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第4話_決意

ー/ー



開いた電車のドアは、燈を優しく迎えるように待ち構えていた。
金属の扉の隙間から、あの冷たい蛍光灯の光が漏れ、まるで現実世界の匂いを運んでくるようだった。

しかし、燈はいまだ立ち上がれずにいた。
膝が言うことをきかず、床に手をついたまま、ただ目の前の電車を見上げるしかない。

(これ……本当にいつもの電車……?この子が呼んだ……?どうやって……?)
頭の中は疑問でいっぱいになり、パンク寸前だった。

そんな燈を見て、少女は首を傾げる。
「ん……どうした、立てないのか?」

小さな肩が、ためらいなく彼女の背に差し出される。
燈はその肩を借り、足をふらつかせながらも何とか立ち上がる。
驚くほどしっかりとした力が、その小さな身体に宿っていて、思わず胸の奥が少し温かくなった。

「ありがと……ございます。あの……あなたは、いったい……」

「……あぁ、私か?まぁ……ここの管理人だな」
少女は軽く考えるそぶりを見せた後、短くそう答えた。

「管理人……ここって、駅……ですよね?」

「そうだ、ここは『つきのみや駅』……そう呼ばれているよ」

(今……『つきのみや』って言った?それって、まさか……)
背の高い人型の影、近未来感のある構内、摩天楼のようにそびえ立つビル群――
ついさっきまで読んでいたネット記事と、面白いほど一致している。
だが唯一違うのは、この『管理人』という存在だ。

「ずっと……一人でここにいるんですか?」

「基本的にはそうだな。たまーに駅の外の奴らと話したりするが」

燈はその回答を聞き、少し考え込んだ。
寂しくはないのだろうか。
私が感じている孤独感など、比較にならないのではないか。

「よし……ここからは歩けるか?私は電車に乗ることはできなくてね……」
少女は少し申し訳なさそうに視線を落とした。

「は、はい……大丈夫、です……」
燈は電車に乗り込み、近くの手すりに手をかけた。
冷たい金属の感触が、現実へ戻る道標のように手のひらを締めつける。

「席に座ったら目を閉じて、自分の帰りたい駅を想像するんだ。いいね?」
少女は慣れた様子で、帰り方の指示を出す。

燈は慎重に頷き、端っこの席に腰を下ろす。
「じゃ、ここでお別れだ。気を付けて帰るんだぞ」
少女は軽く手を振った。

燈は目を閉じる。
いつもの最寄り駅を思い浮かべようとする――が、頭の中がもどかしく渦巻く。
(あれ……?どうして……)

何故かうまく想像できない。
形になりかけているのに、霧がかかったようにぼやけていく。

(そうか、私……帰りたくないんだ。元の世界に帰っても、何も……)

また、あの教室に帰るのだ。
誰とも話せず、ただ一人でいるだけの日々。
苦痛でしかない、消えてしまいたいと願っていた毎日。

(それに……私はあの子を……助けたいって、思ってるんだ)

自分勝手な理由だと分かっている。
それでも、何かの助けになりたい。
過去に、自分の友人がそうしてくれたように。

胸の奥で何かが弾けた。

「……っ!」

燈は目を見開き、閉じかけたドアへ飛ぶように向かう。
体は、不思議なほど軽かった。
足はもう震えていない。

心の奥で、決意に似たものが確かに芽生えていた。


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次のエピソードへ進む 第5話_ようこそ、つきのみや駅へ


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開いた電車のドアは、燈を優しく迎えるように待ち構えていた。
金属の扉の隙間から、あの冷たい蛍光灯の光が漏れ、まるで現実世界の匂いを運んでくるようだった。
しかし、燈はいまだ立ち上がれずにいた。
膝が言うことをきかず、床に手をついたまま、ただ目の前の電車を見上げるしかない。
(これ……本当にいつもの電車……?この子が呼んだ……?どうやって……?)
頭の中は疑問でいっぱいになり、パンク寸前だった。
そんな燈を見て、少女は首を傾げる。
「ん……どうした、立てないのか?」
小さな肩が、ためらいなく彼女の背に差し出される。
燈はその肩を借り、足をふらつかせながらも何とか立ち上がる。
驚くほどしっかりとした力が、その小さな身体に宿っていて、思わず胸の奥が少し温かくなった。
「ありがと……ございます。あの……あなたは、いったい……」
「……あぁ、私か?まぁ……ここの管理人だな」
少女は軽く考えるそぶりを見せた後、短くそう答えた。
「管理人……ここって、駅……ですよね?」
「そうだ、ここは『つきのみや駅』……そう呼ばれているよ」
(今……『つきのみや』って言った?それって、まさか……)
背の高い人型の影、近未来感のある構内、摩天楼のようにそびえ立つビル群――
ついさっきまで読んでいたネット記事と、面白いほど一致している。
だが唯一違うのは、この『管理人』という存在だ。
「ずっと……一人でここにいるんですか?」
「基本的にはそうだな。たまーに駅の外の奴らと話したりするが」
燈はその回答を聞き、少し考え込んだ。
寂しくはないのだろうか。
私が感じている孤独感など、比較にならないのではないか。
「よし……ここからは歩けるか?私は電車に乗ることはできなくてね……」
少女は少し申し訳なさそうに視線を落とした。
「は、はい……大丈夫、です……」
燈は電車に乗り込み、近くの手すりに手をかけた。
冷たい金属の感触が、現実へ戻る道標のように手のひらを締めつける。
「席に座ったら目を閉じて、自分の帰りたい駅を想像するんだ。いいね?」
少女は慣れた様子で、帰り方の指示を出す。
燈は慎重に頷き、端っこの席に腰を下ろす。
「じゃ、ここでお別れだ。気を付けて帰るんだぞ」
少女は軽く手を振った。
燈は目を閉じる。
いつもの最寄り駅を思い浮かべようとする――が、頭の中がもどかしく渦巻く。
(あれ……?どうして……)
何故かうまく想像できない。
形になりかけているのに、霧がかかったようにぼやけていく。
(そうか、私……帰りたくないんだ。元の世界に帰っても、何も……)
また、あの教室に帰るのだ。
誰とも話せず、ただ一人でいるだけの日々。
苦痛でしかない、消えてしまいたいと願っていた毎日。
(それに……私はあの子を……助けたいって、思ってるんだ)
自分勝手な理由だと分かっている。
それでも、何かの助けになりたい。
過去に、自分の友人がそうしてくれたように。
胸の奥で何かが弾けた。
「……っ!」
燈は目を見開き、閉じかけたドアへ飛ぶように向かう。
体は、不思議なほど軽かった。
足はもう震えていない。
心の奥で、決意に似たものが確かに芽生えていた。