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第二十五話 絵の中④

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「連れてくるなら金髪のほうよ。この黒髪の人は、絵を欲しい、盗みたい、なんて心から思っていないわ」
それを聞いたオリバーは、絵の女をキッと睨んだ。
「ふざけないでください。旦那も坊っちゃんと同様に、絵を盗みたいと思っているはずだ」
「そんなことないわ。この黒髪の人は、私に魅入られていないもの」
「そんな証拠、どこにあるんだ!!」
「私に魅入られると、ようになるけれど、この人はそんなことないでしょう?」
(熱に浮かされる……?)
アーサーは、その言葉を聞いて、ふとジョージの不審な様子を思い出した。
(でも、結局さっきから二人が何を言っているのかさっぱりわからねぇ)
「……分かりました。それなら今すぐあの坊ちゃんを連れてきます」
「無理だと思うわよ? 彼、気づいちゃったから、逃げられるわよ」
 金髪の女はクスクスと笑った。アーサーは状況が理解できず戸惑っていたが、一方で身体は鉛のように重たくなってきていた。
(残された時間は、少ないな……。こうなりゃ、やけだ!)
 アーサーは直感でそう判断すると、一か八かの賭けに出た。
「ちょっといいか?」
「何かしら?」
 彼女は青色の瞳をくるりとアーサーに向けた。
「人違いって言うなら、ここから出してもらえないか? そろそろ身体が限界みたいだ」
 アーサーはぐちゃぐちゃになった右肩を抑えながらそう言った。すでに足には力が入らなくなっていた。
「……分かったわ」
 彼女はアーサーに近づきながら話し続けた。
は私の専門外だから、このまま出してあげる♪」
「俺の罪……? 何を言っているのかよく分からねぇが」
(だが、手ぶらで帰るわけにはいかない)
「一つだけ聞きたいことがある」
「どうしたの?」
 彼女はこてんっと首を傾げた。
「あんたと同じような絵画、現実世界にいくつあるんだ??」
「……ごめんなさい、それは私には分からないわ。でも、あの画家は、だいぶ長生きしたそうだから、作品数はそこそこあると思うわよ」
「そうか」
(噂の絵画は、複数あるっていうことか……)
「……それにしても貴方、なんだか不思議な人ね」
「何がだ」
 アーサーはぼんやりとした頭でそう答えた。もうすでに身体の感覚はなく、根性で立っているに等しかった。
「貴方、って顔、してないんだもの」

――アーサーの脳裏に一瞬過去の記憶が蘇った。
 地面に転がって事切れたアイツが虚ろな目で見つめてくる。
 そして恐怖で顔を歪まて、今にも泣きそうな顔の、今より幼いジョージの顔。

 アーサーはどんな顔をしたらいいのか分からなかった。
 それに気づいているのか、いないのか。彼女はアーサーの額に手を伸ばした。


「貴方には特別に教えてあげる♪ 私は『見張りの女』。(盗み)っていう罪を犯す者を裁くことをモチーフとして描かれた、選ばれし絵画よ」


その冷たい手が触れた瞬間に強い眠気に襲われて、アーサーは意識を手放した。
「さてと……」
 と鈴を転がしたような声で彼女は続けた。
「交渉は不成立ね♪」
 それを聞いたオリバーは、何も言わずに足元に捨てたはずの斧を拾い上げた。
「あらあら」
 彼女の小鳥のような声が突然、しゃがれた老婆の声に変わった。
「近頃の若い子は、恐ろしいわねぇ」
 さっきまでの美しい外見とは真逆の、醜い老婆へと変貌した。
「クソババァ、許さねぇ」
 オリバーは斧を構えた。
「五月蠅いぞ、クソガキ」
 老婆は指をパチンと鳴らした。
「か、身体が動かねぇ」
 オリバーは足を上げようともがいていたが、地面から足が離れることはなかった。
 そのとき、彼の足元には先ほどアーサーが出会った、あの肌色の化け物が纏わりついていた。
「うわぁぁぁ!!!!」
 オリバーは絶叫した。
「そんなに怖がらないでやってくれ。そいつはお前の兄さんだ」
「なっ」
 オリバーは驚きのあまり、それ以上何も言えなかった。
「残念だったねぇ。お前の兄は根っからの盗人だったんだよ」
「これが兄さん……!? じゃあ、兄さんの友達は……」
「もう全部溶けて死んじまったよ」
「……なぜ兄さんだけ残っているんだ?」
 オリバーは訝しんだ。

 すると老婆はある真実を告げ始めた。
「等価交換って知っているかい? 人間一人救うには、人間一人が必要なんだ。別荘にお前たちが来たとき、あの中で私が溶かして殺せるのはあの金髪の坊やだけだったんだ。だからお前の大切な兄さんだけとっておいたんだ」
「どういうことだ? なんで俺や旦那は対象外なんだ?」
状況をよく飲み込めていないオリバーは、涙目でそう言った。
「私のタイトルは『見張りの女』。絵を盗みに来たやつだけを溶かして殺す役割がある絵画なんだ。お前や黒髪のような、絵を心から欲しいと思っていないようなは最初から要らないんだ……まぁ身体は多少溶けるだろうがね。お前たち二人は初めから殺しの対象外なんだよ」
 そういうと、その老婆はさっきアーサーにしたように、オリバーの額に手を当てた。
「さよならだ、坊や」
 老婆のしゃがれた声が薄暗い街に響いた。



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「連れてくるなら金髪のほうよ。この黒髪の人は、絵を欲しい、盗みたい、なんて心から思っていないわ」
それを聞いたオリバーは、絵の女をキッと睨んだ。
「ふざけないでください。旦那も坊っちゃんと同様に、絵を盗みたいと思っているはずだ」
「そんなことないわ。この黒髪の人は、私に魅入られていないもの」
「そんな証拠、どこにあるんだ!!」
「私に魅入られると、《《熱にうかされた》》ようになるけれど、この人はそんなことないでしょう?」
(熱に浮かされる……?)
アーサーは、その言葉を聞いて、ふとジョージの不審な様子を思い出した。
(でも、結局さっきから二人が何を言っているのかさっぱりわからねぇ)
「……分かりました。それなら今すぐあの坊ちゃんを連れてきます」
「無理だと思うわよ? 彼、気づいちゃったから、逃げられるわよ」
 金髪の女はクスクスと笑った。アーサーは状況が理解できず戸惑っていたが、一方で身体は鉛のように重たくなってきていた。
(残された時間は、少ないな……。こうなりゃ、やけだ!)
 アーサーは直感でそう判断すると、一か八かの賭けに出た。
「ちょっといいか?」
「何かしら?」
 彼女は青色の瞳をくるりとアーサーに向けた。
「人違いって言うなら、ここから出してもらえないか? そろそろ身体が限界みたいだ」
 アーサーはぐちゃぐちゃになった右肩を抑えながらそう言った。すでに足には力が入らなくなっていた。
「……分かったわ」
 彼女はアーサーに近づきながら話し続けた。
「《《貴方の罪》》は私の専門外だから、このまま出してあげる♪」
「俺の罪……? 何を言っているのかよく分からねぇが」
(だが、手ぶらで帰るわけにはいかない)
「一つだけ聞きたいことがある」
「どうしたの?」
 彼女はこてんっと首を傾げた。
「あんたと同じような絵画、現実世界にいくつあるんだ??」
「……ごめんなさい、それは私には分からないわ。でも、あの画家は、だいぶ長生きしたそうだから、作品数はそこそこあると思うわよ」
「そうか」
(噂の絵画は、複数あるっていうことか……)
「……それにしても貴方、なんだか不思議な人ね」
「何がだ」
 アーサーはぼんやりとした頭でそう答えた。もうすでに身体の感覚はなく、根性で立っているに等しかった。
「貴方、《《人殺し》》って顔、してないんだもの」
――アーサーの脳裏に一瞬過去の記憶が蘇った。
 地面に転がって事切れたアイツが虚ろな目で見つめてくる。
 そして恐怖で顔を歪まて、今にも泣きそうな顔の、今より幼いジョージの顔。
 アーサーはどんな顔をしたらいいのか分からなかった。
 それに気づいているのか、いないのか。彼女はアーサーの額に手を伸ばした。
「貴方には特別に教えてあげる♪ 私は『見張りの女』。《盗み》っていう罪を犯す者を裁くことをモチーフとして描かれた、選ばれし絵画よ」
その冷たい手が触れた瞬間に強い眠気に襲われて、アーサーは意識を手放した。
「さてと……」
 と鈴を転がしたような声で彼女は続けた。
「交渉は不成立ね♪」
 それを聞いたオリバーは、何も言わずに足元に捨てたはずの斧を拾い上げた。
「あらあら」
 彼女の小鳥のような声が突然、しゃがれた老婆の声に変わった。
「近頃の若い子は、恐ろしいわねぇ」
 さっきまでの美しい外見とは真逆の、醜い老婆へと変貌した。
「クソババァ、許さねぇ」
 オリバーは斧を構えた。
「五月蠅いぞ、クソガキ」
 老婆は指をパチンと鳴らした。
「か、身体が動かねぇ」
 オリバーは足を上げようともがいていたが、地面から足が離れることはなかった。
 そのとき、彼の足元には先ほどアーサーが出会った、あの肌色の化け物が纏わりついていた。
「うわぁぁぁ!!!!」
 オリバーは絶叫した。
「そんなに怖がらないでやってくれ。そいつはお前の兄さんだ」
「なっ」
 オリバーは驚きのあまり、それ以上何も言えなかった。
「残念だったねぇ。お前の兄は根っからの盗人だったんだよ」
「これが兄さん……!? じゃあ、兄さんの友達は……」
「もう全部溶けて死んじまったよ」
「……なぜ兄さんだけ残っているんだ?」
 オリバーは訝しんだ。
 すると老婆はある真実を告げ始めた。
「等価交換って知っているかい? 人間一人救うには、人間一人が必要なんだ。別荘にお前たちが来たとき、あの中で私が溶かして殺せるのはあの金髪の坊やだけだったんだ。だからお前の大切な兄さんだけとっておいたんだ」
「どういうことだ? なんで俺や旦那は対象外なんだ?」
状況をよく飲み込めていないオリバーは、涙目でそう言った。
「私のタイトルは『見張りの女』。絵を盗みに来たやつだけを溶かして殺す役割がある絵画なんだ。お前や黒髪のような、絵を心から欲しいと思っていないような《《おまけ》》は最初から要らないんだ……まぁ身体は多少溶けるだろうがね。お前たち二人は初めから殺しの対象外なんだよ」
 そういうと、その老婆はさっきアーサーにしたように、オリバーの額に手を当てた。
「さよならだ、坊や」
 老婆のしゃがれた声が薄暗い街に響いた。