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(4)

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 この半年で、街では七件の失踪が報告された。
 共通点は、若いこと。手術や傷跡がないこと。行方が突然消えること。
 遺体も目撃証言もなく、ただ人が空気みたいに消えていく。
 刑事の藤崎は、それを偶然だとは思っていなかった。
 失踪者の家族は泣きながら話す。
「優しい子だったんです。誰かに恨まれるような性格じゃなくて……」
「遺書もなく、荷物も持ち出していない。
 何かに巻き込まれたとしか思えません」
 藤崎は相棒の鷹野とともに、街を歩き回った。
 手がかりは薄い。だが、ひとつだけ、共通して気になることがあった。
 失踪者全員が、最後に立ち寄ったであろう場所。
 古い倉庫街の一角。
 夜には人通りがなく、車移動なら誰にも見られない。
「ここで……消えてる」
 防犯カメラには、彼らが歩いてくる姿が映っている。
 倉庫の角を曲がる。
 ——そこで映像は途切れる。
 まるで、その先にカメラが存在しないように。
 藤崎は、倉庫街の店を一軒ずつあたった。
 だが、どの店も、営業中の気配は薄い。
 そして、ある夜。
 倉庫街を巡回していると、細い路地で荷物を運ぶ男を見かけた。
 袋は大きく、ずしりと重そうだ。
 生ゴミのような湿った匂いが漂った。
「すいません、そこの方——」
 声をかけると、男は振り向きもせず足を速めた。
 不自然だった。
 追いかけようと一歩踏み出した瞬間、鷹野が腕を掴んだ。
「藤崎、やめておけ」
「あいつ怪しい。荷物を——」
「やめておけ」
 鷹野の声はいつもより低かった。
 まるで何かを知っているような目をしていた。
 その翌日、急に捜査会議が開かれた。
 上層部の刑事が資料を抱えて現れる。
「失踪事件の件だが、捜査本部は解散する。これ以上の捜査は不要だ」
「不要? まだ七人もいなくなったままなんですよ!」
「自主的な失踪と判断された。以上だ」
 藤崎が机を叩くと、上司が静かに言った。
「もう手を引け。これ以上は危険だ」
 異論は許されない空気だった。
 捜査資料は回収され、失踪事件は“未解決”として葬られた。
 その日の帰り道、藤崎は倉庫街へ向かった。
 決まりを破ってでも確かめたかった。
 だが、倉庫の前には警備員が立ち、立入禁止のテープが張られていた。
「この先、一般立入禁止です」
「ここはただの倉庫街だろ」
「もう使われていません」
 無表情な警備員の後ろで、古い木戸が少し開いていた。
 中からは、機械の低い唸り音が聞こえた。
 まるでミシンが動いているように。
 藤崎が近づくと、警備員が一歩前に出て遮った。
「お帰りください。ご苦労様でした」
 ——“ご苦労様でした”。
 まるで葬儀が終わった後のような言い方だった。
 藤崎は拳を握りしめた。
 確信はあった。
 あの倉庫の奥に、真実がある。
 しかし、扉は二度と開かなかった。
 失踪事件のファイルは封印され、街はまた静かに日常へ戻っていく。
 数日後、街の高級店に新作バッグが並んでいた。
 柔らかいベージュの革。
 表面に、小さな黒子の跡が一つ。
 客は歓声をあげる。
 藤崎は店のガラス越しに、それを見ていた。
 誰も、失踪者たちの名前を口にしない。
 まるで最初から存在しなかったかのように。
 ——上は知っている。
 だから、捜査を止めた。
 街にはまだ、材料がいる。


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 この半年で、街では七件の失踪が報告された。
 共通点は、若いこと。手術や傷跡がないこと。行方が突然消えること。
 遺体も目撃証言もなく、ただ人が空気みたいに消えていく。
 刑事の藤崎は、それを偶然だとは思っていなかった。
 失踪者の家族は泣きながら話す。
「優しい子だったんです。誰かに恨まれるような性格じゃなくて……」
「遺書もなく、荷物も持ち出していない。
 何かに巻き込まれたとしか思えません」
 藤崎は相棒の鷹野とともに、街を歩き回った。
 手がかりは薄い。だが、ひとつだけ、共通して気になることがあった。
 失踪者全員が、最後に立ち寄ったであろう場所。
 古い倉庫街の一角。
 夜には人通りがなく、車移動なら誰にも見られない。
「ここで……消えてる」
 防犯カメラには、彼らが歩いてくる姿が映っている。
 倉庫の角を曲がる。
 ——そこで映像は途切れる。
 まるで、その先にカメラが存在しないように。
 藤崎は、倉庫街の店を一軒ずつあたった。
 だが、どの店も、営業中の気配は薄い。
 そして、ある夜。
 倉庫街を巡回していると、細い路地で荷物を運ぶ男を見かけた。
 袋は大きく、ずしりと重そうだ。
 生ゴミのような湿った匂いが漂った。
「すいません、そこの方——」
 声をかけると、男は振り向きもせず足を速めた。
 不自然だった。
 追いかけようと一歩踏み出した瞬間、鷹野が腕を掴んだ。
「藤崎、やめておけ」
「あいつ怪しい。荷物を——」
「やめておけ」
 鷹野の声はいつもより低かった。
 まるで何かを知っているような目をしていた。
 その翌日、急に捜査会議が開かれた。
 上層部の刑事が資料を抱えて現れる。
「失踪事件の件だが、捜査本部は解散する。これ以上の捜査は不要だ」
「不要? まだ七人もいなくなったままなんですよ!」
「自主的な失踪と判断された。以上だ」
 藤崎が机を叩くと、上司が静かに言った。
「もう手を引け。これ以上は危険だ」
 異論は許されない空気だった。
 捜査資料は回収され、失踪事件は“未解決”として葬られた。
 その日の帰り道、藤崎は倉庫街へ向かった。
 決まりを破ってでも確かめたかった。
 だが、倉庫の前には警備員が立ち、立入禁止のテープが張られていた。
「この先、一般立入禁止です」
「ここはただの倉庫街だろ」
「もう使われていません」
 無表情な警備員の後ろで、古い木戸が少し開いていた。
 中からは、機械の低い唸り音が聞こえた。
 まるでミシンが動いているように。
 藤崎が近づくと、警備員が一歩前に出て遮った。
「お帰りください。ご苦労様でした」
 ——“ご苦労様でした”。
 まるで葬儀が終わった後のような言い方だった。
 藤崎は拳を握りしめた。
 確信はあった。
 あの倉庫の奥に、真実がある。
 しかし、扉は二度と開かなかった。
 失踪事件のファイルは封印され、街はまた静かに日常へ戻っていく。
 数日後、街の高級店に新作バッグが並んでいた。
 柔らかいベージュの革。
 表面に、小さな黒子の跡が一つ。
 客は歓声をあげる。
 藤崎は店のガラス越しに、それを見ていた。
 誰も、失踪者たちの名前を口にしない。
 まるで最初から存在しなかったかのように。
 ——上は知っている。
 だから、捜査を止めた。
 街にはまだ、材料がいる。