表示設定
表示設定
目次 目次




第10話_青は進め

ー/ー



田中は扉の前で力が抜けたようにへたり込んだ。
膝は笑い、足先から血が引いていく感覚がある。
心臓はまだ耳の奥で爆音のように鳴り響き、頭蓋骨の内側を震わせていた。
呼吸は荒く、吸い込む空気は冷たいはずなのに、肺の奥は焼けつくように熱い。

「閉じ込め…られたのか…俺?」

呟いた声はかすれ、自分でも聞き取れないほど震えていた。
額から滴る汗が顎を伝い、ぽたりと床に落ちる。

唯一の同居人は、あの気味の悪い石像。
どうしても視線を感じ、振り返る。
しかし石像は相変わらず天井を見つめたまま、そこに横たわっていた。
動くはずがないとわかっているのに、田中の喉はごくりと鳴った。

(……誰が、なんのために……どうして俺なんだ……?)

答えの出ない疑問が、沸騰した水からあふれ出す気泡のように次々と浮かんでくる。
考えれば考えるほど頭が熱を帯び、こめかみがズキズキと脈打つ。

「なんで…俺なんだよ……!もう、いやだ……」

思わず声が漏れ、両手で顔を覆う。
孤独という名の恐怖に押し潰され、頬を伝って涙が滲み出した。

ふと、視界の端に青が差した。
反射的に顔を上げる。
赤く灯っていたはずの信号機が、いつの間にか――青に変わっていた。
その光は、この閉ざされた空間で唯一の進む道を示す希望のように見えた。

「青信号…進めって、ことか?」

思わず震える声で吐き捨てる。
無意識に、体は勝手にドアノブへと手を伸ばしていた。
冷たい金属を握りしめ、捻る。

足を踏み出した瞬間――足は空を蹴った。

「うぅわぁあああああああ!」

叫び声が空間に木霊する。
視界が揺れ、重力に引きずり込まれるように身体が沈む。

落下の刹那、目に飛び込んできたのは、果てしなく広がるカラーボールの海。
赤、青、黄、緑……子供の遊び場にあるはずのボールプールが、空間そのものを埋め尽くしていた。

ドサァッ!

全身がボールの海に突き刺さるように沈み込む。
弾力のある衝撃は柔らかいはずなのに、不気味なほど身体を絡め取って離さない。
先ほどまでの冷たさとは正反対に、じんわりとした温もりが肌にまとわりつく。
その温かみが逆に、不気味さを際立たせていた。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第11話_色彩の海


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



田中は扉の前で力が抜けたようにへたり込んだ。
膝は笑い、足先から血が引いていく感覚がある。
心臓はまだ耳の奥で爆音のように鳴り響き、頭蓋骨の内側を震わせていた。
呼吸は荒く、吸い込む空気は冷たいはずなのに、肺の奥は焼けつくように熱い。
「閉じ込め…られたのか…俺?」
呟いた声はかすれ、自分でも聞き取れないほど震えていた。
額から滴る汗が顎を伝い、ぽたりと床に落ちる。
唯一の同居人は、あの気味の悪い石像。
どうしても視線を感じ、振り返る。
しかし石像は相変わらず天井を見つめたまま、そこに横たわっていた。
動くはずがないとわかっているのに、田中の喉はごくりと鳴った。
(……誰が、なんのために……どうして俺なんだ……?)
答えの出ない疑問が、沸騰した水からあふれ出す気泡のように次々と浮かんでくる。
考えれば考えるほど頭が熱を帯び、こめかみがズキズキと脈打つ。
「なんで…俺なんだよ……!もう、いやだ……」
思わず声が漏れ、両手で顔を覆う。
孤独という名の恐怖に押し潰され、頬を伝って涙が滲み出した。
ふと、視界の端に青が差した。
反射的に顔を上げる。
赤く灯っていたはずの信号機が、いつの間にか――青に変わっていた。
その光は、この閉ざされた空間で唯一の進む道を示す希望のように見えた。
「青信号…進めって、ことか?」
思わず震える声で吐き捨てる。
無意識に、体は勝手にドアノブへと手を伸ばしていた。
冷たい金属を握りしめ、捻る。
足を踏み出した瞬間――足は空を蹴った。
「うぅわぁあああああああ!」
叫び声が空間に木霊する。
視界が揺れ、重力に引きずり込まれるように身体が沈む。
落下の刹那、目に飛び込んできたのは、果てしなく広がるカラーボールの海。
赤、青、黄、緑……子供の遊び場にあるはずのボールプールが、空間そのものを埋め尽くしていた。
ドサァッ!
全身がボールの海に突き刺さるように沈み込む。
弾力のある衝撃は柔らかいはずなのに、不気味なほど身体を絡め取って離さない。
先ほどまでの冷たさとは正反対に、じんわりとした温もりが肌にまとわりつく。
その温かみが逆に、不気味さを際立たせていた。