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ギリギリ

ー/ー



繭己(まゆみ)~、ゆうべも酷かったぜ! ゲコゲコ蛙が鳴いてるみたいだった。稲が豊富に育った田んぼの幻覚さえ見えたもん」
「そ、そうなのね……鮎多(あゆた)。参っちゃな~」
「うん、オレもね、寝不足で参っちゃう」

 繭己ちゃんは『歯ぎしり』が凄いのだ。同棲中の鮎多くんは、そのうち可愛い繭己ちゃんの大切な歯がすり減ってなくなりフガフガなっちゃうんじゃないかと気が気ではない。

 歯科で少し前相談した際、ドクターからは「ストレスをためないように」「口をあんまり閉じないように」と言われ、普段繭己ちゃんはほうけた顔をしている。口が開けっぱなしで乾燥して来てのども乾く。そんな努力もむなしく、睡眠中の歯ぎしりは改善されない。

 繭己ちゃんはずっとお家にいる。生活費は寿司職人の鮎多くんが稼いで帰って来る。

(なんとかならないのかしら~)夕方、ソファーに寝そべり口を開けっぱなしの締まらない顔で、繭己ちゃんは歯ぎしりを止めたいと考えあぐねている。
 ちなみに今日出勤していく時、鮎多くんは「のこぎりみたいだった」と言っていた。

 鮎多くんの寝不足もだし、歯ぎしりは繭己ちゃんの顎の病気なども引き起こす。歯科で話されたのだった。すでに顎関節症は経験済みのかわいそうな繭己ちゃん。その時は顎から頭まで痛くなり何事かと思った。歯ぎしりも要因の一つと言えるらしい。

「ジャジャジャッジャーン! こんにちはー。ごきげんいかがぁー!!」

 う、うわぁ! モクモクモクって白い煙が現れおっさんがでてきた!
(ちょっと待て。これ……て? あたしの親友、園美(そのみ)ちゃんが言ってた『大巨人』の登場の仕方と似ているわ!!)

 園美ちゃんは卵から生まれた人間で、パパとママが象の神様だ。
 初め聴いたときは、にわかに信じられなかったが、
「繭己ちゃんには、思い切って話す!」と泣きながら教えてくれた。彼女には玲利(れいり)さんという恋人がいて、なんと! 彼も卵から生まれた人間なのだ。

 その二人が「海辺で『ジャジャジャッジャーン! こんにちはー』とあいさつをした化け物に出会った」と、園美ちゃんが教えてくれたことを瞬時に思い出した繭己ちゃん。

「ねえ! あなたって、もしかして『神様より偉い人』じゃない?」
「うぬぬ、なにゆえそのことを?!」
「お友だちの園美ちゃんから聴いたわ。あなたが物語りをあやふやにしたまま逃げて行ったこともね! あら、今日は身体が普通サイズなのね。 わからない人は沙華やや子さんという作家が書いた『from eggs』という本を読めばいいわ!」
「……」気まずそうにしているおっさん。
「ところで、あなた、なにしにここへ?」
「コホン」気を取り直す風のおっさん。「君の歯ぎしりを直してしんぜよう」
「え!」瞳が輝く繭己ちゃん。
「うむ。わしにできぬことなどない」
「そう! どうすればいいの」

 ガチャ。「ただいま~、繭己」そこへ鮎多くんがお仕事から帰って来た。
「はっあーい」鮎多に手を振るおっさん。
「ハッ……ァ~イ」つられて鮎多もご挨拶。と、即座に「ってぇ! あなた誰? 繭己、大丈夫か? 変な事されてないか、すぐ110番だっ」
「うん。悪い人じゃなさそうよ。煙から出てきた『神様より偉い人』だから」
「ぉ、おぅ」ちんぷんかんぷんだが、繭己ちゃんが落ち着き払っているので、鮎多くんは黙った。
 けどすぐさま、何があっても良いように両手を広げ繭己ちゃんの前に立ちはだかった。

 おっさんが喋り出した。
「よ~く聞くんだ。繭己のひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいおばあちゃんはゲコッパ。ひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいおじいちゃんはギリノッコ。二人は妖精だった」
「ひいひい いっぱい書くの、っぁちが、言うのめんどくさいから『ご先祖様』で行きましょうよ、おっさん」と繭己ちゃん。
「ンン~? そーんなことをためらっておっては良い作家にはなれんぞ。あ、繭己は作家じゃないな。まあ、よかろう」
「ご先祖様が妖精? じゃああたしにも妖精の血が流れているのね?」
 鮎多くんも真剣な表情で話を聴いている。
「そうだ、そして繭己のご先祖様は肉食妖精だった」
「肉食妖精?」
「うむ。マイノリティーだ。そして、ご先祖様は草食妖精たちから忌み嫌われていた」
「ふーん。で、あたしの歯ぎしりと何の関係があるわけ?」
「歯に無数の蛙の魂が詰まっている。隔世遺伝でな」
 静かに聴いていた鮎多くんが口を開いた。
「『のこぎりの魂も歯に詰まっている』と言いたいのだろう?」ちょっぴりしたり顔。
「ちょっとぉ! どうしてくれんのよぉ! この企画『予想外の結末』っていうテーマなのよ!」と繭己ちゃん。
「そうだなグダグダだ。わしはしらん! つまようじじゃ! それだけ言っておく! バイバーイ!!」
 シュ――――――! 消火器が倒れた時みたいな音を立て、おっさんは消えて行った。






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「|繭己《まゆみ》~、ゆうべも酷かったぜ! ゲコゲコ蛙が鳴いてるみたいだった。稲が豊富に育った田んぼの幻覚さえ見えたもん」
「そ、そうなのね……|鮎多《あゆた》。参っちゃな~」
「うん、オレもね、寝不足で参っちゃう」
 繭己ちゃんは『歯ぎしり』が凄いのだ。同棲中の鮎多くんは、そのうち可愛い繭己ちゃんの大切な歯がすり減ってなくなりフガフガなっちゃうんじゃないかと気が気ではない。
 歯科で少し前相談した際、ドクターからは「ストレスをためないように」「口をあんまり閉じないように」と言われ、普段繭己ちゃんはほうけた顔をしている。口が開けっぱなしで乾燥して来てのども乾く。そんな努力もむなしく、睡眠中の歯ぎしりは改善されない。
 繭己ちゃんはずっとお家にいる。生活費は寿司職人の鮎多くんが稼いで帰って来る。
(なんとかならないのかしら~)夕方、ソファーに寝そべり口を開けっぱなしの締まらない顔で、繭己ちゃんは歯ぎしりを止めたいと考えあぐねている。
 ちなみに今日出勤していく時、鮎多くんは「のこぎりみたいだった」と言っていた。
 鮎多くんの寝不足もだし、歯ぎしりは繭己ちゃんの顎の病気なども引き起こす。歯科で話されたのだった。すでに顎関節症は経験済みのかわいそうな繭己ちゃん。その時は顎から頭まで痛くなり何事かと思った。歯ぎしりも要因の一つと言えるらしい。
「ジャジャジャッジャーン! こんにちはー。ごきげんいかがぁー!!」
 う、うわぁ! モクモクモクって白い煙が現れおっさんがでてきた!
(ちょっと待て。これ……て? あたしの親友、|園美《そのみ》ちゃんが言ってた『大巨人』の登場の仕方と似ているわ!!)
 園美ちゃんは卵から生まれた人間で、パパとママが象の神様だ。
 初め聴いたときは、にわかに信じられなかったが、
「繭己ちゃんには、思い切って話す!」と泣きながら教えてくれた。彼女には|玲利《れいり》さんという恋人がいて、なんと! 彼も卵から生まれた人間なのだ。
 その二人が「海辺で『ジャジャジャッジャーン! こんにちはー』とあいさつをした化け物に出会った」と、園美ちゃんが教えてくれたことを瞬時に思い出した繭己ちゃん。
「ねえ! あなたって、もしかして『神様より偉い人』じゃない?」
「うぬぬ、なにゆえそのことを?!」
「お友だちの園美ちゃんから聴いたわ。あなたが物語りをあやふやにしたまま逃げて行ったこともね! あら、今日は身体が普通サイズなのね。 わからない人は沙華やや子さんという作家が書いた『from eggs』という本を読めばいいわ!」
「……」気まずそうにしているおっさん。
「ところで、あなた、なにしにここへ?」
「コホン」気を取り直す風のおっさん。「君の歯ぎしりを直してしんぜよう」
「え!」瞳が輝く繭己ちゃん。
「うむ。わしにできぬことなどない」
「そう! どうすればいいの」
 ガチャ。「ただいま~、繭己」そこへ鮎多くんがお仕事から帰って来た。
「はっあーい」鮎多に手を振るおっさん。
「ハッ……ァ~イ」つられて鮎多もご挨拶。と、即座に「ってぇ! あなた誰? 繭己、大丈夫か? 変な事されてないか、すぐ110番だっ」
「うん。悪い人じゃなさそうよ。煙から出てきた『神様より偉い人』だから」
「ぉ、おぅ」ちんぷんかんぷんだが、繭己ちゃんが落ち着き払っているので、鮎多くんは黙った。
 けどすぐさま、何があっても良いように両手を広げ繭己ちゃんの前に立ちはだかった。
 おっさんが喋り出した。
「よ~く聞くんだ。繭己のひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいおばあちゃんはゲコッパ。ひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいおじいちゃんはギリノッコ。二人は妖精だった」
「ひいひい いっぱい書くの、っぁちが、言うのめんどくさいから『ご先祖様』で行きましょうよ、おっさん」と繭己ちゃん。
「ンン~? そーんなことをためらっておっては良い作家にはなれんぞ。あ、繭己は作家じゃないな。まあ、よかろう」
「ご先祖様が妖精? じゃああたしにも妖精の血が流れているのね?」
 鮎多くんも真剣な表情で話を聴いている。
「そうだ、そして繭己のご先祖様は肉食妖精だった」
「肉食妖精?」
「うむ。マイノリティーだ。そして、ご先祖様は草食妖精たちから忌み嫌われていた」
「ふーん。で、あたしの歯ぎしりと何の関係があるわけ?」
「歯に無数の蛙の魂が詰まっている。隔世遺伝でな」
 静かに聴いていた鮎多くんが口を開いた。
「『のこぎりの魂も歯に詰まっている』と言いたいのだろう?」ちょっぴりしたり顔。
「ちょっとぉ! どうしてくれんのよぉ! この企画『予想外の結末』っていうテーマなのよ!」と繭己ちゃん。
「そうだなグダグダだ。わしはしらん! つまようじじゃ! それだけ言っておく! バイバーイ!!」
 シュ――――――! 消火器が倒れた時みたいな音を立て、おっさんは消えて行った。