第5話_ようこそ、つきのみや駅へ
ー/ー燈は体が勝手に動くまま、閉じかけたドアへ飛び出した。
胸の奥で叫ぶ声が、自分でも聞こえる気がする。
(帰らない……!帰りたく……ない!)
その瞬間、つま先がドアの段差に引っ掛かる。
「うぶっ!?」
無様な声とともに、燈は地面に突っ伏し、腕と膝で冷たい床をかろうじて受け止めた。
痛みがじわっと広がり、頬に硬いタイルの感触が貼りつく。
後方で電車が発車する音が響く。
それは暗闇の向こうへ消えていき、頼れる道は完全に途絶えた。
「おい、お前……」
先ほどまでとは明らかに違う、低く不機嫌そうな声が背後から響く。
燈の背筋がびくりと震えた。
次の瞬間、うつぶせに倒れた燈の顔が両手でグイッと持ち上げられた。
「何考えてんだこの馬鹿!!せっかく送り返してやろうとしたのに!!」
怒声が耳元で炸裂する。
少女の顔が至近距離に迫り、オッドアイがぎらりと光る。
眼鏡はずれ、麦わら帽子からこぼれた髪が燈の頬にかかる。
小さな身体のはずなのに、その手には鋼のような力が宿っていた。
「ご、ごめんな……さい。で、でも……!!」
燈は必死に言葉を紡ごうとするが、喉が詰まり、思考が追いつかない。
ただ両手で少女の腕を掴むことしかできない。
「でもじゃない!」
少女はがっしりと顔を掴んだまま、何度も前後に揺さぶった。
揺れに合わせて、燈の視界がぐらぐらと歪む。
「ここに残ってどうするつもりだ!元の世界へ帰りたくはないのか!?」
その声には、怒りだけでなく――悲鳴にも似た焦りが混ざっていた。
燈は視界を揺らされながらも、少女の顔を見た。
その表情を見た瞬間、堰が切れたように言葉があふれ出した。
「帰っても……どうせ、私には何も……何もないんですよ!」
掴まれた顔から力が抜け、わずかに自由を取り戻す。
燈は息を荒げながら、言葉を押し出すように続けた。
「また一人で、ずっと笑うこともなく……それなら……いっそここで……!」
声は震え、涙が頬を伝って床に落ちた。
少女の手が止まり、その場に静寂が広がる。
「それに、あなたがずっと一人でここを守ってるって聞いて……私、思っちゃったんです……」
少女の瞳がわずかに揺れる。
燈の声は泣き笑いのように滲み、必死に続けた。
「そんなの、寂しすぎるじゃないですか……!だから、だから……!!」
そのまましばらくの沈黙が流れる。
青白い照明の下、二人の影が床に交わる。
燈は息を荒げながら続けた。
「力になりたくて……過去に友達がしてくれたように……今度は、私が……!」
声が途切れ、唇を噛む。
少女は何も言わず、ゆっくりと手を離した。
そして、少しだけ視線を逸らしてから、ぽつりと呟く。
「馬鹿だね。他人のこと心配している暇があるのか?」
突き放すように言いながらも、その声色にはどこか柔らかさが混じっていた。
「別に寂しいなんて思ったことは無いし、お前の都合なんざ知ったこっちゃないね」
そう言いながら、少女はそっと燈の前髪を指で整える。
「けどね……こんなに本気で心配されたのは初めてだよ。優しい奴なんだな」
「ごめんな……さい……」
燈の声は涙で震える。
「ったく……そんな泣き方されたら、追い返すに追い返せないじゃないか」
少女はため息をつきながら、自分のジャケットの袖で燈の涙をぬぐった。
「わかったよ、残りたいなら残ればいい。ただし……条件がある」
その言葉は、優しさと同時に、重みを持って燈の胸に突き刺さった。
「じょ、条件……ですか……?」
「この駅の管理を手伝ってもらおうか。もし私の言うことに逆らったら……今度こそ無理やりにでも帰らせるからな」
少女は釘を刺すように言い、腕を組む。
「そうだ、名前はなんていうんだ?」
「ええと、燈……月宮燈です……」
「ふん、ここにお似合いの名前じゃないか」
少女の口元に、初めて柔らかな笑みが浮かんだ。
二人の間に、わずかな静寂が流れる。
少女は立ち上がり、片手を差し出した。
「それじゃあ……ようこそ、『つきのみや駅』へ。燈、今日からお前はここの一員だ」
燈はその手を見つめ、震える指でそっと握り返した。
胸の奥で叫ぶ声が、自分でも聞こえる気がする。
(帰らない……!帰りたく……ない!)
その瞬間、つま先がドアの段差に引っ掛かる。
「うぶっ!?」
無様な声とともに、燈は地面に突っ伏し、腕と膝で冷たい床をかろうじて受け止めた。
痛みがじわっと広がり、頬に硬いタイルの感触が貼りつく。
後方で電車が発車する音が響く。
それは暗闇の向こうへ消えていき、頼れる道は完全に途絶えた。
「おい、お前……」
先ほどまでとは明らかに違う、低く不機嫌そうな声が背後から響く。
燈の背筋がびくりと震えた。
次の瞬間、うつぶせに倒れた燈の顔が両手でグイッと持ち上げられた。
「何考えてんだこの馬鹿!!せっかく送り返してやろうとしたのに!!」
怒声が耳元で炸裂する。
少女の顔が至近距離に迫り、オッドアイがぎらりと光る。
眼鏡はずれ、麦わら帽子からこぼれた髪が燈の頬にかかる。
小さな身体のはずなのに、その手には鋼のような力が宿っていた。
「ご、ごめんな……さい。で、でも……!!」
燈は必死に言葉を紡ごうとするが、喉が詰まり、思考が追いつかない。
ただ両手で少女の腕を掴むことしかできない。
「でもじゃない!」
少女はがっしりと顔を掴んだまま、何度も前後に揺さぶった。
揺れに合わせて、燈の視界がぐらぐらと歪む。
「ここに残ってどうするつもりだ!元の世界へ帰りたくはないのか!?」
その声には、怒りだけでなく――悲鳴にも似た焦りが混ざっていた。
燈は視界を揺らされながらも、少女の顔を見た。
その表情を見た瞬間、堰が切れたように言葉があふれ出した。
「帰っても……どうせ、私には何も……何もないんですよ!」
掴まれた顔から力が抜け、わずかに自由を取り戻す。
燈は息を荒げながら、言葉を押し出すように続けた。
「また一人で、ずっと笑うこともなく……それなら……いっそここで……!」
声は震え、涙が頬を伝って床に落ちた。
少女の手が止まり、その場に静寂が広がる。
「それに、あなたがずっと一人でここを守ってるって聞いて……私、思っちゃったんです……」
少女の瞳がわずかに揺れる。
燈の声は泣き笑いのように滲み、必死に続けた。
「そんなの、寂しすぎるじゃないですか……!だから、だから……!!」
そのまましばらくの沈黙が流れる。
青白い照明の下、二人の影が床に交わる。
燈は息を荒げながら続けた。
「力になりたくて……過去に友達がしてくれたように……今度は、私が……!」
声が途切れ、唇を噛む。
少女は何も言わず、ゆっくりと手を離した。
そして、少しだけ視線を逸らしてから、ぽつりと呟く。
「馬鹿だね。他人のこと心配している暇があるのか?」
突き放すように言いながらも、その声色にはどこか柔らかさが混じっていた。
「別に寂しいなんて思ったことは無いし、お前の都合なんざ知ったこっちゃないね」
そう言いながら、少女はそっと燈の前髪を指で整える。
「けどね……こんなに本気で心配されたのは初めてだよ。優しい奴なんだな」
「ごめんな……さい……」
燈の声は涙で震える。
「ったく……そんな泣き方されたら、追い返すに追い返せないじゃないか」
少女はため息をつきながら、自分のジャケットの袖で燈の涙をぬぐった。
「わかったよ、残りたいなら残ればいい。ただし……条件がある」
その言葉は、優しさと同時に、重みを持って燈の胸に突き刺さった。
「じょ、条件……ですか……?」
「この駅の管理を手伝ってもらおうか。もし私の言うことに逆らったら……今度こそ無理やりにでも帰らせるからな」
少女は釘を刺すように言い、腕を組む。
「そうだ、名前はなんていうんだ?」
「ええと、燈……月宮燈です……」
「ふん、ここにお似合いの名前じゃないか」
少女の口元に、初めて柔らかな笑みが浮かんだ。
二人の間に、わずかな静寂が流れる。
少女は立ち上がり、片手を差し出した。
「それじゃあ……ようこそ、『つきのみや駅』へ。燈、今日からお前はここの一員だ」
燈はその手を見つめ、震える指でそっと握り返した。
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