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第9話_44番室

ー/ー



田中は廊下の数字をひとつずつ確認しながら進んだ。
33、36、40……そして――44。
赤いランプが点滅を繰り返し、扉の上を血のように染めていた。

「ここだな…」

呟いた声は掠れ、喉の奥で震えた。
冷たい汗が背中を伝い、掌はじっとりと濡れている。
ドアノブに手を伸ばすが、指先が小刻みに震え、金属に触れるのを拒んでいるかのようだった。

(ここに……誰かがいる、きっと…)

深く息を吸い、肺に冷たい空気を押し込む。
その瞬間、44番室のドアの向こうから――小さな物音がした。
ベッドのシーツが擦れるような音。
誰かが中で身じろぎしたかのように。

「……っ!」

心臓が跳ね、喉がひゅっと鳴る。
だが、足は勝手に前へ進み、手は再びドアノブにかかっていた。
ゆっくりと力を込めると、金属のきしむ音が廊下に響く。

わずかに開いた隙間から、冷たい空気が流れ出した。
中は暗く、蛍光灯が点滅を繰り返し、室内を断片的に照らしている。

――その光の中に、なぜか黄色信号を灯し続ける信号機が斜めに突き刺さっていた。
現実感のない光景に、田中は喉を詰まらせた。

ベッドの上、薄汚れた毛布が膨らみ、ゆっくりと浮き沈みを繰り返していた。
まるで呼吸しているように。
田中の足がすくむ。

「……あ、あの……すみません……」

声は掠れて震えていた。
返事はない。
だが耳を澄ませても――呼吸の音が、一切聞こえなかった。

違和感が胸を圧迫する。
恐怖に突き動かされ、田中は意を決して布団をがばっとめくり上げた。

「……ひぃっ!?」

そこに横たわっていたのは、人間ではなかった。
人の姿を精巧に模した石像。
仰向けに寝かされ、目・耳・口には無数の注射器が突き立ち、無理やり詰め込まれていた。
ぞっとする光景に、田中の胃が裏返るような感覚が込み上げる。

一瞬、その首がかすかに動いた。
まるで助けを求めるように。

「うわぁああ!!」

田中は叫び声をあげ、すぐさまドアノブに手を伸ばした。
だが――開かない。
まるで空間そのものに固定されているかのように、びくともしなかった。

「……くそぉ!」

必死に足で蹴りつける。
それでも扉は微動だにしない。
ハッと後ろを振り返る。

……ベッドの石像は、先ほどと変わらず安らかに眠っているように見えた。
ただ――信号機の灯りが、いつの間にか赤に変わっていた。


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田中は廊下の数字をひとつずつ確認しながら進んだ。
33、36、40……そして――44。
赤いランプが点滅を繰り返し、扉の上を血のように染めていた。
「ここだな…」
呟いた声は掠れ、喉の奥で震えた。
冷たい汗が背中を伝い、掌はじっとりと濡れている。
ドアノブに手を伸ばすが、指先が小刻みに震え、金属に触れるのを拒んでいるかのようだった。
(ここに……誰かがいる、きっと…)
深く息を吸い、肺に冷たい空気を押し込む。
その瞬間、44番室のドアの向こうから――小さな物音がした。
ベッドのシーツが擦れるような音。
誰かが中で身じろぎしたかのように。
「……っ!」
心臓が跳ね、喉がひゅっと鳴る。
だが、足は勝手に前へ進み、手は再びドアノブにかかっていた。
ゆっくりと力を込めると、金属のきしむ音が廊下に響く。
わずかに開いた隙間から、冷たい空気が流れ出した。
中は暗く、蛍光灯が点滅を繰り返し、室内を断片的に照らしている。
――その光の中に、なぜか黄色信号を灯し続ける信号機が斜めに突き刺さっていた。
現実感のない光景に、田中は喉を詰まらせた。
ベッドの上、薄汚れた毛布が膨らみ、ゆっくりと浮き沈みを繰り返していた。
まるで呼吸しているように。
田中の足がすくむ。
「……あ、あの……すみません……」
声は掠れて震えていた。
返事はない。
だが耳を澄ませても――呼吸の音が、一切聞こえなかった。
違和感が胸を圧迫する。
恐怖に突き動かされ、田中は意を決して布団をがばっとめくり上げた。
「……ひぃっ!?」
そこに横たわっていたのは、人間ではなかった。
人の姿を精巧に模した石像。
仰向けに寝かされ、目・耳・口には無数の注射器が突き立ち、無理やり詰め込まれていた。
ぞっとする光景に、田中の胃が裏返るような感覚が込み上げる。
一瞬、その首がかすかに動いた。
まるで助けを求めるように。
「うわぁああ!!」
田中は叫び声をあげ、すぐさまドアノブに手を伸ばした。
だが――開かない。
まるで空間そのものに固定されているかのように、びくともしなかった。
「……くそぉ!」
必死に足で蹴りつける。
それでも扉は微動だにしない。
ハッと後ろを振り返る。
……ベッドの石像は、先ほどと変わらず安らかに眠っているように見えた。
ただ――信号機の灯りが、いつの間にか赤に変わっていた。