駿吾は舞羽のケガを大層心配していた。舞香から見てそれは、『舞羽を心から案じている』のか、『舞羽の才能を心配していた』のか、正直、舞香には分からないでいる。
そんな不安も残るオランダ生活の中、舞香の馬術生活の今後を左右する出来事が起こる。
「舞香……今日はあなたに素敵なプレゼントがあるわ」
渡蘭後一週間ほどでアンキーが舞香に言った。この一週間でアンキーは舞香をとても気に入っていた。
内向的ではあるが、真面目で一生懸命。決して要領が良い訳ではないが、手を抜かない。何より馬にもアンキーにも誠実であった。
そして馬術の才能も……。
お昼のサンドウィッチを急いで口に放りこんでいるところへ、アンキーが声を掛けてきた。馬場には二頭の馬がいる。
「『ウィジス』」と『レミリア』よ。どちらか選ぶといいわ」
アンキーは『乗って決めたら?』と言ってきたが、舞香は一目で決まっていた。滑らかなトップラインと表現力豊かな頭、足の長い栗色が見事な馬。
「こっちに決めました。乗ってもいいですか?」
「ふふふ……舞香なら、そう言うと思ったわ」
舞香は色を見ていた……常歩から速歩、速歩から駆歩……馬が駆ける景色は絵の具が混ざるように溶けていく。それは未来とも過去とも繋がっていくような、まるで光をも超えたスピード。光の速さで進むその時間は、ゆっくり、ゆっくりと流れていく。そう……舞香と馬はゆっくりとその流れを愉しめばいい。
舞香の愛馬『レミリア』。アンキーからの贈り物。
「大きい体をしているのに心はとても優しくて、すごく可愛い馬なんだ!」
舞香は舞羽の電話を受け、最高の笑声でそう告げた。