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第二百六十五話

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 所変わって、房総半島は野島崎灯台。暗く淀んだ空模様を憂いながら、灰崎は無事徹夜を完遂した。道中何人かを相手どるも、ここまで端になると善吉の影響を受けた存在はおろか、千葉支部の影響を受けたような存在も居なかった。
 傍にバイクを置いたまま、一服をしていたのだが、そこに現れる存在は目深にフードを被った、黒いロングコートの人物。灰崎はこれまで相対したことが無いことを理解しながらも、特にこれといった殺意を感じ取れなかったため、傍に寄ることを許した。
「――アンタ、煙草でも吸うか? どこの誰かは知らねえけどさ」
「……いや、俺は未成年だ。煙草は吸いたくても吸えねえさ」
「――そうかい、じゃあ未成年(シャバゾウ)への受動喫煙は駄目だ。肺悪くしたかァねえだろ」
 火をつけたてであるのにも拘らず、一切の躊躇なく周囲にある灰皿に投げ捨てる。
「……優しいんだな、アンタ」
「優しいもクソもねえよ。大人として……ここ最近『こうあるべき』って立場に気付いただけだ」
 バイクに背を預ける形で、少々荒れ始めた海を見つめる両者。灰崎からは、夜通し周辺で何かしらの異常が無かったか、ずっと見張り続けていたために、明らかな疲労の色が見えていた。
「――なあ、知ってるか? 最近そこかしこで起こってる教会によるテロリズムじみた行為が、遂に千葉県にまで及んでるってよ。挙句の果てに、それに半ば巻き込まれた俺は……無実の罪で指名手配中だ。巻き込まれたくなかったら……ここから離れることを勧めるぜ。本当……どこで人生間違ったのかね」
「……何も、していないのか?」
 その男の問いに、少々言い淀む様子を見せる灰崎。どこの誰とも知らない輩に、自分の元鞘をそのまま名乗ったら、絶対に警戒されると思った灰崎は――
「――まあ、少なくとも……この千葉県でも、『元々の場所』でも……基本なんもしてなかったさ。何も出来なかった、が正しいかもしれねえな」
 濁した上で、自分の罪を曝け出した。
「……何も、出来なかった、か」
「――俺の上司にあたる奴が……『クビ』、切られてよ。その影響をもろに食らった俺は……後に参入してきた部外者に全ての功績を奪われた。俺がおっ建てた功績って訳じゃあねえが……その上司にとっては大切な物だったんだよ」
 教会に残りかす以外全てを奪われ、遊郭ビジネスを失い。
 その教会に大切な存在二人を、あろうことか目の前で殺され。
 山梨での一件により、自分の家同然であった組は事実上の離散となり。
 ありとあらゆる大切な物を失って、本当ならば絶望のどん底に居てもおかしくはない存在。それこそが、灰崎廉治という男である。
「……そうまでして、まだ立てる。その力の源は何だ?」
「お、何だ中二病みたいなこと言ってよ。まあその問いに答えるなら……俺の『償い』みたいなもんだよ。一時の『激情』で不意にしてしまった結果……多分俺の上司は『クビ』切られたからよ」
「――償い」
 怒りという感情は、人の背を押す力がある。マイナスな感情の中でも、かなり珍しい特性を持つ。しかしそれとともに、その怒りに振り回された瞬間、何かしら大切な物を失う。
 ありとあらゆる犯罪、その中で「カッとなって」なんて理由は、多く聞いたことがあるだろう。そのように、一時の怒りに突き動かされた結果、殺人や窃盗などの犯罪行為の温床となっていることも事実である。
 だからこその、怒りを原動力にした『償い』こそが、今の灰崎の生きる意味である。犯罪者に対して向けるような、罪人を罰するための代行者のような側面ではなく、自分自身が咎人として十字架を背負っているのだ。
「……昔あった一件から、カッとなる時には……一呼吸置くようにしてんだ。自分のその怒りは正当なものなのか、振るうに値する奴なのか、とかな。大人である以上、我慢だのなんだのってのは……大事なもんだからよ。『カッとなって』全てをふいにすんのは……もう勘弁だからさ」
 その言葉の奥に、信じられないほどの重みを感じ取ったフードの男。灰崎にとって、そこまで深い意味があって言い放ったわけではないだろうが、ある種自分に言い聞かせるように語ったようなものなのだが、それがフードの男に少しでも刺さる『何か』があったのだ。
「――よくある、『復讐』っての。あれも……場合には寄るが、『怒り』が先行した結果良いことも悪いことも引き起こすようなもんだろ。俺もまあ……似たようなもので身を滅ぼしたようなもんだからよ。これだけは間違って欲しくねえのが……場合によっては、復讐は悪ではねえが善でもない上に、その道が正しいか少しでも考えた瞬間に、その道が間違っていることに気が付いちまうんだ」
 例えば、本当に相手の主義主張が間違っている『確信』があった時。その拳に、正しさが宿っている時である。
 実際に拳を振るったら、それは暴行罪。だからこそ、言論で相手を負かせることが重要なのだが、言論だけでどうにかなったらこの世は平和そのもの。だからこそ、間接的な嫌がらせによって復讐を成す場合が存在する。
 そして、それにすら満足できなかった存在が、怒りを原動力に過ちを犯すのだ。
 まるで、麻薬のような、甘美な味わい。一度味わったら病みつきになってしまう、禁断の果実とも表現できるだろう。
 汚れた手段を知ってしまったら、汚れた手段でしか手を下すことが出来ない、悲しい存在になってしまう。復讐が齎す人間の歪みというものは、当人や被害者にこれ以上にないほどの満足感を与えるものではあるのだが、結局やりすぎた時に自分も悪鬼羅刹と成り果てる、諸刃の剣であるのだ。
「お前さんがどこの誰かは知らねえが……あらゆるリスクを考えた上で言えるのは……復讐ってのは正直あまりやるもんじゃアねえってことだな。それで身を滅ぼした人間が言うんだが……満足はしたが、その後に残るもんは虚無しかないぜ」
 フードで隠しているはずなのに、どこか見透かされているような感覚。当人にそんな力は無いはずなのに、そう錯覚してしまうほどに、大人として短期間でいろんなことを経験した灰崎の言葉は、フードの男に刺さったのだ。
「――悪い、何だか一人語りみたいになっちまったな」
「……いや、それは別にいい。もし良かったら……俺の話を聞いてくれないか」
「良いよ、少しくらいは気がまぎれる相手になれんだったら、こんな俺でも存在価値を見出せるさ。人生相談か?」
「ある意味、そうだな」
 男は一呼吸置くと、腕を組んで俯いた。
「――俺は、少し前に大切な存在を喪った。俺の周りの人間が原因だ、と周りに言われ、それを信じていたんだが……拭えない違和感があって、な。今……自分の信じるべきものが何か……というものが、めっきり分からなくなっている」
 灰崎は、男にどこか疑問を抱えながらも、特に詮索をすることは無くその問いに答える。これまでの人生経験を活かした、というよりは……この現代社会に対し風刺じみた皮肉を込めながら。
「――俺は何も詮索もしねえ。だがよ、これだけは言えるぜ。お前さんは……全ての状況を見た上で誰を信じているんだ?」
「誰、を」
「ああ。百聞は一見に如かず、って諺もあるが……何より、現代社会は基本的にフェイクニュースに溢れてる。それはSNSだの、巷の会話だの、正直ここ最近はテレビのニュースにだってわんさか紛れ込んでやがる。手前の思い通りに大衆を動かしたい何者かが、徹底的に騙そうとしてくる。本当に信じるべきは……自分の目で見たものだけだぜ。話を吹き込んだ奴を信じるか、周りの人間を信じるか。本当に信じるべきは……結局はお前さんの目で見た全て、ってだけさ」
 もし、何かの間違いで灰崎が『そう』なってしまったら。きっと、凶刃を――堅気半グレヤクザもの、なりふり構わず振りかざす本当の犯罪者に成り果てるだろう。家庭環境がだの、酷いことを経験しただの、そんなお涙頂戴じみたバックボーンだなんて意味を成さない、最悪の犯罪者の出来上がりである。
 人生、何が起こるか分からない。その時の、神の悪戯によって良くも悪くも時計の振り子は揺れていく。どうなるかは、一秒前まで当人には理解できない未知の未来である。
「――それが、俺なりの答えかな。さんざ『色々』経験してきた俺だが……今となっては今も悪くねえと思えてきた。振り回されっぱなしではあるが……これまでにない生き方が出来てるんでな。誰かの言いなりになり続けんのも……苦労すんぜ」
 そう灰崎が話を締め、横を見ると、フードの男はどこかへ消えていたのだった。だが、『色々』を経験した灰崎は、そう簡単には狼狽えない。ただ少しだけ微笑しながら、新たに煙草を一本取り出して火を付ける。
「……誰だかは知らねえが、その道行きに幸あれ、って感じだな」
 今一度煙草を味わおうとしていた矢先、突如として遠くで轟雷が鳴り響く。夏場は天気が変わりやすいものだが、これほどの冷気は異常であったために、何かしらの予感を感じ取った。
「――そういや、瀧本礼安とエヴァ・クリストフが行方不明って言ったな……それにこの威圧感……只者じゃあねえ」
 せっかく火を付けたばかりの煙草であったが、そんなもの吸っている暇はない、と携帯灰皿に押し込んでバイクに腰掛ける。

「……この一件、ただじゃあ終わらねえんだな」

 灰崎もまた、浦安方面へバイクを走らせていく。徐々に運命の糸は、一つの大きな真実を形作るものとして、紡がれようとしていたのだった。



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 所変わって、房総半島は野島崎灯台。暗く淀んだ空模様を憂いながら、灰崎は無事徹夜を完遂した。道中何人かを相手どるも、ここまで端になると善吉の影響を受けた存在はおろか、千葉支部の影響を受けたような存在も居なかった。
 傍にバイクを置いたまま、一服をしていたのだが、そこに現れる存在は目深にフードを被った、黒いロングコートの人物。灰崎はこれまで相対したことが無いことを理解しながらも、特にこれといった殺意を感じ取れなかったため、傍に寄ることを許した。
「――アンタ、煙草でも吸うか? どこの誰かは知らねえけどさ」
「……いや、俺は未成年だ。煙草は吸いたくても吸えねえさ」
「――そうかい、じゃあ|未成年《シャバゾウ》への受動喫煙は駄目だ。肺悪くしたかァねえだろ」
 火をつけたてであるのにも拘らず、一切の躊躇なく周囲にある灰皿に投げ捨てる。
「……優しいんだな、アンタ」
「優しいもクソもねえよ。大人として……ここ最近『こうあるべき』って立場に気付いただけだ」
 バイクに背を預ける形で、少々荒れ始めた海を見つめる両者。灰崎からは、夜通し周辺で何かしらの異常が無かったか、ずっと見張り続けていたために、明らかな疲労の色が見えていた。
「――なあ、知ってるか? 最近そこかしこで起こってる教会によるテロリズムじみた行為が、遂に千葉県にまで及んでるってよ。挙句の果てに、それに半ば巻き込まれた俺は……無実の罪で指名手配中だ。巻き込まれたくなかったら……ここから離れることを勧めるぜ。本当……どこで人生間違ったのかね」
「……何も、していないのか?」
 その男の問いに、少々言い淀む様子を見せる灰崎。どこの誰とも知らない輩に、自分の元鞘をそのまま名乗ったら、絶対に警戒されると思った灰崎は――
「――まあ、少なくとも……この千葉県でも、『元々の場所』でも……基本なんもしてなかったさ。何も出来なかった、が正しいかもしれねえな」
 濁した上で、自分の罪を曝け出した。
「……何も、出来なかった、か」
「――俺の上司にあたる奴が……『クビ』、切られてよ。その影響をもろに食らった俺は……後に参入してきた部外者に全ての功績を奪われた。俺がおっ建てた功績って訳じゃあねえが……その上司にとっては大切な物だったんだよ」
 教会に残りかす以外全てを奪われ、遊郭ビジネスを失い。
 その教会に大切な存在二人を、あろうことか目の前で殺され。
 山梨での一件により、自分の家同然であった組は事実上の離散となり。
 ありとあらゆる大切な物を失って、本当ならば絶望のどん底に居てもおかしくはない存在。それこそが、灰崎廉治という男である。
「……そうまでして、まだ立てる。その力の源は何だ?」
「お、何だ中二病みたいなこと言ってよ。まあその問いに答えるなら……俺の『償い』みたいなもんだよ。一時の『激情』で不意にしてしまった結果……多分俺の上司は『クビ』切られたからよ」
「――償い」
 怒りという感情は、人の背を押す力がある。マイナスな感情の中でも、かなり珍しい特性を持つ。しかしそれとともに、その怒りに振り回された瞬間、何かしら大切な物を失う。
 ありとあらゆる犯罪、その中で「カッとなって」なんて理由は、多く聞いたことがあるだろう。そのように、一時の怒りに突き動かされた結果、殺人や窃盗などの犯罪行為の温床となっていることも事実である。
 だからこその、怒りを原動力にした『償い』こそが、今の灰崎の生きる意味である。犯罪者に対して向けるような、罪人を罰するための代行者のような側面ではなく、自分自身が咎人として十字架を背負っているのだ。
「……昔あった一件から、カッとなる時には……一呼吸置くようにしてんだ。自分のその怒りは正当なものなのか、振るうに値する奴なのか、とかな。大人である以上、我慢だのなんだのってのは……大事なもんだからよ。『カッとなって』全てをふいにすんのは……もう勘弁だからさ」
 その言葉の奥に、信じられないほどの重みを感じ取ったフードの男。灰崎にとって、そこまで深い意味があって言い放ったわけではないだろうが、ある種自分に言い聞かせるように語ったようなものなのだが、それがフードの男に少しでも刺さる『何か』があったのだ。
「――よくある、『復讐』っての。あれも……場合には寄るが、『怒り』が先行した結果良いことも悪いことも引き起こすようなもんだろ。俺もまあ……似たようなもので身を滅ぼしたようなもんだからよ。これだけは間違って欲しくねえのが……場合によっては、復讐は悪ではねえが善でもない上に、その道が正しいか少しでも考えた瞬間に、その道が間違っていることに気が付いちまうんだ」
 例えば、本当に相手の主義主張が間違っている『確信』があった時。その拳に、正しさが宿っている時である。
 実際に拳を振るったら、それは暴行罪。だからこそ、言論で相手を負かせることが重要なのだが、言論だけでどうにかなったらこの世は平和そのもの。だからこそ、間接的な嫌がらせによって復讐を成す場合が存在する。
 そして、それにすら満足できなかった存在が、怒りを原動力に過ちを犯すのだ。
 まるで、麻薬のような、甘美な味わい。一度味わったら病みつきになってしまう、禁断の果実とも表現できるだろう。
 汚れた手段を知ってしまったら、汚れた手段でしか手を下すことが出来ない、悲しい存在になってしまう。復讐が齎す人間の歪みというものは、当人や被害者にこれ以上にないほどの満足感を与えるものではあるのだが、結局やりすぎた時に自分も悪鬼羅刹と成り果てる、諸刃の剣であるのだ。
「お前さんがどこの誰かは知らねえが……あらゆるリスクを考えた上で言えるのは……復讐ってのは正直あまりやるもんじゃアねえってことだな。それで身を滅ぼした人間が言うんだが……満足はしたが、その後に残るもんは虚無しかないぜ」
 フードで隠しているはずなのに、どこか見透かされているような感覚。当人にそんな力は無いはずなのに、そう錯覚してしまうほどに、大人として短期間でいろんなことを経験した灰崎の言葉は、フードの男に刺さったのだ。
「――悪い、何だか一人語りみたいになっちまったな」
「……いや、それは別にいい。もし良かったら……俺の話を聞いてくれないか」
「良いよ、少しくらいは気がまぎれる相手になれんだったら、こんな俺でも存在価値を見出せるさ。人生相談か?」
「ある意味、そうだな」
 男は一呼吸置くと、腕を組んで俯いた。
「――俺は、少し前に大切な存在を喪った。俺の周りの人間が原因だ、と周りに言われ、それを信じていたんだが……拭えない違和感があって、な。今……自分の信じるべきものが何か……というものが、めっきり分からなくなっている」
 灰崎は、男にどこか疑問を抱えながらも、特に詮索をすることは無くその問いに答える。これまでの人生経験を活かした、というよりは……この現代社会に対し風刺じみた皮肉を込めながら。
「――俺は何も詮索もしねえ。だがよ、これだけは言えるぜ。お前さんは……全ての状況を見た上で誰を信じているんだ?」
「誰、を」
「ああ。百聞は一見に如かず、って諺もあるが……何より、現代社会は基本的にフェイクニュースに溢れてる。それはSNSだの、巷の会話だの、正直ここ最近はテレビのニュースにだってわんさか紛れ込んでやがる。手前の思い通りに大衆を動かしたい何者かが、徹底的に騙そうとしてくる。本当に信じるべきは……自分の目で見たものだけだぜ。話を吹き込んだ奴を信じるか、周りの人間を信じるか。本当に信じるべきは……結局はお前さんの目で見た全て、ってだけさ」
 もし、何かの間違いで灰崎が『そう』なってしまったら。きっと、凶刃を――堅気半グレヤクザもの、なりふり構わず振りかざす本当の犯罪者に成り果てるだろう。家庭環境がだの、酷いことを経験しただの、そんなお涙頂戴じみたバックボーンだなんて意味を成さない、最悪の犯罪者の出来上がりである。
 人生、何が起こるか分からない。その時の、神の悪戯によって良くも悪くも時計の振り子は揺れていく。どうなるかは、一秒前まで当人には理解できない未知の未来である。
「――それが、俺なりの答えかな。さんざ『色々』経験してきた俺だが……今となっては今も悪くねえと思えてきた。振り回されっぱなしではあるが……これまでにない生き方が出来てるんでな。誰かの言いなりになり続けんのも……苦労すんぜ」
 そう灰崎が話を締め、横を見ると、フードの男はどこかへ消えていたのだった。だが、『色々』を経験した灰崎は、そう簡単には狼狽えない。ただ少しだけ微笑しながら、新たに煙草を一本取り出して火を付ける。
「……誰だかは知らねえが、その道行きに幸あれ、って感じだな」
 今一度煙草を味わおうとしていた矢先、突如として遠くで轟雷が鳴り響く。夏場は天気が変わりやすいものだが、これほどの冷気は異常であったために、何かしらの予感を感じ取った。
「――そういや、瀧本礼安とエヴァ・クリストフが行方不明って言ったな……それにこの威圧感……只者じゃあねえ」
 せっかく火を付けたばかりの煙草であったが、そんなもの吸っている暇はない、と携帯灰皿に押し込んでバイクに腰掛ける。
「……この一件、ただじゃあ終わらねえんだな」
 灰崎もまた、浦安方面へバイクを走らせていく。徐々に運命の糸は、一つの大きな真実を形作るものとして、紡がれようとしていたのだった。