わざるを得なかった。
なんともぎすぎすした関係ではあるものの、クロナはそれどころではなかった。
やはり、バタフィー王子の変貌っぷりに驚いているようである。
残虐なシーンは見ていなかったとはいえ、自分に対する発言だけでも、自分の知っているバタフィー王子とはまるっきり人が違っていたのだから。
『聖女様……』
クロナを乗せて運ぶスチールアントが、クロナの感情の機微を感じ取って、心配そうに語りかけている。
「私なら大丈夫ですよ。ただ、私の知っている殿下と、あまりにも違い過ぎましたので、ええ……」
クロナは気丈に振る舞おうとするも、やはり優しい性格が影響してか、すぐに黙り込んでしまっていた。
クロナの気持ちを汲んだスチールアントは、落ち着くまで何も聞かないことにしたようだった。
長くて暗い岩穴を通り抜けると、ようやく広い場所に出たようだ。
しかし、ここまで同様に真っ黒でよく見えない。
「トーチ」
あまりにも真っ暗だったので、クロナは明かり取りの魔法を使う。
広い空間の中はあっという間に明るくなり、内装がはっきりと見えてくる。
「ひっ!」
空間の中を見て、クロナは思わず声を出して怖がってしまう。
無理もない。部屋の中は物騒なものであふれかえっていたのだから。さすがは元暗殺者であるブラナが拠点として使っていた場所。見たことのない武器や骨のようなものまでがごろごろと転がっていた。
幸い、魔物が棲みついている様子はないようだ。
『なんとも物騒な部屋の中だ。我々なら別に問題はないが、これでは聖女様にとって環境がよろしくなさそうだな』
『確かに。武器はまだいいとしても、骨はよろしくない。穴でも掘って埋めておいてやろう』
「だ、ダメですよ」
スチールアントたちが話していると、クロナが止める。
『なぜですか?』
「ブラナが使っていた場所なのです。ブラナに断りもなく、あまり模様替えをしたくないのですよ」
『聖女様、なんとお優しいことでしょうか』
クロナの言葉に、スチールアントたちは感動しているようである。
だが、アサシンスパイダーはそうは思わなかったようだ。
『聖女様、部屋の中は片付けておく方がいいですよ。罠として仕掛けるならまだしも、普段使いをするのでしたら、せめて邪魔にならないように壁際に寄せておくなどしておいた方がいいのです。なぜなら、ここは今から聖女様の住処になるのですからね』
アサシンスパイダーから説教をされてしまうクロナである。
これには渋々クロナは従うことにした。
「ですが、住むには少し埃っぽいですね。えいっ」
クロナは片付ける前に、ちょいと右手の人差し指を立ててくるりんと回す。これだけで浄化の魔法を発動させてしまっていた。
頭に黒い角が生えてしまったとはいっても、クロナの使う能力自体にはまったく影響がない。なので、あっという間に洞窟の中の広い空間はきれいに浄化されてしまっていた。
『これだけの空間を一瞬で……。さすが聖女様ですね』
アサシンスパイダーに褒められて、クロナはつい照れてしまう。
『それでは、これも浄化して食事に致しましょう』
どんと何かが目の前に置かれている。
ここに来るまでの間に討伐した、パラライズキャタピラーの肉である。
せっかくきれいにした洞窟の中に、パラライズキャタピラーの毒液が飛び散る。
うっとひきつった顔をしながらも、クロナは再び浄化の魔法を使う。飛び散った毒液ともども、パラライズキャタピラーの麻痺毒も消え去り、くすんでいた肉の色が白っぽく変化していた。
「あら、結構きれいな色をしていますね」
『麻痺毒のせいで変な色をしているだけですね。パラライズキャタピラーの肉は毒抜きに成功すれば、このように白い肉になるんですよ』
「そうなのですね」
『聖女様、火の魔法は使えますか? 生のままはお勧めしませんので、軽くあぶった方がよろしいですよ』
「わわっ、いろいろとありがとうございます」
肉を細かく切る作業は、スチールアントたちが行っている。クロナは洞窟の中にあった武器に肉を突き刺して、生活魔法で起こした火で肉を簡単に焼いていた。
パクッとクロナは肉にかぶりつく。
「あっ、おいしい……」
『でしょう。当面はここを拠点に活動になるでしょうから、この森で採れるものに慣れておくべきと思われます』
『おいおい、ずいぶんと言ってくれるな』
『当然でしょう。ここは強い魔物のうごめく森。半端な人間どもに、入れる隙間なんてないわ』
スチールアントがすごもうとも、アサシンスパイダーにはまったく通じない。
なんとも仲の悪い虫たちに囲まれながらも、クロナの新しい生活が始まろうとしている。
騒がしいながらも、久しぶりに安心して過ごせる時間が訪れた。クロナは目の前の光景に、つい笑みをこぼしてしまうのだった。