剣と槍。大きさで行ったら、槍の方が馬上槍であるために太く大きいものであったが、一振りの内に芯が備わっていたのは、百喰の方であった。
一人の英雄として、眼前の悪を打ち倒そうと考えていたものの、脳裏に過ぎるはランスロットの記憶。何とかして振り払い、戦おうと忘れられないのだ。
英雄『ランスロット』が犯した、数ある罪の一つ。それこそが――円卓の騎士として新入り同然と言える、ガレスの殺害であった。
王妃・グィネヴィアとの不貞が発覚してから、モードレッドの発案によりグィネヴィアは処刑を執行される一歩手前まで遂行されてしまう。その中でガレスは非武装の喪服で参加したものの……ランスロットはグィネヴィア救出の際、見慣れぬ喪服ゆえに護衛と見間違われた結果――ランスロットはガレスを『頭骨を割り』殺害した。
その場に響き渡るは、耳をつんざくほどの轟音。到底、英雄と一般人もどきが交わす剣戟ではない。ましてや、チーティングドライバーすら用いずに、これほどの出力を出せる麻薬に、そしてここまで用意周到に準備を重ねた善吉に恐怖していた。
ただ一人を殺害し、支部を乗っ取ろうとする、その飽くなき悪の
餓えた精神。そのために、どこまで行っても人のトラウマをほじくり返し、的確に弱体化させる。現に、相当の手練れであるはずの百喰は、特効が掛かった状態とはいえ相当に弱化している。
振るわれる剣は、震えが混じり。
踏み込む足は、恐怖に竦み。
見据える瞳は、絶望に歪んでいたのだ。
言葉にならない叫びをあげながら、仮想敵『ガレス』は乱雑に槍を振るう。作法も何もなっていない無法の攻撃群であったが、相当に怯えている百喰と拮抗するには十分であった。
(――本来なら、この役目はもっと役職持ちにやらせるべきだったが……抵抗にあって死んでしまった。不備の残る策ではあるが……それでもあの狼狽え方は勝負があったかな)
何とかキャノン砲をも用いながら、一瞬の隙を突き沈黙させにかかる百喰。しかし、どれほどブースト機構で宙を駆け、三次元的な攻撃を仕掛けにかかるも……全て心根に宿っている恐怖心と絶望が、体を強張らせるのだ。
その物語の顛末を知る百喰が、そしてその物語の当事者であるランスロットが、この状況が訪れていることに、どこか因果応報のようなものを感じていた。
罪人に訪れるは、その罪の清算。それが、きっと今なのだ。あの物語の世界で死してなお、きっとその存在を疎ましく思う存在は一定数いるだろう。今回は、悪意を以ってそれが降りかかっているのだ。
何とかして、槍を脇下で力強く掴み、
当人ではない当人に呼びかける。
「止めろ!! もうこれ以上戦うな!!」
そんな呼びかけは意味もなく、ただ呻き声を上げるのみで乱暴に振り払われる。過去のトラウマを呼び起こされるように、百喰は完全に委縮してしまう。
自身の完全特効が掛かっている、ドライバーすら用いない
効率的な兵装。ただ因子を用意するだけでどうにかなってしまうのが、それらしく作るだけでどうにかなってしまうのが、英雄の因子を持つもののもう一つの弱点である。
「――数日前、私は一年かけて準備をした、のにも拘らず、憎たらしいクソガキにしてやられた。だが私はそれを殺すだけに飽き足らず、その失敗経験から改めたのだ。自分の考えが最も正しいと思い込むのではなく、柔軟に対応を変えることこそ、頂点に立つ者としてふさわしい動きだと実感したのだ。意固地になって一辺倒の動きをするだけでは、どのみち上には立てない。その点では……あの女に感謝を」
レイジーの作戦は、善吉にとって脅威そのものであった。因子持ちの弱点は、一般人以外にある程度存在する。『その因子の関係者』、あるいは『殺し殺された並々ならぬ因縁を持つ者』。
普通ならば、家系や家柄など関係なしに、バラバラに産まれ落ちる存在こそ因子持ちであるのだが、運命の悪戯によりどれほど離れていようともそれぞれ惹かれ合う。教会がその運命を強引に手繰り寄せている場合が多いのだが、そんな野暮をしなくとも、いつか巡り合う。その最たる例こそが、礼安とクランである。
だが、そうなってしまうと互いは弱化してしまう。互いに傷つけあったとき、どちらかが死ぬまで終わらない戦いが始まってしまう。そこに、因縁があれば――呼吸をし生存するほどにまで当たり前の事象になってしまうのだ。
「『ガレス』は、相当に貴様を恨んでいるらしいな。英雄の風上にも置けない人殺しが、後の世で騎士代表の一人として扱われていることが……気に食わないらしい。だから黙って――殺されてやってくれないか」
一瞬の動揺。一瞬の隙。
そこを生み出された百喰は――容赦なく腹を貫かれ、引き裂かれる。装甲の強さなど関係ない。関わりのある概念が生み出す攻撃は、どんな強固な装甲ですら、コピー用紙をあっさり破り捨てるような気軽さで、脆くも崩れ去ってしまうのだ。