田中は扉の前で力が抜けたようにへたり込んだ。
膝は笑い、足先から血が引いていく感覚がある。
心臓はまだ耳の奥で爆音のように鳴り響き、頭蓋骨の内側を震わせていた。
呼吸は荒く、吸い込む空気は冷たいはずなのに、肺の奥は焼けつくように熱い。
「閉じ込め…られたのか…俺?」
呟いた声はかすれ、自分でも聞き取れないほど震えていた。
額から滴る汗が顎を伝い、ぽたりと床に落ちる。
唯一の同居人は、あの気味の悪い石像。
どうしても視線を感じ、振り返る。
しかし石像は相変わらず天井を見つめたまま、そこに横たわっていた。
動くはずがないとわかっているのに、田中の喉はごくりと鳴った。
(……誰が、なんのために……どうして俺なんだ……?)
答えの出ない疑問が、沸騰した水からあふれ出す気泡のように次々と浮かんでくる。
考えれば考えるほど頭が熱を帯び、こめかみがズキズキと脈打つ。
「なんで…俺なんだよ……!もう、いやだ……」
思わず声が漏れ、両手で顔を覆う。
孤独という名の恐怖に押し潰され、頬を伝って涙が滲み出した。
ふと、視界の端に青が差した。
反射的に顔を上げる。
赤く灯っていたはずの信号機が、いつの間にか――青に変わっていた。
その光は、この閉ざされた空間で唯一の進む道を示す希望のように見えた。
「青信号…進めって、ことか?」
思わず震える声で吐き捨てる。
無意識に、体は勝手にドアノブへと手を伸ばしていた。
冷たい金属を握りしめ、捻る。
足を踏み出した瞬間――足は空を蹴った。
「うぅわぁあああああああ!」
叫び声が空間に木霊する。
視界が揺れ、重力に引きずり込まれるように身体が沈む。
落下の刹那、目に飛び込んできたのは、果てしなく広がるカラーボールの海。
赤、青、黄、緑……子供の遊び場にあるはずのボールプールが、空間そのものを埋め尽くしていた。
ドサァッ!
全身がボールの海に突き刺さるように沈み込む。
弾力のある衝撃は柔らかいはずなのに、不気味なほど身体を絡め取って離さない。
先ほどまでの冷たさとは正反対に、じんわりとした温もりが肌にまとわりつく。
その温かみが逆に、不気味さを際立たせていた。