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第17話 怒りと悲しみの洞窟

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「くそっ! 完全に見失ってしまったか!」

 バタフィー王子が悔しそうに地面を踏みつけている。
 洞窟内に残っていたスチールアントはすべて撃退できたものの、バタフィー王子の軍勢もかなりの痛手をこうむっていた。
 バタフィー王子はまったくの無傷だが、半分ほどの兵士が腕や足の骨を粉々に砕かれるという惨状である。
 クロナ一人だけであるなら簡単に殺せると思っていたバタフィー王子だったが、予想外な魔物がいて、クロナを守っていた。その魔物たちにクロナ抹殺を邪魔されたために、バタフィー王子は怒り狂っているのである。

「おい、貴様ら。あの程度の魔物に手こずるとは何事だ!」

「で、ですが、殿下。あの魔物どもは硬すぎます。我々ではとても……」

「うるさいっ!」

「ぎゃあっ!」

 怒り心頭のバタフィー王子は、口答えをした兵士の腕を切り落としてしまった。
 だが、この程度で怒りが収まるわけもない。

「はっ、砕かれて使い物になった腕だ。なくなったところで影響はあるまい。だが、これだけの被害では一度戻らざるを得ないな。くそっ、雑魚無視ごときが俺を邪魔するとはな……」

 バタフィー王子は無事な兵士だけを連れて引き上げようとする。
 ところが、手足をばきばきに砕かれた兵士たちは置いてきぼりにしようとしていた。

「で、殿下!」

「なんだ?」

 兵士が叫ぶと、バタフィー王子は殺気に満ちた目で兵士を見つめている。

「わ、我々も連れて行って下さいませ」

「ふん、知らぬ。使えぬ兵士などに、手を貸す余裕などないわ。死にたくなければ、自力で戻ってこい。行くぞ」

「はっ!」

「そ、そんな、バタフィーで……、ぐはっ!」

 口答えをする兵士は、投げつけられた剣に貫かれてその場で息絶えてしまう。

「うるさい。お前らもこうなりたくなかったら、自力でどうにかして戻って来ることだな。……引き揚げるぞ」

「はっ!」

 骨を砕かれた兵士たちは、あえてその場に置いてきぼりにされてしまう。
 バタフィー王子は、動ける兵士だけを連れて、王都へと引き揚げていったのだった。

 洞窟の中には、スチールアントに骨を砕かれた兵士が残されている。

「くそっ、あれが心優しかった殿下なのか?」

「なぜ、あんなに冷酷な人物になってしまわれたのだ」

「……これもあの魔族のせいなのか」

「ああ、あの魔族のせいで俺たちはこんな目に遭ってるんだ」

「体さえ動けば、今すぐにでも探し出して殺しに行くというのに……」

「くそおぉぉっ!!」

 バタフィー王子の人の変わりように嘆きながらも、そのすべての罪をクロナに擦り付けていた。これが邪神による呪いなのだろうか。悪いことのすべてはすべてクロナのせいにされてしまうようなのだ。
 兵士たちは動けない体を引きずりながら、どうにかして洞窟からの脱出を図ることにしたのだった。
 この痛み、屈辱のすべてを魔族と化してしまったクロナにぶつけるために。

 兵士たちが立ち去ると、洞窟の中にうごめく物体がいた。
 ひょっこりと体を起こしたのは、全滅したはずのスチールアントだった。
 どうやら、うまく死んだふりでやり過ごしたようなのである。虫の魔物であるわりに、意外と悪知恵が働くものである。

『行ったか……』

 辺りをきょろきょろと見回して、誰もいなくなったことを確認したスチールアントは、ほっとした様子で言葉を漏らしている。

『まったく、人間というものも醜いものだな』

『あれも邪神とやらの影響なのだろうかな』

『分からん。だが、兵士が少し話していた様子からすれば、王子の性格は真逆のものだったのだろうな』

『なんてやつだ。聖女様だけではなく、他の者の運命まで捻じ曲げるとは……』

 魔物であるはずのスチールアントが、この現状に嘆いているようである。
 大きくため息をつくように頭を下げたスチールアントたちは、改めてその場に転がっている人間たちの死体を見つめる。

『どうする、この人間、死んでいるのだろう?』

『このままにしておくと、聖女様は悲しまれるだろう。地面に埋めておいてやればいいだろう』

『分かった』

 無事に動けるスチールアントは三体。
 彼らはクロナの意思をくみ取り、死んで動かなくなってしまった兵士たちを洞窟の中に埋葬することにしたようだ。
 硬い地面を掘り返して兵士を放り込むと、かみ砕いた地面を埋め戻して、最後に器用に剣を墓標代わりに突き刺していた。

『これでよし』

『では、聖女様を追跡して、合流しなければ』

『だが、あいつらはどうする?』

 やることを終えてクロナを追跡しようとするが、一匹のスチールアントはバタフィー王子たちの動きが気になるようである。
 だが、残りの二匹のスチールアントは首を横に振っている。

『我々を真っ二つにするような人間がいるのだ。追いかけても殺されるだけだ。聖女様をお守りするために追いかけた方がいいであろう』

『命あってこそというもの。我々には果たすべき使命がある』

『分かった』

 兵士たちを弔ったスチールアントたちは、奥にある隠し通路から、クロナを追いかけていったのだった。


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「くそっ! 完全に見失ってしまったか!」
 バタフィー王子が悔しそうに地面を踏みつけている。
 洞窟内に残っていたスチールアントはすべて撃退できたものの、バタフィー王子の軍勢もかなりの痛手をこうむっていた。
 バタフィー王子はまったくの無傷だが、半分ほどの兵士が腕や足の骨を粉々に砕かれるという惨状である。
 クロナ一人だけであるなら簡単に殺せると思っていたバタフィー王子だったが、予想外な魔物がいて、クロナを守っていた。その魔物たちにクロナ抹殺を邪魔されたために、バタフィー王子は怒り狂っているのである。
「おい、貴様ら。あの程度の魔物に手こずるとは何事だ!」
「で、ですが、殿下。あの魔物どもは硬すぎます。我々ではとても……」
「うるさいっ!」
「ぎゃあっ!」
 怒り心頭のバタフィー王子は、口答えをした兵士の腕を切り落としてしまった。
 だが、この程度で怒りが収まるわけもない。
「はっ、砕かれて使い物になった腕だ。なくなったところで影響はあるまい。だが、これだけの被害では一度戻らざるを得ないな。くそっ、雑魚無視ごときが俺を邪魔するとはな……」
 バタフィー王子は無事な兵士だけを連れて引き上げようとする。
 ところが、手足をばきばきに砕かれた兵士たちは置いてきぼりにしようとしていた。
「で、殿下!」
「なんだ?」
 兵士が叫ぶと、バタフィー王子は殺気に満ちた目で兵士を見つめている。
「わ、我々も連れて行って下さいませ」
「ふん、知らぬ。使えぬ兵士などに、手を貸す余裕などないわ。死にたくなければ、自力で戻ってこい。行くぞ」
「はっ!」
「そ、そんな、バタフィーで……、ぐはっ!」
 口答えをする兵士は、投げつけられた剣に貫かれてその場で息絶えてしまう。
「うるさい。お前らもこうなりたくなかったら、自力でどうにかして戻って来ることだな。……引き揚げるぞ」
「はっ!」
 骨を砕かれた兵士たちは、あえてその場に置いてきぼりにされてしまう。
 バタフィー王子は、動ける兵士だけを連れて、王都へと引き揚げていったのだった。
 洞窟の中には、スチールアントに骨を砕かれた兵士が残されている。
「くそっ、あれが心優しかった殿下なのか?」
「なぜ、あんなに冷酷な人物になってしまわれたのだ」
「……これもあの魔族のせいなのか」
「ああ、あの魔族のせいで俺たちはこんな目に遭ってるんだ」
「体さえ動けば、今すぐにでも探し出して殺しに行くというのに……」
「くそおぉぉっ!!」
 バタフィー王子の人の変わりように嘆きながらも、そのすべての罪をクロナに擦り付けていた。これが邪神による呪いなのだろうか。悪いことのすべてはすべてクロナのせいにされてしまうようなのだ。
 兵士たちは動けない体を引きずりながら、どうにかして洞窟からの脱出を図ることにしたのだった。
 この痛み、屈辱のすべてを魔族と化してしまったクロナにぶつけるために。
 兵士たちが立ち去ると、洞窟の中にうごめく物体がいた。
 ひょっこりと体を起こしたのは、全滅したはずのスチールアントだった。
 どうやら、うまく死んだふりでやり過ごしたようなのである。虫の魔物であるわりに、意外と悪知恵が働くものである。
『行ったか……』
 辺りをきょろきょろと見回して、誰もいなくなったことを確認したスチールアントは、ほっとした様子で言葉を漏らしている。
『まったく、人間というものも醜いものだな』
『あれも邪神とやらの影響なのだろうかな』
『分からん。だが、兵士が少し話していた様子からすれば、王子の性格は真逆のものだったのだろうな』
『なんてやつだ。聖女様だけではなく、他の者の運命まで捻じ曲げるとは……』
 魔物であるはずのスチールアントが、この現状に嘆いているようである。
 大きくため息をつくように頭を下げたスチールアントたちは、改めてその場に転がっている人間たちの死体を見つめる。
『どうする、この人間、死んでいるのだろう?』
『このままにしておくと、聖女様は悲しまれるだろう。地面に埋めておいてやればいいだろう』
『分かった』
 無事に動けるスチールアントは三体。
 彼らはクロナの意思をくみ取り、死んで動かなくなってしまった兵士たちを洞窟の中に埋葬することにしたようだ。
 硬い地面を掘り返して兵士を放り込むと、かみ砕いた地面を埋め戻して、最後に器用に剣を墓標代わりに突き刺していた。
『これでよし』
『では、聖女様を追跡して、合流しなければ』
『だが、あいつらはどうする?』
 やることを終えてクロナを追跡しようとするが、一匹のスチールアントはバタフィー王子たちの動きが気になるようである。
 だが、残りの二匹のスチールアントは首を横に振っている。
『我々を真っ二つにするような人間がいるのだ。追いかけても殺されるだけだ。聖女様をお守りするために追いかけた方がいいであろう』
『命あってこそというもの。我々には果たすべき使命がある』
『分かった』
 兵士たちを弔ったスチールアントたちは、奥にある隠し通路から、クロナを追いかけていったのだった。